陸上の試合前の睡眠時間は?眠れなかった前夜と記録の関係を競泳や超長距離の選手の研究で読む

陸上の試合前の睡眠時間は何時間か。この1年に一度でも大事な試合の前の晩に眠りが悪くなった選手は調査で64%、前の晩の睡眠が8時間の目安を大きく下回った研究もある。記録との関係は割れ、競泳では長く眠るほど速い傾向が出た一方、乱れた眠りと成績に有意な関係がなかった研究もある。

大会の前の晩、布団に入ってから、明日のスタートの合図を頭の中で3回聞いた。時計は0時を回っている。眠れなかったら記録が落ちるのではないか。そう考えるほど、目はさえていく。

試合の前の晩に何時間眠れば記録が出るか、その時間を決めた研究は、この記事で読んだ中にない。陸上の短距離や跳躍、投てきの選手で前の晩の睡眠と記録を測った研究も、この記事で読んだ中にはない。分かっているのは、まず、前の晩に眠りが悪くなる選手が多いことだ。オーストラリアの一流の選手283人の調査では、64.0%が、この12か月に少なくとも一度、大事な試合の前の晩に眠りが悪くなったと答えた[2]。別の研究の103人の選手は、試合の前の晩、健康な大人に勧められる8時間の目安を大きく下回る睡眠しかとっておらず、70%近くがふだんより悪い眠りだった[4]。

そして、その夜が記録をどれだけ左右するかは、研究で割れている。103人の研究では、乱れた眠りと、その後の試合の成績の間に有意な関係はなかった[4]。オリンピックの競泳選手8人を試合の前から後まで測った研究でも、睡眠の指標と本人の中での成績の動きに有意な結びつきはなかった[16]。一方、大学の女子競泳選手11人の研究では、前の晩の睡眠時間が長いほどレースが速い、という結びつきの確率が高く出た[13]。一晩の寝不足で崩れやすかったのは、走る速さよりも、テニスのサーブのような技術の正確さだった[9][11]。前の晩の睡眠を、献血の会場や運転の危険の側から読む記事は、同じ特集の別の回に譲る。

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大事な試合の前の晩、選手の6割が一度は眠りにくくなった

2015年の研究は、選手の言い伝えから始まる[2]。大事な試合の前の晩は眠りが悪い、と多くの選手が口にする。それなのに、試合の前後の選手の眠りはほとんど分かっていなかった、と著者らは書く[2]。

調べたのは、オーストラリアの一流の選手283人(平均24歳)で、競技と睡眠の質問紙と、睡眠の質を測る質問紙の2つに答えてもらった、ある一時点の調査である[2]。64.0%が、この12か月の間に少なくとも一度、大事な試合の前の晩に眠りが悪くなったと答えた[2]。いちばん多い問題は寝つけないことで(82.1%)、理由として挙がったのは、試合のことを考えてしまうこと(83.5%)と、緊張(43.8%)だった[2]。

眠れない夜への備えには、競技による差があった。チームの競技の選手は59.1%が、悪い眠りを乗り越える方法を何も持っていないと答え、個人競技の選手(32.7%)より多かった[2]。個人競技の選手は、リラックスと読書を方法として使っていた[2]。個人競技の選手は、年齢が上がるほど悪い眠りになりやすかった[2]。

大事なのは次の一文だと私は思う。選手が答えた試合の前の悪い眠りは、ふだんからの眠りの問題ではなく、その場面に限ったものだった[2]。著者らは、大きな試合の前の悪い眠りはよくあることなのに、多くの選手がそれを乗り越える方法を知らないと結論し、指導者と研究者が見守り、教えることが欠かせないとしている[2]。

試合の前の晩に眠れない夜は、一流の選手の6割が一度は通った道である。

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前の晩は何時間眠っているのか:8時間の目安との距離

2014年の研究は、103人の選手の、試合の前の晩の眠りを調べた[4]。前の晩の睡眠は、健康な大人に勧められる8時間の目安を大きく下回っていて、70%近くの選手が、ふだんより悪い眠りだった[4]。眠りを乱した理由として多く挙がったのは、不安、物音、トイレに起きること、そして試合の開始が早いことだった[4]。

一方で、正反対に見える数字もある。選手の眠りを扱った2026年の総説は、ある研究で、試合の日の前の晩の選手は、早めに寝床に入り(22時56分)、遅めに起き(8時12分)、長めに眠っていた(7時間57分)と紹介している[19]。総説は、試合の後の夜は、試合の前の夜より睡眠時間と質が下がるとも書く[19]。

前の晩に長く眠った研究と、短く悪い眠りだった研究。どちらも本当で、選手と大会が違えば夜も違うのだろう。それにしても、長く眠ったほうの夜でさえ7時間57分で、8時間に3分届いていない。

