腕の筋トレを続ければ野球の球速も伸びるのか。少年野球選手の肩のトレーニング、女子ソフトボールのバンド練習、投球用の重さを変えたボールの試験を読み、筋力と球速の違いを考える。改善した群だけを見る落とし穴や、球速と一緒に確かめたい傷害の結果まで、研究の対象を分けて読む。
野球のために腕を鍛えるなら、投げる動きに似せたバンド練習のほうがよいのか。動画で見かけるフォームは、いかにもグラウンドへ直結しそうに見える。だが大学の女子ソフトボール選手を対象とした試験では、競技に特化した群の球速が改善しても、一般的なバンド練習の群に対する有意な優位性は確認されなかった。[15]
腕の筋トレを投球へ役立てる可能性はある。ただし「投球に似ている」という理由だけで方法の優劣は決められない。頭上から投げる競技をまとめた系統的レビューも、球速向上に最もよい方法を明確には決められないと結論している。ここでは肩の抵抗のかけ方、特化したバンド練習と一般的な練習、重さを変えた球の練習を、比較の相手まで追って読む。[8]
筋力から競技への転移という広い問いは、既存記事「野球の背中の筋トレは球速にも届く?引く力の記録と投げる速さを分けて読む」に譲る。栄養補給は「野球のプロテインは打つ力で選べる?投げる速さと回復の研究を読み分ける」、子どもの全身の運動能力は「子供の背筋トレで走る力も伸びる?全身の筋力練習と運動能力の研究を読み解く」の問いである。今回は腕や肩を鍛える方法同士の比較を軸に、競技に似せる工夫の優位性と、方法を選ぶ際の傷害の結果を確かめる。

肩の力が伸びても、球速まで同じ結果とは限らない
野球を直接調べた研究から始めよう。Woodenらは、10代の野球選手27人を、肩を鍛える異なる方法と、トレーニングをしない対照群へ無作為に分けた。期間は5週間である。測ったのは利き腕側の肩の回旋の力とパワー、それに投球速度だった。肘を曲げて重りを持ち上げる運動だけを調べた試験ではなく、肩を回す機能と投球を比べた試験である。[6]
一方は、関節を一定の速さで動かす条件のトレーニングだった。もう一方は、動きに応じて抵抗が変わる方式だった。後者では投球速度と肩を外へ回す力の指標が有意に増加したが、前者では同じ改善は認められなかった。一方、外へ回す動作のパワーは両方で改善した。肩を内へ回す力とパワーは、どちらでも改善しなかった。[6]
ここでいう力の指標はトルク、つまり関節を回す働きの強さである。パワーは仕事をする速さを含む指標であり、ボールの速度とは測っている対象が違う。この試験で注目したいのは、外へ回すパワーの改善という共通点がありながら、球速の結果まで共通にはならなかったことだ。肩の検査用の機械は、球速計の代わりにはならない。[6]
著者らは、動きに応じて抵抗を変える方式が、一定の速さで鍛える方式より投球速度と外へ回す力の改善に有効な可能性を示した。だから、結果を「筋トレは球速に関係ない」と読むのも違う。方法の違いで結果が分かれたのである。ただし対象は10代の野球選手であり、成人の草野球や、初めて投球を練習する女性にも同じ結果を約束するものではない。[6]
筋トレの記録を見るときは、まず種目名の横に、何を測った値かを書いておきたい。「腕の力」とひとまとめにすると、肩を外へ回す力も、押す力も、投げる速さも同じ引き出しに入ってしまう。肩の回旋の測定ですら結果が分かれたのだから、ダンベルを持ち上げる記録だけで、次の送球の速さを判定しないという読み方が妥当である。[6]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
投げる競技のメタ分析は前向きだが、野球への換算表ではない
小さな試験から少し視野を広げる。ハンドボール選手の筋力トレーニングを扱った2020年の系統的レビューとメタ分析には、18研究、計275人が含まれた。筋力トレーニングが投球速度へ及ぼす効果量は1.360、95%信頼区間は0.992〜1.728で、有意な効果が認められた。投げる競技で筋トレの役割を考える際の、前向きな根拠である。[4]
効果量は結果の大きさを共通の尺度で表した値であって、球速がその数値だけ増えるという単位ではない。1.360を時速の上乗せに読み替えることはできない。また、この研究がまとめたのはハンドボールである。野球と同じ「投げる」という言葉が入っていても、野球の投球速度の予測式として使える結果ではない。[4]
