遺伝子の型に合う食事なら痩せやすい、という約束をランダム化試験で確かめる。609人を1年追った試験では型と食事の組み合わせで体重差は出ず、遺伝子に基づく助言は食べ方も変えなかった。検査が読む範囲と、遺伝子より先に手がかりになった数字まで論文で読む。
「あなたは糖質で太りやすい型です」。遺伝子検査の結果の紙に、そう一行だけ印刷されていたとする。型に合った食事を選べば、同じ努力でもっと痩せられる。紙の一行は、その約束を含んでいる。迷いが一つ減る気がするのも無理はない。
減量の論文の側にも、この流れは書き込まれている。肥満に関わる遺伝子の違いを調べ、その結果から減量の食事を勧める会社が多い、という一文から始まるランダム化試験がある。[9] 遺伝子の違いで食事の効き方が変わるかもしれない、という先行研究の示唆を受けて、609人の大人を1年追った試験もある。[1]
その1年の試験が出した答えは、約束とずれていた。低脂肪向きの型を持つ人が低脂肪の食事でよく痩せ、低糖質向きの型の人が低糖質の食事でよく痩せる、という組み合わせの差が見つからなかったのである。[1] 遺伝子検査で食事を選ぶことが、体重と食べ方を本当に変えたのかを、ランダム化試験と大規模な介入研究で順に確かめていく。遺伝子そのものが太りやすさにどう関わるかは「太りやすい体質は遺伝なのか FTOと減量研究で読む、変えられる環境の重さ」に譲り、ここでは検査を使う側に立つ。

検査が読むのは、DNAのどのくらいなのか
ここで取り上げる試験の多くが手がかりにしたのは、一塩基多型と呼ばれる違いである。DNAの文字の並びのうち、1か所の文字が人によって違う部分を指す。
読む数は、研究によって大きく違う。609人の試験は、3つの一塩基多型を組み合わせた型で、参加者を「低脂肪向き」と「低糖質向き」に分けた。[1] 低脂肪向きは244人で全体の40%、低糖質向きは180人で30%だった。[1] 欧州7か国の大人が参加したインターネットの介入研究Food4Meでは、食事に反応するとされる5つの遺伝子の違いを使った。[19] イスラエルの減量の記録では、消費者が直接申し込む型の検査で425の遺伝子の違いを調べている。[14] 3か所の組み合わせから425か所まで、同じ「遺伝子に合わせた食事」でも中身はまるで違う。
一方、体重の多さに関わる遺伝子の場所は、大規模な遺伝子研究で100か所を超えて見つかっている。[8] 欧州系の123,865人を集めた解析と、さらに103,046人を加えた確認で、新しく6つの場所が報告された研究もある。[8] 体重の多さという一つの性質にさえ、これだけの数の場所が関わっている。数か所を読んだ結果から食事の型を一つ選ぶ、という発想が、どこまで当たるのか。それを確かめたのが次の試験だ。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
609人を1年追った試験は、何を確かめたのか
DIETFITSと名付けられたランダム化試験は、2013年から2015年にかけて参加者を集めた。[1] 対象は18〜50歳で糖尿病がなく、BMI(体重を身長の2乗で割った体格の指数)が28〜40の大人である。[1] 平均年齢は40歳、57%が女性、平均のBMIは33だった。[1]
参加者はくじで、健康的な低脂肪の食事(305人)か、健康的な低糖質の食事(304人)に分けられた。[1] 健康教育の担当者が、12か月で22回の少人数の集まりを食事の型ごとに開いた。[1] 集まりで目指したのは、長く続けられる範囲で脂質か糖質をできるだけ低くすることと、食事の質を保つことである。[1]
試験には、体重のほかにもう一つの問いが組み込まれていた。遺伝子の型か、糖を飲んだ30分後の血中インスリンの値(インスリン分泌の目安で、開始時の平均は93μIU/mL)が、どちらの食事でよく痩せるかを左右するかである。[1] もし遺伝子の型が本当に効くなら、低脂肪向きの人は低脂肪の群で、低糖質向きの人は低糖質の群で、それぞれ大きく減るはずだ。食事の種類と体の型の組み合わせで結果が変わることを、統計では交互作用と呼ぶ。
1年を終えたのは481人で、全体の79%だった。[1] 12か月の食事の中身は、低脂肪と低糖質の群でそれぞれ、炭水化物が48%と30%、脂質が29%と45%、たんぱく質が21%と23%で、二つの食事ははっきり違うものになっていた。[1] 体重の変化は低脂肪の群で−5.3kg、低糖質の群で−6.0kgで、差は0.7kg(95%信頼区間−0.2〜1.6kg)にとどまった。[1] 信頼区間が0をまたいでいるので、二つの食事のどちらが優れていたとも言えない。
