筋トレの腹圧は息を吸うだけで上がる?横隔膜と腹筋の役割を分けて考える

筋トレで腹圧をかけるとき、深く吸ってお腹を膨らませれば十分なのか。横隔膜と腹筋の協調を調べた研究から、吸気と支えの違い、腹壁の張りと圧力の区別、姿勢で変わる測定結果を読む。お腹をへこませる方法と固める方法の比較も踏まえ、呼吸の合図を選ぶ前に確認したい点を整理する。

ダンベルを持つ前に、大きく息を吸ってお腹を膨らませる。そのまましゃがむと、さっきの張りが分からなくなる。これで「腹圧が入った」と考えてよいのか。鏡に映るお腹は動いているのに、支えられている感じがつかめず、吸い直してばかりになることがある。

答えの芯は、吸うことは腹圧が上がる仕組みの一部だが、吸った量だけで筋トレ中の支えは決まらない、という点にある。吸気で横隔膜が下がる際には腹壁などから抵抗を受け、腹腔内の圧力が上がる。一方、持ち上げ動作の研究では、腹腔を囲む筋の協調が腹圧の上昇と関係すると考察されている。[16][14]

したがって、吸気でお腹が動くことと、荷重を支えるための筋の使い方は分けて考えたい。「インナーマッスルは立ったまま鍛えられる?腕の重りと姿勢を支える働きを読む」には立位での負荷の話を譲り、ここでは筋トレの合図としての「吸う」「へこませる」「固める」が、どの測定結果につながるのかを追う。

「呼吸法は食後だと深く吸いにくい?胃のふくらみと横隔膜の働きを分けて研究で読む」は食事前後の条件、「呼吸法の横隔膜は座る姿勢でも動きが違う?背もたれと吸う力を研究で読む」は座位の呼吸の評価を扱っている。それらの問いは既存記事に譲り、ここでは荷重に備える腹圧の合図を主題に据える。

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吸うと圧力が上がる仕組みには、腹壁も参加する

腹圧とは、ここでは腹腔内の圧力を指す。横隔膜は呼吸に関わる筋であり、吸気時に下がる動きは、腹壁の受動的な性質、筋の張り、腹部内容物の慣性によって抵抗を受ける。その結果として圧力が上がり、胸郭の広がりを促すという仕組みが説明されている。[16]

この説明で見落としたくないのは、横隔膜と腹壁の相互作用だ。腹壁がどのように動くかも関わる。「横隔膜を下げる」と「お腹を前へ突き出す」を同じ操作として覚えると、外から見える形と内部の力のやり取りを混同してしまう。[16]

この点を考える手がかりに、健康な人と四肢麻痺のある人を比べた生理学的研究がある。対象は各6人で、仰向けで受動的に息を吐く際の胃内圧と腹壁の変位を測った。調べた肺気量の範囲では、吐いた量のうち腹部の区画が占めた割合は健康な群で平均31%、四肢麻痺の群で77%だった。胃内圧の変化範囲は両群で同程度であり、著者らは後者の腹壁がより変形しやすいと結論している。四肢麻痺のある人を含む比較なので、18〜39歳の健康な女性の筋トレに数値をそのまま当てはめることはできない。[16]

これは病態の異なる少人数の比較であり、日常の筋トレでお腹をどこまで膨らませるべきかを決める数値ではない。ただ、似た圧力の変化でも腹壁の動き方は違い得ることを示す。見える膨らみを、そのまま腹圧の目盛りに置き換えることには無理がある。[16]

服のウエストが前へ動くと、何かを達成した感じは出る。しかし服は圧力計ではない。お腹を大きく見せる競争にすると、本来確かめたかった筋の協調から離れてしまう。吸ったあとの形だけを採点せず、どの動作を支えたいのかに戻る必要がある。[14][16]

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持ち上げるときは、腹筋の強さだけで説明できない

持ち上げ動作中の腹圧を調べた研究では、健康な人20人、腰痛のある人20人、重量挙げ選手10人が、さまざまな呼吸方法で検査を受けた。腹腔内と胸腔内の圧力、腹斜筋や脊柱起立筋などの筋電図を記録し、横隔膜を隔てた圧力差も計算している。筋電図は、筋の電気的な活動を捉える測定だ。腰痛のある人や重量挙げ選手も含む対象のため、18〜39歳の女性の普段の筋トレで同じ関係が成り立つかは、別に確かめる必要がある。[14]

著者らは、持ち上げ時の腹圧上昇は腹腔を囲む筋のよい協調と関係するようだとし、そのなかで横隔膜が圧力水準に特に重要と考察した。また、声門を閉じることは横隔膜が腹圧の上昇を保つ助けになるようだと述べ、それ以外の呼吸の型の重要性は比較的小さいとしている。[14]

ここから読めるのは、「腹式か胸式か」という名前だけでは、持ち上げ時の腹圧を説明しきれないことだ。吸う場所のイメージを選ぶ前に、周囲の筋が荷重に合わせてどう働くかが論点になる。呼吸法の呼び名が正しくても、それだけで支えが完成したとはいえない。[14]

