寝言が妙にはっきりした文章になるのはなぜか。成人の発話分析と若い成人の脳波研究から、文法、問いかけ、会話の間合いを読み解く。言葉になる声とうめき声の違い、夢や記憶との関係も扱い、対象者の偏りを踏まえて、眠りながら話せることと脳全体が起きていることの距離を考える。
隣で寝ている人が、誰かに問いかけるように話し、少し黙ってから続きを言う。翌朝たずねても本人には覚えがない。寝言の不思議は、声が出ることだけではない。話し相手が見当たらないのに、会話の形が残ることにある。成人の寝言を記録した研究では、文法や意味の組み立て、相手の番を待つような間合いに、起きているときの話し方との共通点が見つかった。[1]
答えの芯は、眠っていても言葉を組み立てる働きの一部が表に出ることがある、という点だ。ただし、文章らしい寝言が出たから脳全体が目覚めている、とまでは言えない。若い成人の脳波研究は、言葉になる声とうめき声などの前で異なる活動を示し、覚醒中の言語処理と共通する仕組みの可能性を示している。[2]
寝言の原因や眠りの段階の分類は、既存記事「寝言はなぜ出る?多い人、怒る人、眠りのどの段階かで三つに割れた分類と夢を映す説を読む」に譲る。ここで追うのは、寝言の中身の正しさではなく、言葉が並ぶ順序と沈黙の位置である。夢の証言として聞く前に、眠っている人がどのように文章を作っているのかを眺めてみたい。[1][8]

寝言にも文章の骨組みは残る
言葉の研究でいう統語とは、単語をどのような順序や関係で文にするかという組み立てのことである。意味を扱う視点と併せて寝言を調べた成人の観察研究では、単語の数だけでなく、否定、命令、疑問、文の中に別の節を含む形、発話の切れ目などが分析された。寝言を、ただ音が鳴った出来事として数えるよりも細かな調べ方である。[1]
この研究には、睡眠時の異常行動がある人を中心に成人232人が参加し、夜間の映像と睡眠の検査を組み合わせて発話が記録された。18〜39歳の女性一般にも同じ特徴がどの程度現れるかは、この集団だけでは判断できない。集まったのは883の発話エピソードと、聞き取ることのできる3349語である。研究者はその内容を分析し、寝言の統語、意味、会話の交替には覚醒時の話し言葉と並行する特徴があると結論した。寝言にも、単語を関係づけて文を作る構造が見られた。[1]
たとえば、疑問の形は発話エピソードの26%に、従属節を含む形は12.9%に認められた。従属節とは、文の中で別の部分に従う節であり、文が単独の短い呼び声だけで終わらず、内部の関係を持ちうることに注目した指標だ。眠っている人の声にも、相手に尋ねる形式や、節を組み合わせる形式が現れる。[1]
ここで「文法を守る」は、学校の試験で全問正解するという意味ではない。研究の結論は、寝言の言語的な特徴が覚醒時の発話に似ているというものであり、すべての寝言が完全な文章だったという話ではない。整った部分があることと、どの言葉も正しく明瞭であることは別だ。台所で聞いたひと言だけを採点するより、記録全体に文章の骨組みがあるかを見る研究なのである。[1]
また、文章として成り立つことと、現実の出来事を正確に報告することも異なる。研究者は寝言の言語を、聞こえない他者との緊張した会話として特徴づけている。その相手とのやり取りが文らしく聞こえても、目の前にいる家族への発言と同じ条件には置けない。言語の形式を調べた結果を、発言内容の事実確認に転用しないことが大切だ。[1][8]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
聞き取れる言葉だけを寝言の全体にしない
すらすらした寝言ほど、朝の話題になりやすい。けれども、先ほどの成人研究では発話の59%が、つぶやき、叫び、ささやき、笑いなどの非言語的な発声に分類された。記録の過半は、明瞭な文章以外の声だった。言葉として分析できた3349語は、そうしたさまざまな声が混ざる記録の中から得られたものである。[1]
この割合を読むときには、何を分母にした数字かに注意したい。59%は参加者の割合ではなく、発話に関する割合である。26%という疑問の数字も発話エピソードについての値であり、寝言を言う人の26%だけが疑問文を使うという意味ではない。同じ研究から出た数字でも、「人」「声のまとまり」「節」は数えている単位が違う。[1]
