心臓病のあとのリハビリで、肥満の人の体重は平均どれだけ減るのか。29,601人の記録、体力の伸びが1年後に目減りした研究、高強度と中強度の運動の比較、減量の支援を加えた試験と差が出なかった試験、修了後に運動量を削る条件を数字でたどり、続け方を考える。
心臓のリハビリに通った肥満の人、29,601人[11]。英国の全国記録を分析した研究で、リハビリの前後に測った体重の減り幅は、平均で男性0.9kg、女性0.5kgだった[11]。
心臓病のあとの指導では、体重を落とすことがよく勧められる。リハビリの指針も肥満の人の減量を掲げているが、平均の減り幅は小さいと、この研究の著者ら自身が書いている[11]。週に何度も運動の教室に通い、汗をかいて帰ってきたのに、体重計はほとんど動かない。家族がリハビリに通い始めた人なら、その様子を見ているかもしれない。
それでも心臓リハビリは、体重のためだけにある場所ではない。体重が減りにくい理由、減らなくても変わるもの、減らしたいならどこに手を足すか。答えはこの三つの問いに分かれ、どれにも試験と記録の数字が残っている。心不全の人の減量と運動は「心不全のある人の減量と運動 体重が減ることと動ける力を分けて考える理由」に譲り、ここでは冠動脈の病気のあとのリハビリを中心に扱う。

運動の教室から、再発を防ぐ場所へ
心臓リハビリは、心筋梗塞などの心臓病を経験した人が、運動と生活の見直しを組み合わせて次の発症を防ぐための取り組みだ。もとは心肺の体力を高める運動だけのプログラムだったが、心臓の危険因子を左右する生活習慣そのものを変える、二次予防のプログラムへと役割を広げてきた[6]。
その変化を押した一つが肥満の増加である。2021年のレビューは、20世紀後半から21世紀初めにかけて肥満が広がり、2型糖尿病とメタボリックシンドロームが急増したことで、危険因子の管理が良くなって期待されていた冠動脈の病気による死亡の減少が鈍ったと書いている[6]。肥満の原因は行動に根ざすため、最も効果的な治療は行動に基づく包括的なやり方だ、というのが著者らの立場である[6]。
ところが、入口の状況と出口の仕組みがかみ合っていない。2010年の別のレビューによれば、心臓リハビリを始める時点で80%を超える人が過体重で、50%を超える人がメタボリックシンドロームを持っている[9]。それにもかかわらず、リハビリのプログラムは一般に減量の仕組みを含まず、リハビリでの減量の成果は惨憺たるものだったと、著者らは率直に記した[9]。
先の2021年のレビューは、全米の心臓リハビリのプログラムを調べ、行動に働きかける減量プログラムを提供していたのは8%だけだったと報告した[6]。2010年のレビューが挙げた「始める時点で8割を超える人が過体重」と、2021年の米国の調査の8%は、時期も調べた対象も違う数字だ[6][9]。それでも並べてみると、体重が減らない理由の一つは、個人の頑張りより前の段階にあることがうかがえる。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
29,601人の記録が示した、減り幅を分ける条件
冒頭の数字は、英国の心臓リハビリの全国監査のデータを使った観察研究による。リハビリの前後で体重を比べ、どんな特徴を持つ肥満の人がより減り、より減らなかったかを統計の手法で洗い出した。対象者の74%が男性だった[11]。
平均の減り幅は男性0.9kg、女性0.5kgで、標準偏差は男性4.3kg、女性3.9kgだった[11]。標準偏差が平均よりずっと大きいことは、数kg減った人から逆に増えた人まで、変化の幅が広かったことを示している。平均の小ささは、全員がわずかに減ったという話とは違う。
減り幅を小さくする方向に働いた特徴は、心臓の病気のあとに禁煙したこと、糖尿病、心臓の手術を受けたこと、生活の苦しい地域に住んでいること、女性であること、体力の低さ、痛みだった。禁煙した人は、そうでない人より減り幅が1.2kg小さく、95%信頼区間は0.9〜1.5kgだった[11]。逆に、はじめの体重が重いこと、年齢が高いこと、仕事を持っていることは、より大きな減少と結びついていた[11]。
これは観察研究であり、たとえば女性であることが減量を妨げる原因だと読むことはできない。著者らがこの結果の使い道として挙げたのは、指針づくり、本人と現実的な目標を合意すること、体重管理の支援を一人ひとりに合わせることだった[11]。リハビリで体重が思うように減らない女性がいても、それは記録の上では珍しくない、という読み方がここでの収穫になる。

