連載「ヨガはなぜ効くのか」全10回の第5回です。
「ヨガでストレスホルモンが下がる」。この一文は、おそらくヨガの効果を説明する文章のなかで最も多く書かれてきたものです。ストレスホルモンとはコルチゾール、その分泌を司るのが視床下部・下垂体・副腎を結ぶ回路、すなわちHPA軸(hypothalamic-pituitary-adrenal axis)です。血液でも唾液でも髪でも測れるため、ヨガ研究で最も頻繁に選ばれてきた生物学的指標でもあります。
測りやすさは、ここでも罠になります。結論を先に置きます。ヨガや運動を含む介入でコルチゾールが下がるという報告は多数あり、統合しても中程度の効果が出ます。しかし、抗うつ薬に上乗せした厳密な試験ではヨガによる追加のHPA軸抑制は検出されず、長期実践者のほうが血中コルチゾールが高かったという報告もあります。さらに根の深い問題として、この指標自体の測定方法がばらばらで、日々の再現性も指標によっては極端に低いことが分かっています。

HPA軸とは何か、コルチゾールは何を表すのか
ストレス刺激を受けると、視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)が出て、下垂体が副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を放出し、副腎皮質がコルチゾールを分泌します。コルチゾールは血糖を上げ、免疫反応を抑え、覚醒を高める一方、視床下部と下垂体に負のフィードバックをかけて自らの分泌を止めます。急性のストレス対応には不可欠で、慢性的に高すぎても低すぎても不調と結びつく、というのが標準的な理解です。
ここで注意すべきは、コルチゾールには強い日内変動があることです。起床直後に急上昇し(覚醒時コルチゾール反応)、その後なだらかに下がって夜間に最低になります。したがって「コルチゾールが下がった」という主張は、いつ測ったのか、何と比べたのかを抜きには意味を持ちません。
統合結果——能動的対照と比べても下がる
まず、この領域で最もよく引用されるメタアナリシスを見ます。
Pascoe MC, Thompson DR, Ski CF. Yoga, mindfulness-based stress reduction and stress-related physiological measures: A meta-analysis. Psychoneuroendocrinology. 2017;86:152-168.
この研究の設計上の長所は、比較対象を能動的対照に限定したことです。第1回で見たとおり、待機群との比較は効果を膨らませます。42件を統合した結果、アーサナを含む介入は、能動的対照と比べて夕方のコルチゾール、起床時のコルチゾール、携帯型計測による収縮期血圧、安静時心拍数、高周波心拍変動、空腹時血糖、総コレステロール、LDLコレステロールの低下と関連していました。
この一覧には、注意して読むべき項目が混ざっています。高周波心拍変動(HF-HRV)の「低下」です。第2回で見たとおり、この指標は通常「高いほど副交感神経が優位」と解釈されます。つまり同じ論文のなかで、コルチゾールは望ましい方向、心拍変動は望ましくない方向に動いていることになります。著者らは全体として「交感神経系とHPA系の調節の改善」と要約していますが、介入が非常に多様であったことも同時に明記しています。
運動の種類ごとに比べたネットワークメタアナリシスも出ています。
Li X, Huang J, Zhu F. The Optimal Exercise Modality and Dose for Cortisol Reduction in Psychological Distress: A Systematic Review and Network Meta-Analysis. Sports. 2025;13(12):415.
心理的苦痛を抱える成人を対象とした44件を統合した結果、コルチゾール低下の効果が最も大きかったのはヨガで、標準化平均差 -0.59(95%信頼区間 -0.90〜-0.28)、順位指標のSUCRAは93%でした。気功と複合運動が続きます。興味深いのは高強度インターバルトレーニングで、こちらはコルチゾールを上げる方向に振れました(有意ではありません)。用量反応は逆U字型で、週あたり約530 MET-min のあたりに最適点があり、介入期間が長いほど低下が大きい傾向が見られました。確実性の評価は「非常に低い」から「高い」まで幅があり、ヨガと対照の比較が最も強い証拠に支えられていたとされています。

上乗せしても動かなかった試験
統合結果が肯定的でも、個々の厳密な試験がそれを支えるとは限りません。HPA軸の機能を直接調べる検査を用いた無作為化試験があります。
Sarubin N, Nothdurfter C, Schüle C, et al. The influence of Hatha yoga as an add-on treatment in major depression on hypothalamic-pituitary-adrenal-axis activity: a randomized trial. Journal of Psychiatric Research. 2014;53:76-83.
