妊娠中にピラティスをしてよいのか。してよいとして、何が変わるのか。この問いには、2024年から2026年にかけて公表された3本のメタアナリシスが、それぞれ別の角度から答えを出しています。痛み、分娩にかかる時間、分娩の様式です。

結論を先に言えば、「通常の妊婦健診だけ」と比べれば、腰や骨盤の痛みは減り、分娩の活動期は短くなる可能性がある。一方で、睡眠には有意差がなく、分娩第2期の長さも変わらず、「他の運動と比べてどうか」は誰も調べていない。この記事では3本の数字を並べ、どこまでが示されていて、どこからが示されていないのかを切り分けます。

要点(結論から)

  • 産科医の確認が先。 禁忌の有無は研究結果に優先する。
  • 腰・骨盤の痛みには期待できる——ただし「通常ケアと比べて」であり、ばらつきは極端に大きい。
  • 分娩の活動期は短くなる可能性がある。第2期は変わらない。 「お産が楽になる」という表現は、この区別を消してしまう。

前提——妊娠中の運動は「してよい」が出発点

数字を読む前に、妊娠中の運動そのものへの医学的な立場を確認しておきます。米国産科婦人科学会(American College of Obstetricians and Gynecologists、ACOG)の委員会見解804号は、産科的・内科的な合併症や禁忌がなければ、妊娠中の身体活動は安全かつ望ましいものであり、週150分の中等度の運動を継続または開始するよう勧めています。産後についても同じ水準が示されています。

つまり「妊娠中は安静に」という前提は、現在の産科の標準的な立場ではありません。問題は運動をするかどうかではなく、どの運動を、どの時期に、どの強度で行うかです。ただし禁忌は存在します。前置胎盤、切迫早産、頸管無力症、重度の貧血、コントロール不良の高血圧や糖尿病などがあれば話は変わります。以下の研究に組み入れられたのは、こうした禁忌が除外された妊婦です。運動を始める前に産科医に確認するという手順は、どの研究結果よりも先に来ます。

「週150分」の意味

150分という数字は、妊娠していない成人に勧められる身体活動量と同じです。妊娠したからといって基準が下げられているわけではなく、禁忌がなければ通常どおりの活動量が望ましい、という立場です。中等度とは「会話はできるが歌は歌えない」程度の強度を指し、ウォーキングや水中運動、マット上のピラティスの多くはこの範囲に入ります。ただし仰臥位で長く行う種目、転倒や接触の危険がある種目、腹圧を強くかける種目は妊娠期に合わせた変更が要ります。ピラティスの研究で使われたプログラムも、通常のクラスをそのまま行ったものではなく、妊娠期用に修正されたものです。

何を測っているのか

痛みと障害

妊娠中の腰痛・骨盤帯痛は最も頻度の高い不調のひとつで、多くの研究は0〜10の視覚アナログスケール(VAS)で痛みの強さを、質問票で日常生活の支障の度合い(障害)を測ります。障害の質問票は研究によって異なるため、メタアナリシスでは尺度を揃えた標準化平均差(SMD)で統合されます。

分娩の時間

分娩は第1期(陣痛開始から子宮口全開大まで)、第2期(全開大から児娩出まで)、第3期(胎盤娩出まで)に分けられます。第1期はさらに潜伏期と活動期に分かれ、研究で扱われるのは主に活動期です。潜伏期は開始時点の定義が曖昧で、測定値の信頼性が低いからです。

痛みと障害——通常ケアとの比較では明確に改善

Song C, Shen Y, Tang X, Li Z, Li X, Zhang X, Xiang Y, Ma J, Tian X, Li H, Li F, Li H. Pilates during pregnancy for maternal musculoskeletal pain and discomfort: a systematic review and meta-analysis. BMJ Open. 2026;16(5):e112441.