体力は誰でも伸びる、ただし1年後に差がつく
体重が動かなくても、リハビリで確実に動くものがある。冠動脈の病気を持つ3,997人が12週間の多職種による心臓リハビリに参加した研究では、運動負荷試験で推定した最高の運動強度を、開始時、修了直後、1年後に測った[1]。強度の単位はMETsで、安静に座っている状態を1とした倍数で表す[1]。
体格指数で分けた三つの群のすべてで、体力は有意に伸びた。ただし1年後に残っていた伸びは、標準体重の人で0.95METs、過体重の人で0.82METs、肥満の人で0.69METsと、体重の多い群ほど小さかった[1]。肥満の人は開始時の体力が最も低く、リハビリで得た体力を1年の間に最も多く手放していた[1]。
著者らは、体力の向上は体格指数にかかわらず誰でも得られると述べたうえで、肥満の人は長い目で見ると伸びを「返してしまう」傾向があり、リハビリの効果を支える追加の手立てが役立つかもしれないと結んでいる[1]。伸ばすことより、保つことのほうが難しい群がいるのである。
体力が重要なのは、それが見た目の体重とは別の物差しだからだ。2026年のレビューは、肥満の人で心臓リハビリが機能的な能力、心血管の危険因子、生活の質を有意に改善することを示す一方、リハビリ中の減量はおおむね控えめで、人によるばらつきも大きいとまとめた[19]。そのうえで、体重の減少だけでなく、心肺の体力と身体活動の改善が、予後の良さを主に支えているとみられると述べている[19]。
強度で攻めるか、量で積むか
同じ心臓リハビリでも、運動の組み立てで体の中身の変わり方は違うのか。心筋梗塞のあとにメタボリックシンドロームを持ち、リハビリを受けた174人を振り返って調べた研究では、36回のセッションと前後の体組成の測定を終えた56人を分析した[14]。42人が高強度インターバルトレーニング、14人が中強度の持続的な運動を行っていた[14]。
高強度の側は、自覚的なきつさを6〜20の数字で表す尺度で15〜17にあたる30〜60秒の運動と、14未満の1〜5分の運動を4〜8回繰り返した[14]。中強度の側は、きつさ12〜14の運動を20〜45分続けた[14]。比べると、高強度の群では体脂肪量が2.1kg減り、中強度の群では変わらなかった[14]。除脂肪量は高強度の群で0.9kg増え、中強度の群で0.9kg減った[14]。腹囲は−3cmと+1cmだった[14]。
空腹時の血糖、中性脂肪、拡張期の血圧も高強度の群で大きく下がり、運動で使ったエネルギーの量をそろえて比べても、体脂肪量や除脂肪量の差は残った[14]。ただし、これは無作為に割り付けた試験ではなく、中強度の群は14人と少ない[14]。監督のもとで行われたリハビリの中の結果であることも、読み落とせない条件だ。高強度の運動全般については「HIITで体脂肪はどれだけ減るのか 短時間の運動を選ぶ前に読みたい比較研究」で扱っている。
もう一方の考え方は、量で積むことだ。心臓リハビリでの肥満の治療を論じたレビューは、行動に働きかける減量の相談と、運動で使うエネルギーを最大にするやり方を組み合わせた手本を紹介している。運動の中心は歩くことで、やがてほぼ毎日、長めの距離を歩くことが求められる。階段を上ること、楽をするための機器を使わないことも、日々の決まりごとに組み込むとされた[9]。
減量と運動の訓練がもたらす危険因子の改善は幅広く、インスリン抵抗性、血中脂質、血圧、血液の固まりやすさの異常、血管の内側の働き、炎症の指標であるC反応性たんぱくの改善が示されてきたと、このレビューは述べる[9]。強度で攻めるか量で積むかは、どちらか一つが正しいという話ではない。どちらを選ぶかも、心臓病のある人では担当の医療者と決める事柄である。
数字で読む心臓リハビリと体重
肥満の29,601人の記録:リハビリ前後の体重の減り幅は、男性0.9kg、女性0.5kg[11]。
3,997人の1年後:体力の伸びは標準体重0.95、過体重0.82、肥満0.69METs[1]。
減量の支援を足した試験:6か月の体重の減少は6.4%と1.2%[7]。
高強度と中強度の比較:体脂肪量の変化は−2.1kgと0kg[14]。
全米の調査:行動的な減量プログラムを提供していた施設は8%[6]。
修了後の1年:肥満と高血圧が重なると、生活の中の運動は月2.83時間少なかった[18]。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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