ビタミンCとEの錠剤は、鍛えた努力を消すのか。54人の試験では最大酸素摂取量の伸びは偽薬と同じで、筋肉の中のミトコンドリアの指標だけが伸びなかった。メタ分析、インスリンの効き、高齢者の腹囲まで照らし、もとの栄養の状態で読み方が変わる理由をたどる。
汗を流したレッスンの帰り、駅のホームで鞄の底から小さなボトルを出す。中身はビタミンCとEの錠剤で、運動した日だけは飲み忘れない。活性酸素を消しておけば翌日の脚が軽い、そんな気がしている。
激しい運動は体に酸化のストレスを生む。だから運動する人はビタミンCを飲む。この習慣は、2008年の論文の書き出しに、すでに当たり前の風景として登場している[7]。筋書きは単純だ。運動で敵が増えるなら、錠剤で消せばいい。
ところがその「敵」には別の顔があった。運動の後に筋肉の中で起きる好ましい変化を、合図として後押ししている疑いである[3]。合図まで消せば、汗をかいた分の見返りまで薄まるのではないか。この疑いを確かめた試験の答えは、「打ち消す」でも「無関係」でもない。どの数字を見るかで、結論が割れている。

活性酸素は、敵であり合図でもある
活性酸素は、運動中に筋肉のミトコンドリアなどで生まれる反応しやすい分子である。長いあいだ、筋肉を傷め、疲れを招き、回復を妨げる犯人として語られてきた。ところが今では、筋肉が負荷に適応していく途中で信号として働くことが分かってきた。2016年のレビューは、鍛えた後に起きる抗酸化の力の向上、ミトコンドリアの増加、細胞の防御の仕組み、インスリンの効きの改善に、活性酸素が関わるとみている。同じレビューは、活性酸素の量と効き目の関係を「直線ではない」と書く。生理的な範囲の量は益になり、多すぎると害になりうる。山なりのこの関係はホルミシスと呼ばれる。しかも害の側に届くほどの量は、ふつうのトレーニングではめったに達しないという[1]。週に数回のレッスンで体が活性酸素に攻め込まれている、という想像は、この見立てとは合わない。
つまり問いは「活性酸素は悪いか」ではなくなった。運動の直後に立ち上がる合図を、毎日の錠剤で薄めてよいのか。ここからは、そのために組まれた試験を順に見る。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1グラムのビタミンCと、飲んだ5人
2008年の無作為化二重盲検試験は、27〜36歳の男性14人を8週間鍛え、そのうち5人に毎日1グラムのビタミンCを飲んでもらった。同じ論文には、ラット24匹の実験も収められている。報告は厳しい。ビタミンCは持久力を有意に損ね(P=0.014)、ミトコンドリアを増やす働きに関わる転写因子(遺伝子の働きを切り替えるたんぱく質)の発現を抑えたという[7]。
さらに皮肉なのは、ミトコンドリアの量の目印であるチトクロムCと抗酸化酵素まで、運動で増えなくなったことである。抗酸化のために飲んだ錠剤が、体が自前の抗酸化の備えを増やす動きを止めていた。もっとも、人の試験でビタミンCを飲んだのは5人だけで、結果は要約の中で人とラットに分けて書かれていない。「補給は訓練の効率を下げる」という結論は強いが、この人数を鍛える人すべてに広げることはできない[7]。

54人の試験で、体力と筋肉の中の数字が割れた
人数を増やしたのが2014年の無作為化二重盲検試験である。若い男女54人を2群に分け、一方にビタミンC 1,000 mgとビタミンE 235 mgを、もう一方に偽薬を、毎日11週間与えた。運動は週3〜4回で、走るのが中心だ。最大心拍数の90%を超える4〜6分のインターバルと、30〜60分の一定のペースの運動を組み合わせている。この間に、最大酸素摂取量(体が取り込める酸素の上限)はどちらの群も平均8%伸びた。20 mシャトルランの成績の伸びは順にビタミン群10%、偽薬群14%で、著者らは伸びの程度を同じと判定した[6]。
別の絵が出たのは、太ももの筋肉を採って調べたときである。ミトコンドリアの目印になるCOX4は、偽薬群で平均59%増え、ビタミン群では−13%だった。ミトコンドリアを増やす指令役のPGC-1αも、順に偽薬群19%、ビタミン群−13%で、2群の差は有意だった。ただし個人差は大きく、COX4の標準偏差は偽薬群で97%ある。著者らは、細胞の適応は妨げられたが体力テストには表れなかったと整理し、持久運動に併用するなら慎重に、と書いている[6]。筋肉の中の目印の差が、1年後に体力の差へ育つのか。その答えは11週の試験の外にある。