2026年1月までの文献を対象に13研究を採用し、うち10研究をメタアナリシスに用いています。対照群の多くは「通常の妊婦健診と教育」で、構造化された運動は行っていません。

評価項目研究数・人数効果量(95%信頼区間)確実性
痛みの強さ(VAS)4 RCT・127名MD −2.59(−4.19〜−1.00)91%
障害5 RCT・286名SMD −1.82(−2.99〜−0.66)93%
心理状態5 RCT・289名SMD −0.86(−1.31〜−0.42)86%非常に低い
睡眠の質(PSQI)3 RCT・204名MD −1.93(−4.70〜0.84)93%非常に低い

痛みは0〜10の尺度で約2.6ポイント低く、障害の効果量 −1.82 は運動療法としては非常に大きい数字です。心理状態も改善方向です。一方、睡眠の質は信頼区間が0をまたいでおり(p=0.17)、有意差がありません。 妊娠後期の睡眠は頻尿、腹部の大きさ、胎動など運動では動かしにくい要因に支配されるので、これは意外な結果ではありません。

I² が 91〜93% であることの意味

すべての項目で I² が 86〜93% と極端に高い点は見過ごせません。I² は研究間のばらつきの指標で、この水準は「研究ごとに結果がまるで違う」ことを示します。効果量 −1.82 は「大きい効果を出した研究と、ほとんど効果のなかった研究の平均」であって、個々の妊婦に −1.82 の改善が起きるという意味ではありません。

ばらつきの原因は、研究の設計を見ればある程度は推測できます。介入の開始週数、週あたりの回数、指導者の資格、対照群が呼吸法や有酸素運動を行っていた研究が混じっていること。そして運動療法である以上、参加者も指導者も盲検化できないこと。著者ら自身がこれらを限界として挙げています。だから痛みの確実性は「中」、障害は「低」に留まっています。

分娩の時間——活動期は短縮、第2期は変わらない

Haseli A, Eghdampour F, Zarei H, Karimian Z, Rasoal D. Optimizing labor duration with pilates: evidence from a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. BMC Pregnancy and Childbirth. 2024;24:573.

11件の試験、合計1,239名(介入602名、対照637名)を統合しています。スペイン、トルコ、オーストラリア、ノルウェー、イラン、ブラジル、米国、インド、エジプトと、地域の広がりは妊娠関連の運動研究としては大きいほうです。

評価項目研究数・人数平均差(95%信頼区間)p
第1期活動期8 RCT・1,195名−56.35分(−89.46〜−23.25)<0.00160.96%
第2期7 RCT・1,135名−0.11分(−7.21〜6.99)0.9871.75%
分娩全体8 RCT・898名−93.93分(−138.34〜−49.51)0.00161.97%

活動期は約56分、分娩全体では約94分短い。信頼区間はどちらも0をまたいでいません。ところが第2期は −0.11分、つまりまったく差がありません。 分娩全体の短縮は、ほぼ活動期の短縮で説明されることになります。

「第2期に差がない」をどう読むか

この結果は、ピラティスが分娩に働く機序を考えるうえで示唆的です。第2期は児頭の下降と娩出の局面で、児の大きさと回旋、骨盤の形状、努責の指導といった産科的な要因が支配的です。母体の筋力や持久力が寄与する余地は、活動期に比べて小さいと考えられます。

一方、活動期の短縮については複数の説明が可能です。骨盤周囲の可動性、陣痛への不安の軽減、体力の維持、呼吸の習熟。ただし、どれが効いたのかをこのメタアナリシスは調べていません。「活動期が短くなった」という観察と「なぜ短くなったか」の説明は、別のものとして扱う必要があります。

サブグループ解析では、介入期間が長く、頻度が高く、開始時期が早い研究ほど活動期の短縮が大きい傾向が示されました。これは用量反応の存在を示唆する材料ですが、初産か経産かで分娩時間は大きく変わるにもかかわらず、その調整がされていないことを著者らは限界として明記しています。

研究の質

11件のうちバイアスのリスクが「低」と判定されたのは3件、「高」が5件、「不明」が3件です。半数近くが「高」である点は、効果量を割り引いて読む理由になります。出版バイアスの検定では小規模研究の影響は検出されていません。

分娩の様式——数字が「良すぎる」ときに疑うこと

Baradwan S, Khadawardi K, Alayed NM, Akkour KM, Mahmoud MS, Abdelhakim AM, Sunoqrot M, Abdel Hamid AS. The effect of Pilates exercise during pregnancy on delivery outcomes: a systematic review and meta-analysis. Women & Health. 2024;64:131–141.

