あくびはなぜうつる、我慢で衝動は強まる?口を閉じる努力と出方を分けて読む

会議中にあくびを我慢すると、かえって口を開けたくなるのはなぜか。成人36人の実験を軸に、出したい衝動、実際のあくびの形、人によるうつりやすさを読み分ける。運動をつかさどる脳の測定が説明した約50%の意味や、あくびの回数だけで意志の強さや共感性を判断できない理由も考える。

会議の画面で誰かが口を大きく開けた。こちらもあくびが出そうになり、唇を閉じる。顔には出さずに済んでも、内側ではますます出したい。そんな食い違いを、成人36人にあくびの映像を見せた実験が捉えている。我慢するよう指示すると、あくびをしたい衝動は強くなった。[1]

ただし、「我慢するとあくびがどんどん増える」とまで言い換えると、研究の答えから外れる。指示によって変わったのは衝動の強さと、十分に出るか、押し殺した形になるかという表れ方だった。個人のあくびのうつりやすさ自体は変わらなかった。[1]

既存記事「あくびはなぜ人にうつる?共感の証拠と言い切れない理由を、魚と胎児とアンドロイドで読む」には、伝染と共感の大きな問いを譲る。ここで追うのは、すでに出そうになった口を閉じようとすると何が変わるのか、という会議中の小さな攻防である。

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我慢した口と、出したい気持ちは別々に動く

他人のあくびを見て、意図せず自分にもあくびが起こる現象を、伝染性あくびと呼ぶ。Brownらの研究は、他人の動作を自動的にまねる現象の一つとしてこれを扱った。自分で時刻を決めて口を開く運動とは違い、見たことがきっかけになる反応を調べている。[1]

実験では成人36人が、別の人のあくびを映した動画を見た。条件を分け、一方では我慢し、もう一方では自由にあくびをするよう指示された。参加中の様子は撮影され、あくびと押し殺したあくびが数えられた。したがって、研究者が見ていたのは「口が大きく開いたか」だけではない。[1]

ここが日常の観察と違う。会議の相手には、大きなあくびなら見える。唇を閉じたままの反応は目に入りにくい。もし見えた動作だけを数えていれば、我慢した条件では反応が消えたように見えるかもしれない。実験は、完全な形と押し殺した形を分けることで、この取り違えを避けている。[1]

さらに、内側の「したい」という衝動も、動作と同じものではない。我慢する指示は衝動を増やし、あくびの表出の仕方を変えた。それでも個人の伝染への傾向は変わらなかった。出したい気持ちが強くなること、見える動作が小さくなること、反応の起こりやすさが残ることは、同時に成立する。[1]

たとえばオンライン会議で「今日は一度も大きく口を開かなかった」と振り返るとする。それは表情を保てたという記録にはなる。しかし、内側でどれほど我慢していたかを表す記録にはならない。実験が示すのも、その区別である。外から見える成功だけで、本人の負担まで採点することはできない。[1]

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成人36人の実験が変えたもの、変えなかったもの

この研究の面白さは、我慢の効果を成功か失敗かだけで終わらせなかった点にある。我慢する指示は出方を変えた。一方で衝動は強まり、動作と気持ちは異なる方向に動いた。同じ指示に対し、評価する項目ごとに違う答えが出た。[1]

日常語の「我慢できた」は便利だが、幅が広い。出したくなくなったのか、出したいが見せなかったのか、少しだけ出たのか。それをひとまとめにすると、自分の体験と研究結果がかみ合わなくなる。研究でいう押し殺したあくびは、反応が完全に無くなった状態とは区別されている。[1]

また、「我慢した後で反動が来る」という話とも分けたい。今回の中心的な結果は、抵抗する指示の下で衝動が増したことだ。会議が終わった後のあくびが必ず増える、我慢を重ねるほど翌日までうつりやすくなる、といった時間をまたぐ予測を、この結果から導くことはできない。実験で比べた条件と、生活で知りたい期間をそろえる必要がある。[1]

動画を見る条件にも意味がある。参加者は他人のあくびを見ながら、反応を抑えるよう求められていた。「我慢」という言葉だけを抜き出して、眠い朝のあくびや移動中のあくび全般に同じ効果があると広げるのは早い。まずは、他人の動作を見て誘われる場面の結果として読むのが正確だ。[1]

