連載「ピラティスの処方箋」全10回の第3回です。

第1回では週2回前後の慣例を、第2回では週あたり回数の比較を見ました。残るのは、1回の中身です。何分やるのか。何回繰り返すのか。何セット組むのか。休息をどれだけ取るのか——現場では「1回60分」が当たり前のように語られがちですが、その長さと、反復・セットの組み立てが、アウトカムをどこまで左右するのかは別問題です。

結論を先に述べます。介入研究の1回はおおむね30〜60分に集まり、臨床家の合意もその帯にある一方、慢性腰痛のネットワーク統合では「60分未満」が有益だったプログラムの条件に挙がり、1回の中の反復・セット・休息を直接動かして臨床アウトカムを比べた試験は乏しい。長いほど良い、という単純な用量反応は支持されていない。

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「1回60分」はどこから来たか

慢性腰痛にピラティスを使うオーストラリアの理学療法士30名へのデルファイ調査では、監督下のセッションを1回30〜60分、週2回、3〜6か月、という組み合わせが合意されました。合意の基準はパネルの70%です。著者ら自身が、これは30名の意見にすぎず、今後の試験での検証が必要だと書いています。

Wells C, Kolt GS, Marshall P, Bialocerkowski A. The definition and application of Pilates exercise to treat people with chronic low back pain: a Delphi survey of Australian physical therapists. Physical Therapy. 2014;94(6):792-805.

総説側の整理も、同じ帯をなぞります。Eliksらは、慢性非特異的腰痛向けのプログラムがおおむね週1〜3回・4〜15週間・1回30〜60分で届けられてきたとまとめ、監督下・1回30〜60分・週2回という提案を示したうえで、資格のある指導者のもとでは約60分・週2〜3回、という言い方もしています。反復については、動作は少数回(最大10回程度)にとどめ、難度を段階的に上げる、という記述があります。

Eliks M, Zgorzalewicz-Stachowiak M, Zeńczak-Praga K. Application of Pilates-based exercises in the treatment of chronic non-specific low back pain: state of the art. Postgraduate Medical Journal. 2019;95(1119):41-45.

つまり「60分」は、研究の上限付近と臨床合意の目安が重なった慣習です。下限の30分も同じ合意の中にあります。45分や50分のプログラムも総説の事例に現れます。用量比較試験として知られるMiyamotoらのデザインは、Eliksらの引用では個人監督の1時間セッションです。頻度を動かしても、1回の長さは固定されていた、という点は第2回の読みともつながります。

介入研究に現れる時間の分布

1回の長さを独立変数として30分対60分対90分を正面から比べた、質の高い無作為化比較試験は、現時点では研究が乏しい。わかっているのは分布です。Eliksらがまとめた帯(1回30〜60分)は、腰痛の介入研究に繰り返し現れます。短すぎるセッションも長すぎるセッションも、この帯の外側では報告例が少なくなります。

ここで混同しやすいのが、「よく使われている長さ」と「その長さが最適である」の違いです。研究者が60分を選ぶ理由には、施設の予約単位、保険や診療の枠、教育内容を詰め込む都合が含まれます。第1回で見た「週2回・数週間」と同じく、都合の良い長さが慣例化し、その慣例が再び研究デザインに入る、という循環が起きやすい。

反復とセットについても、古典的なピラティスは少数回の制御を重視する記述が多く、Eliksらも最大10回程度という表現を使います。一方、測定研究では1セット20回や3セット12回といった、筋力トレーニング寄りの構成も現れます(後述)。定義がずれれば、同じ「1回」でも中身の量が違います。

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ネットワーク統合が示す「60分未満」

慢性腰痛に対する運動の種類を横断したネットワークメタ分析は、セッション時間について興味深い一行を残しています。118試験・9710名の統合で、痛み低減のSUCRAはピラティスが93%、障害低減が98%でした。

Fernández-Rodríguez R, Álvarez-Bueno C, Cavero-Redondo I, et al. Best Exercise Options for Reducing Pain and Disability in Adults With Chronic Low Back Pain: Pilates, Strength, Core-Based, and Mind-Body. A Network Meta-analysis. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy. 2022;52(8):505-521.