大うつ病性障害の入院患者60名を、ハタヨガを行う群と行わない群、かつ抗うつ薬2種類のいずれかに無作為化し、5週間追跡しました。HPA軸の機能評価には、デキサメタゾン・CRH負荷試験という、負のフィードバックの効き具合を直接調べる検査を繰り返し用いています。結果、ヨガによるHPA軸活動のより強い下方調整は検出できませんでした。コルチゾールの段階的な低下は両方の薬剤群で見られ、ヨガの追加とは無関係でした。
著者らの結論は明快です——抗うつ薬は、ハタヨガの追加治療よりも大きくHPA軸機能を下方調整する。なお、治療開始1週目にコルチゾールが下がった人ほど5週後の抑うつ症状の改善が大きかったという副次的な所見も報告されています。抑うつ・不安に対するヨガの効果そのものについては別の記事にまとめてあります。
肯定的な側の試験も見ておきます。ゴス(Gothe)らは、座位中心の生活を送る地域在住高齢者118名(平均年齢62.02歳)を、8週間のヨガ群とストレッチング対照群に無作為化しました。認知課題の前後で唾液を採取したところ、ヨガ群では実行機能の正確性が向上し、コルチゾール反応が減弱した一方、ストレッチング群ではコルチゾールが上昇し課題成績も低下しました。コルチゾールと自己申告のストレス・不安の変化は、作業記憶や課題切り替えの成績を予測しました(ヨガ群で β = 0.27〜0.38、p ≤ 0.05、ストレッチング対照群で β = -0.37〜-0.47、p ≤ 0.01)。ここでは能動的対照と比べて差が出ており、しかも媒介の形で検証されています。この連載が求める水準に最も近い研究です。
指標そのものが揺れている
ここからが、この領域の根の深い問題です。マインドフルネス系の介入とコルチゾールの関係を網羅した系統的レビューが、状況を端的に示しています。
Vargas-Uricoechea H, Castellanos-Pinedo A, Urrego-Noguera K, et al. Mindfulness-Based Interventions and the Hypothalamic-Pituitary-Adrenal Axis: A Systematic Review. Neurology International. 2024;16(6):1552-1584.
コルチゾールの有意な変化が認められたのは25件、認められなかったのは10件でした。著者らはこれらの研究に共通する弱点として、標本の小ささ、無作為化と盲検化の欠如、そして交絡変数や交互作用の可能性を挙げ、こう結論しています——作用機序としての生物学的な妥当性はあるが、研究の弱さと堅牢な設計の不在により、両者の因果関係を確立することは難しい。
では、測定の側はどうなっているのか。無作為化試験で唾液の日内コルチゾールをどう使っているかを調べたレビューがあります。
Ryan R, Booth S, Spathis A, Mollart S, Clow A. Use of Salivary Diurnal Cortisol as an Outcome Measure in Randomised Controlled Trials: a Systematic Review. Annals of Behavioral Medicine. 2016;50(2):210-236.
条件を満たした78件のうち、健康な参加者を含むものが30件(38.5%)、身体疾患の患者が27件(34.6%)、精神疾患の患者が21件(26.9%)。最も多く評価されていたのは心理療法で33件(42.3%)でした。そして決定的な所見がこれです——日内の傾きや覚醒時コルチゾール反応といった「リズムの指標」を算出していたのは、わずか39件(50%)にとどまりました。採取プロトコルと報告されるパラメータは研究間で大きく異なり、変化のパターンは研究内でも研究間でも一貫せず、臨床所見との一致度も低いとされています。
再現性そのものを測った研究もあります。
Norton SA, Baranger DA, Young ES, et al. Reliability of diurnal salivary cortisol metrics: A meta-analysis and investigation in two independent samples. Comprehensive Psychoneuroendocrinology. 2023;16:100191.
