代謝が悪いと長生きするのか?体格をそろえた消費量と寿命の研究を読む

代謝が低い人ほど長生きするのか。体格や体組成をそろえた消費量と、食事制限による代謝適応を分けて考える。人の試験で変わった寿命関連の指標は、寿命そのものとは違う。脂肪以外の組織の減少や病気に伴う消費増加も読み合わせ、日々の運動を控える理由になるのかを確かめる。

体組成計の画面に出た基礎代謝の数字が、隣の人より低い。「代謝が悪いのは困る」と思った翌日、今度は「省エネの体ほど長生きする」という話を見かける。同じ数字が、昨日は欠点で今日は長所になる。消費量が少ないことは、長寿のしるしになるのだろうか。

人を対象とした食事制限の試験では、体組成の変化を考慮しても消費量が下がり、寿命に関連すると考えられる指標が変化した。しかし、そこから「もともと代謝が低い人ほど長生きする」「自分の代謝を下げればよい」とは言えない。代謝の変化を測ることと、人の寿命が延びたと確かめることは別である。[17]

この記事で見るのは、体の大きさや中身をそろえたときの消費量だ。既存記事「運動習慣と寿命の研究は体調の差を除ける?動ける人が長生きする逆因果を読む」に運動習慣と死亡率の比較を譲り、ここでは安静時の消費と食事制限の研究を読み分ける。動物と人、体重の減少と代謝の調整、健康の指標と寿命を混ぜないことが、問いへの近道になる。[11][16][17]

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「代謝が悪い」は寿命を比べる物差しになるか

「代謝が悪い」という日常語のままでは、何が低いのかが定まらない。研究では、安静時のエネルギー消費、体組成、活動に関連する消費などを分けて扱う。安静時代謝には除脂肪の組織が大きく関わり、体の中身の違いを考える必要がある。除脂肪量とは体脂肪を除いた部分の量であり、筋肉だけを指す言葉ではない。[6][10][11]

たとえば、食事制限で体重が減った後に消費量も低くなったとする。その変化には、小さくなった体に対応する部分と、体組成の変化から予想する以上に消費が下がる部分を区別する問いがある。後者を検討したのが、過体重の成人を対象にした無作為化比較試験である。18〜39歳の女性全体に当てはめるには、過体重の男女への介入という対象の違いを考える必要がある。[17]

ここでの「低い」は、必ずしも誰かの体質の良し悪しを意味しない。同じ人の介入前後で低下したのか、体組成から予測される値より低いのか、他の人より数字が小さいのかで、問いが変わる。食事制限後に起きた変化を調べた試験を、日常で「自分は代謝が悪い」と感じる人全体の寿命判定に使うことはできない。[17]

また、安静にしている間の消費と、運動を含む生活全体の消費は同じではない。運動と食事制限を比較したレビューでも、運動によって消費を増やすことと、摂取を減らすことを別の介入として検討している。「寿命のために消費を節約する」という言葉だけでは、どの消費を指すのかが抜け落ちる。[16]

中央線の車内で立って帰った日と、休みの日に横になって過ごした日。その違いまでまとめて「代謝」と呼ぶと、研究で測っているものが見えなくなる。まず知りたいのは、数字の大小より数字の名札である。安静時なのか、活動によるものなのか、体組成を考慮した値なのか。研究を読む際にも、この順番を守りたい。[11][16][17]

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体重が同じでも体の中身はそろわない

体格をそろえるとは、体重の数字だけを一致させることではない。肥満者の体組成評価を扱ったレビューは、体格指数だけでなく、脂肪量、筋肉量、除脂肪量などで個人を詳しく捉える意義を述べている。体格指数は身長と体重から体格を見る指標だが、それだけでは体を構成する組織の違いを十分に表せない。肥満者を対象とした整理なので、18〜39歳の女性全体の消費量をそのまま説明するものではない。[10]

同じ体重の人同士なら消費量の差はすべて「燃費の差」だ、と置くのは早い。前立腺がんのホルモン療法を受ける男性を対象にしたレビューでは、除脂肪の組織が安静時代謝の主要な寄与要因とされ、その減少が身体機能や長期の体重管理に関わると整理されている。対象は治療中の男性であり、18〜39歳の女性に同じ変化が起きるかは、このレビューから判断できない。[6]