著者が「もっとも有益だった」とまとめた条件は、(1) ピラティスまたは筋力系を週1〜2回以上、(2) 体幹・筋力・マインドボディ系では1回60分未満、(3) ピラティスと体幹系では3〜9週間、です。ここでの「60分未満」は、ピラティス専用の「60分が悪い」という主張ではありません。コア・筋力・マインドボディ系を束ねたときの有益プログラムの特徴です。

それでも、現場の「長いほど良い」という直感とは向きが違います。統計的に有意な差の一覧ではなく、ネットワーク上で上位に来たプログラムの共通条件、という読み方が正確です。信頼区間付きの「60分対45分」の平均差が示されているわけでもありません。確実性の等級づけも、この一行だけを高確実と扱う根拠にはなりません。「60分が必須」ではなく、「短めの構成でも有益なプログラムは成立しうる」、という下限寄りのメッセージとして置くのが安全です。

1回の中身——反復・セット・休息

時間の枠が同じでも、反復・セット・休息が変われば、代謝の要求は動きます。ピラティスの代謝強度を統合した探索的レビューは、その点を正面から扱っています。

Vitor GBB, de Oliveira LC, Pessôa RAG, Aguiar AF, de Oliveira RG. Metabolic intensity and energy cost of Pilates exercises: an exploratory systematic review and meta-analysis of limited and heterogeneous evidence. Systematic Reviews. 2026;15(1):42.

採用は6本にとどまります。典型的なセッションの統合値は、メッツ 3.7(95%CI 3.1〜4.3)、エネルギー消費 3.8(3.1〜4.5)kcal/分、酸素摂取量 10.3(8.1〜12.6)ml/kg/分、心拍数 108.6(104.1〜113.0)拍/分、主観的運動強度 10.6(9.3〜12.0)でした。確実性は非常に低いから低い。バイアスリスクが高い研究と間接熱量測定を使っていない研究を除くと、メッツは 3.0(2.3〜3.6)、エネルギー消費は 2.9(2.3〜3.6)kcal/分へ下がり、著者らはこの保守的な推定のほうを信頼できる、と述べています。

休息時間は潜在的な調整因子でした。セット間・種目間の休息が60秒以下だと代謝強度が高くなる、という所見です。感度分析のあとでも、休息が60秒を超える条件の平均は 2.0 メッツ、60秒以下は 3.4 メッツ(p<0.001)と報告されています。ただし著者ら自身が、亜群は研究数の偏り(5対2)があり探索的で脆弱だと釘を刺しています。

Vitorらが抽出したAlmeidaらのクロスオーバー測定は、1回の中身を動かした数少ない例です。座りがちな健常女性33名(22.0±3.3歳)が、12種目からなる3種類のマットセッションを受けました。

構成セット×反復休息セッション時間
単一セット・長い休息1×10120秒33分
単一セット・短い休息1×2030秒23分
複数セット・短い休息3×1230秒49分

同じ「マットピラティス」でも、時間は23分から49分まで開き、反復と休息の組み合わせで枠が決まります。含まれる研究全体でも、セッション時間は23分、30分、33分、45分、49分、50分、90分とばらついていました。時計の数字だけでは、中の量が決まらないことが、ここでもはっきりします。

重要なのは、これらの測定が示したのが主として代謝指標であり、痛み・障害・機能の臨床アウトカムではない、という点です。休息を詰めてメッツが上がっても、それが慢性腰痛の改善幅を広げるかは、別の試験が必要です。現時点では、その橋渡しの無作為化比較は乏しい、と書くほかありません。

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筋力研究の「週あたりセット数」——転用の限界

ピラティス単体で、セット数の用量反応を臨床アウトカムに結び付けた統合は見つかりませんでした。代わりに参照されるのが、レジスタンストレーニングの週あたりセット数です。転用するなら、前提の違いを先に置く必要があります。Ralstonらは9研究・61処置群を統合し、種目あたりの週セット数を低(5以下)、中(5〜9)、高(10以上)に分けました。高対低では平均効果量の差 0.18(95%CI 0.06〜0.30、p=0.003)。低の平均効果量は 0.82(0.47〜1.17)、高は 1.01(0.70〜1.32)。中対低でも差 0.15(0.01〜0.30、p=0.04)でした。著者らは、週セット数と筋力増加に段階的な用量反応がある、と結論しています。

筋肥大でも似た勾配が報告されています。Schoenfeldら(2017)の15研究・34処置群のメタ回帰では、週セット数を連続量として扱うと有意(P=0.002)で、セットが1つ増えるごとに効果量 0.023(百分率にして約0.37%の増加)が付きました。研究内の高容量対低容量では効果量差 0.241(約3.9%、P=0.03)。筋群あたり週5未満・5〜9・10以上の三段階では傾向にとどまりました(P=0.074)。