11件の研究(合計3,307名)から5つの日内指標を統合し、さらに2つの独立した標本(147名・61〜73歳、90名・37歳)で15の指標を検討したところ、日ごとの再検査信頼性は級内相関係数で0.00〜0.75と極端に幅がありました。覚醒時コルチゾール反応のように、個人差の研究に用いるには信頼性が不十分な指標がある一方、地表面基準の曲線下面積のように中〜良の信頼性を示す指標もあるというのが結論です。信頼性が低い指標で介入前後を比べれば、本当の変化があっても検出できず、なかった変化が見えることもあります。
交絡の扱いも十分ではありません。バルガス=ウリコエチェアらは、対象とした研究群に共通する弱点として、標本の小ささと無作為化・盲検化の欠如に加えて「交絡変数と交互作用の可能性」を挙げています。ライアンらのレビューも、採取プロトコルと報告されるパラメータが研究間で大きく異なると指摘しました。介入群だけが決まった時刻に集まって身体を動かすという設計では、採取のタイミングや採取直前の活動そのものが群によってずれかねません。報告された差のうちどれだけが介入の効果なのかを、事後に切り分ける方法はありません。
| 問題 | 具体的な内容 | 読むときの対処 |
|---|---|---|
| 採取方法の不統一 | 採取日数・回数・時刻が研究ごとに違う | 何日間・1日何回採ったかを確認する |
| 指標の選択 | リズム指標を算出しない研究が半数 | 単発の測定値だけの結果は割り引く |
| 再現性 | 指標により級内相関が 0.00 まで落ちる | 覚醒時コルチゾール反応の結果は特に慎重に |
| 交絡 | 季節・年齢・性別・食事・運動・服薬 | 統制されているかを確認する |

逆向きの所見もある
長期実践者を対象にした横断研究には、直感に反する結果もあります。ベラ(Vera)らは、3年以上の実践歴を持つヨガ実践者16名と対照10名を比較し、ACTH・コルチゾール・DHEA-Sを測定しました。ヨガ群はピッツバーグ睡眠質問票の得点が低く(すなわち睡眠の質が良く)、その一方で血中コルチゾールは対照群より高いという結果でした。著者らはこれを「コルチゾール水準に対する調節的な作用」と表現しています。
横断研究なので因果は言えませんし、標本も小さい。ただ、「ヨガをすればコルチゾールが下がる」という単純な図式が、少なくとも長期実践者の安静時血中濃度では成り立たないことは示しています。コルチゾールは「低ければ低いほど良い」ホルモンではなく、必要な場面で上がり、不要な場面で下がることが健全さの指標です。その柔軟性を捉える設計は、まだほとんど使われていません。
媒介まで踏み込んだ研究はどれだけあるか
第1回の基準に戻ります。コルチゾールの変化が、ストレスの軽減を「引き起こした」と言える研究はどれだけあるのか。
ライリー(Riley)とパークは、ストレスを主要評価項目とし、かつ媒介の検証を行ったヨガ介入研究を系統的に探しました。926件の抄録から71件を精査し、最終的に条件を満たしたのはわずか5件です。そこで検討されていたのは3つの心理的機序(ポジティブ感情、マインドフルネス、セルフコンパッション)と4つの生物学的機序(後部視床下部、インターロイキン6、C反応性タンパク、コルチゾール)でした。このうち、ポジティブ感情、セルフコンパッション、後部視床下部の抑制、唾液コルチゾールの4つが、ヨガとストレスの関係を媒介することが示されています。
著者らは、機序を論じる文献が急速に増えている一方で、実証的に検討された機序は7つしかないという落差を指摘し、今後の研究には十分な検出力、無作為化、適切な対照群を含むより厳密な方法論が必要だと述べています。このレビューは2015年の公表ですが、その後の10年で状況が劇的に変わった形跡は、今回参照した範囲では見当たりません。炎症マーカーを含む免疫系の指標については既存の記事があり、次回でその機序面を扱います。
この回のまとめ
コルチゾールは、ヨガの機序として最もよく測られ、最も安易に語られてきた指標です。統合すれば効果は出ます。しかし、厳密な設計の試験では上乗せ効果が消え、長期実践者では逆向きの所見が出て、測定法の不統一と再現性の低さが結果の解釈を難しくしています。
限界を具体的に並べます。追跡期間はどれも短く、今回見た無作為化試験は5週間と8週間でした。数か月以上の単位でHPA軸の調節が変わるのかは分かっていません。能動的対照を置いた研究は増えましたが、盲検化はやはり不可能で、参加者が自分の群を知っていることの影響は残ります。そして最も重い制約は、コルチゾールが症状そのものではなく代理指標だということです。値が下がっても気分や睡眠が変わらない可能性はつねにあり、実際サルビンらの試験では、薬剤によるコルチゾールの低下は起きても、ヨガの上乗せ分は検出されませんでした。
出版の側の偏りも疑っておくべきです。有意な変化が25件、変化なしが10件という内訳は、実態を映しているのかもしれませんし、有意差の出た研究のほうが採択されやすい構造の反映かもしれません。この2つを区別する材料は、いまのところありません。
身体を動かす人にとっての含意は単純です。コルチゾールの検査値を、練習がうまくいっているかどうかの判定に使わないこと。この指標は一日のなかで大きく上下し、日によっても変わり、低ければ低いほど良いわけでもありません。練習の成否は、眠れているか、気分はどうか、続けられているかという、もっと手前にあるもので判断するほうが確かです。
言えるのはここまでです。ヨガを含む心身実践がコルチゾールの動きを変えるという仮説は、生物学的にもっともらしく、統合結果とも整合する。ただし、その変化がどれほど安定しており、症状の改善をどれだけ説明するのかは、まだ確定していない。「ストレスホルモンが下がる」という一文の背後には、この長い留保がついています。
