シニアヨガと記憶・注意力の科学 覚える力だけでなく頭の切り替えにも

シニアのヨガで記憶・注意力・頭の切り替えはどう変わるのか。8週間のハタヨガと運動の比較、施設での記憶検査、地域在住者の長期追跡から、改善が見つかった働きと差がなかった働きを紹介する。練習の回数や時間、続け方の手掛かりも示し、認知症予防を断定せず立川での教室選びにつなげる。

買う物を思い出しながら財布を出す。店員の話を聞いて、予定を変える。買い物の短いやり取りにも、覚えておく力と、次のことへ頭を切り替える力が顔を出す。名前が出てこない日には記憶ばかりが気になるが、ヨガの研究で変化が見つかったのは、こうした情報の扱い方でもある。[10]

地域で暮らす平均年齢62.0歳の118人を対象とした無作為化比較試験では、8週間のハタヨガで、情報を一時的に保つ力や課題を切り替える効率が、ストレッチと筋力運動を行った群より改善した。体を動かす相手と比べても差が見つかったことが、この研究の魅力だ。[10]

体を動かす練習を、頭の働きにもつなげられるか。地域で暮らす人と施設で暮らす人の研究には、情報を保つ、思い出す、答えを切り替えるという異なる働きの変化が報告されている。[6][10][14]

中国将棋の盤を挟んで向かい合い二人が一緒に対局をしている様子 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

覚えるだけでなく、情報を使う力に変化が見つかった

ハタヨガの試験で調べた実行機能とは、情報を保ちながら課題を進めたり、状況に応じて頭の使い方を切り替えたりする働きである。試験では課題切り替えとワーキングメモリ、つまり情報を一時的に保持して使う力を測定した。参加者はヨガ群とストレッチ・筋力運動群に無作為に分かれ、両群とも週3回、各60分の教室に8週間参加した。[10]

ヨガ群では、課題が混じる条件や同じ課題を繰り返す条件で反応時間が短くなり、単独の課題では正答率も高かった。覚えた情報を照らし合わせる課題や、次々に入る情報の一部を思い出す課題でも改善が見られた。速さだけでなく、正確に扱う面にも変化があったという結果だ。[10]

課題別の効果量は小さめで、反応時間の偏η二乗は0.04、単独課題の正答率は0.05、記憶を更新する課題は0.08、部分的な再生得点は0.06だった。効果量は検査での変化の大きさを示す統計の指標だ。速さと正確さの複数の面に差が見つかったものの、劇的に記憶力が増すという結果ではない。[10]

検査の名前は、課題切り替え、エヌバック、ランニングメモリスパンだった。エヌバックでは、入ってくる情報を前の情報と照合する。今回、正答率に差があったのは2つ前を参照する条件で、ランニングメモリスパンでは一部を再生する得点に差があった。論文の要旨は、課題切り替えの混合条件と反復条件には反応時間、単独条件には正答率という形で結果を示している。ひとつの総合点ではなく、検査の条件ごとに利点を捉えた試験だ。[10]

この試験は、覚える力に加えて情報を使う力にも期待を広げる。用事をしながら必要な情報を保ち、今の用事から次へ移る働きが変わる可能性だ。買い物の順番や、家族と相談しながら予定を組むことは、その働きを日常の言葉に置き直す例である。暮らしとの接点を考える際は、検査で確かめられた改善を出発点にする。[10]

比較相手が運動をしていた点も大切だ。ヨガをした人と何もしなかった人の差だけなら、運動に参加したこと全体の影響が含まれる。この試験では相手にも同じ頻度と時間の運動教室があり、その条件でヨガ群に優れた検査結果が見つかった。ヨガを選ぶ根拠として、単なる体験談より具体的な手掛かりになる。[10]

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言葉、図形、順番では、記憶の変わり方が違う

施設入所者を対象とした無作為化比較試験では、言葉の記憶、図形の記憶、注意、情報を保つ力などを幅広く測定した。施設を単位に無作為に割り付け、開始時はヨガ62人、待機58人の計120人、6か月を完了したのはヨガ44人、待機43人の計87人だった。[6]

練習は初めの1か月が毎日、その後3か月目までは毎週の指導があり、6か月目までは指導なしでも続けるよう促す形だった。終了時には、言葉と図形をすぐに思い出す成績、時間を置いてから思い出す成績、注意と空間的なワーキングメモリ、言葉を出す力、実行機能、処理速度で、待機群より有意な改善が見つかった。[6]

言葉と図形では、記憶の検査に使う材料が異なる。聞いた言葉を再生する検査と、見た図形を思い出す検査は別々に実施された。さらに、すぐ思い出す場合と後で思い出す場合も測っている。異なる材料と時間の条件で改善を確認したことに、この試験の特徴がある。提示された内容をすぐ再生する検査だけでなく、時間を置いた再生にも結果が見つかっている。[6]