ただし、声門を閉じる仕組みが観察されたことを、そのまま全員への息止めの推奨には変えられない。この研究が扱ったのは腹圧の発生に関わる要因である。圧力を維持する仕組みの説明と、個人に適した運動方法の選択は別の判断として扱うべきだ。[14]

筋トレの指導で「もっと吸って」と言われたときは、吸う量を増やしたいのか、吸ったあとに周囲の筋を協調させたいのかを確かめるとよい。研究の問いに近づけるなら、腹筋だけ、横隔膜だけを主役にするより、持ち上げる場面での組合せを見ることになる。[14]

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へこませる方法と固める方法では、測定先が違って動く

体幹の安定性に問題のある41人を対象にした比較研究では、お腹を引き込む方法、腹部を固めるブレーシング、動的神経筋安定化という方法がランダムな順で行われた。最後の方法は、英字の略称でDNSと呼ばれる。横隔膜の動きと腹筋の厚さを超音波で、外腹斜筋の活動を筋電図で測っている。体幹の安定性に問題がある人の比較なので、18〜39歳の健康な女性にも同じ方法が最適かは、この結果だけでは決まらない。[6]

結果は、すべての測定が同じ方法で最大になるというものではなかった。DNSでは、ほかの方法より横隔膜が下がる動きと、腹横筋・内腹斜筋の厚さの差が有意に大きかった。一方、外腹斜筋の筋電図振幅は、ブレーシングでほかの方法より有意に大きくなった。[6]

著者らは横隔膜と腹横筋の釣り合った共同活動という観点からDNSを評価している。しかし、この比較で見たのは、その課題中の横隔膜の動き、筋の厚さの変化、電気的活動などである。筋肉の長期的な成長や、一般の筋トレで扱える重量の伸びを順位づけした結果としては読まない。[6]

「いちばん強く固まった感じ」がある方法でも、横隔膜の動きまで最大とは限らない。この研究では外腹斜筋の活動と横隔膜の動きで結果の並びが異なる。感覚に名前をつける前に、何を目標に、何を確かめているのかをそろえたい。[6]

腹横筋という言葉を聞くと、そこだけを働かせればよいように思えるかもしれない。だが、この比較の焦点は、横隔膜との共同活動にもある。筋の名前を暗記するよりも、「どの筋の、どの働きを測った結果か」を区別するほうが、合図の違いを理解しやすい。[6]

張りが増えたことと、腹圧を直接測ったことは同じではない

健康な若年成人30人を対象とする横断的な観察研究では、DNSに沿った言葉と手による指導の前後で、腹壁の張りを比べた。平均年齢は22.73歳で、座位、仰向けで脚を上げる姿勢、スクワット、ベア、ぶら下がりの姿勢が調べられた。腹壁に取り付けたセンサーで記録している。男女を含む若年成人の結果であり、18〜39歳の女性だけの変化を表す数値としては扱えない。[7]

指導後は、調べたすべての姿勢で腹壁の張りが有意に増えた。効果量はコーエンのdで−1.13〜−2.06と報告されている。符号だけを見て「張りが減った」と解釈しないことが大切で、著者らが報告する変化の方向は増加である。最も大きな活動が得られたのはベアの姿勢だった。[7]

この結果は、言葉や触れ方によって、その場での腹壁の使い方が変わり得るという手がかりになる。ただし測定対象は腹壁の張りだ。腹腔内の圧力を直接読んだ数字と置き換えたり、腹壁が張った人ほど長期的にけがをしにくいと結びつけたりする結果ではない。[7]

この観察研究では男女間の有意差は認められなかった。ただし、これは調べた姿勢と対象集団での比較であり、性別によって練習の合図を必ず変えるべきか、あるいは変えなくてよいかを一律に決める結果ではない。目の前の課題と、指導後に何が変わったかを確認する材料として読むのが適切だ。[7]

もうひとつ、指導なしの測定が先で、言葉と手による指導後の測定が後だったという順序も押さえたい。これは長期の練習群と対照群を追い続けた試験ではなく、その場での指導前後を比較した観察である。張りの増加を見て、次の月にも同じ変化が残ると約束する読み方はしない。合図を理解できた直後の変化と、練習を重ねて身につく変化は、分けて確かめる問いになる。[7]

数字で読む腹圧と筋の協調

健康な人20人・腰痛のある人20人・重量挙げ選手10人:持ち上げ時の呼吸方法と圧力を調べた対象である。[14]

41人:引き込む方法、固める方法、DNSを比べ、横隔膜の動きと筋活動で異なる結果が出た研究の対象である。[6]

30人:指導前後の腹壁の張りを、複数の姿勢で調べた健康な若年成人の人数である。[7]

−1.13〜−2.06:指導後の張りの増加について報告された効果量であり、腹圧そのものの増加率ではない。[7]

各6人:胃内圧と腹壁の動きの関係を比較した、健康な群と四肢麻痺の群の人数である。[16]

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宮川涼 Founder

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