プランクでお腹をへこませる方法と全体を固める方法は、どちらがよいのか。筋電図、超音波による筋厚、筋肉の張力を調べた研究から、腹筋の働き方の違いを読む。深い筋肉なら必ずへこませるべきとは限らない理由、保持時間と筋機能の関係、目的に合わせて練習を選ぶ際の考え方まで整理する。
マットに肘をついたところで、動画から「お腹をへこませて」と聞こえる。別の動画では「お腹全体を固めて」。姿勢は同じに見えるのに、腹筋への注文だけが食い違う。夜の部屋でプランクを始めたはずが、先に迷いを支えることになる。
答えの芯は、へこませる方法も固める方法も筋肉を働かせるが、分担が変わる、ということだ。プランクなどを比較した実験では、へこませる方法で深部の筋肉の厚さの変化が大きく、固める方法で表層の筋肉の電気的な活動が高い傾向があった。ただし、深部の筋肉にも固める方法で強く働く例がある。[1][10][11]
したがって「お腹の奥に効かせるなら必ずへこませる」とは決められない。何と比べた結果か、どの筋肉を何で測ったかをそろえて読む必要がある。[1][9][10] 既存記事「スクワットはお腹を固めると効果が変わる?腹筋の緊張と上体の安定を読む」には立って重さを扱う場面を譲り、ここではプランク中の腹筋の分担に絞る。

へこませることと、全体を固めることの違い
お腹を引き込むように使う方法をホローイング、お腹全体に力を入れて支える方法をブレーシングと呼ぶ。研究では、これらを腹部の筋肉を使い分ける運動課題として比較している。同じプランクでも、腹部への指示を変えれば、筋肉の働き方まで同じとは限らない。[1][2]
筋肉の名前を先に整理しておこう。腹直筋はお腹の前側、外腹斜筋と内腹斜筋は脇腹の筋肉であり、腹横筋は腹部の深い層にある。腰部の多裂筋も、プランクなどの体幹運動で調べられている。研究では腹横筋、内腹斜筋、多裂筋を局所の筋群として、腹直筋、外腹斜筋などをより大きく働く筋群として測り分けた。[1]
ここで「深い筋肉ほど優秀」という順位は付けない。比較研究の問いは、どちらが本物の腹筋運動かではなく、指示によってどの筋肉の反応が変わるか、である。へこませる方法でも固める方法でも脊柱周辺の筋肉が動員され、その程度が筋肉や種目によって違った。[1] 深い場所にあるだけで、運動の成績表の上段に載るわけではない。
生活の中で迷いやすいのは、「へこませる」を見た目の細さと結び付ける場面だ。しかし、この比較で扱われたのは運動中の筋厚や筋活動である。[1] 鏡の中のお腹の輪郭を採点する練習として読む必要はない。プランクの指示としての「へこませる」と、体型の目標は切り分けておきたい。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
同じ人が使い方を変えると、筋肉の分担が変わる
直接の手掛かりになるのは、体幹運動の経験がある健康な成人24人を調べた実験だ。対象は21〜42歳で、競技的な複合トレーニングの経験が少なくとも2年あった。プランク、サイドプランク、ブリッジを、それぞれへこませる方法と固める方法で行った。[1]
腹横筋、内腹斜筋、腰部多裂筋は超音波で筋厚を、腹直筋、外腹斜筋、腰腸肋筋は筋電図で活動を調べた。超音波は筋肉の厚さを画像で測る方法、筋電図は筋肉が働くときの電気的な信号を測る方法である。この研究は、深部と表層を同じ物差しで測ったわけではない。[1]
局所の筋群の相対的な筋厚変化は、へこませる条件で26.8〜88.4%、固める条件で15.9〜61.2%の範囲だった。一方、表層などの筋群の筋活動は、固める条件で最大随意収縮の24.4〜72.5%、へこませる条件で16.4〜56.6%の範囲だった。最大随意収縮とは、自分の意思で最大限に力を出した状態を基準にする測定である。[1]
この範囲は複数の筋肉と種目を含む。したがって「プランクで腹横筋が88.4%増える」「固めれば腹筋全体が72.5%働く」と、端の数字だけを抜き出すのは違う。研究が示したのは、測った運動条件全体で、へこませる方法は局所の筋群、固める方法はより大きな筋群を使う傾向があったことだ。[1]
経験者で得た結果を、始めたばかりの人への完成形の指示にはしない。同じ合図を聞いても、自分がどう力を入れたかを言葉にするのは案外難しい。動画の声に合わせて「できた」と決めるより、今日はへこませる練習なのか、全体を支える練習なのかを確かめる方が、比較の意味をつかみやすい。

普通のプランクとの比較では、へこませても活動が増えた
