スクワット中に好きな音楽を聴くと、回数は増えてもきつさは変わらないのか。男女を対象にした筋トレの比較試験と、速さや出力が変わらなかった研究を読み比べる。嫌いな曲との比較と無音との比較、運動前と休憩中の違いを整理し、日々の回数を決める前に確認したい点を考える。
スクワットを終えようとしたところで、好きな曲のサビが始まる。スクワットを始める前は腰が重かったのに、サビまで来るともう少し続けたくなる。曲が終わるのを待っているのか、脚がまだ動くのか。運動の記録には同じ「回数」として残ってしまう。
好きな音楽によってスクワットの反復回数が増えた比較試験はある。同じ試験できつさや疲労は増えず、心拍数や筋活動にも有意な違いは認められなかった。音楽の効果を読むには、回数、体感、生理指標を分ける必要がある。[6]
「スクワットの効果は1日何回からか」と探していても、音楽研究の回数をそのまま日課にはできない。研究で比べているのは、条件をそろえた運動中にどれだけ反復できたかである。好きな曲は、その場の取り組み方を変える候補になるが、誰にでも共通する必要回数を決める材料とは異なる。[6][14]

好きな曲で増えたのは、どの種目の回数か
スクワットに直接関係するのは、筋力トレーニング経験のある男性9人、女性10人、計19人を対象にしたクロスオーバー試験である。同じ参加者が異なる条件を経験し、その人の中で結果を比べる方法だ。参加者は自分で選んだ5曲のリストと、最も好まないジャンルの音楽を使い分けた。男女の経験者を合わせた結果であり、18〜39歳の女性全般への適用には運動経験の違いを考える必要がある。[6]
運動はスクワット、ベンチプレス、デッドリフト、前傾姿勢で重りを引くローイングである。それぞれを反復できなくなるまで3セット行った。好きな音楽の条件では、好まない音楽の条件よりスクワットとデッドリフトの回数が有意に多かった。スクワットの比較は有意確率が0.005だったが、この値は「回数が何割増えたか」を表す数字ではない。[6]
ここで「筋トレ全般の回数が増える」と広げないことが大切になる。有意な回数差が示された種目と、単に同じ実験に含まれていた種目は区別したい。スクワットの問いに対しては直接の手掛かりだが、その結果をすべての運動の保証として扱う必要はない。[6]
心理面では、好きな曲を聴く条件のほうが集中や活力の評価が高かった。また、好まない曲では運動の前後で意欲や楽しさが低下したのに対し、好きな曲では有意な低下がなかった。「音楽が気分を上げた」という一言より、「苦手な曲で落ちた気持ちが、好きな曲では保たれた」と読むほうが、変化の方向をつかみやすい。[6]
この研究で比較された相手は無音ではない。好きな曲が苦手な曲よりよかったとしても、静かな部屋との優劣は、この比較では分からない。家で静かに動くのが好きな人にとって、苦手な曲との勝負で得られた結果は、自分の環境を変える理由の一部にとどまる。[6]
性別による有意な効果の違いは観察されなかった。ただし、この規模の試験から女性も男性もまったく同じように反応すると決めることはできない。女性が含まれた直接のスクワット研究として読むことと、幅広い年齢や運動経験の人に一般化することは別である。[6]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
きつさと運動量は、別々に測る
主観的運動強度は、自分がどれほどきついと感じたかを評価したものだ。心拍数のように機器で測る値とは違う。先の試験では、好きな曲で反復回数が増えても、きつさや疲労を増やさずに運動できたと報告されている。一方で心拍数、筋肉の酸素状態、筋活動、換気には有意な効果がなかった。[6]
この試験では、反復回数と主観的なきつさが別の動きをした。曲を聴いた日の感想だけを日記に残すと、このずれを見落とす。実際に行った回数と、そのときのきつさを別々に見ると、研究が捉えている変化に近づける。[6]
音楽が筋肉を直接強くした、と説明するのも早い。測定された筋活動などが変わらないまま反復が増えた結果であり、意欲や集中の評価と併せて理解するのが自然である。ただし、心理面の変化だけが回数増加の原因だったと、この比較から決めることもできない。結果が同時に動くことと、仕組みが確定することは異なる。[6]
準備運動中だけ音楽を聴いた別の研究でも、似た組み合わせが見られる。対象は筋トレ経験のある18〜24歳の男性で、好きな曲か好まない曲を聴きながら準備運動を行った。その後、最大挙上重量の75%の負荷で、限界までのベンチプレスを2セット実施した。好きな曲の条件で回数と意欲は高かったが、きつさに有意な違いはなかった。男性の上半身運動の結果なので、18〜39歳の女性のスクワットに同じ効果が出るかは別に検証が必要だ。[14]
