インナーマッスルの背中は一か所で測れる?腰の高さで読む多裂筋の働きと鍛え方

インナーマッスルの背中を鍛えるとき、腰の一か所の張りや測定値で全体を判断してよいのか。多裂筋の神経支配、左右と腰の高さを比べた実験、運動介入の研究から考える。電気的な活動と超音波の厚み、動き出す時機を区別し、局所の感覚から運動の成果を決めつけないための見方を紹介する。

腰の右下に感じた張りで、背中全体の働きまで分かるのだろうか。四つばいで腕と脚を伸ばしたあと、片側だけに手を当てて確かめたくなる。「背中のインナーマッスルはここだけなのか」と指で探したくなる場面である。しかし、腰の多裂筋には高さごとの神経支配があり、ある場所の感覚や測定だけで全体の働きを代表させるのは慎重でありたい。[15]

ただし、高さごとに分かれることと、各部が完全に独立して動くことは別である。健康な人に片側の腰の痛みを実験的に起こした研究では、腕を上げる際の多裂筋の厚みの増加が、痛む側だけでなく反対側や異なる腰の高さでも小さくなった。局所の出来事に、広い範囲が応じる場合がある。健康な人の実験的な痛みへの反応であり、18〜39歳の女性の日常の運動にそのまま当てはめるには慎重な判断が要る。[10]

答えの芯は「どこを、何で、どの動作中に測ったか」をそろえて読むことだ。背中の筋肉に点数をつける前に、点数の採点範囲を確かめたい。既存記事「インナーマッスルの背筋は反れば鍛えられる?多裂筋の活動量と割合を読み分ける」に運動の活動量の比較を譲り、ここでは腰の高さと測定範囲に絞って考える。

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多裂筋は、背中にひとまとめの筋肉ではない

多裂筋を考える手掛かりとして、神経の分布を調べた解剖研究がある。腰の神経の後枝から分かれる内側枝は多裂筋に入り、その神経と同じ番号の棘突起から起こる筋束を支配すると報告された。棘突起は背骨の後ろへ出る部分、筋束は筋肉を構成するまとまりである。背中を覆う広い範囲に、同じ神経が一律に命令を送るという図ではない。これはヒトの神経分布を扱う解剖研究であり、18〜39歳の女性の運動成果への適用は別に検証する必要がある。[15]

同じ研究では、腰の上方の神経と最下部の神経で枝分かれの形も異なる。第5腰神経の後枝はほかより長く、内側枝と中間枝を形成するとされた。ここで見たいのは番号の暗記ではなく、「腰」という日常語の中にも、解剖学的には区別すべき場所があるということだ。腰の上と下を入れ替えても同じ測定になる、と最初から決めることはできない。[15]

一方、この神経分布の研究は、どの運動でどの高さが最も鍛えられるかを比べた試験ではない。神経の行き先が分かることと、自分の意思でそこだけを収縮させられることの間には距離がある。解剖図の境界と、運動中に観察される反応の範囲は分けて考える。高さに注目する理由にはなるが、高さ別の運動処方に直結させない読み方が必要だ。[15][10]

「ローカルマッスル」という言葉も整理したい。日常動作に近い持ち上げ課題を調べた研究では、背骨の部分ごとの安定に関わる局所の筋系と、体幹全体の安定や動作に関わる筋系を区別している。これは役割を考えるための枠組みであり、局所の筋だけを使えば体幹が完成するという意味ではない。実際の持ち上げでは、複数の筋の活動が同時に測られている。[14]

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高さだけでなく、左右と課題もそろえて読む

高さを比べる話で中心になるのが、健康な15人を対象にした実験である。片側の腰の筋肉に高張食塩水を用いて痛みを起こし、痛みのない条件と比較した。研究者は腕を上げるときの自動的な多裂筋の働きを、動きに合わせた超音波測定で調べた。測ったのは収縮に伴う筋肉の厚みの変化であり、腰の第3・第4・第5腰椎の高さと左右を対象にした。18〜39歳の女性を対象にした日常動作の評価へは、この実験条件との違いを踏まえて読む必要がある。[10]

結果は、痛みを起こした側の、その高さだけに変化が収まるというものではなかった。厚みの増加は左右の両側、異なる腰の高さで減少した。これは、局所の痛みが多裂筋の働きに広く影響しうることを示唆する。右下の感覚を確かめる際にも、測定では左右と高さを含めて捉える必要がある。痛む場所と、活動の変化が現れる範囲を同じものとして扱わない点が大切だ。[10]

ここで「腰の高さごとに必ず働きが違う」と読み替えるのも早い。この実験で注目すべき結果は、異なる高さにも変化が及んだことだ。特定の高さだけが弱いという順位表ではない。複数箇所を測る価値と、それぞれが違う結果になるという予測は区別したい。場所を分けて調べたからこそ、広がりのある反応を捉えられたと読むのが適切である。[10]