これらの数字は、高負荷の反復を週あたり何セット積むか、という問いへの答えです。ピラティスの少数回・姿勢制御・ばね負荷や自重という刺激とは、力学も代謝も一致しません。したがって「週10セット以上にせよ」をマットの種目にそのまま写す根拠にはなりません。使えるのはメタファーです。1回の長さより、週を通した総刺激(セット×反復×負荷×頻度)のほうが、適応の説明変数になりやすい——第2回で見た「頻度か総量か」と同じ構図です。

総時間としての量——1440分

1回の長さを語るとき、見落とされやすいのが累積です。健常成人の心肺機能を扱ったメタ分析は、効果が出る条件として総実施時間 1440分以上を挙げています。

Pessôa RAG, de Oliveira LC, Vitor GBB, de Oliveira RG. Effects of Pilates exercises on cardiorespiratory fitness: A systematic review and meta-analysis. Complementary Therapies in Clinical Practice. 2023;52:101772.

12の無作為化比較試験・569名のうち、方法論的質が高いのは3本だけでした。対照群比の標準化平均差は 0.96(95%CI 0.39〜1.54)、質の高い研究に限ると 1.14(0.25〜2.04)。確実性は非常に低いから低い。マットか器具かは結果を変えず、他の運動との差も示されませんでした。著者らの換算では、1440分は週2回で3か月、または週3回で2か月に相当します。

ここで1回60分を仮定すると、週2回×12週=1440分ちょうどです。短い枠(研究にも現れる1回30分帯)なら、同じ総量に届けるには週の回数か週数が増えます。逆に長い枠(測定研究には1回90分もある)でも総量が閾値未満なら、この解析が言う心肺の変化は期待しにくい。セッション時間は、頻度・期間と掛け算して初めて「量」になる、という当たり前が、数字で見える箇所です。

ただしこれは心肺機能の話です。腰痛の痛みや障害、バランス、柔軟性では、同じ1440分が閾値だとは示されていません。効果域がアウトカムごとに違う可能性を、そのまま残しておく必要があります。

効果が小さい領域・示されていない領域・限界

効果量の位置を、腰痛のCochraneレビューで押さえておきます。Yamatoらは10試験・510名を統合しました。最小限の介入と比べた短期の痛みは平均差 -14.05(95%CI -18.91〜-9.19、低確実性、中程度の効果)、障害は -7.95(-13.23〜-2.67、低確実性、小さな効果)。他の運動と比べた障害では、短期 -3.29(-6.82〜0.24)、中期 -0.91(-5.02〜3.20)で有意差なし(中等度確実性)。著者らは高確実性の証拠は見つからなかった、と明記しています。

統計的有意と臨床的重要性は分けます。平均差がゼロをまたがないことと、その差が生活上意味のある変化(最小重要差)を超えることは同義ではありません。Yamatoらの障害の短期効果は「小さい」とラベルされ、痛みの短期は「中程度」です。セッションを15分延ばせばそのラベルが一段上がる、という用量反応は、このレビューにはありません。

有害事象についても、報告は薄い。Yamatoらが有害事象を評価したのは2試験で、1つは事象なし、もう1つは軽微な事象でした。Vitorらがまとめた代謝測定は、有害事象検出の設計ではありません。セッションを長くしたときの過用・痛みの増悪・脱落を、時間の関数として定量した試験は乏しい。

研究の限界を要約します。

  • 時間の頭部比較がほぼ無い。 30分対60分対90分を、臨床アウトカムで直接比べた試験が足りない。
  • 中身の異質性が大きい。 同じ60分でも、反復・休息・種目数が違う。Vitorらの異質性(I²が高値)は、その反映です。
  • サンプルと盲検。 代謝測定は若年女性・少人数のクロスオーバーが多く、腰痛RCTでも運動の盲検は難しい。接触時間が増えるほど、注意や期待の非特異的効果と用量が絡みます。
  • 追跡が短い。 Wells系の整理でも、通常ケアに対する有意差は4〜15週で見えやすく、24週では消える、というパターンが指摘されてきました。セッション時間の長期効果はさらに不明です。
  • 出版バイアスと確実性。 Vitor・Pessôaはいずれも確実性を低く見積もり、探索的・慎重な解釈を求めています。陰性の用量比較が埋もれている可能性は排除できません。

この知見は現場の何を変えるか

変わらないこと。 1回30〜60分という枠は、研究の分布とも臨床合意とも大きく矛盾しません。少数回の制御を重視する伝統的な反復も、Eliksらの記述と両立します。