最大挙上重量とは、その種目で1回持ち上げられる最大の重さである。研究でその割合を使うのは、参加者ごとに違う力に合わせて負荷をそろえるためだ。家庭で行う自重スクワットとは負荷の決め方が異なるので、研究のセット数だけを抜き出して真似しても、同じ比較にはならない。[14]
運動前の気持ちを整えたい人には、準備の時間に曲を選ぶ発想は使いやすい。ただ、気分が乗った日の回数を翌日からの義務にしないほうがよい。これらの試験が扱うのはその場の反復成績であり、毎日の達成基準を設定した試験ではない。プレイリストは予定表に署名していない。[6][14]
回数が増えても、動作の速さは別に確かめる
好きな音楽を聴けば、しゃがんで立つ動作も速くなるのだろうか。ベンチプレスでは、筋トレ経験のある大学生年代の男性12人が、好きな曲と好まない曲の条件を比べた試験がある。最大挙上重量の75%でできるだけ多く反復し、最初の3回の動きも測定した。男性のみのベンチプレス試験であり、18〜39歳の女性のスクワットに速度の変化までそのまま当てはめることはできない。[13]
好きな曲では総反復回数に加えて、最初の反復の平均速度や出力も高かった。報告された効果量は回数で0.84、平均速度で1.6である。効果量は条件間の差の大きさを示す指標であり、回数が0.84回増えた、速さが1.6倍になった、という意味ではない。[13]
一方、準備運動中に好きな曲を聴いた先の研究では、回数は増えてもバーの平均速度に有意な差はなかった。同じ「好みの音楽」でも、聴く場面と測る項目によって結果の組み合わせが違う。回数の増加を見たら速さも増えたはずだと補わず、それぞれの測定結果を確認したい。[14]
無音と比べた小規模試験もある。筋トレ経験のある男性10人が、ベンチプレスの前に3分間音楽を聴く条件と、聴かない条件を経験した。音楽の条件では平均出力、バーの速度、限界までの反復回数、運動への意欲が高かった。回数の効果量は0.985、速度は0.722だった。経験者の男性の結果であり、18〜39歳の女性が自重スクワットをする場面での変化量は分からない。[17]
こちらは「苦手な音楽を避けたからよかった」だけでは説明できない比較になる。ただし、対象は経験者の男性で、種目は上半身のベンチプレスである。スクワットへの参考にはなるが、その数値をそのまま自宅のスクワットの増加率に置き換えることはできない。[17]
既存記事「スクワットは速さの数字を見せると頑張れる?その場の出力と伝え方を研究で読む」は、動作の結果を本人に伝える工夫を扱っている。ここでの問いは、数字を見せる効果ではなく、好みの曲と比較条件が回数や体感にどう関わるかである。
この違いを家での記録に置き換えるなら、「最後までできた」と「立つ動作が速かった」を分けて書くことになる。前者は反復を続ける成績に近く、後者は個々の動作の成績に近い。好きな曲の準備運動で前者だけが変わった研究と、運動前の音楽で両方が変わった研究を並べると、曲の効き目をひとつの言葉にまとめにくい理由が分かる。[14][17]
また、速度を測った範囲にも目を向けたい。男性12人の試験では、速度や出力の測定は最初の3回に対して行われ、総反復回数とは集計の範囲が違う。初めの動きが速かった結果から、疲れた終盤まで同じ速さを保ったと想像してはいけない。最初の動作の勢いと、どこまで続けられたかは、同じセットの中でも別の情報である。[13]
効果量を読むときにも、比較の相手を外さないことだ。好まない曲との間の差と、無音との間の差では、答えている問いが異なる。別々の参加者を対象とした試験の数値を並べても、「こちらの聴き方のほうが優秀」と順位は付けられない。好きな曲を動作中に聴くか、準備の時間に聴くかを決めたいなら、まずは自分が動きやすい場面を考える手掛かりとして読むのが適切である。[13][17]
数字で読む音楽と反復の比較
19人:男性9人と女性10人が参加した、スクワットを含む比較試験の人数である。[6]
5曲:同試験で参加者が自分で選んだ音楽リストの曲数であり、最適な曲数という意味ではない。[6]
0.84:男性12人のベンチプレス試験で報告された、総反復回数の効果量である。[13]
3分:男性10人の試験で、ベンチプレス前に音楽を聴いた時間である。[17]
15人:休憩中の音楽とスクワットなどの出力を調べ、音楽の有意な効果を認めなかった試験の人数である。[11]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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