運動習慣を促す言葉は得する話がよい?失う話との違いを実際の行動から読む

運動習慣を勧めるとき、得られることと失うことのどちらを伝えると動きやすいのか。運動不足の成人を対象にしたメタ分析と女性従業員、高齢患者の試験を読み、意欲と実際の行動を分けて考える。声かけや自分への通知を選ぶ際に、数字の意味と相手の状況を確かめる視点を示す。

友人を運動に誘う文章を書き、送る前に手が止まる。「動くことで得られること」を伝えるか、「動かないと失うこと」を伝えるか。どちらなら、一緒に参加するきっかけになるだろうか。誘い文句はできた。予定表はまだ空白である。

答えは、得られることを伝える方法は候補になるが、実際の行動での優位は全体では明確でない、である。運動不足の成人を対象にした無作為化比較試験をまとめたメタ分析では、得る側と失う側の表現の間に、運動行動全体で統計的に有意な差は認められなかった。ただし若い成人などでは、得る側の表現が有望という結果もあった。[12]

ここで問うのは、運動を勧める内容の見せ方である。通知の回数や体重への影響は、既存の「メッセージで減量は続くか 携帯の短い通知が支える行動と体重差の科学を知る」に譲る。今回は、言葉に納得したことと、実際に参加することを分けて研究を読む。

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得る話と失う話は、何を入れ替えているのか

メッセージの「フレーミング」とは、行動したときの利得を強調するか、行動しなかったときの損失を強調するかという、情報の枠づけである。運動の研究では、前者を利得フレーム、後者を損失フレームとして比較している。[12] 「得する話」は料金の話ではなく、行動によって得られる結果に光を当てる話なのだ。

たとえば、運動に充てる時間を「体を動かす機会を持てる」と表すか、「体を動かす機会を逃す」と表すか。この例は表現の違いを示すためのもので、この文は試験で使った文章の再現ではなく、言い方を比べるための例である。比較の単位は、それぞれの試験で使われたメッセージと対象者である。[12]

「前向きな言葉」と「厳しい言葉」の対決に置き換えると、焦点がぼやける。失う結果を淡々と説明することもできるし、得られる結果を大げさに約束することもできる。研究で操作しているのは利得と損失の強調であり、話し手の優しさ全体ではない。[4][12] 家族への声かけなら、まず何を得る話なのか、何を失う話なのかを読み分けたい。

さらに、言葉への反応には段階がある。運動をよいと思う「態度」、やろうと考える「意図」、実際に動いた「行動」は別の評価対象だ。メタ分析でも、これらを分けて集計している。[12] 気の利いた通知を保存したことだけを、運動習慣ができた証拠にはできない。予定表に入った運動と、実施できた運動も、日常では別々に確かめる必要がある。

この区別は、誰かを誘う場面にも関わる。「いいね」と返事が来たら、言葉が伝わったとは考えられる。しかし、それだけで参加が決まったとは扱わない。実際の行動への効果を知りたいなら、好印象を尋ねた研究より、運動行動を測った研究に目を向けるという読み方になる。[12] 返事の温度と、当日の出席を混ぜないのである。

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全体の平均では、利得の明確な勝利にならない

中心になるのは、運動不足の成人を対象とした10件の無作為化比較試験、計1,355人をまとめた系統的レビューとメタ分析である。無作為化比較試験とは、参加者を偶然の割り付けで異なる条件に分け、介入による差を比べる研究だ。この分析では、態度を調べた論文が3件、意図と行動を調べた研究がそれぞれ8件あった。成人全体の分析であり、18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには、年齢と性別を絞った検証が必要である。[12]

行動についての標準化平均差は0.15、95%信頼区間は−0.04〜0.34で、利得と損失の差は統計的に有意ではなかった。標準化平均差は、異なる尺度の差を共通の単位で表した指標であり、歩数や参加率そのものではない。この0.15を「運動が15%増えた」と読み替えてはいけない。[12]

信頼区間は、推定値の不確かさを見るための範囲である。今回の行動の区間は、差がない位置であるゼロをまたいでいる。平均値の向きだけを見て「利得の方が効く」と断定するより、全体として優位が明確になっていないと読むのが適切だ。[12] 同時に、有意差がないことを、どの人にもまったく同じ反応しか起きないという意味にするのも違う。

意図の標準化平均差は0.10、95%信頼区間は−0.12〜0.33だった。態度では−0.60、95%信頼区間は−2.09〜0.90で、いずれも有意差は認められなかった。[12] 行動だけに差が出なかったのではなく、意図や態度でも全体の優位は明確でない。表現を変えれば、まず気持ちは必ず変わり、あとは実行を待つだけ、という一直線の説明にはならない。