同じメタ分析でも、筋力の測り方によって答えが分かれた。関節を動かさずに発揮する等尺性筋力や最大筋力には有意な効果があった一方、一定の速度で関節を動かして測る等速性筋力では、効果量0.079、95%信頼区間−0.060〜0.219で有意ではなかった。「投げる速さに効果があるなら筋力の検査も全部伸びるはず」という対応にはなっていない。[4]
さらに著者らは、研究間のばらつきが大きいことと、出版バイアスの存在を指摘している。出版バイアスとは、どの結果が公表されるかの偏りが、集めた研究の見え方に影響する問題である。統合結果が前向きでも、条件を問わず同じ効果が出るとは扱えない。研究数を並べたあとにも、この注意点を残しておく必要がある。[4]
別の無作為化比較試験は、筋力から球速への橋が自動ではないことを示す。男性35人を対象に、ベンチプレスの休息の配り方を変えた2つの群と対照群を比べた。6週間、週2回のトレーニング後、両トレーニング群で最大挙上重量と、30kgの負荷を使うベンチプレススローの速度が改善した。しかし、ハンドボールの投球速度には前後で有意な差がなかった。[17]
これは「筋トレに成功したのに、投げる課題の改善は確認されない」という結果である。負荷を押す能力を伸ばした成果は、その検査では確かに現れている。それを失敗扱いする必要はない。同時に、押す能力の伸びを投球の成果として報告することもできない。トレーニングに付けた名前より、実際に測った結果の列を追うほうが、手応えと球速のずれを理解しやすい。[17]
投球に似たバンド練習なら、一般的な筋トレより有利なのか
それなら投げる動きに似せて鍛えればよいのか。大学の女子ソフトボール選手28人を対象とした試験が、この問いの近くにある。参加者は、競技に特化した上半身のバンド練習をする15人と、一般的なバンド練習をする13人に無作為に分けられた。期間は8週間だった。女性の投げる競技を直接調べた点も、対象を考えるうえで大切である。[15]
競技に特化した群では、最大投球速度が4.9%、平均投球速度が3.1%改善した。これだけなら「投球に似せると速くなる」という見出しを付けたくなる。ところが、どの測定項目にも群間の有意差はなかった。特化した群の中で改善が確認されたことと、一般的な練習より優れていたことは、別の主張なのである。[15]
筋力の検査にも興味深いずれがある。ケーブルを使い、上から斜めへ引くチョップ動作の最大負荷は、特化した群で23.5%、一般的な群で26.1%増えた。だが、この検査や肩の回旋可動域と投球速度の相関係数は0.30以下で、有意な相関ではなかった。著者らも、この筋力検査や肩の可動域を使って投球能力を予測すべきではないとしている。[15]
一般的な群の筋力の増加率のほうが大きく見えるからといって、今度は一般的な練習が勝ったとするのも早い。群間差が認められなかったという結果は、都合のよい側だけに適用できるものではない。著者らはバンドを実用的な選択肢としつつ、投球速度や肩の回旋に関する健康指標を改善するために、特化したバンド練習だけに頼るべきではないと結論している。[15]
より広く、肩の弾性抵抗トレーニングを調べた系統的レビューは24論文を扱い、筋力や投球・サーブ速度への好影響を報告している。ただし、介入方法の違いが大きく、最適な量の処方は決められなかった。バンドという道具に可能性があることと、その道具を何回使えば野球の球速がどれだけ上がるかは、同じ問いではない。[16]
数字で読む筋力と投球速度のずれ
27人・5週間:10代の野球選手の試験。肩のパワーと球速の改善は全方式で一致しなかった。[6]
18研究・275人:ハンドボールのメタ分析。投球への効果量は1.360だが、研究間のばらつきと出版バイアスも指摘された。[4]
35人・6週間:押す力とベンチプレススローは改善しても、ハンドボール投球速度に有意な前後差はなかった。[17]
4.9%:女子ソフトボールの特化バンド群の最大投球速度の改善率。一般的な練習に対する群間の優位を意味しない。[15]
3.3%と24%:重さを変えたボールの野球試験で報告された、実験群の球速改善率と傷害率。異なる種類の結果として併せて読む。[19]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
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