運転の前の睡眠時間は何時間必要か。61の研究を集めた系統的レビューでは、前の睡眠が6〜7時間だと8時間以上より事故の起こりやすさが約3割高く、4〜5時間の一晩ではおよそ2倍だった。高速道路の試験では寝不足の後に車線のはみ出しが8倍に増えた。安全の線は言い切らずに読む。
土曜の朝7時、友人を乗せて山のほうへ出かける約束がある。前の晩は荷造りと動画で、眠ったのは2時。目覚ましは6時に鳴った。4時間の睡眠で、ハンドルを握ってよいのか。
何時間眠れば運転して安全か、その1本の線を、研究は引いていない。61の研究を集めた2023年の系統的レビューは、よく休んだ状態を、前の睡眠が8時間以上の状態とした[14]。それと比べて、前の睡眠が6〜7時間だと運転の成績にある程度の低下が見られ、事故の起こりやすさはおよそ30%高いと読んでいる[14]。4〜5時間の一晩の後では、運転の成績が大きく落ち、事故の起こりやすさはおよそ2倍だった[14]。前の睡眠が5時間に届かないと、運転の成績のはっきりした低下が見られる、ともまとめている[14]。
専門家の集まりは、もっと手前に一つの線を引いた。前の24時間に2時間以下しか眠っていない運転者は、車を運転するのに適さない、という合意である[15]。ただしこれは「それより眠っていれば安全」という意味ではない。同じ合意は、健康な運転者の多くは前の24時間の睡眠が3〜5時間でも運転の力が落ちているだろう、とも述べている[15]。冒頭の4時間は、そのどちらの数字にとっても、安心できる側にはない。前の晩の睡眠を、献血の会場や陸上の試合の側から読む記事は、同じ特集の別の回に譲る。

何時間眠ったら危ないのか:61の研究を集めた系統的レビュー
2023年の系統的レビューの問いは、題名そのものである。どれだけ疲れていたら、運転するには疲れすぎなのか[14]。
背景には、ある比べ方がある。運転者の疲れは、車の事故のおよそ20%に関わる要因だとされる[14]。お酒を飲んでの運転のような他の要因は、ここ数十年の教育と罰則で減ってきたが、疲れによる事故には同じような減りが見られない[14]。そこで、お酒の運転と同じように、前の睡眠の量に「この量を下回れば運転の力が落ちているとみなす」線を引けないか、という考え方を確かめようとした[14]。
4つの文献の集まりを調べ、重複を除いた1,940件を選り分けて、61の研究が入った[14]。条件は、前の睡眠の時間を測っていることと、車線のずれのような運転の成績の指標か、事故の起こりやすさのような結果を見ていることだった[14]。研究の型は、実験か準実験が21、ふだんの運転を記録した研究が3、縦断の研究が1、症例対照研究が11、ある一時点の調査が25である[14]。
結果は先に書いたとおりで、6〜7時間でのある程度の低下と約30%高い事故の起こりやすさ、4〜5時間の一晩で大きな低下と約2倍の事故の起こりやすさ、5時間未満で運転の成績のはっきりした低下だった[14]。成績の低下の程度は、使う検査によって違うと添えられている[14]。著者らは、これを、安全に運転するのに要る睡眠の量について社会の基準をつくるための、大事な第一歩だとしている[14]。
ここで注意したいのは、6〜7時間でも「低下が見られる」ほうに入っている点だ。比べる相手は8時間以上である。7時間眠ったから大丈夫、とこのレビューは言っていない。また、集まった研究の4割ほどは、ある一時点の調査である。実験か準実験の21を除く40は、睡眠を割り当てずに、ふだんの睡眠と運転の成績や事故の結びつきを記録して比べる観察の研究だ。約30%という値も、著者らは「見たところ」という言い方で示しており、6〜7時間の睡眠が事故を3割増やすと確かめた値とまでは読まないほうがよい。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
2時間以下は運転に適さない:専門家の合意の線
2016年に、睡眠の財団(National Sleep Foundation)が集めた専門家の作業部会が、居眠り運転についての合意を発表した[15]。睡眠の分野の専門家と、関係する団体から送られた専門家で部会をつくり、系統的な文献の検索で見つけた346の研究の要点を渡して読んでもらい、2回の投票で合意を探る手法をとった[15]。
最終の合意は、睡眠不足は運転者を車の運転に適さなくする、というものだった[15]。前の24時間の睡眠が最適より少なかった運転者で、運転の力が落ち、事故の危険が高まる証拠が増えていることを踏まえ、部会は、運転が確実に安全でないのはいつかを示す公の指針が要ると考えた[15]。そこで合意したのが、前の24時間に2時間以下しか眠っていない運転者は車の運転に適さない、という一文である[15]。部会はさらに、健康な運転者の多くは、前の24時間に3〜5時間しか眠っていないと運転の力が落ちているだろう、と合意した[15]。
