二の腕の筋トレを限界まで続けた翌日、また同じ練習をしてよいのか。限界を残す方法との比較から、運動中の疲労、翌日以降の力、筋肉痛を分けて読む。回復に差が出た研究と出なかった研究の条件を確かめ、決まった時間だけで次の練習を決めないための記録の視点を紹介する。
昨夜、二の腕の練習を、もう反復できなくなるところまで続けた。今朝は食器を棚に戻すとき、痛みよりも力の入りにくさが気になる。今夜も二の腕を鍛える予定だった人にとって、知りたいのは根性の足し方ではなく、次の練習をいつ置くかである。
限界まで反復すると回復に時間がかかる可能性はある。ただし、余力を残す方法と比べて、翌日以降の力や筋肉の損傷に関係する指標に差が出なかった試験もある。限界まで行ったかだけで翌日の力は決まらず、実際の動作と練習条件を確かめる必要がある。[6][8]
既存の「【連載】その常識、研究では? 第5回|限界まで追い込む必要はあるか——反復限界という考え方」には、限界まで行う必要性の議論を譲る。ここでは、その日の疲れと次の練習に持ち越す疲れを分け、二の腕の練習間隔を考える。腕だけの運動に、全身の筋トレの結果をそのまま当てはめないことも出発点だ。[6][13]

限界を残すとは、どこで止めることか
研究で使われる反復限界は、「つらくなった」という感想と区別して扱う必要がある。ところが、限界の定義は研究間で統一されておらず、限界まで行わない条件が実際にどれだけ限界に近かったかも異なる。限界への近さを整理したスコーピングレビューは、この違いが研究の比較を難しくすると指摘している。[13]
よく使われる方法が、あと何回できるかという余力を見積もって止める方法だ。研究ではこれを反復予備回数と呼び、英字ではRIRと表す。たとえば、あと3回できると感じたところで止める条件と、その重さではもう反復できないところまで行う条件を比べる。同じ重りを使っても、セットをどこで終えるかは変えられる。[8]
二の腕の自宅練習なら、「腕が熱く感じるから終了」と「動作を続けられなくなるまで終了」を、同じ欄に記録しないところから始めたい。これは感覚の優劣を決める話ではない。研究同士でも止め方が違えば比較しにくいのだから、自分の練習でも終了の基準を言葉にしておく、という応用である。[13]
また、腕を使う種目でも、負担は動作によって変わる。回復を扱ったレビューでは、多関節運動、多くの筋肉を動員する運動、筋肉が力を出しながら伸ばされる動作、筋肉が伸びた位置を強調する運動などで、回復時間が長くなる可能性が整理されている。二の腕という部位名だけでは、練習の中身を言い表せない。[6]
肘だけを動かす練習と、胸や肩も使って押す練習を、単に「腕の日」として記録すると、この違いが見えにくくなる。研究で比べたのが何の運動だったかを確認するのと同じように、手帳にも動作の名前を残す。次の練習を決める材料は、二の腕を鍛えたという事実より少し細かいところにある。[6]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
その場で疲れることと、翌日も戻らないことは別だ
筋トレ経験のある男性14人を対象にした無作為化クロスオーバー試験では、ベンチプレスを比較した。同じ人が両方の方法を経験する設計である。男性のベンチプレス試験なので、18〜39歳の女性の二の腕練習に同じ回復経過が当てはまるかは別に確かめる必要がある。負荷は、1回だけ挙げられる最大重量の80%。片方は最初の4セットで自己申告の余力を3回残し、最後のセットだけ限界まで行い、もう片方は5セットとも限界まで行った。[8]
余力を残す方法では、セットを重ねても反復回数と仕事量を保ちやすく、平均速度も高く維持された。主観的なきつさは、全セットを限界まで行う条件が10、余力を残す条件が8.2だった。同じ練習時間の中でも、後半まで何を保てるかに違いがあったのである。[8]
ところが、運動後24、48、72時間に調べたバーベルの動きと、血中のクレアチンキナーゼという筋損傷に関連する指標では、条件間の差は認められなかった。その場で楽に仕事を続けられたことと、翌日以降の測定値がより早く戻ったことは、この試験では一致しなかった。[8]
ここは見出しだけで読むと取り違えやすい。「余力を残せば疲れにくい」という言葉に、運動中のきつさも、帰宅後の感じも、翌日の筋力も詰め込まれてしまうからだ。この試験から言えるのは、練習中の反復や速度を保つ利点がありながら、調べた回復の指標には差が出なかったということである。[8]
