連載「痛みをほどく」全10回の第5回です。
「腰痛は放っておいても治る」。診療の場でも、職場でも、よく聞く言葉です。実際、急に腰が痛くなった人の多くは数週のうちに動けるようになります。この経験則は間違っていません。
問題は、その先です。結論を先に書きます。急性の腰痛は最初の数週で大きく軽快しますが、そのあと改善は頭打ちになり、1年の時点でも一定の痛みが残ります。そして再発は多く、一部は慢性化します。「治る」と「良くなる」を同じ言葉で扱うと、この構造が見えなくなります。
この回では、前向き研究を統合した結果、回復の定義によって数字がどう変わるか、再発と慢性化の割合、個人ごとの経過の型、そして予後に関わる因子を順に見ていきます。数字が研究によって大きく違うので、その違いの理由にも触れます。

統合するとどう動くか
非特異的腰痛の発端コホート研究を集めた、最も新しい統合結果から見ます。
Wallwork SB, Braithwaite FA, O’Keeffe M, et al. The clinical course of acute, subacute and persistent low back pain: a systematic review and meta-analysis. CMAJ. 2024;196(2):E29-E46.
95本の研究から、系統的レビューには60のコホート(17,974名)、メタアナリシスには47のコホート(9224名)が含まれました。痛みも障害度も0から100の尺度に換算されています。
| 時点 | 急性(発症6週未満) | 亜急性(6週以上12週未満) | 持続性(12週以上52週未満) |
|---|---|---|---|
| 登録時 | 56(95%CI 49-62) | 63(55-71) | 56(37-74) |
| 6週 | 26(21-31) | 29(22-37) | 48(32-64) |
| 26週 | 22(18-26) | 29(22-36) | 43(29-57) |
| 52週 | 21(17-25) | 31(23-39) | 40(27-54) |
急性と亜急性のコホートは最初の6週で大きく改善しました(中等度の確実性)。しかし急性のコホートでも、52週の時点の痛みは21点で、6週時点の26点からほとんど下がっていません。持続性のコホートは高いまま、わずかしか改善しませんでした(きわめて低い確実性)。障害度の経過は痛みよりわずかに良好でした。研究のバイアスのリスクはまちまちで、脱落と追跡が不十分なものが多く、大半は連続症例として組み入れていません。
著者らが介入の対象として名指ししているのは、回復が遅い亜急性の人たちです。この群は6週で改善したあと、52週まで横ばいか、むしろわずかに悪化しています。
古い推定との食い違い
同じ雑誌に、12年前の推定があります。
da C Menezes Costa L, Maher CG, Hancock MJ, et al. The prognosis of acute and persistent low-back pain: a meta-analysis. CMAJ. 2012;184(11):E613-24.
33のコホート、11,166名を統合した結果です。急性のコホートでは、痛みの分散加重平均が登録時52(95%信頼区間 48-57)、6週23(21-25)、26週12(9-15)、52週6(3-10)。持続性のコホートでは51(44-59)、33(29-38)、26(20-33)、23(16-30)でした。
急性の52週時点が、2012年の推定では6点、2024年の推定では21点です。この差は小さくありません。組み入れられた研究が入れ替わり、発症時点の補正の扱いが変わり、確実性の評価が加わったことが背景にあります。「急性腰痛の予後は良好」という言い方が、どの推定に依拠しているかで意味が変わるということです。

「回復」をどう定義するか
数字が割れるもう一つの理由は、回復の定義です。プライマリケアを受診した発症3か月未満の患者を1年以上追跡した研究を集めたレビューがあります。
Itz CJ, Geurts JW, van Kleef M, Nelemans P. Clinical course of non-specific low back pain: a systematic review of prospective cohort studies set in primary care. European Journal of Pain. 2013;17(1):5-15.
