食事に占めるたんぱく質の割合が下がると、人は足りない分を求めて総エネルギーを多くとるのか。仮説の出発点、38本の試験を集めた分析、10%と25%の食事を4日ずつ比べた試験、牛肉で12日間確かめた試験を並べ、この仮説が当てはまる範囲と崩れる場面を確かめる。
肥満の原因をめぐる議論で、たんぱく質は長く脇役だった。主に脂質と炭水化物の食べ方が論じられ、たんぱく質の役割はほとんど顧みられなかった[3]。理由は二つある。食事のエネルギーに占める割合がおよそ15%と小さいこと。そして肥満が広がった時代を通じて、その摂取が集団の中でも集団どうしでも、ほぼ一定だったことだ[3]。
2005年、Simpsonらはその二つの性質こそが、たんぱく質に「てこ」の力を与えると論じた[3]。量が小さく、しかも体がその量を守ろうとする栄養素なら、食事の中で少し薄まるだけで、ほかの栄養素ごと食べる量を押し上げうる。プロテイン・レバレッジ仮説と呼ばれる考え方である。著者らは数理モデルで仮説を形にし、疫学、実験、動物の研究から支持するデータを示しつつ、今後確かめるべき予測を並べた[3]。
聞けば筋が通っている。だからこそ、どこまでが実験で確かめられ、どこからが仮説のままなのかを分けて読みたい。この記事では、たんぱく質を多くとる食事法の効果ではなく、「割合が下がると総量が増えるのか」という一点に絞って、人で測ったデータを順に見ていく。

「てこ」の仮説は何を言っているのか
てこの理屈を、数字をできるだけ使わずに書くとこうなる。体は、エネルギーの量よりもたんぱく質の量を強く守ろうとする。そこへ、脂質や炭水化物の多い食品が増えて、ひと口あたりのたんぱく質が薄まる。すると、同じ量のたんぱく質に届くまでに、より多く食べることになる。上乗せされる分は、たんぱく質ではなく脂質と炭水化物のエネルギーだ。
2023年にRaubenheimerらがまとめた論文は、この考え方を「栄養の幾何学」という枠組みの中に置いている[10]。生態学で発達した、複数の栄養素を同時に扱う枠組みだ。人はほかの多くの生き物と同じように、ほかの栄養成分よりたんぱく質の摂取を強く調節していて、そのため食事のたんぱく質が薄まると、補うように食べる量が増える。著者らはこの過程をプロテイン・レバレッジと呼んでいる[10]。
そのうえで仮説は、現代の食品供給の中で、脂質と炭水化物に富んだ高度に加工された食品がたんぱく質を薄め、てこの作用を通じてエネルギー摂取を押し上げてきた、と主張する[10]。著者らは、仕組みの研究、実験、観察研究からの証拠を挙げ、この仕組みが肥満研究のほかの多くの知見や理論とも両立すると論じた。原因をめぐる複数の説を競わせるより、互いにどう作用し合うかを調べるべきだという立場である[10]。
ここで一つ押さえておきたい。仮説が問題にしているのは、たんぱく質の「量」ではなく「割合」だ。たんぱく質を毎食きちんと食べていても、袋菓子や甘いパンのように、たんぱく質の少ない食品が1日の中で増えれば、割合は下がる。体重の話でたんぱく質が語られるとき、グラム数ばかりが話題になるが、仮説の目はむしろ、たんぱく質以外の食品がどれだけ増えたかに向いている。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
38本の試験を並べると、割合と総量は逆向きに動いた
仮説を確かめる一つの方法は、すでに行われた実験を集めて並べることだ。Gosbyらは、栄養素の組成が違う献立に参加者を限定し、好きなだけ食べさせて摂取量を測った試験を、論文から38本集めた[5]。
38本の試験を合わせると、たんぱく質が総エネルギーに占める割合は8〜54%、炭水化物は1.6〜72%、脂質は11〜66%と、幅広い組み合わせがそろっていた[5]。この幅を使えば、どの栄養素の割合が総摂取量と結びついているかを、ある程度切り分けられる。
結果は、たんぱく質の割合が高いほど総エネルギー摂取が少ない、という負の関連だった。しかもその関連は、たんぱく質を薄めたのが炭水化物でも脂質でも変わらなかった[5]。炭水化物や脂質の割合そのものには、総摂取との関連が見られていない。著者らは、標準体重の人、過体重の人、肥満の人のいずれにも、てこの作用が働くことを強く支持する分析だと結論した[5]。
ただし、これは別々の目的で行われた試験の結果を並べた分析である。期間も参加者も献立の作り方もそろっていない。たんぱく質の割合を変えると摂取量が変わる、と一つの実験で示したものではない。並べた38本が同じ方向を向いていたことは重いが、その向きが「割合のせい」なのかを確かめるには、割合だけを動かした試験が要る。

