ダイエット中のケチャップが出てこず、振ったら皿に広がった。そんな場面を、流す力で粘りが変わる食品の実験から考える。流れ始める条件、配合による違い、実際に食べた量を分け、皿の大きさや色の研究とも照らす。禁止する食品を増やすより、食卓で確かめたいことを具体的に整理する。
オムレツの上に少し線を引くつもりだった。容器を傾けても出ないので振り、もう少し押すと、予定より大きな赤い池ができた。夕食を落ち着いて食べたいだけなのに、ケチャップとの交渉が始まる。
ケチャップを使った食品実験では、流す際のずれの速さが増すと、見かけの粘度が下がる性質が確認されている。これが「せん断薄化」である。流れにくく見えたものが、動かす条件によって流れやすくなるという点で、食卓の戸惑いを考える手掛かりになる。[1][2]
ただし、「振った人は必ず使う量が増える」とまでは言えない。粘りの測定と、皿に出した量、さらに口に入れた量は別の問いである。既存記事「ダイエット中のマヨネーズは低脂肪ほど出やすい?粘りと皿に出す量を読み解く」に脂肪を減らした配合の話を譲り、ここではケチャップを動かす条件と食卓での確認に焦点を絞る。

出始めるまでと、流れている間を分ける
出ないから力を加えたのに、出始めると加減しづらい。この場面を考える際には、「流れ始めるのに必要な力」と「流れている間の抵抗」を分けると整理しやすい。前者に関係するのが降伏応力であり、流体のように動くか、固体のように振る舞うかの境目となる応力を指す。[8]
血液の流れを歴史的に検討したレビューでは、比較対象として歯磨き剤、ケチャップ、ボディクリームのような日用品が挙げられている。これらには、おおむね10〜100 Paの桁の降伏応力があると説明される。Paは応力を表す単位である。この数字は、手元のケチャップ容器をどれだけ握ればよいかを指定する値ではない。[8]
応力は食品にかかる力の状態を表す。容器を握る手の強さを、そのまま食品内部の応力と同じものとして読むわけにはいかない。レビューで示される桁は、ケチャップが水のように扱える食品ではないことを考えるための比較であり、家庭用の握力の目標ではない。[8]
一方、流れている食品の中で、隣り合う部分がずれながら動くことをせん断と呼ぶ。そのずれの速さに対して見かけの粘度がどう変わるかを測るのが、せん断薄化の実験である。ガム類を加えたケチャップを比較した研究では、調べた全配合でこの性質が認められた。[2]
降伏応力が「動き始めの境目」に関わる説明なら、せん断薄化は「動いている条件と抵抗の関係」に関わる説明である。両者をまとめて「振ると水になる」と言い換えると、意味が広がりすぎる。食品の動きを理解するには役立つが、振った前後の家庭での使用量を直接示した結果ではない。[2][8]
台所では、出なかった時間の記憶が手に残る。「まだ出ないだろう」と思って押し続ける場面があるかもしれない。そこで役立つのは、理科の用語を唱えることより、出始めたところでいったん手の操作を区切るという発想だ。これは物性研究を踏まえた扱い方の提案であり、減量効果を確かめた手順ではない。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
同じ赤いケチャップでも、粘りは同じではない
食品の物性とは、流れやすさや変形しやすさなどの性質である。ケチャップの配合実験では、アンガムというガム類とトラガントガムを単独で、または混ぜて加えている。ガム類は、この実験で粘りや安定性を調整するために使われた成分だ。[2]
添加量は0.5%、1%、1.5%で、添加しない対照を含めて10配合を作った。混合する場合は同じ比率で組み合わせた。どれもせん断薄化を示したが、ガム類を加えると見かけの粘度は上がった。「動かすと流れやすくなる」という共通点があっても、粘りの程度まで同じではなかったのである。[2]
ここで混同したくないのが、配合間の比較と、同じ試料を異なる条件で流す比較だ。ガム類を加えた試料が対照より粘っていても、その試料自体は、せん断の条件を変えると見かけの粘度が下がる。粘りが強いことと、せん断薄化を示すことは両立する。[2]
研究では、ガム類を加えることで水分の分離も減少した。さらに、食品が一定の条件でどれほど流れるかを見るボストウィック試験の値も低下した。一方、測定した色の指標には有意な影響がなかった。色の指標と流れ方の変化は一致しなかった。[2]
