寝る前のたんぱく質は、眠っている間の筋肉の合成を増やすのか。胃へ直接入れた夜の実験、20 gと40 gを比べた試験、翌朝の代謝と食欲、運動と組み合わせた4週間の体脂肪まで、カゼインの試験を読み分ける。筋肉の反応と体重の話を切り離して確かめる。
眠っている男性の胃へ、たんぱく質が直接送り込まれる。ある夜の実験の光景である。参加したのは健康な高齢の男性16人で、どこへ運ばれたかを後から追えるよう目印をつけたカゼイン(牛乳のたんぱく質の一つ)か、偽薬のどちらかを、無作為に割り当てられた。研究者は点滴を続けながら、眠っている体の中でたんぱく質がどう動くかを計算した[13]。
結果は、夜の筋肉の見方を少し変えた。眠っている間に入れたたんぱく質も普通に消化・吸収され、筋肉のたんぱく質が作られる速さは1時間あたり0.045%と、偽薬の0.029%を上回った[13]。体は眠っていても、材料が届けば手を動かす。
では、寝る前に一杯飲めば、眠っている間に筋肉が増えて脂肪まで減るのか。話としてはきれいだが、同じ夜を別の角度から調べた研究を集めたレビューは、翌朝の代謝や食欲への影響は限られるか、無いとまとめている[1]。筋肉の反応と体重の話は、同じ一杯の話でありながら、答えが別々に出ている。

眠っている間の筋肉は、材料を待っている
睡眠中は、体が蓄えを取り崩す側に傾きやすい時間帯とされる[1]。夕食のあと何時間も口に何も入らないのだから、筋肉の側から見れば長い待ち時間である。朝の体重が少し軽いと喜ぶ人はいても、その間に筋肉が材料を待っていたと考える人は少ない。
その待ち時間に材料を入れたらどうなるか。これが、寝る前のたんぱく質の研究の出発点だった。年を取ると、筋肉は食事に対する合成の反応が鈍りやすいとされ、夜の補給はその弱まりを補う手段として考えられてきた[11]。筋たんぱく質合成とは、筋肉のたんぱく質を新しく作る反応のことで、夜の筋肉の試験はこの速さを測っている。
最初の関門は、眠っている間に消化が進むのかどうかだった。高齢の男性23人が寝る前に40 gのたんぱく質を飲んだ試験では、たんぱく質に由来するアミノ酸の54%が、夜のあいだに血液中へ現れた[11]。別の試験でも、寝る前に飲んだたんぱく質は夜を通して消化・吸収され、眠っている間の筋肉の合成の材料になっていた[15]。眠れば胃も止まる、という素朴な想像は、少なくともこの人たちには当てはまらなかった。
ただし、ここで測っているのはひと晩のうちの速さである。「血液に入った」「合成の速さが上がった」は、数か月後に筋肉が増えたという話と同じにはならない。夜の試験を読むとき、この二つを混ぜると話が一気に景気よくなる。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
20 gと40 gで、夜の反応に差が出た
量の問いに正面から答えたのが、平均72歳の男性48人を4組に分けた二重盲検の試験である。寝る前に飲んだのは、順にカゼイン40 g、カゼイン20 g、カゼイン20 gにロイシン(アミノ酸の一つ)1.5 gを足したもの、偽薬。夜の筋原線維(筋肉の線維の主な部分)の合成速度は、この順に1時間あたり0.044%、0.037%、0.039%、0.033%で、偽薬より高いと確かめられたのは40 gの組だった。飲んだたんぱく質が筋原線維に組み込まれた量も、40 gの組が20 gの組より多かった[15]。
20 gの組と、それにロイシンを足した組の数字は、偽薬と40 gの間に並んでいる。少しは効いたのか、ばらつきの範囲なのか。48人を4組に分けた規模では、そこまで言い切れない。
一方、9本の論文を集めた系統的レビューは、就寝のおよそ30分前に20〜40 gのカゼインを摂ると、若い男性(筋トレの後)でも高齢の男性(筋トレなし)でも、夜の全身のたんぱく質合成が高まると整理した[6]。全身の合成を見るのか、筋肉の合成を見るのかで、20 gの評価は変わりうる。「40 gでなければ意味がない」とも「20 gで十分」とも、今の試験からは言えない。

先に動いた高齢の男性は、夜の反応が大きかった
同じ40 gでも、その前に何をしていたかで夜の反応が変わった試験がある。健康な高齢の男性を2組に分け、片方だけその晩のうちに先に体を動かしてもらったうえで、両方に寝る前の40 gを飲んでもらった。夜の筋原線維の合成速度は、動いた組が1時間あたり0.058%、動かなかった組が0.044%で、動いた組が31%高かった。別の目印で測っても27%高い。飲んだたんぱく質が筋肉に組み込まれた量も、動いた組のほうが多かった[11]。