別の反復測定の横断研究は、男性13人、女性7人、計20人を対象に、通常のプランクと、へこませる操作を加えたプランクを比較した。平均年齢は約24歳だった。筋電図で腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腰部の脊柱起立筋を測り、主観的なきつさも調べている。[9]
結果として、へこませる操作を加えると腹部全体の筋活動が高まり、とくに脇腹の筋肉の活動が増えた。[9] これは「へこませると表面の筋肉は休む」という単純な説明に当てはまらない。へこませる方法でも、表層を含む腹部の活動が増える条件があるのだ。[9]
先ほどの研究と矛盾するように見えたら、比較相手を確認したい。こちらは通常のプランクとへこませたプランクの比較であり、へこませる方法と全体を固める方法の直接対決ではない。[1][9] 通常より活動が増えることと、別の力の入れ方より活動が高いことは、別々の問いである。
たとえば、いつも何となく支えていた人が腹部への注意を変える場面を考える。この研究から読めるのは、へこませる指示を加えた際のその場の反応だ。[9] それを、そのまま「今後ずっとこの方法だけを続ければ筋力が最も伸びる」という予定表に変えてはいけない。測定した場面に合わせて結論の大きさを保つことが、実用的な読み方になる。
筋厚、筋電図、張力は、違う窓から筋肉を見る
健康な若年成人44人を対象にした比較研究では、プランク、サイドプランク、ブリッジなどの体幹運動中に、腹横筋、内腹斜筋、腰部多裂筋の厚さを超音波で調べた。年齢は21〜32歳で、へこませる方法と固める方法を比較している。[5]
この研究でも、へこませる方法でこれらの筋肉の厚さの増加が大きかった。対象の種目全体では、へこませながら行うバードドッグとサイドプランクで、総合的な筋厚の増加がとくに大きかった。[5] 普通のプランクだけを見ればよいわけではなく、同じ腹部の操作でも種目によって反応が変わることが分かる。
ただし、ここでの筋厚の増加とは運動をしている最中の反応である。[5] 数週間後に筋肉が太く育ったという意味の筋肥大とは、時間軸が違う。超音波の画像で厚くなったという言葉を読むと、筋肉がその場で育ったように感じるが、研究が比べたのは運動条件である。
一方、健康な男性10人を対象に、超音波で筋肉の弾性を測り、腹横筋の張力を推定した実験もある。へこませる運動、固める運動、手脚を上げたプランクなどを比較すると、固める運動の値が高く、比較した運動の中ではハンギングデッドリフトとの間に有意差はなかった。[10]
つまり、筋厚を見た研究でへこませる方法が優勢でも、張力を推定した研究では固める方法が高い場合がある。[5][10] 対象や運動課題も異なるので、測定方法だけが違いの原因だと断定はできない。それでも「深部の筋肉はへこませたときだけ働く」という理解は狭すぎる。筋肉の働き方を知るには、画像の厚さだけでなく、どの反応を評価したのかまで読む必要がある。[1][10]
運動中の数値を見るときは、基準も確認したい。筋厚の変化は安静時との比較であり、筋電図の割合は最大限に力を出したときとの比較である。[1] どちらも百分率で表せるが、分母が違う。筋厚の変化率と筋活動の割合を横に並べ、数字が大きい方を「効く方法」と呼ぶことはできない。お腹の中で起きている別々の反応を、同じ得点のように足さないことが大切だ。
また、張力を推定した実験の対象は健康な男性であり、通常のプランクにへこませる操作を加えた実験には男女が参加している。[9][10] 対象が違う結果をつなぐ際には、自分にぴったりの順位表が完成したと考えず、使い方を選ぶ手掛かりが増えたと捉えたい。目的を説明できる合図なら、研究の数字との距離も見失いにくい。
数字で読むお腹の使い分け
24人:プランクなどでへこませる方法と固める方法を比較した、運動経験のある成人の人数である。[1]
20人:通常のプランクにへこませる操作を加えた際の筋活動を調べた研究の対象者数を示す。[9]
44人:体幹運動中の腹横筋などの筋厚を超音波で比較した若年成人が参加した。[5]
60%:健康な若年男性の実験で、全体を固める運動中に記録された内腹斜筋の最大随意収縮に対する筋活動である。[11]
17人:腹横筋の機能とプランク保持時間の相関を調べた男性競技者の人数である。[8]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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