色から配合を当てようとするより、いつも使う食品でどんな操作をしたかに目を向けたい。買い替えた日のケチャップを、前の容器と同じ感覚で押す。そのような場面では「同じ赤だから同じ出方」という前提を、いったん外すとよい。特定の市販品の優劣を、この配合実験から決めることはできない。
また、研究では食べた人の総合的な好ましさも比べており、配合によって評価が異なった。物性を測る値だけでなく、食べる側の評価も調べた研究である。ただし、好まれた配合と家庭での使用量の少なさは、同じ評価項目ではない。[2]
とろみを嫌って避ける必要も、逆にとろみを頼りに量の判断を任せる必要もない。食べやすい食品を選ぶ話と、皿に出す操作を確かめる話は並べて考えられる。「硬めなら少量で済むはず」と結論を急がず、必要なら実際に出した分を目で確認する。それが台所で扱える範囲の問いだ。

切れるケチャップの実験が教える、測り方の違い
別の食品実験では、切り分けられるケチャップを対象に、キサンタン、コンニャクマンナン、ジェラン、ローカストビーンガムの組み合わせを調べている。普段の容器から出すケチャップよりも、形を保つ性質を考えるための試料である。この研究でも、流す条件ではせん断薄化が確認された。[1]
さらに、揺らすように変形を与える測定では、形を保とうとする成分を示す貯蔵弾性率が、変形のエネルギーを失う成分を示す損失弾性率より高かった。調べた条件の中では、その大小関係が交差しなかった。研究者は、粘りだけでなく弾性的な性質も調べていたのである。[1]
この結果を「固いから流れない」と読むと、せん断薄化を確認した結果とつながらなくなる。形を保とうとする性質と、流す際の条件で見かけの粘度が変わる性質は、異なる測り方で捉えられる。同じ食品でも、どのように変形させて何を記録したかが重要だ。[1]
定常的に流したときの粘度は、振動を与える測定から得られる複素粘度より低く、研究では弱いゲル構造を示すものと説明されている。ゲルとは、内部の構造によって形を支える性質を持つ状態を指す。ここでも「粘度」という言葉だけで、違う測定値をひとまとめにはできない。[1]
家庭の食卓に戻せば、皿の上で山を保つ様子と、容器の口から流れている様子を、同じ静止画として比べないことになる。研究用の切れるケチャップを、すべての市販ケチャップの代わりにすることはできない。それでも、食品の見た目の硬さだけで動いている間の抵抗を決めない、という見方にはつながる。[1]
振った後の時間と、流している条件は別の問い
「よく振るほど、どれだけ長くさらさらになるのか」といった時間の話も、別に確かめるべき問いだ。せん断薄化は流す条件との関係であり、振った後の待ち時間を指定する言葉ではない。今回取り上げた結果を、台所で待つ時間の処方箋に変えないことが大切である。[1][2]
配合実験では、測った流れ方を数式で表す方法として、べき乗則モデルとハーシェル・バルクレーモデルがよく当てはまった。流動性指数は、前者で0.14〜0.30、後者で0.19〜0.24の範囲だった。これは食品を流した実験データを整理するための数値であり、口から出るケチャップの重さや、食事で使う割合を表す数字ではない。[2]
数式がよく当てはまるとは、測定した条件で得られた流れ方をうまく表せるという意味だ。切れるケチャップの研究では、別のカローモデルが流動挙動を記述するのに最も適していた。対象や配合が異なる研究の数字を、同じ商品の性能表のように並べてはいけない。[1][2]
食品を作る側には流れ方を予測する数式が必要でも、夕食を作る側に必要なのは扱いやすい操作である。モデル名を知ることと、押す力を上手に調整できることも別だ。測定条件のある数字を読んだうえで、家庭では実物の出方を確かめるという役割分担にしておきたい。
数字で読むケチャップと食卓
0.5〜1.5%:ガム類の添加量を変えたケチャップの配合実験で用いた範囲である。[2]
10配合:ガム類を加えない対照も含む比較で、全配合がせん断薄化を示した。[2]
10〜100 Pa:レビューがケチャップなどの日用品に例示した降伏応力のおおよその桁である。[8]
137人:皿の大きさと食べる量を調べた大学生の実験の参加者数である。[14]
54人:皿の色と食事量を比較した、18〜30歳の女性を対象とする実験の参加者数である。[17]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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