食事制限の前後も同様である。体重減少がすべて脂肪の減少なら話は単純だが、実際には除脂肪量も変わる。肥満者を扱うレビューは、摂取エネルギーの制限だけでは脂肪と除脂肪の双方が減少しうる点を挙げ、身体活動を併せて考えることを促している。18〜39歳の女性にも同じ組織変化が起きるかは、肥満の有無や介入条件を分けて検討する必要がある。体重計の表示の低下と、望ましい体組成になったという判断は重ならない。[10]

この違いは、「低い消費を目指す」という目標にも関わる。筋肉などの組織を失った結果として消費が下がることと、組織量を考慮しても代謝が調整されることは別である。前者も後者も数字だけなら低下だが、体に起きたことまで同じにはならない。消費量の低下という共通の結果から、健康上の意味をひとまとめにしないことが必要だ。[6][10][17]

「体格調整済み」という研究の表現は、その混線を減らすための手がかりになる。ただし、調整したから寿命への因果関係まで確定するわけではない。食事制限の試験で体組成を調整する目的は、消費の変化が体の中身の変化だけで説明されるかを調べることだ。研究者がそろえた条件と、研究が最終的に答えた問いを別々に読む必要がある。[17]

食事制限の試験では何が下がったのか

健康で座りがちな過体重の男女48人を対象にした無作為化比較試験では、食事制限単独、食事制限と運動の組み合わせなどを、体重維持の対照群と6か月間比較した。肥満ではない参加者を対象とした、研究施設での介入である。18〜39歳の女性だけを対象とした試験ではなく、その年代の女性全体へ結果を直接当てはめることはできない。[17]

注目したいのは、体組成の変化を調整した後の、座位中心の条件で測った24時間エネルギー消費である。対照群では変わらなかった一方、食事制限群では1日135 kcal、食事制限と運動の群では117 kcal低下した。これは測定した条件での変化であり、通勤や家事を含む個人の毎日の消費が必ず同じだけ下がるという予測ではない。[17]

研究では、この適応は代謝に関わる体の量の減少から予想するより約6%大きかったとされた。「小さくなった体だから消費が減った」という説明だけでは足りない変化を捉えたことになる。一方、ここで示されたのは介入後の平均的な変化であり、生まれつき低い消費が寿命を延ばすという結果ではない。[17]

同じ試験では、介入群で空腹時インスリンが低下し、食事制限単独と食事制限・運動の群で深部体温が低下した。深部体温とは体の内部の温度である。研究はこれらを寿命に関わる指標として扱ったが、血糖や別のホルモンの値には変化がなかった。体の指標がすべて一斉によい方向へ動いた、という読み方も正確ではない。[17]

さらに、酸化ストレスに関わる検査でも結果はそろわなかった。介入群では遺伝情報を担う物質であるDNAの損傷が減った一方、たんぱく質の酸化の指標には変化がなかった。変化した指標だけを取り出して「老化が止まった」と読み替えると、試験の結果より話が大きくなる。著者らも、人の老化を遅らせるかを判断するには、より長期の研究が必要としている。[17]

この試験を自分の生活に引き寄せるなら、「運動を組み合わせた群でも、調整後の消費が下がった」という点も見逃せない。運動をすれば安静に近い条件の消費も必ず上がる、という単純な図では説明できないからだ。活動のために使うエネルギーと、介入後に決まった条件で測った消費は、分けて評価する必要がある。食事と運動の組み合わせを、代謝の数字ひとつで採点する難しさがここにある。[17]

もうひとつ、数字の比較では差の向きだけでなく、何と何を比べたかを確かめたい。この研究は、参加者を異なる介入へ無作為に割り付け、介入前後の変化を調べたものだ。低い代謝の人と高い代謝の人を並べ、どちらが長く生きるかを追った設計ではない。食事制限が消費や検査値へ与える影響について得られた結果を、体質による寿命の順位表に変えると、比較の相手が途中で入れ替わってしまう。自分の数字に当てはめる前に、介入の結果を知りたいのか、個人差を知りたいのかを分けておきたい。[17]

数字で読む消費量と体組成の試験

48人・6か月:体組成を調整した消費量を調べた、過体重で座りがちな男女の無作為化比較試験である。[17]

1日135 kcal低下:食事制限群における、体組成調整後の座位中心の24時間消費量の変化である。[17]

約6%:代謝に関わる体の量の減少から予想される範囲を超えた、代謝適応の大きさである。[17]

218人・2年間:別の多施設試験では、肥満ではない21〜51歳の成人の体組成を追った。[11]

脂肪と除脂肪量の両方が減少:食事制限群では体重だけでなく、減った組織の内訳も調べた。[11]

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