膝立ちで足幅を狭めるほど、お腹の運動になるのだろうか。支える範囲を変えた持ち上げ動作、片膝立ちや四つ這いで腹筋を測った研究を比べ、揺れを抑える筋活動と脂肪の減少を区別する。姿勢や力の入れ方、膝の痛みを手掛かりに、家での練習を選ぶための読み方を示す。
夜、敷いたマットの上で膝立ちになる。動画と同じように膝を寄せてみると、さっきより落ち着かない。お腹が働いている気もする。この揺れを我慢すれば、お腹痩せにつながるのだろうか。
答えの芯は、支える範囲によって筋肉の働きは変わりうるが、「膝を寄せるほど腹筋に効く」という順位までは決められない、である。膝立ちやしゃがみ姿勢で物を移した実験では、支える範囲が小さい姿勢ほど、多くの太ももの筋活動が高かった。ただし測ったのは太ももであり、腹筋の順位でも脂肪の減少でもない。[5]
腹筋を直接測った片膝立ちや四つ這いの研究では、手で加える力や、浮かせる手足によって筋活動が変わった。[3][4] この記事は、膝立ちを難しくする前に、何を変えたら何を測っているのかを整理する。「お腹痩せの腹囲はメジャーを強く締める?測る圧と研究の変化を読み分ける」には腹囲の測り方を譲り、ここでは床で体を支える条件に絞る。

膝立ちという名前だけでは姿勢が決まらない
両膝を床について上体を起こす姿勢と、片方の足を前に置く片膝立ちは、見た目からして違う。手も床についていれば四つ這いになる。検索画面ではどれも「膝立ちの体幹運動」に並ぶかもしれないが、研究を比べるときは名前を細かく読む必要がある。片膝立ちで太ももを手で押す実験と、四つ這いから手足を浮かせる実験は、別の課題である。[3][4]
支持基底面とは、体を支える接地点が囲む範囲のことである。膝立ちやしゃがみ姿勢の持ち上げ実験は、この支える範囲の違いと太ももの筋活動を扱った。[5] 日常語の「足幅」だけで考えると、膝の間隔なのか、前に置く足の位置なのか、床についたすねも含めた支えなのかが曖昧になる。動画の足先だけをまねしても、研究と同じ条件を再現したことにはならない。
また、姿勢が同じでも課題が違えば比較の意味が変わる。片膝立ちの研究では、自分の手で反対側の太ももを押して抵抗を作った。[3] 膝立ちで物を左右に移す研究では、荷物の位置も関わっていた。[5] ただ膝立ちで静止する場面に、それぞれの結果を丸ごと移すことはできない。姿勢、動作、抵抗のかけ方をひとまとまりとして読むのが出発点である。
家で練習を比べるときにも、この区別は役立つ。今日は膝を寄せ、同時に腕を上げ、さらに上体をひねったとしよう。前より難しかったとしても、どの変更が違いを生んだのかは分からない。「膝立ちがきつかった」という記録より、「前の足の位置は同じで、手の押し方を変えた」という記録のほうが、次に選ぶ動きを考えやすい。これは効果を保証する処方ではなく、比較の条件をそろえる工夫である。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
支える範囲が狭いと、どの筋肉が働いたのか
支える範囲の話に直接関わるのが、参加者9人による持ち上げ動作の実験である。膝立ちやしゃがみ姿勢で、横に置いた荷物を反対側へ移し、左右の太ももの筋電図を記録した。筋電図は筋肉が活動するときの電気信号を捉える方法であり、この研究では大腿四頭筋とハムストリングスが対象だった。[5]
結果は、単純な姿勢の優劣ではなかった。測った10筋のうち9筋で、姿勢と荷物の角度の組み合わせが筋活動に関係した。右側から持ち上げるときは右の太ももの活動が大きく、左へ移すにつれて下がり、左の太ももは逆の傾向を示した。多くの筋では、支持基底面が広い姿勢で活動が低く、狭い姿勢で高かった。[5]
ここから拾えるのは、体を支える条件は負荷の一部であり、荷物の位置も無視できない、という点である。[5] ただし「狭い姿勢で太ももの筋活動が高い」を「両膝の間隔を狭めるほど腹筋が高く働く」に置き換えると、測った部位も動作も変わってしまう。さらに「お腹の脂肪が落ちる」を付け足せば、結果の種類まで入れ替わる。
研究では膝を深く曲げた姿勢で太ももの活動が最も低かった一方、その姿勢と半月板損傷リスクの関係にも注意が向けられた。[5] 筋活動が低ければ関節にも楽、高ければ危険、という読み方はできないのである。筋肉の電気信号と関節の負担は、同じ物差しではない。膝立ちが苦手な日に、腹筋の努力と床に当たる膝の不快感をひとまとめにしないことにもつながる。