また、対象は健康な人に実験的な痛みを起こした条件である。長く腰痛を抱える人の日常や、痛みのない運動後の感覚をそのまま再現したものではない。腕を上げる課題で起きた厚みの変化を、座り仕事の疲れや筋肉の長期的な減少と同一視しない。中央線でつり革を持つ動作に思いを重ねることはできても、その乗車中の多裂筋まで測った研究ではない。[10]

左右については、健康な29人による低負荷の非対称な持ち上げ課題も参考になる。筋電図では、多裂筋や内腹斜筋などは左右対称の同時収縮を示した一方、外腹斜筋や大殿筋などには左右差がみられた。対象は健康な人であり、18〜39歳の女性に同じ活動の分布が生じるかは別途確かめる必要がある。筋電図は筋の電気的な活動を記録する方法である。動作の見た目が片側寄りでも、すべての筋が同じ側へ偏って働くわけではなかった。[14]

たとえば床の横に置いた荷物を取る場面を考えると、手の位置は非対称でも、支える筋の活動まで片側だけとは決められない。この持ち上げ実験が示した左右対称の活動は、低負荷の課題で得られた結果である。重い荷物や勢いのある動きまで同じだとは広げず、日常動作を見ただけで多裂筋の左右差を診断しないための材料にしたい。[14]

厚み、電気、動く時機は別々の情報である

超音波で見た厚みの増加と、筋電図で見た電気的な活動は、同じ尺度ではない。先ほどの痛みの実験は、腕上げ中に筋肉がどれだけ厚みを増すかを調べている。持ち上げ実験は、課題中に各筋が左右でどう活動するかを調べた。どちらにも多裂筋が登場するが、測った現象が異なる以上、結果の数字をそのまま並べて優劣をつけることはできない。[10][14]

さらに、活動が始まる時機を調べた症例対照研究がある。慢性的な機械的腰痛の患者群と、症状のない39人を比較し、自分の動作で姿勢が乱される課題中の筋活動を測定した。動作に先回りする活動はフィードフォワードと呼ばれる。筋肉がどれくらい働いたかに加えて、いつ働き始めたかにも焦点を当てた研究である。腰痛患者と対照の比較なので、18〜39歳の女性全般に同じ特徴を当てはめるには、症状や課題の違いを考える必要がある。[12]

症状のない群では、多裂筋、脊柱起立筋、外腹斜筋が動作に先回りして活動した。腰痛群全体では活動開始が遅れ、さらに腰痛群の中でも不安定性の有無によって時機が異なった。不安定性のない群は、体幹を伸ばす筋を対照群と同じように先回りして活動させ、不安定性のある群より早く活動を始めた。腰痛という同じ呼び名の内側にも差があった。[12]

この結果は群を比較したものであり、遅れが腰痛を起こしたという因果を確定するものではない。また、今日の自分がそのどの群に当たるかを、腕を上げた感覚だけで判断することもできない。大切なのは、強く力を入れられるかという問いだけでは、活動の時機という別の側面を取りこぼすことだ。背中の働きを最大の力だけで表すと、読むページが足りなくなる。[12]

測定結果を受け取る場面では、まず質問を具体化するとよい。「多裂筋が弱いか」という大きな質問を、腕上げ中の厚みの変化を見たいのか、持ち上げ中の左右の活動を見たいのか、動作に先回りできるかを見たいのかに分ける。これらは同じ筋肉を扱いながら、違う課題と方法で調べられてきた。質問が違えば、必要になる比較も違うのである。[10][14][12]

たとえば、腕上げの超音波測定の結果を以前の結果と比べるなら、腰の高さが同じかという確認が比較の出発点になる。左右の記録を入れ替えたり、異なる動作の結果を並べたりすれば、変化の意味が曖昧になる。片側の痛みが複数箇所の反応に及んだ実験は、痛む場所だけで判断しないことと、測定した場所をきちんと残すことの両方を考えさせる。[10]

また、活動開始の時機が群によって違った研究では、比較の基準になる腕の筋の活動に対し、体幹の筋がいつ動き始めたかを調べている。単に早いか遅いかではなく、何に対して早いのかという基準がある。「背中が働く」という日常の表現を、研究はこのように測れる問いへ分けている。読み手も同じ区別を持つと、異なる研究の結論を無理に競わせずに済む。[12]

数字で読む多裂筋の測定範囲

15人:片側に実験的な痛みを起こし、多裂筋の収縮に伴う厚みを調べた健康な対象者数である。[10]

第3・第4・第5腰椎:同じ実験で左右とともに比較した腰の高さであり、自宅で鍛え分ける番号ではない。[10]

29人:低負荷で非対称に持ち上げたとき、多裂筋などの左右対称の活動を確認した健康な対象者数である。[14]

39人:慢性腰痛の患者群との間で活動開始の時機を比べた、症状のない対照群の人数である。[12]

30人:運動、電気刺激、対照に分けた試験で、多裂筋の活動と疲労の指標に差を認めなかった無症状の対象者数である。[2]

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