10%と25%、4日ずつの差は14%
割合だけを動かした試験の一つが、Gosbyらが2016年に報告したものだ[2]。肥満のない健康な22人が、たんぱく質の割合を10%、15%、25%にした食事を、施設の中で過ごす4日間ずつ、好きなだけ食べた[2]。条件の順番を無作為に決めた試験である。
たんぱく質を25%から10%に下げると、4日間のエネルギー摂取は14%増えた[2]。著者らは、たんぱく質への食欲が強く働くため、食事のたんぱく質の割合がおよそ10%まで下がると、人のエネルギー摂取は増え、その補うような食べ方は1〜2日のうちに表れると書いている[2]。
同じ試験は、体の中の変化も測った。たんぱく質が少ないときに血液中で増える候補の信号として知られる、線維芽細胞増殖因子21(FGF-21)というホルモンが、空腹時に6倍に増えた。中性脂肪は1.5倍に増え、総コレステロールは0.9倍に下がった[2]。一方、食欲の調節に関わるグレリン、GLP-1、コレシストキニンというホルモンは変わらなかった[2]。
食欲を調節するホルモンが動かないまま、食べる量だけが14%増えた。空腹のサインとは別の経路で、たんぱく質の不足が食べる量に響いている可能性を示す結果だ。とはいえ参加者は22人、期間は4日ずつで、太っていない人に限られる。数か月続けたら体重がどうなるか、肥満のある人で同じ幅になるかは、この試験からは分からない。
牛肉の12日間で、てこは片側しか働かなかった
仮説にとって手ごわい結果も出ている。Martensらは男性30人、女性28人(平均33歳、BMI平均24.4)を対象に、たんぱく質を総エネルギーの5%、15%、30%にした3種類の食事を、12日間にわたる無作為化交差試験で比べた[13]。たんぱく質の大部分は牛肉から供給された。
1日のエネルギー摂取は、30%の食事で8.73 MJと、5%の食事の9.48 MJ、15%の食事の9.30 MJより有意に少なかった[13]。差は主に食事の時間の摂取から生じていた。空腹感と食べたい気持ちは5%の食事でもっとも高く、満腹感はもっとも低かった[13]。
ここまでは仮説の予想どおりに見える。ところが、5%の食事のときに、人はたんぱく質の目標まで食べ増やしたわけではなかった[13]。もし仮説が完全に働くなら、5%の食事では、ほかの食事と同じだけのたんぱく質に届くまで食べ続け、エネルギーをとり過ぎるはずだ。実際の5%と15%の摂取は9.48 MJと9.30 MJで、大きくは離れていない[13]。
著者らは、エネルギーのつり合いを犠牲にしてまで共通のたんぱく質量へ向かって食べることは起きず、完全なてこの作用は生じなかったと結論した[13]。言えたのは、高たんぱくの食事では必要量に比べて少なく食べた、という片側だけである。たんぱく質の割合を上げると食べる量は減ったが、割合を下げても食べる量は思ったほど増えなかった。
低たんぱくの側で仮説が支持されなかった理由として、著者らは窒素出納に注目した。窒素出納は、体に入る窒素と出ていく窒素の差を見る指標だ。5%の食事では体の外に出る窒素が1日4.7 gと少なく、12日間の窒素出納は保たれていた。15%と30%では出納が正、つまり入る量のほうが多かった[13]。体がたんぱく質の節約で12日をしのげたなら、食べ増やす必要は生じなかったのかもしれない[13]。
4日間の試験では25%から10%への低下で14%増え、12日間の試験では5%まで下げても大きくは増えなかった[2][13]。参加者の体格、たんぱく質源、期間、割合の刻み方が違うので、どちらかを誤りとは決められない。ただ、てこは両方向に同じ力で働くとは限らない。少なくとも短い期間の実験では、上げる側の効き目のほうがはっきりしている。
数字で読むプロテイン・レバレッジ
およそ15%:多くの食事でたんぱく質がエネルギーに占める割合。肥満が広がる間もほぼ一定だった[3]。
8〜54%:38本の試験で、たんぱく質の割合がとった幅。割合が高いほど総摂取は少なかった[5]。
14%:たんぱく質を25%から10%に下げた4日間で増えたエネルギー摂取。肥満のない22人の試験[2]。
6倍:同じ試験で、10%の食事のあとに空腹時の血中で増えたFGF-21[2]。
8.73 MJと9.48 MJ:牛肉を主なたんぱく源にした試験で、30%と5%の食事のときの1日のエネルギー摂取[13]。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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