対象は成人36人であり、18〜39歳の女性に絞った結論としてそのまま当てはめられるかは、別に確かめる必要がある。ここで生活へ持ち帰れるのは、衝動と動作を分けて見る視点だ。変化の強さや長期的な訓練効果まで、個人に約束する結果ではない。[1]

約50%は、我慢に失敗する確率ではない

研究では行動の撮影に加え、経頭蓋磁気刺激という方法も使われた。頭の外から磁気刺激を与え、運動を担う大脳皮質の反応しやすさと、生理的に反応を抑える働きを調べる方法である。その測定値を用い、参加者ごとの伝染性あくびの傾向を予測した。[1]

結果として、運動皮質の興奮性と生理的抑制の測定値は、あくびの伝染を有意に予測し、人によるばらつきの約50%を説明した。著者らは、個人差に一次運動野の興奮性と抑制が関わると結論している。一次運動野とは、体を動かす働きに関わる脳の領域である。[1]

この約50%は読み違えやすい。動画を見た人の半分だけがあくびをした、という割合ではない。我慢が半分の確率で失敗する、という成績でもない。参加者の間で反応の傾向がどれほど異なるか、その違いを測定値によってどこまで説明できたかという数字である。[1]

自分があくびをした回数を数え、その半分は脳、残り半分は意志だと配分することもできない。個人間のばらつきを説明した結果を、一人の行動の原因の割合に置き換えてはいけない。また、残ったばらつきのすべてが性格や努力だという意味もない。この数字は人格の内訳表ではない。[1]

ここでいう生理的抑制と、本人が「我慢しよう」と決めることにも違いがある。同じ抑えるという言葉でも、前者は磁気刺激で評価した神経の働き、後者は実験で与えられた行動上の指示だ。研究は両方を扱い、指示による変化と、神経の測定値が予測する個人差を分けて示している。[1]

会議で隣の人が平気そうにしていても、自分と同じ衝動を同じ量だけ処理しているとは限らない。うつりやすさに測定可能な個人差があったという結果は、外から同じ顔に見える人を、同じ条件の競争相手にしないための手掛かりになる。口元の静けさに、努力の順位表は付いていない。[1]

指示を変える実験と、個人差を予測する測定は、答える問いも異なる。前者は、自由にしてよい場合と我慢する場合で何が変わるかを問う。後者は、同じように動画を見ても人によって反応が違うのはなぜかを問う。この区別を保つと、「指示では傾向が変わらないのに、神経の値は予測する」という結果を、食い違いと捉えずに読める。[1]

たとえば、参加者同士の反応の違いを説明する指標があったとしても、それを本人がその場で自由に操作できるとは限らない。予測に役立つことと、反応を変える手段になることは別である。磁気刺激を用いた測定の結果から、「脳を意識すれば我慢が楽になる」という生活上の方法まで引き出すことはできない。[1]

一方、口を閉じた姿がすべて同じに見えるという問題は、実験の外でも想像できる。会議で発言を聞いている人の中に、あくびが出そうな人、押し殺している人、特に誘われていない人がいるかもしれない。これは会議中の割合を示す話ではなく、測定対象を区別するための場面例だ。研究があくびと押し殺したあくびを分けて数えた理由が、身近になる。[1]

衝動の変化と動作の変化を並べると、同じ参加者の中で起きた食い違いが見える。自由に反応してよい条件と抵抗する条件を比べたことで、単に「あくびの多い人」を探すだけでは分からない、指示に伴う変化を捉えられた。感じ方と動作の両方を調べたことが、この実験の要点である。[1]

数字で読むあくびの我慢

36人:あくびの動画を見て、我慢する条件と自由にする条件に参加した成人の人数である。[1]

約50%:運動皮質の興奮性と生理的抑制の測定値が説明した、伝染性あくびの個人差のばらつきを指す。[1]

2017年:我慢の指示で衝動が増し、あくびの表れ方が変わると報告した研究の発表年である。[1]

1998年:複数の神経伝達物質や神経ペプチドによるあくびの調節を整理した、神経薬理学のレビューが発表された年に当たる。[6]

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宮川涼 Founder

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