SNSで見た目の理想の画像を見ると、体への不満はどれだけ動くのか。24の実験と10の追跡調査をまとめた分析、比べる傾向を調べた83研究、「いいね」と運動を勧める投稿の実験、ダイエットの誤情報の割合、読み方を教える授業の試験を、論文の数字で確かめる。
中央線の下りが国分寺を過ぎたころ、画面の中で、知らない誰かが引き締まった腹を見せている。親指を少し動かすと、焼きたてのパンを割る動画が流れ、その次では「白い主食を断てば落ちる」と言い切る短い投稿が続く。体の写真と食べ物と健康の主張が、立川に着くまでの数駅のあいだに、脈絡なく目の前を通り過ぎていく。
研究者は、この数分を実験室で切り出して測ってきた。女性112人を無作為に3つに分け、自分のFacebookを見る、ファッション誌のサイトを見る、見た目と関係のないサイトを見る、のどれかで10分過ごしてもらった実験では、Facebookの群は関係のないサイトの群より気分が沈んでいた[5]。見た目を人と比べる癖の強い女性では、「理想とのずれ」を感じる度合いも、関係のないサイトより大きくなった[5]。差が出たのは、顔と髪と肌のずれだった[5]。10分の画面が残したものは、思っていたより体の上のほうにあった。
画像を見せてその場の気持ちを測る実験と、使い方を時間をおいて追う調査とでは、答えに大きな開きがある。まずその開きを確かめ、続いて、比べる心の働き、「いいね」の数、運動を勧める投稿、食べ物の動画、投稿の正確さ、読み方を教える授業の試験までを順に見ていく。SNSで減量の仲間をつくる話は「オンラインの仲間は減量を支えるか 投稿の多さより見たい支援の中身と公開範囲」の記事に、運動と体への満足の関係は「ボディイメージと減量、体への不満はどう変わるか 運動と満足を分けて考える」の記事に譲る。

見た目の理想の画像は、その場で体への不満を押し上げた
SNSの画像の影響を確かめるいちばん直接の方法は、人を無作為に分けて違う画像を見せ、その場の気持ちを測ることだ。2015年の実験では、女子大学生130人を無作為に2つに分け、一方にはInstagramの「フィットスピレーション」の画像を、もう一方には旅行の画像を、タブレットの画面で見せた[14]。フィットスピレーションとは、運動と健康的な食べ物を勧めて、見る人を健康な暮らしへ向かわせようとする投稿の流れを指す[14]。
結果は、励ますための画像に期待される向きと逆だった。その場の気持ちを測ると、旅行の画像を見た群に比べ、フィットスピレーションの画像を見た群は気分が沈み、体への不満が増え、その場で感じる見た目への自信が下がった[14]。回帰分析という統計の手順でさらに調べると、画像の種類による違いは、見ているあいだに自分の見た目を画像と比べた度合いを通して生じていた[14]。画像そのものより、画像と自分を並べる心の動きのほうに、変化の通り道があったことになる。著者らは、フィットスピレーションが体のイメージに意図しない悪い結果をもたらしうると結論している[14]。
1本の実験だけでは、たまたまの結果かもしれない。そこで、似た実験と追跡調査を集めて重ね合わせたのが、2021年に発表された4つのメタ分析である[13]。メタ分析は、同じ問いを調べた複数の研究の結果を共通の物差しに直し、一つの数字にまとめる方法だ。この研究は、SNSと体のイメージの関係を「原因と結果」と呼べるかを確かめるために、問いの違う4つの分析を一度に行った[13]。
1つ目は、SNSに載る見た目の理想の画像を、見た目と関係のない条件と比べた24の実験の標本で、3,816人を含む[13]。理想の画像は体のイメージに中程度の悪い効果を示し、効果の大きさは−0.61だった[13]。効果の大きさとは、2つの群の平均の差を、得点のばらつきの幅を単位にして表した値で、単位の違う研究をそろえて比べるために使う。
2つ目は、理想の画像に付くコメントや説明文などの文脈を比べた21の標本(3,482人)だ。危険の高い文脈のほうが低い文脈より害が大きかったが、差の大きさは−0.12で、1つ目の−0.61に比べると小さな値だった[13]。3つ目は、理想の画像を、SNSに載るほかの見た目の画像と比べた14の標本(2,641人)で、理想の画像のほうが影響は大きく、効果の大きさは−0.68だった[13]。極端な値を示した研究を除くと、どの効果も小さくなったが、統計的に意味のある差は残った[13]。効果を強めたり弱めたりする条件は、この分析では統計的に見つからなかった[13]。
ここまでの数字は、すべて画像を見せる実験から出ている。画面の中身は、その場の気持ちを案外たやすく引っ張る。では、その引っ張りは、使い続けたあとにも同じ強さで残るのか。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
時間をおいて追うと、結びつきはずっと小さくなった