研究参加者の背景も、数字と一緒に持ち歩く必要がある。232人の平均年齢は49.5歳で、女性は41%だった。レム睡眠行動障害のある人が129人、睡眠中の歩行や夜驚のある人が87人、健康な人が15人、ノンレム睡眠中に話した睡眠時無呼吸の患者が1人という構成である。主として睡眠中の異常な行動がある人を調べており、18〜39歳の女性全体への当てはめには対象の違いがある。[1]
したがって、この発話の分布を、そのまま立川で暮らす若い成人全体の寝言の分布とすることはできない。研究では男性のほうが多く話し、罵りの割合も高かったが、これを日常の男女の性格差に置き換えるのも飛躍である。まず対象集団の特徴を踏まえ、その集団で観察された言語の特徴として受け止めたい。[1]
一方で、この集団の言語分析には、発話の構造を詳しく知る役割がある。眠りの中の発話を細かく観察し、文の形や会話の間を検討したことに、この研究の役割がある。「一般の人にどのくらい起こるか」という問いと、「起きた発話はどんな構造か」という問いを分ければ、研究の使いどころが見えてくる。[1]
会話らしさは、話さない時間にも現れる
録音を文字にすると、単語が目立つ。会話を形づくるのは、発音と沈黙の両方だ。成人の発話分析は、声のまとまりの間にある空白や休止も調べている。そこで見られた見かけ上の会話交替は、通常の言語の間合いに沿っていた。眠っている人が話していない時間にも、会話らしい秩序があったという結果である。[1]
「見かけ上」と付くところを落としたくない。録音に残るのは眠っている人の声であり、現実の相手との応答を記録したものではない。話して、間を置いて、また話す。その並びが会話の順番に似ているのであって、現実の相手と意思疎通できたことを証明した研究ではない。声のない相手のために、発話の席だけが空いているような結果だ。[1]
疑問文があることも、同じ視点から読める。疑問の形式は、誰かに何かを尋ねるような構造を持つ。そこへ通常の会話に似た休止が加わると、寝言は単発の音よりも対話らしく聞こえる。ただし、疑問文があったことと、外から投げた質問を理解して正しく答えたことは同じではない。この研究が示したのは、睡眠中に生じた発話の特徴である。[1]
否定にも特徴があった。最も頻繁な単語は「いいえ」に当たる語で、否定は節の21.4%を占めた。疑問と否定はいずれもノンレム睡眠で多く認められた。これらは、研究者が寝言を緊張や対立を思わせる会話と捉えた背景になる。一晩の言葉の印象を、のんびりした独白だけで描くのは合わない結果である。[1]
しかし、否定が目立つことを「普段抑えている怒りがそのまま漏れる」と読み替えることはできない。節の形を数える分析と、人の隠れた動機を特定する作業は違う。聞いた側が責められたように感じても、まずは眠りの中に現れた対話形式として距離を取る。言葉が人に向かう形をしているからこそ、昼間の発言と同じ扱いを急がないほうがよい。[1][8]
罵りの出方にも、眠りの段階による違いが報告された。節の9.7%には罵りが含まれ、ノンレム睡眠で多かった。一方、レム睡眠では言葉による攻撃が長く続き、誰かを侮辱したり非難したりする方向が中心だった。ノンレム睡眠では悪態をつく形が優勢だった。強い言葉をまとめて「怒った寝言」と呼ぶだけでは、こうした発話の使われ方の違いが消えてしまう。[1]
これは、悪い言葉が出た回数だけを気にする読み方から離れる手掛かりにもなる。研究者が見ていたのは、言葉の種類に加えて、その長さや向かう先、睡眠段階との関係である。家庭で聞いた短いひと言に睡眠段階の札を付けることはできないが、同じように聞こえる寝言にも、記録して比べると違いがある。発話の形を丁寧に分けるほど、「寝言は全部同じ」という見方から離れられる。[1]
数字で読む寝言の言葉と間合い
232人:言語構造を分析した成人の人数。健康な参加者だけの集団ではない。[1]
883エピソード:夜間に記録された発話のまとまり。人数とは別の単位である。[1]
59%:非言語的発声の割合。聞き取れる文章だけを集めた記録ではない。[1]
26%:疑問が認められた発話エピソードの割合。人の割合とは異なる。[1]
12.9%:従属節が認められた発話エピソードの割合。文の内部の組み立てを見る数字だ。[1]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
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