条件を満たしたのは11本です。最初の3か月で回復が観察されたのは33%でしたが、発症から1年後に痛みを報告し続けていた人は65%でした。部分集団の解析が、定義の効き方を明らかにしています。回復の基準を「痛みが完全に無いこと」とした研究では、12か月時点でなお痛みを報告する割合が71%。より緩い定義を使った研究では57%でした。さらに、オーストラリアの研究では41%、ヨーロッパと米国の研究では69%という違いもありました。
著者らの結論は率直です。大多数の患者で自然回復が起きるという想定は正当化されない。そして、最初の3か月で回復しなかった人への集中的な追跡にもっと注意を向けるべきだ、と述べています。
数字の割れ方には、もう一つ実務的な理由があります。何をもって転帰とするかです。復職を指標にすると回復率は高く出ますが、痛みの消失を指標にすると低く出ます。どちらも嘘ではありませんが、指しているものが違います。診療ガイドラインが「予後は良好」と書くとき、その根拠が復職率であることは珍しくありません。
再発は多い
「良くなった」あとに何が起きるかも、重要な部分です。
Pengel LH, Herbert RD, Maher CG, Refshauge KM. Acute low back pain: systematic review of its prognosis. BMJ. 2003;327(7410):323.
方法論的な質がまちまちな15本を含めた系統的レビューです。1か月のうちに、痛みは初期値の平均58%、障害度も58%減り、当初仕事を休んでいた人の82%が復職しました。改善は3か月ごろまで続き、それ以降は痛み・障害度・復職のいずれもほぼ一定でした。ところが同時に、73%の患者が12か月以内に少なくとも1回の再発を経験しています。著者らの結論——急性の腰痛と関連する障害はふつう数週のうちに急速に改善する。にもかかわらず、痛みと障害は典型的には続いており、再発は多い。
米国のプライマリケアで、より厳格に定義した急性腰痛を2年追跡した研究もあります(Mehling WE ら, Spine, 2012)。発症30日以内、過去12か月に腰痛のエピソードがなく、脊椎手術の既往もない605名が対象です。登録時の痛みの強さは平均5.6(0-10の数値評価尺度)、障害度は15.8(0-24のRoland-Morris尺度)でした。6か月時点で慢性の痛みを経験していたのは521名中の13%、2年時点では443名中の19%です。6か月までに少なくとも1回の再発を経験した人は54%、その後の18か月ではさらに47%でした。著者らは、復職を基準にした診療ガイドラインが述べるより予後は良くないと結論しています。

慢性化する割合と、それに関わるもの
急性から慢性への移行率を、標準的な定義で測った大規模な研究があります。
Stevans JM, Delitto A, Khoja SS, et al. Risk Factors Associated With Transition From Acute to Chronic Low Back Pain in US Patients Seeking Primary Care. JAMA Network Open. 2021;4(2):e2037371.
米国4地域の77のプライマリケア診療所で、急性腰痛の成人5233名を6か月追跡した発端コホート研究です。予後のふるい分け道具で、低リスク1788名(34%)、中リスク2152名(41%)、高リスク1293名(25%)に層別されています。6か月時点で慢性腰痛へ移行したのは全体の32%(1666名)でした。
移行と関連した因子は次のとおりです。高リスク群は低リスク群に対して調整オッズ比2.45(95%信頼区間 2.00-2.98)。肥満1.52(1.28-1.80)、喫煙1.56(1.29-1.89)、重度の初期障害1.82(1.48-2.24)、きわめて重度の初期障害2.08(1.60-2.68)、診断のあるうつ・不安1.66(1.28-2.15)。
そして、この研究で最も示唆的な部分です。最初の21日間にガイドラインと一致しない診療(オピオイドの処方、画像検査、専門科への紹介)を1つ受けた人は1.39倍(1.21-2.32)、2つで1.88倍(1.53-2.32)、3つで2.16倍(1.10-4.25)、慢性腰痛へ移行しやすくなっていました。観察研究なので因果は確定できませんが、第2回で見た早期画像の話と同じ方向を向いています。
平均は誰の経過でもない
ここまでの数字はすべて集団の平均です。ところが平均の曲線は、全員がなだらかに良くなっていく姿を描いているとは限りません。急速に回復する人と、まったく変わらない人が混ざっていても、平均は緩やかな下降に見えます。個人の経過を型に分けて取り出す方法が使われるのはそのためです。
Pfeiffer F, Luomajoki H, Meichtry A, Hotz Boendermaker S. The course of acute low back pain: a community-based inception cohort study. Pain Reports. 2024;9(3):e1152.
