日本で1976年からの25年に進んだ15〜29歳の女性の痩せ、痩せが始まる年齢、低体重の若い女性の耐糖能異常、妊娠前の低体重と赤ちゃんの体重、妊娠中の体重の増え方、骨折の部位による違い、新しい概念FUSを、研究の型と対象の人数を添えて確かめる。
「痩せたね」は、日本語ではたいてい褒め言葉として使われる。言われた側も、悪い気はしない。一方の「痩せすぎ」という言葉は、見た目への感想にとどまっていて、体のどこにどんな不調が起きるのかまでは指していない。同じ「痩せ」の字を使いながら、片方は称賛で、片方は漠然とした心配である。
医学の物差しでは、身長と体重から計算する体格指数BMIが18.5未満の状態を低体重と呼ぶ[12]。日本肥満学会が関連する複数の学会と設けた専門家の作業部会は、低体重や低栄養から生じる心と体の不調をひとまとめにして、「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」という新しい病気の概念を提案した[12]。2026年には、その声明の英訳が論文として公表されている[12]。名前に入っているのは「痩せ」ではなく、「低栄養」と「症候群」である。見た目の細さを評する言葉ではなく、栄養が足りない体に起きることをまとめて捉えるための言葉だ。
その提案は、日本では20代の女性のおよそ20%が低体重で、先進国の中でも最も高い水準の1つにあると書き出している[12]。体重を減らすことを長く目標にしてきた人にこそ、知っておいてほしい数字である。

20代の女性の5人に1人という数字
およそ20%という数字は、別の研究でも繰り返し出てくる。日本の女性を対象にした34本の研究を統合した2026年のメタ分析は、出産年齢の日本の女性で妊娠前に低体重の人はおよそ20%にのぼり、欧米の国々では10%未満だと述べている[14]。
この割合は、昔からそうだったわけではない。国の栄養調査のデータを分析し直し、1976年から2000年までの25年間の調査に答えた、妊娠中でも授乳中でもない15〜29歳の女性30,903人の身長と体重を並べた研究がある[1]。平均のBMIは10年ごとに、15〜19歳で0.17、20〜24歳で0.22、25〜29歳で0.34下がっていた[1]。年齢が上の層ほど、下がり方が大きい。BMIが17未満の極端な痩せは、1976〜1980年の2.4%から、1996〜2000年には4.2%に増えた[1]。
なぜ痩せが進んだのか。この研究は原因までは特定できておらず、たとえば喫煙の増加のような要因を調べる研究が今後必要だとしている[1]。FUSの提案は、背景にある要因として、細さを理想とする考えが社会に深く根づいていること、SNSやマスメディアの影響、GLP-1受容体作動薬という薬が本来の目的の外で痩せるために使われていること、貧困などの社会経済的な要因を挙げた[12]。一人の意志の弱さや強さで説明できる話としては扱っていない。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
細い体は、いつから細いのか
20歳の時点で低体重の女性は、子どものころから細かったのか。それとも途中から細くなったのか。20歳の女子大学生601人を低体重の群と標準体重の群に分け、6歳から20歳までの学校の健康診断の記録をさかのぼった研究がある[13]。
体格を同じ年齢・性別の子どもの平均からのずれで表す値(BMIの標準偏差スコア)で見ると、低体重の群は6歳からどの年齢でも−1.67〜−0.91と、標準体重の群の−0.41〜−0.13より低かった[13]。さらに、6歳からの変化の幅は、16歳以降になると低体重の群で−0.76〜−0.38と、標準体重の群の−0.07〜0.04より大きく下に動いていた[13]。
著者らはここから、低体重の若い女性の体格の推移には、少なくとも2つの特徴があるとした[13]。1つは、もともと体質として細いこと。もう1つは、10代の後半に体格が低体重の側へ移っていくことである[13]。低体重の群は6歳の時点ですでに細く、そのうえ16歳以降に、さらに低体重の側へ動いていた[13]。なお、ここから先に読む研究は、細い理由を問わず、BMIの値で人を分けている。