変わること。 「60分だから足りる」「90分だから効く」という説明は支持されていません。ネットワーク統合は60分未満の有益プログラムを条件に挙げ、代謝測定は休息と反復のほうが強度を動かしやすいと示唆します。心肺を狙うなら、1回の長さより総計1440分に届くかが先です。エネルギー消費の記事や継続と脱落の記事も、量と継続を別軸で扱っています。

設計の実務。 まず目的(痛み・制御・心肺・筋力近縁)を決め、次に週の総刺激を決め、最後にそれを1回の枠(時間×反復×セット×休息)に分割する、という順のほうが、研究の読みと整合的です。価格やクラスの人数といった制約で枠が先に決まることは現場では普通ですが、そのときは枠の中の密度(休息・反復)と週回数で総量を調整する、と意識するだけで、用量の議論が空転しにくくなります。

示されていないことへの正直さ。 セッション時間だけの最適点、セット数だけの最適点、それらを腰痛以外のアウトカムに一般化した処方——いずれも、現時点では証拠が薄い。割れているのではなく、比較試験が足りない、という欠測です。

次回予告

第4回は「強度をどう決めるか——ばね負荷・自重・主観的強度」を扱います。同じ時間・同じ反復でも、負荷の置き方と主観的強度で刺激は変わります。量の次に、強さの物差しを整理します。

この連載の全10回

  1. 第1回|「週2回・8週間」はどこから来たのか——介入研究の用量の分布
  2. 第2回|頻度——週1回と週3回で差は出るのか
  3. 第3回|1回の量——時間・反復・セット数の実際(この記事)
  4. 第4回|強度をどう決めるか——ばね負荷・自重・主観的強度
  5. 第5回|進行——難度は何を基準に上げられてきたか
  6. 第6回|期間と立ち上がり——何週で何が変わるか
  7. 第7回|やめたらどうなるか——効果の持続と再開
  8. 第8回|個別とグループ——監督の密度は用量の一部か
  9. 第9回|併用——有酸素運動・筋力トレーニングと組み合わせたとき
  10. 第10回|総括——自分の用量を決める手順

出典

  1. Wells C, Kolt GS, Marshall P, Bialocerkowski A. The definition and application of Pilates exercise to treat people with chronic low back pain: a Delphi survey of Australian physical therapists. Physical Therapy. 2014;94(6):792-805.
  2. Eliks M, Zgorzalewicz-Stachowiak M, Zeńczak-Praga K. Application of Pilates-based exercises in the treatment of chronic non-specific low back pain: state of the art. Postgraduate Medical Journal. 2019;95(1119):41-45.
  3. Fernández-Rodríguez R, Álvarez-Bueno C, Cavero-Redondo I, Torres-Costoso A, Pozuelo-Carrascosa DP, Reina-Gutiérrez S, Pascual-Morena C, Martínez-Vizcaíno V. Best Exercise Options for Reducing Pain and Disability in Adults With Chronic Low Back Pain: Pilates, Strength, Core-Based, and Mind-Body. A Network Meta-analysis. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy. 2022;52(8):505-521.
  4. Vitor GBB, de Oliveira LC, Pessôa RAG, Aguiar AF, de Oliveira RG. Metabolic intensity and energy cost of Pilates exercises: an exploratory systematic review and meta-analysis of limited and heterogeneous evidence. Systematic Reviews. 2026;15(1):42.
  5. Ralston GW, Kilgore L, Wyatt FB, Baker JS. The Effect of Weekly Set Volume on Strength Gain: A Meta-Analysis. Sports Medicine. 2017;47(12):2585-2601.
  6. Schoenfeld BJ, Ogborn D, Krieger JW. Dose-response relationship between weekly resistance training volume and increases in muscle mass: A systematic review and meta-analysis. Journal of Sports Sciences. 2017;35(11):1073-1082.
  7. Pessôa RAG, de Oliveira LC, Vitor GBB, de Oliveira RG. Effects of Pilates exercises on cardiorespiratory fitness: A systematic review and meta-analysis. Complementary Therapies in Clinical Practice. 2023;52:101772.
  8. Yamato TP, Maher CG, Saragiotto BT, Hancock MJ, Ostelo RW, Cabral CM, Menezes Costa LC, Costa LO. Pilates for low back pain. The Cochrane Database of Systematic Reviews. 2015;(7):CD010265.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。運動中に胸の痛み、強い息切れ、めまい、動悸、痛みの急な悪化が出る場合は中止してください。心臓や肺の病気で治療を受けている方、脊柱や関節の疾患で通院中の方は、運動を始める前に主治医にご相談ください。価格やクラスの人数などの条件は、目的と総量の設計とは別に確認してください。

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