同じ研究の4つ目のメタ分析が、この問いに答えている。10の追跡調査の標本(5,177人)で、SNSを使う量と、時間がたってからの体のイメージの関係を調べると、負の相関はごく小さく、相関の大きさを表す値で−0.08だった[13]。統計的には意味のある値だが、論文自身が「ごく小さい」と書いている[13]。実験の効果の大きさと追跡の相関は物差しが違うので、2つの数字を割り算して比べることはできない。それでも、片方を中程度、もう片方をごく小さいと呼ぶほどの開きがある。
比べているものも違う。実験は、見た目の理想の画像を見せた条件とほかの条件の差を測り、追跡調査は、SNSを使う量全体と、後の時点の体のイメージを結んでいる[13]。SNSを開いて目にするのは、理想の体の写真だけではない。友人の子どもの運動会も、近所の店の新しい献立も、同じ指の動きで流れていく。使う時間の長さだけを数えると、見た目と関係のない時間も同じ重さで足されてしまう。
若い大人を対象にした観察研究のまとめも見ておく。18〜30歳の健康な若い大人について、2005〜2019年に出た観察研究30本(11,125人)を集めた系統的レビューがある[4]。数値を扱った26本では、投稿、いいね、コメントなどの関わりや、画像中心の内容を見ることが、体への不満の高さ、食べる量を控えること、食べ過ぎと関連していた[4]。30本のうち17本は、年齢、性別、BMI、民族などの交絡の一部を統計で調整していた[4]。結論は控えめで、SNSへの関わりは「一部の」健康な若い大人で、体のイメージと食べ物の選び方に悪い影響を与えうる、という書き方になっている[4]。
同じレビューの、聞き取りを中心にした4本からは、5つの主題が取り出された[4]。SNSは利用者どうしの比較を促す。比べることで体についての気持ちが強まる。若い大人は、理想と思う姿に見せるために見た目を整える。彼らはSNSが体のイメージや食べ物の選び方に影響することに気づいている。それでも、SNSを通じた外からの承認を求めている[4]。分かっているのにやめられないという点は、研究者の手を借りなくても、多くの人に覚えがあるはずだ。
ここで、研究の読み方の注意をまとめて置いておく。観察研究は、使い方と体のイメージが一緒に動くことを示すが、どちらが先かは決められない。体に不満のある人ほど見た目の投稿を探して見る、という逆向きの道筋もありうる。また、この記事で取り上げる実験の多くは女子大学生を、観察研究のまとめも30歳前後までを対象にしている[4][14][16]。30〜50代の読者に同じ大きさで当てはまるかどうかは、ここに集めた研究からは決められない。
効き目の通り道は「比べること」にあった
比べる心の働きを、多くの研究から数字にしたのが2025年のメタ分析だ[2]。2008〜2024年に発表された83研究・55,440人のデータから、SNSの上で他人と自分を比べる傾向と、体のイメージの悩みとの関係を調べた[2]。比べる傾向が強い人ほど体のイメージの悩みが大きく、相関係数は0.454(95%信頼区間0.409〜0.498)だった[2]。相関係数は、2つの量がどれだけそろって動くかを−1から1までの値で表す。0なら関係がなく、1に近いほど強く同じ向きに動く。
比べる傾向と摂食障害の症状との相関は0.36(95%信頼区間0.28〜0.43)だった[2]。自分の体を肯定的に受け止める力、つまり前向きな体のイメージとは逆の向きで、−0.242(95%信頼区間−0.329〜−0.155)だった[2]。著者らはこれらを中程度の大きさの関連とまとめ、SNSでの見た目の比較を減らすための介入や政策が要ると述べている[2]。
関連の強さは、研究の質、SNSの種類、国、比べ方の種類、女性の参加者の割合によって変わっていた[2]。同じ「SNSを見る」でも、どの場で、誰と、どう比べるかによって、結びつきの強さが違うということだ。
実験の側でも、比べることが要になっていた。フィットスピレーションの実験では、比べた度合いが画像の効果を運んでいた[14]。Facebookの10分の実験では、比べる癖の強い女性で、顔・髪・肌の理想とのずれが大きくなった[5]。この比べる癖は、その日の気分ではなく、ふだんからの傾向として質問紙で測られている[5]。同じ投稿を見ても、比べる人と比べない人では、画面を閉じたあとに残るものが違う。
数字で読むSNSと体のイメージ
−0.61:見た目の理想の画像を見せた24の実験標本(3,816人)での、体のイメージへの効果の大きさ。[13]
−0.08:10の追跡調査の標本(5,177人)で、SNSを使う量と後の体のイメージを結んだ相関の大きさ。[13]
0.454:83研究・55,440人をまとめた、SNSで他人と比べる傾向と体の悩みの相関係数。[2]
130人:フィットスピレーションか旅行の画像を見た女子大学生。比べた度合いが不満の増加を運んでいた。[14]
11,125人:18〜30歳の健康な若い大人を対象にした観察研究30本の合計。交絡の一部を調整した研究は17本だった。[4]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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