水泳で息継ぎを減らせば心肺機能も高まるのか。競技者の呼吸制限、フィン水泳、呼吸筋トレーニングの研究から、タイムの改善と酸素を取り込む能力の違いを読む。腕の疲れや息苦しさをどう記録し、普段の泳ぎと特殊な練習をどう分けるか、立川で運動を続けたい人へ示す。
プールの壁に着くたび、息を整える。隣のコースの人は、顔を上げる回数が少ないのに速い。息継ぎを減らせば自分も長く泳げるのか。それとも、苦しい練習が増えるだけなのか。
答えは、息継ぎを減らすことと、酸素を取り込む能力が高まることは同じではない、である。男性12人・女性4人のトライアスロン選手の比較試験ではタイムが改善した一方、運動中のピーク酸素摂取量は変わらなかった。18〜39歳の女性の普段の水泳に、そのまま当てはめる根拠にはならない。苦しくできたことを、心肺機能の成果と数えるのは早い。[8]
既存記事「30代のダイエットの水泳は短く区切る?連続して泳ぐ場合との負担と続け方を読む」には、泳ぐ時間の区切り方を譲る。ここで考えるのは、同じ水泳でも息継ぎの条件を変えると何が変わり、何を成果として見ればよいか、という問いである。
既存記事「心肺機能を鍛えるランニングに跳ぶ練習を足す?酸素の節約とタイムの違いを読む」は、走る練習への跳躍の追加を扱う。こちらは水泳中の呼吸制限に絞り、陸上での補助練習の選び方には踏み込まない。

息継ぎの回数は、心肺機能の点数ではない
「心肺機能を鍛えたい」の中には、長く泳ぎたい、息切れを減らしたい、速く泳ぎたいという別々の希望がある。研究でも、泳ぎ切るまでのタイム、疲れ切るまで泳げる時間、酸素摂取量、呼吸の力は別の項目として測られている。どれかが改善すれば残りも同じように改善する、とは扱われていない。[1][8]
酸素摂取量は、体が取り込んで使う酸素の量である。一方、換気量は肺に出入りする空気の量であり、呼吸頻度は呼吸する回数を指す。流水中で泳ぐ人を調べた測定研究も、酸素摂取量、換気量、呼吸頻度、呼吸ごとの空気量を分けて記録した。顔を出した回数だけを数えても、この測定の代わりにはならない。[6]
息継ぎを減らして苦しくなったとき、変えたのはまず呼吸の条件である。それで泳力や酸素摂取量がどう変わるかは、別に確かめる必要がある。呼吸制限を用いた試験でも、タイム、血中乳酸、心拍数、呼吸頻度、酸素摂取量を測り分けている。「苦しさが増えたから全部鍛えられた」という読み方を避けるための手掛かりになる。[8]
プールサイドの時計は所要時間を教えてくれる。しかし、その表示だけで肺の機能や酸素を使う能力まで検査したことにはならない。タイムを見たい日なのか、余裕を持って泳ぎ続けたい日なのかを先に言葉にしておくと、他人の息継ぎの少なさを自分の目標にしなくて済む。成績と生理的な測定値を分ける研究の見方は、普段の記録にも持ち込める。[1][8]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
タイムが縮んでも、酸素を取り込む能力は変わらなかった
呼吸制限の効果を直接検討した研究では、トライアスロン選手16人を対象に、通常の呼吸と、肺に残る空気が少ない状態で呼吸を制限する方法を比較した。参加者は男性12人、女性4人であり、18〜39歳の女性一般に同じ改善が起きるかは、この競技者の比較だけでは判断できない。期間は5週間で、通常の水泳練習に、超最大強度と呼ばれる非常に高い強度のクロール練習を週2回加えた。[8]
加えたのは25mを12〜20本泳ぐセットである。呼吸制限群では、100mのタイムが平均3.7秒、200mが6.9秒、400mが13.6秒短縮した。割合ではそれぞれ4.4%、3.6%、3.5%の改善で、通常呼吸群にはタイムの有意な変化がなかった。競技者の特定の練習条件では、呼吸制限を加えた群に成績の改善が見られた、という結果である。[8]
ただし、この結果を「肺が強くなったから速くなった」と言い換えることはできない。400mで測ったピーク酸素摂取量と肺の測定項目には、両群とも変化がなかった。練習期間の前後で心拍数、呼吸頻度、ストローク長も変わらず、呼吸制限群では腕をかく頻度が増えた。泳ぐ成績の改善は、酸素摂取量の上昇とセットではなかったのである。[8]
研究者は、改善の一部を無酸素性の解糖活動の増加で説明している。これは酸素に頼らず糖を使ってエネルギーを得る働きであり、試験では呼吸制限群の最大血中乳酸濃度や乳酸が増える速さが上がった。速い泳ぎを支える変化を、すべて「心肺機能」という箱に入れてしまうと、この結果の違いが消えてしまう。[8]
