ローイングマシンと体組成 漕ぐ試験で伸びた体力と、対象で分かれた血液の値

ローイングマシンで漕ぐ運動は、体のどこから変えていくのか。乳がんを経験した女性の12週と6か月、肥満と2型糖尿病の男性の8週間、膝に不安のある高齢者の比較試験、海を漕ぐ遠征の体重まで並べ、伸びた体力と体脂肪、対象によって動き方の分かれた血液の値を確かめる。

1日10〜12時間、大西洋を一人で漕ぎ続ける。39〜52日かかった横断レースで、参加者の体重は平均13.3kg減った[13]。1日に4500〜6000kcalを食べていたにもかかわらず、である[13]。漕ぐ運動がどれほどのエネルギーを使うかを、これほど分かりやすく示す記録はそう多くない。

ただ、ジムの片隅のローイングマシンに座る人が知りたいのは、海の上の話ではないだろう。週に2〜3回、30分から90分ほど漕いだら、体は何から変わるのか。漕ぐ運動の試験を並べると、はっきり伸びたのは体力と筋力だった[2][6][9]。体脂肪の動き方は試験によって違った。血液の値も、2型糖尿病の男性では長い期間の血糖を反映する値が下がった一方[6]、脊髄を損傷した人が腕で漕いだ試験では動かなかった[5]。

脚で押し、背中と腕で引く。一つの動作に多くの筋肉が加わる運動は、それだけで万能のように語られやすい。何が変わり、何が変わらなかったのか。参加者と期間、比べた相手を添えて確かめていく。

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座ったまま、脚と背中と腕を使う運動

漕ぐ運動の特徴は、体重を脚で支えずに、下半身と上半身の筋肉を同時に使う点にある。肥満と2型糖尿病の男性を対象にした試験の著者らは、この形のインターバル運動なら、続けやすさを損なわずに代謝の健康を高められるのではないかと考えた[6]。体重を支えない運動は、体の重い人にとって入りやすい入口になりうる。

体の重さが不利になりにくいことを示す結果もある。12〜13歳の生徒を対象にした試験では、開始時の3分間の全力の漕ぎで、体重が重いほど漕いだ距離が長かった[12]。漕ぐ運動では、体の重さが不利に働くどころか、記録の側に回っていた。おなか回りに脂肪の多い生徒も、標準体重の生徒と同じように記録を伸ばしている[12]。

この生徒たちの試験は、短く強い漕ぎを組み込んだものだった[12]。くじ引きで分けた57人が、3分間の高い強度の漕ぎを2本行う練習を週2回、6週間続け、45人はふだんどおりの生活を続けた[12]。練習した群は3分間の全力の漕ぎの距離を19.7m、率にして2.7%伸ばし、60ワットの決まった負荷で感じるきつさも下がった[12]。1回あたりの漕ぐ時間は合わせて6分にすぎない。それでも記録と体感の両方が変わっている。

競技としてのボートやカヌーは、30秒から8分ほどの全力の努力で勝負が決まる種目で、有酸素と無酸素の両方の能力に加え、高い筋力と瞬発力を求める[1]。ジムで漕ぐ一般の人の強度とは違うが、短い時間に大きな力を出せる運動だという性格は、後で紹介するインターバルの試験にもつながる。

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乳がんを経験した女性30人と40人の記録

女性だけを対象にした漕ぐ運動の研究には、乳がんを経験した女性の練習の記録がある。平均53.70歳の30人が、1回60〜90分の練習を週3回、12週間続けた[2]。

前後で比べると、全身の除脂肪量は2.18kg増え、体脂肪の割合は2.63%下がった[2]。6分間で歩ける距離は51.56m伸び、歩く前の心拍数は1分あたり12.63拍低くなった[2]。座って前屈する距離は2.82cm、その場で跳ぶ高さは1.91cm、利き手の握力は2.54kgf伸び、椅子から立ち上がる回数も2.56回増えた[2]。測ったすべての体力の項目で、有意な改善が見られている[2]。歩いた後の心拍数も1分あたり11.46拍下がり、著者らはこれを心臓と血管の働きの効率が良くなった印と見ている[2]。

別の研究では、平均56.78歳の40人が、漕ぐ練習と筋力の運動を組み合わせて週2回、1回平均75分を6か月続けた[18]。体重は1.84kg、BMIは0.7減り、腰回りは3.24cm、腹囲は2.45cm細くなった[18]。持久力の測定では78.35m伸び、利き手の握力は4.24kgf、反対の手は3.49kgf強くなった[18]。脚の力の測定は3.04cm、体の柔らかさは3.96cm改善している[18]。

この2つの記録を読むときに外せない条件がある。どちらも同じ人の前後を比べた縦断研究で、練習をしない比較群を置いていない[2][18]。季節や食事、ほかの生活の変化が混ざっている可能性を、数字から切り離すことはできない。それでも、病気の治療を経験した女性たちが、週2〜3回の練習を3か月から6か月続け、体力と体の測定値の両方で記録を伸ばした事実は残る。

体重の変化だけを取り出すと、6か月で1.84kgという数字はささやかに見える[18]。けれども同じ期間に、腹囲と腰回り、握力と持久力がそろって動いていた。体重という1つの数字より、巻き尺と握力計で測った数字のほうが多くを語った研究である。