超長距離の走者でも、似た数字が出ている。ブラジルの山岳の超長距離のレース(135kmと217km)に出た男性15人に、手首の活動量計を、レースの前の7日間、レースの間、後の7日間着けてもらった研究がある[17]。記録がそろったのは13人で、レースの前も後も、多くの選手が8時間未満の睡眠で、眠りの効率が低く、寝ついた後に目覚めている時間が長かった[17]。レースの前の晩の睡眠は432.2分で、その前の週の409.8分より長い傾向があったが、有意ではなかった(P=0.058)[17]。

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前の晩の乱れた眠りは、その日の成績と結びついたか

では、悪い眠りは記録に響いたのか。先の103人の研究は、前の晩の眠りと、試合の直前の気分、試合の成績の関係を調べた[4]。

気分の側には結びつきがあった。前の晩のふだんと比べた眠りの質が悪いほど、また睡眠時間が短いほど、試合の前の疲れと緊張の気分が強かった(相関係数は−0.20から−0.28)[4]。眠りの質がよいほど、活力の気分が高かった(0.24)[4]。ただし、眠りの質と気分の関係で説明できたのは、気分の点数のばらつきのおよそ4〜5%だった[4]。

成績の側には、結びつきが見つからなかった。乱れた眠りは、本人のふだんと比べた試合の成績と、有意な関係を示さなかった[4]。著者らの結論は、選手は試合の前の晩に眠りが乱れやすく、その乱れは試合の前の気分と悪い方向に結びつきうる、というものだった[4]。結論は気分についての言い切りで、記録が落ちるとは書いていない。

この研究は観察の研究で、眠りの悪い選手を選んで比べた実験ではない。それでも、乱れた前の晩の眠りと、ふだんと比べた成績の間に有意な関係が見つからなかったことは、試合の前の晩に不安になる人に伝えておきたい事実である。

競泳の実測:長く眠るほど速い傾向の11人、関係が見えなかった8人

眠りを機器で実際に測って、本番のレースの成績と比べた研究が2つある。どちらも競泳で、陸上ではない。

2026年の研究は、大学の女子競泳選手11人を調べた[13]。試合の前の晩に睡眠を測る機器を着け、短水路の200ヤード自由形に出場し、その前の28晩のうち21晩以上の有効な記録がある選手が対象だった[13]。睡眠時間、寝床にいた時間、睡眠の効率と、一人ひとりのふだんの値からのずれに直した夜の心拍の揺らぎと安静時の心拍を、公開されている記録のタイムと比べた[13]。

結果は、睡眠時間と寝床にいた時間が長いほどレースが速い、という確率が高く、睡眠が1時間増えるごとに少なくとも1秒速くなることを、データがかなり支持していた[13]。睡眠の効率、心拍の揺らぎ、安静時の心拍には、成績との意味のある結びつきの裏付けが乏しかった[13]。著者らは、試合の前に、眠る機会と時間を十分にとることの大切さを選手に教えるべきだとしている[13]。

もう一つは、2026年の、オリンピックの競泳選手8人の研究である[16]。ドーハの世界選手権、代表の選考会、2024年のパリ五輪の3つの大会で、試合の前、試合の期間、試合の後に、指輪型の機器で眠りの量と質、心拍の揺らぎ、安静時の心拍を測った[16]。睡眠の効率が、よく使われる85%の目安を下回ったのは、パリ五輪の試合の期間だけで、睡眠の総合点も下がり、安静時の心拍が上がった[16]。それでも、どの睡眠の指標も自律神経の指標も、本人の中での成績の動きと有意に結びつかなかった[16]。著者らは、人数の少なさがこうした関係を見つける力を制限していると添えている[16]。

11人と8人。どちらも小さな研究で、違う答えを出した。いまの時点で言えるのは、前の晩の睡眠が長いほど速いという結びつきを示した研究はあるが、陸上の選手で同じことを確かめた研究はこの記事の中にない、というところまでである。

数字で読む試合の前の晩

  • 64.0%: オーストラリアの一流の選手283人のうち、この12か月に少なくとも一度、大事な試合の前の晩に眠りが悪くなったと答えた割合[2]。
  • 83.5%: 眠りが悪くなった理由に、試合のことを考えてしまうことを挙げた選手の割合[2]。
  • 8時間: 103人の選手の前の晩の睡眠が大きく下回っていた、健康な大人の目安。乱れた眠りと成績に有意な関係はなかった[4]。
  • 7時間57分: 総説が紹介した研究で、試合の日の前の晩に選手が眠った時間。8時間に3分足りない[19]。
  • 1秒: 大学の女子競泳選手11人で、前の晩の睡眠が1時間増えるごとに速くなる幅として、データが支持した最小の値[13]。
  • 432.2分: 超長距離の走者の、レースの前の晩の睡眠。その前の週の409.8分より長い傾向だが有意ではなかった[17]。

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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宮川涼 Founder

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