文字を書くのは右脳と左脳の共同作業?文字の形と手の動きを脳画像で読み解く

文字を書くときは右脳と左脳のどちらを使うのか。手書きの脳画像を統合した研究と、文字を書く・図形を描く・口でつづる課題の比較から、主に左半球に広がるネットワークを読む。右小脳の関与や、見た言葉を書く場合と絵の名前を書く場合の違いにも触れ、記憶力の話とは分けて考える。

宅配便の受け取りで名前を書く。キーボードなら迷わず入力できる文字なのに、ペンを持つと途中で手が止まる。そんな場面から「文字の形は右脳、言葉は左脳なのだろうか」と考えたくなる。しかし、手書きの脳画像研究が示すのは、そのように左右へ仕事を二分した図ではない。主に左半球に広がる複数の領域と、右小脳などが関わるネットワークである。[1]

文字を書くことには、言葉を扱う処理と、線を引く運動の両方が含まれる。複数研究を統合したメタ分析は、手書き中の活動を、書字に比較的特有の処理、ほかの動作と共通する運動処理、言語処理に分けて検討した。「どちら側か」に加え、「書く作業のどの部分か」を問うと、脳の働きが読みやすくなる。[1]

記憶への効果は、既存記事「手書きは記憶に残るのか、有名な実験を再現したら手書きの優位は支持されなかった」に譲る。ここで追うのは、思い浮かべた言葉がペン先の動きになるまでの役割分担だ。文字を書くことと図形を描くことを比べた実験は、同じ手の動きでも脳活動の左右差が変わることを示している。[6]

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左半球が中心でも、働く場所は広がっている

手書きの研究で中心となるのは、Plantonらによる脳画像研究のメタ分析だ。対象となった18研究から、活動の位置が研究をまたいで重なる場所を統計的に調べた。結果は、主として左半球に位置する12の皮質・皮質下領域からなる広いネットワークだった。皮質と皮質下は、ここでは脳の表面側と、その内側にある領域を指す。[1]

そのうち、左の上前頭溝・中前頭回付近、左の頭頂間溝・上頭頂領域、右小脳が、主に書字に特有の働きに関わる候補とされた。一方、一次運動野や感覚運動野、補足運動野、視床、被殻は、書字だけに限らない運動処理と関連づけられた。腹側運動前野や後方・下方の側頭皮質は、むしろ言語処理に関わると整理された。[1]

名前が多くて、地図の駅名を一度に見せられた気分になる。まず覚えるなら、前頭部と頭頂部が重要で、そこに運動や言語に関わる領域も加わる、という見取り図でよい。著者らが特に確認したのは、左前頭部と左上頭頂領域の重要な関与だった。手書きの担当は、脳内の小さな部屋に収まりきらない。[1]

この結果は、活動する領域の共通性をまとめたもので、左側が仕事の何割を受け持つかを測った数字ではない。12という数をそのまま能力の点数に置き換えることもできない。どこが繰り返し現れるのかを示す地図として読むと、研究が答えた問いに沿う。[1]

また、ネットワークという言葉は「全部の場所が何でもする」という意味でもない。運動に共通する部分と言語に関わる部分を区別したうえで、それらが手書きの場面に参加しているという整理だ。ペンで線が引けることと、書きたい単語を文字にできることは、同じ問いではない。研究もその差を切り分けようとしている。[1]

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書いている脳から、何を差し引いて比べるか

脳画像を見るときの要点は、手書き中に活動した場所だけでなく、何をしているときと比べたのかにある。文字を書く課題には、刺激を見ること、言葉を扱うこと、手を動かすことが入り込む。手書きと関係する活動を見つけても、それが書字に特有なのか、ほかの課題にも必要なのかは別の問題だ。[1][6]

メタ分析では、比較に使われた課題を、運動・出力の側を調整するものと、言語・入力の側を調整するものに分け、追加の分析を行った。これは、書いている間に見えた活動を全部まとめて「文字の中枢」と呼ぶのを避けるための工夫である。その切り分けを経て、書字に特有と考えられる領域と、運動や言語に共通する領域が整理された。[1]

たとえば、夕方の机で買い物の品名を書き、その横に袋の絵を描く場面を想像するとよい。紙の上にはどちらも線が残る。それでも、品名を文字にする作業と、物の形を線にする作業は同一ではない。この違いを実験として扱ったのが、書字・描画・口頭でのつづりを比較した研究である。[6]

