インナーマッスルとアウターマッスルの違いを、縮める・止める・伸ばされながら支える場面から読む。深部多裂筋を直接測った研究や持ち上げ・下ろし動作の実験をもとに、筋活動の量と割合、出せる力を区別する。戻す動きの見方と、研究結果を日常の練習に取り入れる際の注意点を整理する。
床の荷物を持ち上げ、棚へ置く。上げるときは運動、下ろすときは休憩、と区切っていないだろうか。体幹を測った実験では、下ろす局面にも筋活動があり、持ち上げる局面より筋活動が小さくても、発揮する力は大きい場合があった。[18]
インナーマッスルも、縮める運動だけで考える必要はない。腰の深部多裂筋を直接測った研究は、縮める局面、長さを保つ局面、伸ばされながら力を出す局面を比較している。ただし、伸ばされる局面が深部の筋肉を最も選択的に働かせたわけではない。[3]
片手荷物の左右差は「インナーマッスルは日常生活の片手荷物でも働く?左右で違う体幹の支え方を読む」に、背筋の種目選びは「インナーマッスルの背筋は反れば鍛えられる?多裂筋の活動量と割合を読み分ける」に譲り、ここでは上げる・保つ・戻す局面で筋活動と力の関係を読む。

深いか浅いかと、どう力を出すかは別の問い
インナーマッスルとアウターマッスルという言葉だけでは、どの筋肉をどんな条件で測ったかが曖昧になる。本記事では、腰の多裂筋の深い部分と、その浅い部分や脊柱起立筋を比較した研究を中心に読む。同じ背中の運動でも、深部の活動量と、周囲を含めた活動の中で深部が占める割合は別の指標である。[3]
筋肉が縮む方向へ力を出すのが短縮性収縮、長さを保ちながら力を出すのが等尺性収縮、引き伸ばされながら抵抗するのが伸張性収縮である。研究ではこれらの局面を分けて深部多裂筋の活動を調べている。体の奥にあることと、縮む方向にしか働かないことは同義ではない。[3]
ここで「伸ばす」という日常語に注意したい。力を抜いて姿勢を預ける場面と、外からの力に抵抗しながら戻る場面は、同じ扱いにできない。持ち上げ・下ろしの実験でいう下ろし動作は、装置に引き下げられる力に被験者が抵抗する課題であった。脱力して落とす課題とは異なる。[18]
棚に物を置く場面は、この違いを考える入口になる。ただし、実験は一定の速度を作る装置で、腕と脚を伸ばした条件で行われた。日常の荷物なら、持つ位置も、膝の使い方も、置く高さも違う。生活の動作を研究と結びつけるときは、似た方向に動いていることと、同じ負担であることを分けておく必要がある。[18]
「インナーは支える、アウターは動かす」と完全に分業させる読み方も単純すぎる。深部多裂筋の研究では、背中を伸ばす大きな運動で深部の活動が高くなる一方、周囲の筋肉も含めた活動の配分は別の運動で深部寄りになった。動きのある種目でも深部は働き、深部を狙う種目でも周囲との関係を無視できない。[3]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
深部多裂筋は、戻す局面で最優先になるのか
健康な成人34人の研究では、筋肉の内部に入れる電極で深部多裂筋の活動を記録した。比較したのは、四つばいから手脚を伸ばすバードドッグ、背中を伸ばす運動、仰向けで骨盤を上げるグルートブリッジ、体幹を支えて脚を後方へ上げるリバースハイパーエクステンションである。負荷と動作の局面も変えて比較している。健康な成人を対象とした結果であり、18〜39歳の女性に同じ活動量や割合が当てはまるかは別に確かめる必要がある。[3]
深部多裂筋の活動量は、リバースハイパーエクステンションで最も大きかった。最大随意等尺性収縮、つまり本人が最大限に力を入れて長さを保つ条件を基準にすると、バードドッグとの差は13.5%相当、グルートブリッジとの差は14.3%相当、背中を伸ばす運動との差は5.3%相当であった。これらは基準に対する筋活動の差であり、筋力や筋肉量の増加率ではない。[3]
対して、深部が占める相対的な寄与はバードドッグで高かった。ほかの種目との差は12.2〜14.5%である。深部の活動そのものを大きくする問いなら大きな伸展運動、浅い多裂筋や脊柱起立筋の活動を抑えながら深部の割合を見る問いならバードドッグ、と読み分けられる。どちらかだけを「最も効く」と呼ぶと、比較した指標が消えてしまう。[3]
局面別では、深部の相対的な寄与は等尺性と短縮性で大きく、伸張性との差は16.3〜19.4%であった。したがって、戻す局面に活動があることから、戻す局面こそ最も深部を選択的に働かせる、と結論を飛ばすことはできない。伸ばされながら働くことと、周囲より優先的に働くことは違う。[3]
