インナーマッスルは胸式呼吸でも働く?肋骨の広がりと腹筋の分担を研究で読む

インナーマッスルは胸式呼吸では働かないのか。肋骨やお腹の動きを測った研究と、横隔膜の筋電図、腹筋の超音波を比べ、見た目だけで筋肉の活動を決められない理由を読む。座位と仰向けの違い、呼吸を意識したときの立位の揺れも取り上げ、練習で確かめる点と筋力への期待を整理する。

レッスンで「お腹を膨らませず、肋骨を広げる」と聞き、胸だけで息をしていたらインナーマッスルは休んでしまうのか、と気になる。鏡に映るお腹が静かだと、働いている感じも乏しい。肋骨は動くのに、お腹は静か。その見た目だけで、内側の働きを採点できるだろうか。

答えの芯は、胸の動きが目立つことと、深い筋肉が働かないことは同じではない、である。呼吸の型が違う男性を比べた研究では、上部の胸が広がる型のほうが、横隔膜の筋電図の活動が大きかった。胸式という名前から横隔膜の不参加を決める考えには合わない結果だ。ただし男性の比較なので、18〜39歳の女性でも同じ活動の差が生じるかは別に確かめる必要がある。[13]

ただし、横隔膜と腹筋は区別したい。女性歌手の観察では、胸式の呼吸を示した群でも、歌う課題中に腹横筋の厚さが変化していた。歌唱という特殊な課題の結果を、18〜39歳の女性の普段の呼吸へ直接広げることはできない。ここで知りたいのは胸式か腹式かの優勝者ではなく、外から見える動きと、内側で測った働きがどう対応するかだ。[1]

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胸式と腹式は、動く場所の配分として読む

肋骨の周囲が広がる胸式呼吸、お腹の動きが目立つ腹式呼吸。この区別を研究の測定に即して読むと、胸とお腹のどちらに動きが多く配分されるか、という問いになる。健康な成人を対象にした測定研究では、自然な呼吸でも胸とお腹の両方が動き、姿勢や意識的な呼吸の指示によって、その割合が変わっていた。[19][14]

健康な成人40人を調べた研究では、呼吸に伴う体の前後方向の変化を機器で測った。18〜39歳の女性だけを調べた結果として扱わず、姿勢による変化の例として読む。自然な呼吸で肋骨側の動きが占める割合は、仰向けでは36%、座位では52%だった。椅子から床へ移っただけで胸の担当分が変わる。座って胸がよく動く人を見て、呼吸の癖が悪いと判定するのは早い。[19]

同じ研究で、仰向けのまま腹式呼吸を行うと、肋骨側の割合は21%、胸式呼吸では57%になった。胸式を行っても肋骨側の割合が全部になるわけではなく、腹式でも肋骨側の動きは残る。名前は動きを説明するための札であり、体内の仕切り板ではない。[19]

別の測定研究は健康な成人20人を対象にし、そのうち10人が女性だった。男女を含む成人の結果なので、18〜39歳の女性の標準値には使えない。レーザーを使う呼吸運動測定器で、仰向け、座位、立位における動きの配分を調べている。座位の上部胸郭、つまり胸の上側の動きの割合は、自然な呼吸で47%、腹式で32%、上部肋骨を動かす呼吸で64%だった。ここでも、呼吸を切り替えると変わるのは動きの分担である。[14]

この数字は胸郭の運動の割合であり、腹筋が出した力の割合ではない。上部胸郭が64%だから腹筋の働きは残りの割合、と計算することはできない。測定研究は、見える呼吸パターンを区別できることを示したのであって、筋肉ごとの負担を配分した研究ではないからだ。[14]

レッスンの合図を聞くときも、「胸式だからお腹は何もしない」と翻訳せず、「いまは肋骨側の動きを意識する課題」と受け取るほうが測定内容に近い。腹式の指示で胸が少し動いたから失敗、胸式の指示でお腹が動いたから失敗、と境界を厳しくしすぎる必要はない。研究で区別された型にも、胸とお腹の動きは併存していた。[19][14]

同じレーザー測定の研究では、参加者の一部で、呼吸運動と呼吸の量を同時に測っている。この測定に参加したのは12人で、うち6人が女性だった。動きと呼吸の量の相関は、仰向け、座位、立位で0.86〜1.00と強かった。動きの記録は単なる見栄えではなく、息の量と結びつく情報を持っていたのである。[14]

それでも、呼吸の量とよく対応することは、腹横筋を選んで測れていることとは異なる。測定器の得意な問いは「どこがどれだけ動くか」であり、そこから筋肉の担当を詳しく知りたければ別の測定が必要になる。外見の観察を無価値にせず、その観察で答えられる範囲を決める。この読み方なら、鏡で肋骨を見た経験も、深い筋肉への疑問も、別々に役立てられる。[14][1][13]

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横隔膜が働くことと、腹筋が強くなることは別だ

横隔膜は呼吸に関わる筋肉であり、その機能を論じたレビューでは、呼吸だけでなく腹部の内側の圧を高める役割も扱われている。胸の外見だけを見て横隔膜の仕事を消してしまうと、こうした機能の重なりを取り落とす。ただし、このレビューは哺乳類の進化と構造を論じたもので、18〜39歳の女性の練習効果を直接検証していない。また、胸式呼吸の筋力トレーニング効果を比較した試験ではない。[5]