一方、若い成人を取り出したサブグループ分析では、利得フレームに有利な行動の標準化平均差0.38が報告された。[12] サブグループ分析とは、対象者の一部に絞って調べる分析である。読者に近い集団の結果として関心を持てるが、全体の結論を消す結果ではない。若いというだけで、自分に最適な文章が自動的に決まるわけでもない。

この研究の著者らも、一般の集団や若い集団では利得フレームが有望である一方、方法をそろえた質の高い試験や、より長い追跡が必要だとしている。[12] 自分用の通知を作るなら、得られることを伝える文章を候補にする余地はある。しかし、それを唯一の正解として人に押しつける根拠は弱い。平均から見える可能性と、個人への確約の間には距離がある。

女性の試験と高齢患者の試験で、結果の向きが違う

生活の場面に比較的近い例は、イランの大学などで働く女性90人を対象にした介入試験である。参加者は利得メッセージ、損失メッセージ、対照の各30人に無作為に分けられた。介入群は携帯を通じて1か月間、運動に関する教育メッセージを受けた。評価は開始時、介入直後、介入から2か月後に行われた。働く女性を対象にした結果だが、18〜39歳の女性にそのまま当てはめられるかは、生活環境や年齢構成の違いも含めて考える必要がある。[15]

運動量は国際標準化身体活動質問票という質問紙で評価され、介入後の平均スコアは両方のメッセージ群で有意に増加した。スコアの改善として、利得群で53%、損失群で15%が報告され、対照群では有意な増加がなかった。[15] ただし、これは参加率が53ポイント上がったという数字ではない。歩数計で測った歩数の増加率とするのも誤りだ。

女性の働き手という対象には親しみを持てても、この結果を立川で働く全員にそのまま移すことはできない。教育を一定期間届ける介入と、帰宅前に自分へ書く短文は同じ条件ではない。ここから受け取れるのは、その女性集団では利得を強調した教育が有望だったという手がかりである。[15] 職場の仲間を誘うときも、効果の数字をそのまま誘い文句にしない方が正確だ。

逆向きの結果もある。外来で診療を受ける、座りがちな高齢の2型糖尿病患者211人を対象にした無作為化試験では、メッセージを受けたあとに加速度計で2週間の身体活動を測った。より活動的だったのは損失フレーム群で、報告された係数はβ=0.13だった。[20] この係数も、活動時間が13%増えたという数字には置き換えられない。高齢の患者を対象にした結果であり、18〜39歳の女性への適用は別に検証する必要がある。

著者らは、健康への懸念や、診療という場で予防を重視する方向に注意が向いた可能性を挙げている。ただし、これは結果を説明する可能性としての考察である。[20] 「病気のある人には怖い言葉が効く」という規則にしてはいけない。若い女性の職場の試験と高齢患者の外来の試験を並べると、相手と場面を外して言葉だけの順位を決められないことが見えてくる。[15][20]

比較する指標にも違いがある。女性従業員の試験は本人が回答する質問紙、高齢患者の試験は身につけた加速度計で活動を捉えている。[15][20] どちらも身体活動を調べているが、出てくる数値の単位や意味はそろっていない。改善率と統計モデルの係数を横に置き、大きい方の言葉が優秀だと決めることはできない。研究を比べるときは、まず何を測った数値なのかをそろえる。

また、利得と損失の比較で差が小さいことと、運動を勧める情報全般が役立たないことも別である。メタ分析の主な問いは、利得側と損失側のどちらが優れているかだ。[12] 女性従業員の試験のように、メッセージを受ける群と対照群を置く研究では、別の比較もできる。[15] 同じ「差がない」という言葉でも、何と何を比べたのかによって意味が変わる。記事の見出しより先に、比較相手を見る習慣を持ちたい。

数字で読む運動を促す言葉

10件・1,355人:運動不足の成人を対象にしたメタ分析の規模である。[12]

0.15:運動行動の標準化平均差。95%信頼区間は−0.04〜0.34で、有意差はなかった。[12]

0.38:若い成人のサブグループで、利得側に有利だった行動の標準化平均差である。[12]

53%と15%:女性従業員の試験で報告された運動質問紙スコアの改善であり、参加率ではない。[15]

211人・2週間:損失側が有利だった高齢の2型糖尿病外来患者の試験と活動測定の期間である。[20]

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