2時間という線は、「確実に危ない」の線である。3〜5時間でも多くの人の力が落ちているだろう、という一文が隣にある。線の手前なら安心だと読むと、話の向きを取り違えることになる。

高速道路の1,000km:寝不足の後に、車線のはみ出しが8倍
実際の道路で試した研究がある。2005年の研究は、健康な男性22人(平均21.5歳、年に平均1万2,225km運転する人)に、睡眠を削った条件と削らない条件の両方で、順番を入れ替える交差の設計で運転してもらった[1]。舞台は睡眠の実験室と、一般の車も走るフランスの高速道路で、105分の区間を5回、10時間で1,000kmを走った[1]。各区間の前に、本人の感じる疲れと眠気を尋ね、ビデオで不適切な車線のはみ出しを数え、単純な反応の時間を測った[1]。
車線のはみ出しの合計は、睡眠を削った条件で535回、削らない条件で66回だった(発生の比8.1、95%信頼区間3.2〜20.5)[1]。増え方は最初の区間から出ていた[1]。睡眠を削った条件では、眠気の点数が上がるほど次の区間のはみ出しが増えた(発生の比1.9)が、削らない条件ではそうならなかった[1]。本人の感じる疲れは、どちらの条件でも、はみ出しの増え方と結びつかなかった[1]。
よく休んだ人は、短い休憩を4回挟んで1,000kmを走り、成績の低下はわずかだった[1]。睡眠を削った後は、起きている時間が8時間、1区間の運転が105分と比較的短いのに、成績が大きく落ちた[1]。睡眠を削った後の成績には、人による大きな差もあった[1]。著者らは、成績の低下は疲れではなく眠気と結びついていたとし、交通安全の呼びかけは、睡眠を削った後の運転を、短い移動であっても、とくに眠いと感じるなら避けるよう勧めるべきだとしている[1]。
ここで読み落としたくないのは、「疲れた」と「眠い」が別の物差しだったことである。疲れの自覚は、はみ出しの増え方を予測しなかった。眠気の自覚は、睡眠を削った条件で予測した。この試験から私が読むのは、運転の前に自分に尋ねるなら、疲れているかより眠いかのほうだ、ということである。
4時間の睡眠、一睡もしない夜、そしてお酒:模擬運転の比較
睡眠を削る量の違いを、お酒と並べて比べた研究もある。1999年の研究は、男性64人に、2時間の模擬運転をしてもらった[5]。条件は、検査の前の晩の睡眠を4時間に限る部分的な睡眠不足、前の晩に眠らない完全な睡眠不足、そしてお酒(血中のアルコールの濃さが平均0.07%)だった[5]。
完全な睡眠不足の群とお酒の群は、車線を保つ成績に、安全にとって重大な低下を示した[5]。4時間の睡眠の群は、運転の主な課題で、重大でない変化しか示さなかった[5]。
この結果は、一晩の4時間なら平気だという意味には読めない。先の系統的レビューは、61の研究を集めて、4〜5時間の一晩の後に運転の成績の大きな低下と、事故の起こりやすさの約2倍を見ている[14]。2時間の模擬運転の1本の研究と、多くの研究を束ねた読みが違うとき、重みは後者に置きたいと私は考える。
この研究にはもう一つ、印象に残る数字の並びがある。睡眠不足の2つの群は、どちらも本人が不快を感じ、自分の運転の力が落ちていると気づいていた[5]。お酒の群には、その自覚が見られなかった[5]。睡眠を削った人は、少なくとも自分の不調には気づいていた。
数字で読む寝不足と運転
- 約30%: 前の睡眠が6〜7時間のとき、8時間以上と比べて高かった事故の起こりやすさ。61の研究の系統的レビューの読み[14]。
- およそ2倍: 4〜5時間の一晩の後の事故の起こりやすさ。運転の成績も大きく落ちた[14]。
- 2時間以下: 前の24時間の睡眠がこれだけだと運転に適さない、とした専門家の合意の線。3〜5時間でも多くの人の力が落ちているだろうとした[15]。
- 535回と66回: 高速道路の1,000kmで、睡眠を削った条件と削らない条件の車線のはみ出しの合計。発生の比は8.1[1]。
- 1.9: 睡眠を削った条件で、眠気の点数が上がるごとに次の区間のはみ出しが増えた比。疲れの自覚では増えなかった[1]。
- 0.07%: 模擬運転の比較で、完全な睡眠不足と同じく車線を保つ成績に重大な低下を示した、お酒の群の血中のアルコールの濃さの平均[5]。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
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