地域住民から集めた急性腰痛の176名を、52週にわたり5時点で追跡し、潜在クラス線形混合モデルで経過の型を取り出した研究です。4つの型が見つかりました。「軽度から中等度で変動する痛み」が54.0%、「52週までに遅れて回復」が6.2%、「持続する中等度の痛み」が33.0%、「中等度から重度で変動する痛み」が6.8%です。
登録時の痛みの強さが強いこと、過去に腰痛のエピソードがあることは、良好でない経過と有意に結びついていました。一方、予想に反して、ストレス・不安・抑うつといった心理的変数は、良好でない経過と有意に関連しませんでした。著者らはこの点を明記しています。慢性化の心理社会的因子については、次々回の第7回であらためて扱います。参加者のうち、良好とは言えない経過をたどった人はおよそ半数でした。ただし一部の型の標本が小さく、一般化には注意が要ります。
救急外来から見た経過
受診する場所が変われば、集まる人も変わります。
Soares Oliveira I, da Silva T, Costa LOP, et al. The Long-Term Prognosis in People With Recent Onset Low Back Pain From Emergency Departments: An Inception Cohort Study. The Journal of Pain. 2021;22(11):1497-1505.
4つの救急外来を受診した発症間もない腰痛の連続600名を1年追跡した研究です。12か月以内に、痛みからの回復は73%(95%信頼区間 69-77)、障害からの回復は86%(82-90)、元の勤務時間と職務への復帰は79%(71-87)、完全な回復は70%(66-74)でした。回復までの中央値は、痛みが67日(54-80)、障害が37日(31-43)、復職が37日(25-49)、完全回復が70日(57-83)です。
6か月以内に完全回復しないことと関連したのは、痛みの強さが強いこと、腰痛が持続するという本人の予測が高いこと、腰痛で活動が減った日数が多いこと、痛む部位が多いこと、腰痛の持続期間が長いことでした。「痛みが続くと思っている」という本人の見通しが、実際の経過と結びついている点は、第7回と第9回で扱う話につながります。
予後因子と、書けないこと
初診の時点で何が分かるかを調べた研究もあります。ノルウェーで、発症3週未満の腰痛で初めてプライマリケアを受診した123名を追跡した研究では(Grotle M ら, Spine, 2005)、4週時点と3か月時点でともに76%が回復していました。3か月のあいだに痛みの強さは初期値の58%、障害度は68%下がっています。一方で、非回復と関連したのは、45歳を超える年齢(オッズ比4.4、95%信頼区間 1.4-14.0)、喫煙(3.0、1.1-8.5)、2つ以上の神経学的徴候(4.6、1.4-14.9)、心理社会的なふるい分けの高得点(3.1、1.0-9.4)、強い心理的苦痛(4.1、1.3-12.8)でした。
ここに並ぶオッズ比は、いずれも信頼区間が広いことに注意してください。年齢のオッズ比4.4の区間は1.4から14.0まであり、123名という標本の小ささを反映しています。予後因子の研究は数が多い一方で、標本が小さく、測り方も揃っていません。個々の因子の大きさを額面どおりに受け取るより、心理社会的な因子と神経学的な徴候がくり返し名前を挙げられているという点を読むほうが確かです。
ここまでを一つの文にまとめるなら、こうなります。急性の腰痛の多くは数週で軽快しますが、「治る」とは書けません。1年後に痛みが残っている人の割合は、回復の定義によって57%から71%まで動き、慢性へ移行する人はおよそ3人に1人、再発は12か月以内に7割を超えます。同時に、救急外来を受診した人の7割は1年以内に完全回復しており、経過は一様ではありません。
これらは集団の数字であり、読者一人ひとりの見通しを述べたものではありません。腰痛に対する運動の効果そのものについては、ヨガの研究をまとめた記事とピラティスの研究をまとめた記事が別にあります。
次回予告
第6回は「運動療法——様式による差はあるか」を扱います。腰痛に運動が勧められることは、多くのガイドラインで一致しています。では、どの運動が優れているのか。様式どうしを比べた研究を統合すると何が残るのか、対照群の設計が効果量をどう変えるのか、そして「統計的に有意」と「臨床的に重要」の距離を見ていきます。
この連載の全10回
- 第1回|痛みとは何か——組織の損傷と痛みの乖離
- 第2回|画像所見と症状——MRIで見つかるものの意味
- 第3回|肩こりの正体——僧帽筋の持続的低強度活動
- 第4回|「悪い姿勢」は原因か——姿勢と痛みの関連
- 第5回|腰痛の自然経過——多くはどうなるのか(この記事)
- 第6回|運動療法——様式による差はあるか
- 第7回|なぜ慢性化するのか——中枢性感作と心理社会的因子