結果の比較では、練習開始時の検査得点と教育歴を調整している。言葉を覚えて再生する検査、複雑な図形を記憶する検査、数字や位置の並びを保つ検査を用い、さらに言葉を出す力、色と単語の干渉への対応、順にたどる課題も調べた。ひとつの記憶検査だけに頼らず、異なる課題で変化を確かめている。[6]

健康な施設入所者を扱った別の比較試験では、65〜80歳の45人が、ヨガ、身体活動、活動を行わない群に分かれた。各群は15人で、ヨガは週2回、各45分、12週間で計24回だった。ヨガ群は練習前後で注意、記憶、推論の全項目が改善し、終了時の注意と推論では身体活動群と活動なし群との間にも差が見つかった。[14]

この施設試験の参加者は男性26人、女性19人で、平均年齢は72.3歳だった。注意、記憶、推論の検査は12週間の練習前と後に実施された。各群15人という規模で、同じ施設に暮らす健康な人が異なる活動に参加した結果を比べている。[14]

推論は、与えられた情報から答えを考える働きとして捉えるとよい。記憶だけでなく、注意を向けて考える面にも結果が出たことは、認知機能を広く見る理由になる。この試験のヨガ群の前後変化は、注意でg=1.35、記憶で1.04、推論で1.82と報告されている。いずれもヨガ群内の練習前後の値である。[14]

施設の12週間試験では、注意、記憶、推論の群内の前後変化は、いずれもp<0.001だった。終了時の注意と推論の比較は、身体活動群との間でp<0.001、活動なし群との間でp<0.01と報告されている。記憶の群間差について同じ記載はない。著者が挙げる認知面の利点には、ヨガ群が開始前から変わった結果と、別の活動をした人と比べて差が出た結果の両方が含まれている。[14]

施設の6か月試験で言葉を出す力に用いたのは、口頭で単語を挙げる検査だった。実行機能には色と単語の干渉を使うストループ検査、処理速度には順にたどるトレイルメイキング検査のAを用いた。論文の要旨にある改善は、単語や図形を覚える検査に加え、これらの課題でも示された。記憶への関心から研究を読み始めても、答えを出す速さや言葉を出す成績まで見渡せるのが、この試験の報告の広さだ。[6]

地域在住者の試験と施設入所者の試験を一緒に読む利点は、同じ「シニア」でも暮らす環境を広げられることだ。家から教室に通う人では課題切り替えとワーキングメモリ、施設の研究では言葉や図形の再生、注意や推論にも結果がある。自分で教室へ通う人にも、施設内で活動に参加する人にも、それぞれの環境で調べた証拠がある。[6][10][14]

研究を束ねると、得意な領域が見えてくる

健康な高齢者も含めた心身運動のメタ分析では、言語記憶や情報を保って使う働きに小さい効果があった一方、注意の改善は確認されなかった。[3] 詳しくは本特集の「軽度認知障害とシニアヨガ 記憶だけでなく段取りの力を育てる研究の読み方」で扱う。

長くハタヨガを実践してきた健康な高齢男性の横断研究でも、得意な領域は分かれていた。対象は30人で、少なくとも2年間実践してきた15人と、年齢、教育年数、身体活動の水準が似た未経験の15人を比較した。実行機能と反応時間には良い傾向があったが、出来事の記憶と持続的注意には有意な群間差がなかった。[15]

男性の横断研究は、選択的注意、持続的注意、出来事の記憶、処理速度を調べるため、複数の検査を組み合わせた。ストループ検査のフランス語版、ザゾーの抹消課題、5語の検査に、コンピューターによる反応時間の検査を加えている。異なる認知課題と反応時間の検査を併用し、長期実践者の認知面を比べた研究である。[15]

比較群は、ヨガだけでなく瞑想やほかの心身運動も未経験だった。身体活動の水準が似た人を選んでいるため、既に体を動かしている人どうしの比較という特徴がある。結果にはヨガ実践者に有利な傾向もあったが、著者は、ヨガと認知成績の関連を明らかにするために、生理面と心理面の変数をさらに調べることを求めている。[15]

出来事の記憶は何があったかを覚えること、持続的注意は注意を保ち続けることを指す。この研究のように、ある面では成績が良く、別の面では差がないという結果もある。「頭が良くなる」という大きな表現では、この違いが消えてしまう。ヨガに期待する働きを、記憶、注意、切り替えという言葉で少し細かくする方が、論文の利点に近づける。[15]

軽度認知障害(MCI)のある人の試験や脳画像の研究については、詳しくは本特集の「軽度認知障害とシニアヨガ 記憶だけでなく段取りの力を育てる研究の読み方」で扱う。[5][9]

忘れた単語の数だけで、ヨガの価値を採点しない。

数字で読む記憶と頭の切り替え

  • 118人、平均62.0歳:地域在住者のハタヨガとストレッチ・筋力運動の比較試験。[10]
  • 週3回、60分、8週間:同試験で両群が参加した教室の条件。[10]
  • 87人、6か月:施設での試験を完了した人数と観察期間。完了者の内訳はヨガ44人、待機43人だった。[6]
  • 週2回、45分、12週間:健康な施設入所者を扱った比較試験の練習条件。[14]

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