痩せていても、血糖は上がる
糖尿病は太った人の病気、と考えられやすい。ところが日本では、40歳を超えた低体重の女性で2型糖尿病の危険が高いことが知られている、と書き出す研究がある[3]。その研究は、もっと若い低体重の女性で血糖の処理の力がどうなっているかを確かめた[3]。
対象は標準体重の若い女性56人と、低体重の若い女性98人である[3]。ブドウ糖を飲んでから血糖の上がり方を追う経口ブドウ糖負荷試験を行うと、糖尿病ほどではないが血糖が下がりにくい耐糖能異常は、低体重の女性で13.3%、標準体重の女性で1.8%に見られた[3]。一時点で比べた横断研究で、標準体重の群の1.8%は、56人のうち1人ほどにあたる。
低体重のうち耐糖能異常があった女性は、なかった女性に比べて、食後すぐにインスリンを出す力が弱く、体全体と脂肪組織でのインスリンの効きが悪く、空腹時の血中の遊離脂肪酸が高かった[3]。自転車こぎの機械で測った、持久力の目安になる最大酸素摂取量も低かった[3]。一方で、全身の体組成は、耐糖能異常のある人とない人で同じくらいだった[3]。体重計や体脂肪率の数字では見分けられない違いが、血糖の処理の仕組みの側にあったことになる。
人生の途中の体重との関係を見た研究もある。30歳以上の日本の女性看護師17,398人が答えた質問票を分析した横断研究がある[8]。18歳のときのBMIが低い側(下から4分の1)で、今のBMIが高い側(上から4分の1)の組み合わせの人は、成人してから糖尿病と診断されるオッズ比が7.97(95%信頼区間3.97〜16.00)と、最も高かった[8]。比べた相手は、どちらの時期も中くらいだった人たちである[8]。親に糖尿病のない女性に絞っても、18歳のBMIが低い側だと、今のBMIが中くらいでもオッズ比は2.25だった[8]。生まれたときの体重も関わっていた。出生体重が下から4分の1に入る「低い」群は、18歳のBMIが低い場合でも高い場合でも、オッズ比が2.32と3.69になった[8]。経路を分けた解析では、出生体重と18歳のBMIのどちらも、低いほど成人後の糖尿病が多い向きの直接の関連を示した[8]。著者らは、思春期の低体重は過体重と同じように、成人後の糖尿病の危険因子になりうるとしている[8]。
18歳の体重と、その後の妊娠
同じ看護師の調査の別の分析は、妊娠しやすさを見ている[17]。30〜44歳の既婚の女性15,907人のうち、2年以上の不妊を経験したと答えたのは17.8%だった[17]。18歳の時点で低体重だった人は12.8%で、過体重の4.5%と肥満の0.4%を合わせた数の2倍を超えていた[17]。この調査に答えた女性たちの18歳の時点では、体重が多すぎる人より少なすぎる人のほうがずっと多かったことになる。
多変量の解析で比べると、18歳で低体重だった人は標準体重だった人より不妊の割合が1.31倍、肥満だった人は1.82倍高かった[17]。原因別に見ると、低体重は原因の分からない不妊と結びついていた[17]。データはすべて本人が質問票に答えたもので、一時点の分析であることには注意がいる。著者らも、思春期の低体重は後の不妊の「潜在的な」危険因子だと、言い方を抑えている[17]。体重と妊娠しやすさの話は、減量の側から「体重と妊娠しやすさの科学 減量で変わることと出生までの距離を考える」で扱っている。
数字で読む低体重
20代の女性の低体重:およそ20%で、先進国で最も高い水準の1つ[12]。
極端な痩せ(BMI17未満):15〜29歳で2.4%から4.2%へ(1976〜1980年→1996〜2000年)[1]。
耐糖能異常:低体重の若い女性で13.3%、標準体重の若い女性で1.8%[3]。
18歳のBMIが下から4分の1、今は上から4分の1:成人後の糖尿病のオッズ比7.97[8]。
18歳で低体重:その後の不妊の割合は標準体重の1.31倍[17]。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2