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漕ぐ運動と自転車を交互に、8週間のインターバル

肥満の男性を対象に、漕ぐ運動と自転車こぎを組み合わせた高強度インターバルの効果を調べた研究がある[6]。高強度インターバルは、きつい区間と楽な区間を交互にくり返す運動の形を指す。2型糖尿病のある肥満の男性15人、糖の処理に問題のない肥満の男性15人、やせ型の男性18人が、指導のもとで週3回、8週間取り組んだ[6]。

インスリンが働いたときに体が糖を取り込む速さは、3つの群のいずれでも30〜40%ほど上がった[6]。最大酸素摂取量は8〜15%ほど増え、全身の脂肪量は減り、除脂肪量は増えた[6]。2型糖尿病の男性では、長い期間の血糖を反映する値が4mmol/mol下がっている[6]。糖の取り込みが増えた分は、すべて糖をためる働きの高まりで説明された[6]。もう一つ見逃せないのは、こうした変化の大きさが3つの群の間で変わらなかったことだ[6]。2型糖尿病があっても、肥満があっても、体は同じように運動に応えていた。

数字以上に目を引くのは、続けた人の割合だ。参加率はどの群でも95%を超え、けがの報告はなかった[6]。著者らは、体重を支えずに多くの筋肉を使う高強度インターバルは、肥満や2型糖尿病のある人に有望な運動の形だとしている[6]。ただしこの研究はくじ引きで群を分けた比較試験ではなく、運動しない対照群も置いていない[6]。

競技者でも、漕ぎ方の違いで体脂肪の動きが分かれた。州の代表クラスのボート選手7人が、4週間の高強度インターバルと、4週間の従来型の漕ぐ練習を順番に行った[20]。体脂肪率が有意に下がったのは高強度インターバルの後だけで、4分間の平均出力と最大酸素摂取量もインターバルの後に伸びた[20]。従来型の4週間では、これらに有意な変化はなかった[20]。インターバルの後には、全力の運動に反応して、代謝の適応にかかわるアディポネクチンという物質の血中の濃さも上がった[20]。7人という規模は小さいが、同じ機械でも強度の組み立てで結果が変わりうることを示している。

腕で漕いだ17人では、心肺が伸びても血液の値は動かなかった

運動の効果を考えるとき、体力と血液の検査値は同じ速さで動くと思われがちである。脊髄を損傷した成人17人の試験は、その思い込みを崩す[5]。腕で漕ぐ機械を使う群8人と、運動しない対照群9人をくじ引きで分け、運動群は1回30分を週3回、12週間続けた[5]。

最大酸素摂取量は、体重1kgあたり1分15.1mLから、6週で16.5mL、12週で17.5mLへと伸びた[5]。上腕の動脈の太さも12週で広がった[5]。ところが、血液の脂質や血糖の調節といった従来の心血管代謝の危険因子には、群の間で有意な変化が出なかった[5]。

同じ参加者を6か月後に追った研究では、14人が戻ってきた[7]。運動群が12週で伸ばした体力は6か月後も保たれ、12週の時点と差がなかった[7]。一方、従来の危険因子は、その期間を通して変わらないままだった[7]。余暇の身体活動の量も変わっていない[7]。

腕で漕ぐときに出せる最大の出力も、開始時の70ワットから12週で77ワット、6か月後に81ワットと、下がらずに保たれていた[7]。いずれも参加者の中央の値である。運動の期間が終わっても体力が残ったことを、著者らは期間を区切った運動のくり返しを勧める根拠にしている[7]。

血管の広がりやすさを表す指標にも、運動による有意な変化は見られなかった[5]。この試験では、体力と血管の太さは伸び、血液の値と血管の反応は動かなかった。測る項目によって、動くものと動かないものが分かれる。漕ぐ運動に限らず、運動の成果を一つの数字に預けないほうがいい理由がここにある。

ただし、この結果を漕ぐ運動の全体に広げることはできない。参加者は脊髄を損傷した17人で、漕いだのは腕だけだった[5]。下半身と上半身を使って漕ぐ運動に自転車こぎを組み合わせた8週間の試験では、2型糖尿病の男性で長い期間の血糖を反映する値が4mmol/mol下がり、インスリンが働いたときの糖の取り込みも3つの群で30〜40%ほど上がっていた[6]。血液の値が動くかどうかは、誰が、体のどこを使い、どんな強さで漕いだかによって分かれている可能性がある。ただ、8週間の試験は運動しない比較の群を置いておらず[6]、2つの試験を並べただけでは、どの条件が差を生んだかまでは決められない。

数字で読む漕ぐ運動の試験

+2.18kgと−2.63%:乳がんを経験した女性30人の12週間の練習で、除脂肪量の増加と体脂肪の割合の低下。比較群はない[2]。

−1.84kgと−2.45cm:40人が漕ぐ練習と筋力の運動を6か月続けた後の体重と腹囲の変化[18]。

8〜15%:漕ぐ運動と自転車こぎの高強度インターバルを8週間行った後の、最大酸素摂取量の伸び[6]。

95%超:同じ研究の参加率。けがの報告はなかった[6]。

13.3kg:大西洋を一人で漕いだ横断レースの参加者の平均の体重減少。1日の食事は4500〜6000kcalだった[13]。

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