より直接に筋肉の活動を見たのが、男性40人を呼吸の型で分けた研究だ。肋骨と横隔膜を使う型と、上部肋骨の動きが目立つ型に、それぞれ20人ずつを分類した。首の筋肉である胸鎖乳突筋、横隔膜、外肋間筋、広背筋に表面電極を置き、筋電図を記録している。筋電図は筋肉に伴う電気的な活動を捉える測定である。男性のみの比較であり、18〜39歳の女性での活動差を推定するには追加の検証が要る。[13]

課題は静かな自然呼吸だけでなく、強いかみしめ、自然な速さの咀嚼、短時間の咀嚼も含んでいた。横隔膜の活動は、どの課題でも上部肋骨型の群で有意に高かった。著者らは、呼吸の型によって筋肉を動員する戦略が異なる可能性を論じている。胸が目立つ人も、内側の筋肉を使いながら課題をこなしていたわけだ。[13]

大切なのは、この研究が人を呼吸の型で分類して比べている点だ。同じ人に胸式を練習させ、横隔膜がどれだけ強くなったかを追った試験ではない。活動が高かったという群の違いから、胸式を選べば全員の横隔膜が強くなる、とは進めない。測定された活動の違いと、練習後の能力の変化を分けて読む必要がある。[13]

さらに、この比較は男性での結果だ。女性のレッスンでの活動量や練習後の変化は、この群比較とは別の問いになる。胸式の人で横隔膜が休止しているという単純な説明を見直す材料にはなるが、女性の腹横筋をどれだけ鍛えられるかへの答えにはならない。[13]

腹横筋は、お腹の深い層にある筋肉として歌手の研究で測定されている。女性歌手20人を調べた観察研究では、声の不調がある群は、ない群より腹横筋が薄く、歌う課題での厚さの変化は大きかった。また、不調のない群は腹式、不調のある群は胸式の呼吸を示した。胸式という外見と、腹横筋に変化があることは両立していた。声の不調による群分けと歌唱課題を含むため、18〜39歳の女性全般の日常呼吸を代表する結果としては扱えない。[1]

ここには読み違えやすい点がある。厚さの変化が大きい群のほうが、声の状態もよかったわけではない。強く動いて見えることを、そのまま上手な使い方の証拠にしない姿勢が要る。観察研究なので、胸式が声の不調を起こしたとも、不調が筋肉の使い方を変えたとも決められない。[1]

歌声の大きさそのものは隣の記事「インナーマッスルは歌うときにも働く?」に譲る。既存の「インナーマッスルは咳より先に働く?息の勢いと深い腹筋の準備を研究で読む」が扱う動き出しの準備とも問いが違う。ここでは、胸式という名称から腹筋の不参加を決められるかに絞る。

肋骨の広がりは、座るか寝るかでも変わる

立川駅北口から帰宅し、椅子に座ったときには胸が動き、マットに仰向けになるとお腹が動く。こんな変化を、練習が急に上達した証拠と解釈したくなるかもしれない。しかし、若い健康な成人の測定では、自然な呼吸の配分自体が姿勢によって違っていた。息の見え方を比べるなら、姿勢も条件に含めたい。[9]

平均年齢21歳の若い成人を調べた研究では、胸と腹に巻いたベルトで周囲径の変化を測り、身体活動の水準が異なる群を比較した。若い成人の結果だが、18〜39歳の女性だけの値としてそのまま用いることはできない。座位では腹側と胸側の割合が45.5%と54.5%、立位では40.5%と59.5%だった。仰向けでは56.8%と43.2%、うつ伏せでは52.2%と47.8%であり、姿勢が変わると優勢な側も変わった。[9]

同じ研究で呼吸数は、座位で毎分15.1回、立位で15.0回、仰向けで13.7回、うつ伏せで14.4回だった。腹側の寄与が最も大きい仰向けで呼吸数が最も低かったが、これは観察された組み合わせである。腹式を増やせば誰でも同じ回数になる、という練習の処方ではない。[9]

身体活動の多い群は、座位、仰向け、立位で腹側の寄与が大きかった。ただし、身体活動の水準で群を比べた結果から、胸式の人は運動不足だと逆算することはできない。目の前の人の姿勢と呼吸の一場面だけで、日々の生活全体を採点しないことだ。[9]

また、前後方向の動きを測る機器と、周囲径を追うベルトでは、観測の入口が違う。座位の胸の割合が研究ごとに完全に同じでなくても、すぐに矛盾とはいえない。いずれも姿勢で配分が変わることを示しているが、値を混ぜて理想的な胸式呼吸の基準を作るのは避けたい。[19][9]

数字で読む胸とお腹の分担

40人:前後方向の動きから、姿勢と呼吸の型を比べた健康な成人の人数だ。[19]

36%と52%:自然な呼吸で肋骨側の動きが占めた割合。仰向けと座位で異なった。[19]

21%と57%:仰向けで腹式と胸式を行ったときの、肋骨側の動きの割合だ。[19]

47%・32%・64%:別の測定で、座位の自然呼吸・腹式・上部肋骨型における上部胸郭の割合だ。[14]

20人:腹横筋の厚さと歌う課題中の変化を超音波で調べた女性歌手の人数だ。[1]

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