次回予告
第6回は「炎症マーカー——IL-6・CRP・TNF-αは動くのか」を扱います。慢性の低度炎症は、うつ病から心血管疾患まで幅広い病態に関わるとされ、ヨガ研究でも頻繁に測定されてきました。統合結果は何を示し、コルチゾールと同じ落とし穴をどこで踏んでいるのかを見ていきます。
この連載の全10回
- 第1回|「効く」とは何か——機序を問う理由と研究の読み方
- 第2回|自律神経と迷走神経——心拍変動が語ること
- 第3回|ゆっくり呼吸の生理学——圧受容器反射と化学受容器
- 第4回|内受容感覚と島皮質——「身体に気づく」の神経基盤
- 第5回|HPA軸とコルチゾール——ストレス反応系は変わるのか(この記事)
- 第6回|炎症マーカー——IL-6・CRP・TNF-αは動くのか
- 第7回|脳の構造と機能——灰白質とデフォルトモードネットワーク
- 第8回|柔軟性はなぜ増すのか——伸張耐性説と結合組織
- 第9回|どの成分が効いているのか——成分分解試験という方法
- 第10回|総括——特異的効果と非特異的効果、機序研究の限界
出典
- Pascoe MC, Thompson DR, Ski CF. Yoga, mindfulness-based stress reduction and stress-related physiological measures: A meta-analysis. Psychoneuroendocrinology. 2017;86:152-168.
- Li X, Huang J, Zhu F. The Optimal Exercise Modality and Dose for Cortisol Reduction in Psychological Distress: A Systematic Review and Network Meta-Analysis. Sports. 2025;13(12):415.
- Sarubin N, Nothdurfter C, Schüle C, et al. The influence of Hatha yoga as an add-on treatment in major depression on hypothalamic-pituitary-adrenal-axis activity: a randomized trial. Journal of Psychiatric Research. 2014;53:76-83.
- Gothe NP, Keswani RK, McAuley E. Yoga practice improves executive function by attenuating stress levels. Biological Psychology. 2016;121:109-116.
- Vargas-Uricoechea H, Castellanos-Pinedo A, Urrego-Noguera K, et al. Mindfulness-Based Interventions and the Hypothalamic-Pituitary-Adrenal Axis: A Systematic Review. Neurology International. 2024;16(6):1552-1584.
- Ryan R, Booth S, Spathis A, Mollart S, Clow A. Use of Salivary Diurnal Cortisol as an Outcome Measure in Randomised Controlled Trials: a Systematic Review. Annals of Behavioral Medicine. 2016;50(2):210-236.
- Norton SA, Baranger DA, Young ES, et al. Reliability of diurnal salivary cortisol metrics: A meta-analysis and investigation in two independent samples. Comprehensive Psychoneuroendocrinology. 2023;16:100191.
- Vera FM, Manzaneque JM, Maldonado EF, Carranque GA, Rodriguez FM, Blanca MJ. Subjective Sleep Quality and hormonal modulation in long-term yoga practitioners. Biological Psychology. 2009;81(3):164-168.
- Riley KE, Park CL. How does yoga reduce stress? A systematic review of mechanisms of change and guide to future inquiry. Health Psychology Review. 2015;9(3):379-396.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。抑うつ・強い不安・不眠が続く場合、体重の急な増減や強い倦怠感がある場合は、コルチゾール検査の数値や運動の有無で自己判断せず医療機関にご相談ください。ステロイド薬を使用中の方、副腎や甲状腺の疾患で治療を受けている方は、新しい運動を始める前に主治医に確認してください。