- 第8回|職場での介入——何が効いたか
- 第9回|安静と恐怖回避——やらない方がよいこと
- 第10回|総括——研究の限界と、受診すべき兆候
出典
- Wallwork SB, Braithwaite FA, O’Keeffe M, Travers MJ, Summers SJ, Lange B, et al. The clinical course of acute, subacute and persistent low back pain: a systematic review and meta-analysis. CMAJ. 2024;196(2):E29-E46.
- da C Menezes Costa L, Maher CG, Hancock MJ, McAuley JH, Herbert RD, Costa LO. The prognosis of acute and persistent low-back pain: a meta-analysis. CMAJ. 2012;184(11):E613-24.
- Itz CJ, Geurts JW, van Kleef M, Nelemans P. Clinical course of non-specific low back pain: a systematic review of prospective cohort studies set in primary care. European Journal of Pain. 2013;17(1):5-15.
- Pengel LH, Herbert RD, Maher CG, Refshauge KM. Acute low back pain: systematic review of its prognosis. BMJ. 2003;327(7410):323.
- Mehling WE, Gopisetty V, Bartmess E, Acree M, Pressman A, Goldberg H, et al. The prognosis of acute low back pain in primary care in the United States: a 2-year prospective cohort study. Spine. 2012;37(8):678-684.
- Stevans JM, Delitto A, Khoja SS, Patterson CG, Smith CN, Schneider MJ, et al. Risk Factors Associated With Transition From Acute to Chronic Low Back Pain in US Patients Seeking Primary Care. JAMA Network Open. 2021;4(2):e2037371.
- Pfeiffer F, Luomajoki H, Meichtry A, Hotz Boendermaker S. The course of acute low back pain: a community-based inception cohort study. Pain Reports. 2024;9(3):e1152.
- Soares Oliveira I, da Silva T, Costa LOP, Medeiros FC, Oshima RKA, de Freitas DG, et al. The Long-Term Prognosis in People With Recent Onset Low Back Pain From Emergency Departments: An Inception Cohort Study. The Journal of Pain. 2021;22(11):1497-1505.
- Grotle M, Brox JI, Veierød MB, Glomsrød B, Lønn JH, Vøllestad NK. Clinical course and prognostic factors in acute low back pain: patients consulting primary care for the first time. Spine. 2005;30(8):976-982.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。ここに示した数字は集団の推定値で、個々の見通しを述べるものではありません。脚のしびれや力が入らない感じ、排尿や排便の異常、原因の分からない体重減少、発熱、夜間や安静時に強くなる痛み、外傷のあとの痛み、がんの既往がある場合の新たな痛みは、速やかに医療機関にご相談ください。痛みが数週たっても軽くならない場合、日常生活や仕事に支障が続いている場合も、医療機関にご相談ください。