なお、この余力を残す条件も、最後のセットは限界まで行っている。限界を一度も経験しない練習との比較ではない。結果を自宅の腕の練習に移すなら、どのセットをどう止めたかまで一緒に読む必要がある。「余力あり」という短い札だけでは、実験の内容を運びきれない。[8]
別の無作為化クロスオーバー試験では、15人がスクワットとベンチプレスを行い、あらかじめ決めた最大重量の割合、主観的なきつさ、余力、動作速度を使う処方を比較した。余力や速度を使う方法は練習量を維持しやすかったが、神経と筋肉の働きから測る疲労や、24時間後の痛みの感覚には方法間の差がなかった。スクワットとベンチプレスを組み合わせた結果であり、18〜39歳の女性が腕だけを鍛える場合への適用には、種目と負担の違いを考える必要がある。[1]
こちらも、運動の組み立てを変えて得られる利点が、すべての回復指標にそろって表れるとは言えない例である。主観的な痛みと力の発揮を別々に扱っている点にも注目したい。腕が痛くない朝だから、昨日の練習の影響が何も残っていないと決めるのではなく、何を確かめたいのかを先に決める読み方につながる。[1]
回復に差が出た研究では、何が違ったのか
一方、回復で差が出た無作為化比較試験もある。対象は高度に鍛えたボート競技者21人で、女性4人、男性17人だった。競技者中心の集団なので、18〜39歳の一般女性に同じ回復感の変化が起こるかは、この結果だけでは判断できない。持久的なボート練習に加え、筋トレを週2回、8週間行った。一方は動作速度が10%落ちたところでセットを終え、もう一方は従来の最大重量に基づく方法で限界まで行った。[12]
速度の低下を小さく抑えた群では、筋トレ後24時間と48時間の全体的な回復感とストレスの評価が良好だった。スクワット、ベンチロー、ベンチプレスの最大重量の伸びもこの群が大きく、これらの種目で平均した伸びは18.0%、限界まで行う群は8.0%と報告された。[12]
ただし、これは通勤前に二の腕だけを鍛える人を調べた試験ではない。競技者が持久系練習と筋トレを併用した環境で、全体的な回復感を毎晩追っている。先ほどのベンチプレス試験で測ったバーベルの動きや血液指標とは、測っているものも違う。同じ「翌日の回復」という日本語でくくれても、結果の物差しは同一ではない。[8][12]
回復に差が出なかった試験を理由に、追い込み方は何でもよいと考えるのも早い。反対に、競技者の試験で差が出たから、限界まで行うたびに二の腕の休養を延ばすべきだと決めるのも飛躍になる。対象、併用する運動、止め方、回復の測り方を並べて初めて、結果の違いを扱える。[8][12]
24本の研究を取り上げた回復のレビューは、限界まで行う練習で回復が長引く可能性と、量が多い場合に回復の要求が増す可能性を整理している。とくに両者が重なる場合には注意が必要だが、個人差も大きいとして、少ない量から始めて回復を観察し、必要に応じて増やす考え方を示している。[6]
この整理を予定表に置き換えるなら、問うべきは「何時間休んだか」だけではない。「前回、どれだけ行い、どこまで続けたか」「次にどの運動の質を保ちたいか」も一緒に問う。時間は大切な記録だが、それだけでは練習の負担を説明しきれない、というのが研究から得られる視点だ。[6]
回復の評価を読む際には、変化が起きた時点と、測定した時点の区別も必要だ。運動中に回数を保てたという結果は、そのセットでの出来を表す。一方、翌日に調べる動作や全体的な回復感は、時間を置いた別の結果である。前者の改善だけで後者も改善したと補わず、後者に差がないから前者の利点も消えたと考えない。研究が別々に測ったものを、日常の「効いた」「疲れた」という感想に戻すときにも、分けておきたい。[1][8][12]
数字で読む限界への近さと回復
14人の男性を対象に、余力を3回残す条件と全セット限界の条件を比較したベンチプレス試験がある。[8]
24、48、72時間後のバーベルの動きと血液指標には、その試験で条件間の差が認められなかった。[8]
21人のボート競技者を追った8週間の試験では、速度低下10%で止める群の24、48時間後の回復感が良好だった。[12]
24本の研究を扱ったレビューは、限界までの反復と多い練習量が回復の要求を高めうると整理した。[6]
15研究のメタ分析では、速度低下の許容幅によって筋力と筋肥大の結果が異なった。[15]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2