遺伝子の型との組み合わせの効果はP=0.20、インスリン分泌との組み合わせの効果はP=0.47で、どちらも有意ではなかった。[1] 有害事象は18件あり、二つの群にほぼ均等に分かれていた。[1] 著者らは、二つのよくある減量の食事の範囲では、仮説として立てた二つの要因のどちらも、誰にどちらの食事が合うかを見分ける助けにならなかったと結論している。[1]
どちらの群も平均で5kg以上減っている。[1] 食事を変えたことは体重を動かしたが、どちらの食事を選ぶかを遺伝子の紙は教えてくれなかった、ということになる。低糖質と低脂肪の比べ方そのものは「糖質制限か脂質制限か、長期比較試験で読む体重差と続けられる食事の選び方」に、同じ試験のデータを糖質とインスリンの側から読み直した議論は「太る原因は糖質かカロリーか 炭水化物・インスリン説とエネルギー収支説の論争」に譲る。
検査どおりの食事を勧めた試験と、勧めた後の記録
DIETFITSは、遺伝子の型を調べたうえで、食事は型と関係なくくじで決めた。では、検査の結果に合わせて食事を割り当てたら、標準の食事より痩せるのか。それを正面から比べた試験がある。
アメリカの退役軍人の病院で減量のプログラムに参加していた、過体重か肥満の51人を対象にした試験だ。[9] 遺伝子検査の結果から、バランス型・低糖質・低脂肪・地中海式の4つのうち1つを選んで割り当てる群(30人)と、標準のバランス型の食事の群(21人)に分けた。[9] 確かめたのは、8週と24週で体重の5%以上を減らした人の割合である。[9]
8週で5%以上減らした人は、バランス型の群で35.0%、遺伝子で選んだ群で26.9%だった(P=0.28)。[9] 24週でも差は無かった。[9] 数字の上では、遺伝子を使わなかった群のほうが少し多い。差は偶然の範囲だが、宣伝の約束とは逆の並びである。
この試験には、もう二つの結果がある。一つは、どちらの群も食事を守るのに苦労したこと。[9] 遺伝子で選んだ食事の群では、食事を守れた度合いと減量の相関が0.74と強く、標準の食事の群では0.34で有意ではなかった。[9] 守れた人ほど減っていたが、これは同じ群の中での関係で、遺伝子で選んだ食事そのものが標準の食事より優れていたことを示すものではない。
もう一つは、肥満に関わる遺伝子の違いで「危険の低い型」だった人が、8週の時点でほかの人より多く減ったことだ(5.0%と2.9%)。[9] 24週ではBMIの減り方(6.4%と3.6%)と腹囲の減り方(6.5%と2.6%)も大きかった。[9] 著者らは、遺伝子に基づく食事は減量を増やさなかったが、遺伝子の特徴が、バランス型の食事で最も効果を得やすい人を見分けられるかもしれず、さらに調べる必要があると書いている。[9] 遺伝子は「どの食事が合うか」より、「どの食事でも減りやすい人か」の手がかりになる可能性がある。ただし51人の試験で、確かめはこれからだ。
比べる群を置かずに、遺伝子の情報を使った食事指導の結果を追った記録もある。イスラエルの大人426人(平均BMI32.11、女性66.9%)の記録を後からさかのぼって調べた研究だ。[14] 検査の後、3か月は栄養士が電話で支えながら個別の食事を続け、その後の9か月は自分で記録しながら体重を保つ形だった。[14] 12か月の推定の減量は10.12kgで、開始時の体重の11.4%にあたる。[14] 最も早く減ったのは3〜6か月の時期で、1か月あたり−1.13kgだった。[14] 中性脂肪は14.06mg/dL、空腹時の血糖は5.14mg/dL下がった。[14]
数字は大きい。ただ、遺伝子の情報を使わない同じ支援と比べていないので、栄養士の電話、本人の意欲、遺伝子の情報のどれが効いたのかは分けられない。著者ら自身も、因果を確かめるにはランダム化試験が必要だと結んでいる。[14]
数字で読む遺伝子検査と食事選び
- 0.7kg:609人の試験で、低脂肪と低糖質の食事の1年の体重差。95%信頼区間は−0.2〜1.6kgで0をまたぐ。[1]
- P=0.20とP=0.47:食事と遺伝子の型、食事とインスリン分泌の組み合わせの効果。どちらも有意でなかった。[1]
- 35.0%と26.9%:8週で体重の5%以上を減らした人の割合。標準のバランス型の群と、遺伝子で食事を選んだ群。[9]
- 0.74:遺伝子で選んだ食事を守れた度合いと減量の相関。標準の食事の群では0.34で有意でなかった。[9]
- 10.12kg:遺伝子の情報を使った食事指導の12か月の推定の減量。比べる群は置かれていない。[14]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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