ここで示された練習は、ゆっくり泳ぐ人が息継ぎの間隔だけを延ばす方法とは条件が異なる。対象は競技者で、強度も練習の組み方も定められていた。普段のプールで「顔を上げるのをもう少し我慢する」と置き換える根拠としては使えない。研究の成果を読むときは、何が良くなったかだけでなく、誰がどんな練習をしたかまで一緒に持ち帰りたい。[8]
数字の幅も見ておきたい。200mの短縮は平均6.9秒に対して標準偏差5.0秒、400mは平均13.6秒に対して標準偏差6.1秒だった。標準偏差は参加者の変化のばらつきを表す。「この練習なら同じ秒数だけ縮まる」という予告ではない。泳ぐ距離が違えば、同じ割合の改善でも秒数が違うことにも注意が要る。[8]
また、血中乳酸が増える速さの変化は平均41.7%で、標準偏差は39.4%だった。タイムの数字だけでなく、背景として調べられた体の反応にも幅がある。呼吸制限の効果を説明する材料にはなるが、乳酸の増え方を普段の練習の達成目標にする話ではない。研究が変化を見つけるための項目と、本人が運動を続けるための目標は分けておきたい。[8]
フィン水泳の改善には、酸素飽和度の低下も伴った
別の介入研究では、フィン水泳の選手28人を無作為に分け、16週間、同じトレーニングを行わせた。各練習の距離のおよそ40%について、一方は自分で選ぶ呼吸頻度、もう一方は断続的な息止めを用いた。フィンを使う競技での比較であり、18〜39歳の女性が一般のクロール教室で泳ぐ場合に、同じ結果が得られるかは別に検証が必要である。[9]
息止め群では、努力して息を吐き始めた最初の1秒間の量が17%、努力して吐き出せる全体の量が22%、最も速く吐くときの流量が9%、平均として増えた。自由な呼吸の群では、それぞれ−1%、1%、−4%だった。これらは肺機能検査の値であり、泳いでいる最中に酸素を使える最大能力と同じ測定値ではない。[9]
50mと400mの成績は両群で改善し、改善の程度は息止め群で大きかった。一方、練習後の50mテスト後には、血液が酸素で満たされている程度を表す酸素飽和度が両群で低下し、その低下は息止め群で大きかった。よいタイムだけを抜き出すと、体に起きていた別の変化を読み落とす。[9]
肺機能が改善した研究があることと、すべての人に息止めを勧められることは別である。この試験が答えたのは、競技としてフィン水泳をする人の、決められた期間と練習条件での変化だ。酸素飽和度の低下を「効いた証拠」として、自分で再現しようとする読み方はしない。[9]
先のトライアスロン選手の研究では酸素摂取量が変わらず、こちらでは肺機能検査の値が改善した。片方だけを正解に選ぶ必要はない。泳法、対象、期間、呼吸制限の入れ方、測った項目が異なるからである。「呼吸を減らすとよいか」という短い問いにも、何をよくしたいかによって違う答えが含まれている。[8][9]
比較群の動きにも意味がある。フィン水泳では自由な呼吸の群も泳ぐ成績が改善しており、泳ぐ練習そのものを続けた成果と、息止めを加えた群の上乗せの違いを考える設計だった。これに対し、トライアスロン選手の試験では通常呼吸群のタイムに有意な変化がなかった。「息止めをしなければ伸びない」という一般則は、この違う比較からは作れない。[8][9]
対象者との距離も確認したい。トライアスロン選手の試験に女性は含まれるが、女性だけの効果を確かめた結果ではない。男性と女性を合わせた16人の平均を、仕事帰りに泳ぎ始めた女性の見通しとしてそのまま使うことは避ける。性別が同じでも、競技経験や普段の練習は人によって異なるためだ。身近な人が速くなったという話と同様、研究の数字にも対象の輪郭がある。[8]
数字で読む水泳と呼吸制限
16人:呼吸制限と通常呼吸を比較したトライアスロン選手の人数である。[8]
5週間:通常の泳ぎに高強度の練習を加えた期間である。[8]
3.5%:呼吸制限群での400mタイムの平均改善率。ピーク酸素摂取量は変わらなかった。[8]
28人:断続的な息止めを比較したフィン水泳の選手の人数である。[9]
16週間:フィン水泳試験の期間。短期のクロール試験とは条件が異なる。[9]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2