7試験、1,003名を統合したこのレビューは、ピラティス群で経腟分娩率が高く、帝王切開率と会陰切開率が低く、硬膜外麻酔の使用が少なく(p=0.008)、さらに出生1分後と5分後のアプガースコアが高かったと報告しています。

本稿では、この結果をそのまま受け取ることを勧めません。 理由は3つあります。

  1. 帝王切開率は施設の方針に強く依存する。 国や病院によって帝王切開の適応基準は大きく異なり、参加者が盲検化されていない試験では、運動群であること自体が医療者の判断に影響しうる。
  2. アプガースコアの改善は、機序として説明しにくい。 アプガースコアは出生直後の児の状態を示す指標で、母体の運動習慣が直接動かす変数ではない。統計的に有意であっても、生物学的にもっともらしくない結果は、交絡や偶然を先に疑うのが筋である。
  3. 効果の大きさが抄録に示されていない。 p値だけでは、差が臨床的に意味のある大きさなのか判断できない。

結果が期待どおりに揃いすぎているとき、それは介入が万能である証拠ではなく、研究の設計に偏りが入り込んでいる徴候であることが少なくありません。この点は、自社サービスに有利な結果であるほど厳しく見る必要があります。

3本に共通する最大の限界——比較相手が「運動なし」であること

3本のメタアナリシスはいずれも、対照群が「通常ケア」か「運動なし」です。Song らは「ピラティスと他の妊娠中の運動を直接比較した研究が存在しない」ことを限界として明記しています。

これは、ここに示された効果が「ピラティスだから」なのか「運動したから」なのかを、現時点では区別できないことを意味します。ウォーキング、水中運動、産前ヨガ、一般的な妊婦体操と比べて優れているという根拠はありません。慢性頸部痛のシリーズ記事で見たように、対照との比較では良好でも他の運動との比較では劣った例がある以上、この空白は小さくありません。

有害事象——「報告がない」と「安全」は違う

Song らのレビューは有害事象を評価項目に含めておらず、今後の研究で系統的に収集すべきだと述べています。Haseli らは「ピラティスによる有害な出産転帰の増加を報告した研究はなかった」としていますが、これは有害事象が積極的に調べられた結果ではなく、報告されなかったという事実です。

妊娠中の運動で注意すべき点は具体的に知られています。妊娠中期以降の長時間の仰臥位は下大静脈の圧迫を招きうること、ホルモンの影響で関節が緩みやすいこと、強い腹圧を伴う動作は避けること。これらは研究の効果量とは別に、指導する側が知っていなければならない事項です。

この結果の使い方

  1. 産科医の確認が先。 禁忌の有無は研究結果に優先する。
  2. 腰・骨盤の痛みには期待できる——ただし「通常ケアと比べて」であり、ばらつきは極端に大きい。
  3. 分娩の活動期は短くなる可能性がある。第2期は変わらない。 「お産が楽になる」という表現は、この区別を消してしまう。
  4. 帝王切開率やアプガースコアの改善は、現時点では断定しない。
  5. 他の運動より優れているという根拠はない。 続けやすい運動を選ぶことのほうが、種目の選択より重要である可能性が高い。
  6. 指導者が妊娠期の変更点を理解していることが、どの効果量よりも先に確認すべき条件である。

出典

  1. Song C, Shen Y, Tang X, Li Z, Li X, Zhang X, Xiang Y, Ma J, Tian X, Li H, Li F, Li H. Pilates during pregnancy for maternal musculoskeletal pain and discomfort: a systematic review and meta-analysis. BMJ Open. 2026;16(5):e112441.
  2. Haseli A, Eghdampour F, Zarei H, Karimian Z, Rasoal D. Optimizing labor duration with pilates: evidence from a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. BMC Pregnancy and Childbirth. 2024;24:573.
  3. Baradwan S, Khadawardi K, Alayed NM, Akkour KM, Mahmoud MS, Abdelhakim AM, Sunoqrot M, Abdel Hamid AS. The effect of Pilates exercise during pregnancy on delivery outcomes: a systematic review and meta-analysis. Women & Health. 2024;64:131–141.
  4. American College of Obstetricians and Gynecologists. Physical Activity and Exercise During Pregnancy and the Postpartum Period: ACOG Committee Opinion, Number 804. Obstetrics & Gynecology. 2020.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。妊娠中の運動は、必ず担当の産科医に確認のうえ行ってください。出血、腹痛、規則的な子宮収縮、めまい、息切れ、胎動の減少があれば、運動を中止して速やかに医療機関にご相談ください。

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宮川涼 Founder
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