ここでいう比較は、手書きと入力のどちらが優れているかを決めるものでもない。字を書く課題が、描画や口頭の課題とどこまで共通し、どこで違うかを探す設計だ。同じ「書く研究」という紹介でも、比べる相手が違えば、答えられる疑問も変わる。記憶に残るか、字がうまいか、左右どちらが優勢かを混ぜずに読む必要がある。[1][6]

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字も絵も同じ領域を使うが、左右差は同じではない

Plantonらの実験では、右利きの参加者16人が、物の絵を見て名前を書き、名前のつづりを口で言い、形を描く課題に取り組んだ。機能的磁気共鳴画像法、つまり課題に伴う脳活動を調べる画像法で、書字に関係する領域の反応と左右への偏りを比較した。[6]

結果は、「書字に関係する場所なら、字を書くときだけ働く」という見方に修正を迫るものだった。調べた書字関連領域はすべて描画でも活動し、その一部は口頭でつづる課題でも活動した。字のために見つけた場所が、絵の仕事もしていたのである。領域を見つけることと、そこが書字専用だと確かめることは同じではなかった。[6]

共通して活動しても、左右への偏りには違いがあった。上方の運動前野の一部にある、文字表現と運動に関わる前頭領域では、手書き中は明瞭に左側へ偏り、描画中は両側の活動が認められた。検討した領域のなかで、書字に特有の左右差のパターンを示したのは、この領域だった。[6]

「形を描くなら右、言葉を書くなら左」という簡単な説明では、この結果をうまく表せない。描画でも書字関連領域が働き、同じ前頭領域の左右差が課題によって変わったからだ。場所が重なることと、働き方が同じことを分けると、絵と文字の関係が少し立体的になる。[6]

対象が右利きの参加者であったことも外せない。この結果を、左利きの人の書字にもそのまま当てはめたり、個人の字を見て左右の活動を決めたりするのは飛躍になる。ここで確かめられたのは、決められた課題を行う右利きの参加者において、領域ごとの活動と左右差に違いがあったということだ。[6]

右小脳と右大脳を、同じ「右」でくくらない

メタ分析で右小脳が候補に挙がった点からも、手書きには左大脳半球の外にある領域が関わることが分かる。ただし、右小脳が関与することと、一般に右脳と呼ばれる右大脳半球が同じ役割を担うことは区別したい。研究の領域名を保ったまま読むほうが、どこで何が見つかったかを見失わずに済む。[1]

小脳と言語機能に関するレビューでも、小脳は運動技能や視覚と運動の協調、バランスだけでなく、認知機能にも関与すると整理されている。検討された言語機能には、言葉を流暢に出すこと、文法の処理、言語上の間違いの検出・修正、書字技能が含まれる。言語に関しては、とくに右小脳半球や歯状核と、大脳の言語領域とのつながりが重視されている。[9]

一方、聞いた言葉を書く課題を用いた別の脳画像研究では、左上頭頂部、その近くの下頭頂部、左の運動前野や感覚運動野、補足運動野に活動が認められ、右半球には活動のまとまりが認められなかった。著者らは、書字が主として言語優位半球に組織されることを示す結果と捉えている。[3]

右小脳を含むメタ分析と、この研究の左側中心の結果は、片方を消して整える必要はない。研究をまたいだ共通領域を探す分析と、聞いた言葉を書く特定の課題では、見ている範囲が違う。左側が中心という大枠を保ちながら、課題と比較条件によって見える活動が変わると読むのが妥当である。[1][3]

数字で読む手書きの脳画像

18研究:手書き中に共通して活動する場所を調べたメタ分析の対象数である。[1]

12領域:その分析で得られた、主に左半球へ広がる皮質・皮質下のネットワークである。[1]

3領域:同分析で主に書字に特有と考えられた候補で、左前頭部、左頭頂部、右小脳に位置する。[1]

16人:書字・描画・口頭のつづりを比較した脳画像実験の、右利きの参加者数である。[6]

16人と19人:書痙の患者群と対照群を比べ、安静時の領域間のつながりを調べた研究の人数である。[4]

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宮川涼 Founder

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