負荷を加えれば深部だけが大きく働く、という結果でもなかった。体重の10%の負荷を加えたとき、深部活動の増加は最大随意等尺性収縮を基準として3.8%相当で、研究ではごく小さい増加と評価された。相対的な寄与は、むしろ負荷なしで0.9%高かった。重りを増やす操作は、深部だけを大きくするスイッチではない。[3]
この研究の価値は、種目名に順位を付けたことより、同じ筋肉でも「量」「割合」「局面」で答えが変わる点にある。筋肉の奥行きを意識して練習する人ほど、この区別が役立つ。手応えだけで深部の活動を採点する代わりに、何を目的とした比較なのかを確認できるからである。[3]
筋活動が小さい下ろし動作でも、力は小さくない
男性7人を対象とした持ち上げ・下ろしの実験では、腹部の筋活動は筋肉内で、体幹を伸ばす筋肉の活動は表面で測定された。同時に、発揮する力と腹腔内圧、つまりお腹の内側の圧力も記録している。装置の速度を変え、最大努力と最大未満の努力を調べた実験である。男性を対象とした結果なので、18〜39歳の女性で同じ力や筋活動の差が生じるかは、この比較だけでは判断できない。[18]
最大努力では、比較したそれぞれの速度で、下ろすときの力が持ち上げるときより大きかった。一方、主に体幹や股関節を伸ばす筋肉の筋活動は、下ろすときのほうが小さかった。この比較では、大きな力と大きな筋電図の値は一致しなかった。上げる場面と下ろす場面を比べるなら、このねじれを知っておきたい。[18]
腹腔内圧も力と同じ順位にはならなかった。最大努力では下ろし動作の圧力が持ち上げ動作より低く、最大未満の努力でも、同じ力にそろえると下ろし動作の圧力が低かった。ただし、それぞれの動作の最大値に対する割合として力と圧力を表すと、この違いは消えた。絶対値を比べるか、各動作の最大値に対する割合で比べるかでも見え方が変わる。[18]
腹部の筋肉の中では腹横筋が高い活動を示し、速度を変えた際の腹腔内圧の変化との相関は0.970であった。ここでの相関は一緒に変わる関係を表す。腹横筋だけが圧力を決める、あるいは圧力を高めれば深部の筋肉が必ず強くなる、という意味にはならない。[18]
立川駅の階段で荷物を持ち直したとき、腹部の緊張を感じることはあるだろう。ただ、その感覚の大小を、深部の活動量や発揮した力の目盛りにするのは難しい。実験でさえ力、筋活動、腹腔内圧は同じようには変化しなかった。体の感覚は練習を振り返る言葉に使い、測定値そのものとは区別したい。[18]
持ち上げ・下ろしの比較から学べるのは、筋電図だけで両局面の負担を順位付けしないことである。例えば、持ち上げるときの活動を基準にして、戻すときの値が低いから休んでいる、と判断すると、より大きな力が出ていた実験結果を説明できない。信号の大小は、同じ筋肉であっても動作の条件と一緒に読む必要がある。[18]
また、最大随意等尺性収縮を基準にした割合は、測定した活動を比較するための尺度である。深部多裂筋の活動が基準に対してどれだけ違うかと、周囲の筋肉に対する深部の寄与がどれだけ違うかでは、分母が異なる。前者の差が大きい種目を選んでも、後者まで最大になるとは限らない。この違いを押さえると、運動の紹介で並ぶ割合の数字を同じ物差しとして読まずに済む。[3]
伸張性という言葉を見つけたら、どの筋肉についての説明かも確認したい。持ち上げ・下ろしの実験で伸張性と短縮性の筋活動を比較した主な対象は、体幹と股関節を伸ばす筋肉である。腹横筋が記録されているからといって、腹部の全筋肉が同じ局面で同じ長さの変化をした、と読み替えるのは適切ではない。[18]
数字で読む伸ばされながら支える体幹
34人:健康な成人で深部多裂筋を内部電極から測った比較の対象人数。[3]
13.5%相当:リバースハイパーエクステンションとバードドッグの深部活動の差。最大随意等尺性収縮を基準とする。[3]
体重の10%:追加した負荷の条件。深部活動の増加は基準に対して3.8%相当と小さかった。[3]
7人:力・筋活動・腹腔内圧を同時に測った持ち上げ・下ろし実験の男性参加者数。[18]
30人:腹部を広げる方法とへこませる方法を比べた、非特異的腰痛のある成人の人数。[7]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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