立川駅から帰ってすぐ、狭い部屋で体を動かす場面を考える。家具を避けるための足の置き方と、運動の負荷を変えるための足の置き方は、本人の中でも混ざりやすい。狭く構えられたことを上達の条件にせず、まず何を練習したいのかを決めたい。広く支えて課題を確かめる日まで、失敗扱いする必要はない。
荷物を動かす実験とマット上の静止を分ける意味は、体をどちらへ動かそうとしているかにもある。実験では荷物を移す途中の位置で筋活動を調べており、動作の始めから終わりまで同じ値ではなかった。[5] 同じ姿勢の名前でも、途中のどこを切り取るかによって数字の意味が変わる。写真の形だけが一致していても、動作の条件まで一致したとは限らない。
たとえば、床の荷物を横の棚へ運ぶ場面を想像すると分かりやすい。荷物を持つ前、持ち上げる途中、反対側へ渡す途中では、本人が意識する場所も変わるだろう。持ち上げ実験では、まさに姿勢と荷物の角度の組み合わせが多くの測定筋の活動に関係した。[5] 膝の間隔だけに注目すると、この動く課題の中身を取り落とすのである。
片膝立ちでは、手で押す力も負荷になる
腹筋を直接調べた予備的な試験では、スポーツ経験のある健康な男性20人が、自分の手で反対側の太ももを押す運動を行った。仰向けと片膝立ちで実施し、腹筋運動やプランクとも比較した。手で押す力は最大の40%または70%に設定された。対象者のスポーツ経験は平均10.5年であり、18〜39歳の女性に同じ筋活動が生じるかは、この男性の試験だけでは判断できない。[3]
片膝立ちで最大の40%の力を使う条件では、腹部と股関節周辺の筋活動が見られた。特に中殿筋と長内転筋の活動は、腹筋運動やプランクより有意に高かった。中殿筋はお尻の横、長内転筋は内ももにある筋肉である。この比較は、片膝立ちなら腹筋のすべてで最も高い値になる、という結果ではない。[3]
一方、仰向けで最大の70%の力を加えた条件は、左外腹斜筋で最大随意収縮の80.4%、右内腹斜筋で61.4%を示した。右中殿筋は24.3%、右長内転筋は42.4%で、これらは比較した運動の中で有意に高かった。最大随意収縮とは、自分の意思で最大限に力を出したときの収縮であり、その値を基準に活動の程度を表している。[3]
数字が大きい条件は、片膝立ちではなく仰向けだった。この点は見逃せない。床から上体を起こすほど、あるいはぐらつくほど腹筋の活動が上がる、という見た目の序列とは一致しない。少なくともこの試験では、仰向けでも押す力を変えることで筋活動を調整できた。[3] 姿勢を難しくする以外にも、課題の負荷を変える道がある。
研究者が設定した最大の力に対する割合と、自宅で感じる「これくらいの強さ」は同じではない。数字を見て手加減を正確に再現しようとするより、この運動では自分で抵抗を作り、その大きさを変えていた、と理解したい。[3] 研究の割合を家庭向けの推奨強度に変換しないことが、数字を丁寧に使うということである。
筋電図の割合を読む際には、何を分母にしたかも大切だ。最大随意収縮を基準にした80.4%という値は、その筋肉の電気的活動を基準値と比べた数字である。[3] 運動時間のうち腹筋を使った時間の割合でも、運動で使ったエネルギーのうち脂肪が占めた割合でもない。似た見た目の百分率でも、何の割合かが違えば、生活への読み替えはできない。
また、左外腹斜筋の高い値を、腹部全体の代表値として扱うことも避けたい。この試験は左右の腹斜筋や右腹直筋、右の股関節周辺筋を分けて測っていた。[3] お腹をひとつの袋のように考えて「全体が強く働いた」と丸めるより、測定した筋肉を確かめるほうが、片側に抵抗を加えた課題の特徴が見えてくる。
数字で読む膝をつく運動
9人:支える範囲と太ももの筋活動を調べた、荷物の横移動実験の参加者数である。[5]
20人:片膝立ちと仰向けで、自分の太ももを押す運動を比べた健康な男性の人数である。[3]
80.4%:仰向けで強く押す条件の左外腹斜筋活動。脂肪が減った割合ではない。[3]
30人:四つ這いの段階を比較した、20〜30歳の健康な女性の人数である。[4]
4〜43%:活動的な女性の安定化運動で測られた、最大努力時に対する腹横筋活動の範囲である。[7]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
1
2