インスリンの効きは、錠剤で鈍らなかった
体重を気にする人には、持久力よりこちらの数字が近い。2011年の試験は、若い健康な男性21人(平均29歳、BMI 25)を抗酸化群と偽薬群に無作為に分け、監督付きの強い持久運動を週5回、12週間続けた。抗酸化群の錠剤は毎日のビタミンC 500 mgとビタミンE 400 IUである。インスリンで促される糖の取り込みを3時間のクランプ検査で測ると、抗酸化群で17.2%、偽薬群で18.9%増え、増え方はそろっていた。血液中のビタミンCとα-トコフェロールは抗酸化群で明らかに上がっていたから、飲んだ分が届かなかったわけではない。最大酸素摂取量と最大出力の伸びも両群で同じように見られ、糖の取り込みを担うGLUT4などの筋肉のたんぱく質も、そろって増えた[4]。先の54人の試験が測ったCOX4などとは物差しが違うが、この試験が測った糖の取り込みに関わるたんぱく質では、2群の差は出なかった。
ただしこれは、若い健康な男性が週5回の強い運動を12週間やり切った試験の話である。血糖が気になり始めた中年の体に、そのまま移せる数字とは言えない[4]。
有酸素9本、筋トレ9本を束ねた答え
小さな試験の揺れを見るには、束ねるしかない。2020年のメタ分析(複数の試験をまとめて解析する手法)は、2019年6月までの文献から、ビタミンCかE、またはその両方を、4週間以上の監督付き運動と一緒に取った成人の無作為化試験を集めた。有酸素の適応の解析に9本、筋トレの適応の解析に9本が入った。最大酸素摂取量の標準化平均差は−0.14(95%信頼区間−0.43〜0.15)、持久的な成績は−0.01(−0.38〜0.36)。筋トレ後の除脂肪量(体重から脂肪を除いた分)は−0.07(−0.36〜0.23)で、筋力にも有意な影響は出ず、年齢による違いも見られなかった[9]。
標準化平均差は、単位の違う試験を同じ物差しにそろえた値で、0に近いほど差が小さい。著者らの結論は、ビタミンCやEは運動による機能の変化を妨げない、である。もっとも、人数の多い試験がまだ要るとも書いている。信頼区間の下限の−0.43を見れば、小さな不利が隠れている余地まで消えたわけではない[9]。
仕組みの側からも、単純な筋書きに疑問が出ている。2015年のレビューは、ビタミンCとEが運動中の活性酸素の信号をどう弱めうるかを理屈の上で検討した。どちらも過酸化水素とはほとんど反応せず、一酸化窒素の信号も弱めそうにない。結論は、活性酸素の生成に干渉する直接の証拠は乏しく、信号への大きな影響は考えにくい、というものだった[3]。錠剤が活性酸素を消し、だから合図が止まる。分かりやすいこの説明は、まだ確かめられた事実の側にはない。
数字で読む抗酸化サプリと運動
- 8%と8%: 11週の持久運動で伸びた最大酸素摂取量の平均。順にビタミン群、偽薬群で、若い男女54人の試験[6]
- 59%と−13%: 同じ試験の筋肉のCOX4の平均の変化。順に偽薬群、ビタミン群で、標準偏差は順に97%、54%[6]
- 17.2%と18.9%: 12週の持久運動の前後で増えた、インスリンで促される糖の取り込み。順に抗酸化群、偽薬群で、若い健康な男性21人の試験[4]
- −0.14: メタ分析の最大酸素摂取量の標準化平均差。補給なしの群と比べた値で単位はなく、95%信頼区間は−0.43〜0.15、有酸素の解析は9試験[9]
- −0.07: 筋トレ後の除脂肪量の標準化平均差。補給なしの群と比べた値で単位はなく、95%信頼区間は−0.36〜0.23[9]
- 14人のうちの5人: 2008年の人の試験でビタミンCを毎日飲んだ男性の数[7]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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