若い男性の試験は、比べている相手が違う。健康な若い男性36人が全員、19時45分に持久系の運動を一度行い、就寝30分前の23時30分にカゼイン45 g、ホエイ45 g、カロリーのない偽薬のいずれかを飲んだ。たんぱく質の2組を合わせて偽薬と比べると、1時間あたりの筋原線維の合成速度は0.060%対0.047%で高く、ミトコンドリア(細胞の中でエネルギーを作る器官)のたんぱく質の合成も0.087%対0.067%で高かった[7]。これは持久系の運動の後に飲むと偽薬より合成が高かったという結果で、動いた人と動かない人を比べたものではない。
飲む前に動いた組と動かなかった組を比べて確かめたのは、ここでは高齢の男性の1本である[11]。若い男性の試験には動かない組が無い[7]。ヨガを教える側としては、ここで「ヨガでも同じ」と書きたくなる。しかし、どちらの報告にもヨガの文字は見当たらない。
夜の合成を測られたのは、男性ばかりだった
ここまでの数字には、読む側が気をつけたい偏りがある。胃へ入れた実験も、量を比べた試験も、先に動いた試験も、持久系の運動の試験も、参加者はすべて男性だった[7][11][13][15]。系統的レビューの結論も「若い男性と高齢の男性」で書かれている[6]。この記事を読む人の多くは女性だろうが、女性の夜の筋肉の合成は、ここで挙げた試験からは読み取れない。
女性が多く登場するのは、翌朝の代謝や食欲を測った試験のほうだ。閉経前と閉経後の女性、活動的な女性、運動習慣のない肥満の女性が調べられている[3][4][18]。筋肉の試験は男性で、代謝の試験に女性がいる。同じ「寝る前のたんぱく質」という言葉の下で、違う人の違う数字が語られている。
女性には効かないという意味にはならない。調べられた量が少ない、というだけである。雑誌の見出しで見た夜の数字を自分の体にそのまま当てはめる前に、誰の数字かを一度確かめる値打ちはある。
数週間続けた試験で、筋肉はどこまで増えたか
ひと晩の速さから、週の単位へ移る。先の系統的レビューによれば、10〜12週の筋トレと組み合わせた場合、寝る前のたんぱく質は若い男性の筋線維の太さ、筋力、筋肉量を押し上げうる。ところが高齢の男性ではこの上乗せが見られず、長期の筋肉量や筋力について結論を出すには材料が足りないとされた。レビューはさらに、組どうしでたんぱく質の摂取量がそろっていない点を挙げ、慎重に受け取るよう求めている[6]。
寝る前に飲んだ組は、その分だけ1日の総量も多くなりやすい。増えたのが「夜だから」なのか「たくさん摂ったから」なのか、この形の試験では分けにくい。
時刻と総量を切り分けようとした試験がある。プロの若手自転車選手24人の6日間の合宿で、カゼイン40 gを寝る前に飲む組、同じカゼインを午後に飲む組、寝る前に同じカロリーの糖質を飲む組を比べた。合宿で練習の負荷は大きく増え、疲労の指標は上がり、運動の成績は落ちたが、疲労、体組成、成績のどれにも組の差は出なかった。全員のたんぱく質の摂取は平均で体重1 kgあたり2.5 gを超え、普段から高たんぱくの食事をとる人たちだった[9]。
鍛え抜かれた選手の、たった6日間の話である。それでも、一杯の値打ちが今の食事のたんぱく質の量で変わりうることは想像できる。体を作りたいなら、まず1日の総量を見る。夜の一杯は、その次の話になる。
数字で読む寝る前のたんぱく質
0.045%と0.029%:眠っている間にカゼインを入れられた高齢の男性と偽薬を入れられた高齢の男性の、順に1時間あたりの筋肉のたんぱく質の合成速度[13]。
40 g:高齢の男性を4組に分けた試験で、夜の筋原線維の合成速度が偽薬より高いと確かめられたカゼインの量[15]。
31%高い:寝る前に同じ40 gを飲んだ高齢の男性で、その晩に先に動いた組の夜の筋原線維の合成速度を、動かなかった組と比べた値[11]。
54%:寝る前に40 gを飲んだ高齢の男性で、たんぱく質に由来するアミノ酸のうち、夜のあいだに血液中へ現れた割合[11]。
11本:寝る前のカゼインが代謝や食欲に与える影響を調べるために、系統的レビューが集めた研究の数。摂った量は24〜48 gだった[1]。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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