タブレットの手書きも紙と同じように覚えられる?ペンの動きと記憶を比べる

タブレットにペンで書くと、紙より覚えにくいのか。医学生のノート比較では、事実と概念の想起成績に有意差はなかった。手書きと入力、紙と画面、脳の活動と試験の点数を分け、子どもの文字学習の研究も読みながら、大人がノートを選び、書いた内容を確かめる視点を考える。

資格講座で描いた図を、夕食後の机でもう一度開く。線も図も自分の手で書いたのに、紙のノートを使っていたころより覚えていない気がする。画面だからだろうか。それとも、きれいに整理できたところで勉強を終えたせいだろうか。

答えの芯は、タブレットだから記憶で不利になるとは決められない、である。医学生68人が講義の提示を受けてノートを取った比較では、タブレット、パソコン、紙への手書きの間で、事実や概念を思い出す成績に有意差はなかった。この結果は、道具の名前より実際の書き方と復習の仕方に目を向ける出発点になる。[15]

既存記事「手書きは記憶に残るのか、有名な実験を再現したら手書きの優位は支持されなかった」には、手書きと入力の再現実験という問いを譲る。ここで考えたいのは、ペンを使い続けながら書く場所を画面に移した大人が、何を手掛かりにノートを選べばよいか、という問いである。

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紙か画面かと、手書きか入力かを分ける

紙に書くときは、ペンを動かして文字を形づくる。タブレットでもペンで文字を形づくれる。パソコンではキーを押して文字を選ぶ。この場面を思い浮かべるだけでも、「デジタル」というひとまとめの分類では、手をどう動かしているかが見えなくなる。

研究を読むときも同じである。手書きと入力を比べた結果を、そのまま紙とタブレットの優劣に読み替えることはできない。神経画像研究をまとめたレビューは、手書きでは運動、感覚、認知に関わる広い脳領域のネットワークが活動し、学習や記憶保持における手書きの重要性を述べている。ここで対比される中心は、手書きという行為とキー入力である。[4]

「手を動かすことには意味がある」という説明と、「インクが紙に付かなければ意味がない」という説明は違う。前者を支持する議論があっても、そこから後者までは進めない。ペンを使うか、キーを使うか。書き込む先が紙か、画面か。まず比較の軸を分けると、研究の結果を自分の机へ持ち帰りやすくなる。[4][15]

さらにタブレットのノートには、文字を書く以外の使い方も混ざる。医学生の比較研究では、タブレット群に描画、強調表示、ほかのメディアや道具の利用が最も多かった。つまりこの比較は、画面の表面だけを取り替えた実験というより、それぞれの道具で実際に取られたノートを含む比較として読む必要がある。[15]

たとえば、講師の図を自分で描き直したページと、説明の文章をそのまま入力したページでは、道具だけでなく記録の内容も違う。結果に差が出たとしても、画面のせいなのか、図のせいなのかをすぐに決めることはできない。逆に差が出なかった場合も、あらゆる書き方が同じだとはならない。道具の名前の後ろに、どんなノートの取り方が入っているかを確かめたい。[15]

大人の勉強では、資料を持ち運べるか、あとで見つけられるか、といった使い勝手も選択に入るだろう。それらは自分の生活の条件として考えればよい。研究が測った想起成績と、自分が感じる便利さを同じ物差しにしないことで、便利だから覚えるはずだという期待も、画面だから忘れるはずだという不安も整理できる。

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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医学生の比較では、文字数の差が点数の差にならなかった

直接この問いに近いのが、米国の医学生を対象にしたノート比較である。研究は観察研究として報告され、68人が紙への手書き、パソコン、タブレットの群に分かれ、提示された内容についてノートを取った。その後、別の短い映像を挟み、事実と概念の想起を評価する30分の課題を受けた。同じ日の学習と評価である。対象は医学生であり、18〜39歳の女性全般の資格学習や仕事の学習にそのまま当てはめるには、学ぶ内容と評価までの期間の違いを考える必要がある。[15]

事実の想起とは何が述べられたかを思い出す側面、概念の想起とは内容の考え方に関わる側面、と捉えると読みやすい。研究では、その成績について群間の有意差は見つからず、検定の値はP=0.61だった。著者らは紙への手書きがタブレットやパソコンより優れているとはいえなかったとし、学生が好みに合う方法を選ぶことを支持している。[15]

一方、ノートの単語数には差があった。中央値はタブレットが131.5語、紙への手書きが121.0語、パソコンが297.0語だった。この違いは統計的に有意で、P=0.01である。中央値とは、値を順に並べたときの中央に当たる値だ。ここで数えているのは単語であり、日本語ノートの文字数へそのまま換算する数字ではない。[15]

興味深いのは、単語数では明確だった群の違いが、想起成績では有意な差として現れなかったことだ。講義をたくさん保存することと、講義の内容を取り出せることは、別々に確かめなければならない。この比較では、記録量に違いがあっても、事実と概念の想起成績に有意差は出なかった。[15]

とはいえ、「有意差がない」を「完全に同じ」と置き換えるのも早い。研究で差を検出しなかったことは、その対象と課題の結果である。別の分野の学習者が、別の内容を学び、期間を空けて受ける試験まで一括して同等だと保証する話ではない。紙が勝たなかったという結果を、今度はタブレットの万能説に使わないことが大切である。[15]

とくに、ペンでの手書きだけに操作をそろえた比較として読まない点は押さえたい。タブレット群では描画や強調表示なども用いられている。紙か画面かを切り分ける問いに近づく研究ではあるが、ペン先の動きが同一だったから成績も同一だった、と原因を説明することはできない。[15]

夕方の講座で考えるなら、ノートを取った直後に話せることと、試験の日に話せることも区別したい。この研究の結果から「タブレットを捨てなければ」と慌てる理由はない。一方で、ノートを取った当日の感触だけで長く覚えたと判定する理由にもならない。自分が確かめたいのが、保存した情報なのか、あとで説明できる知識なのかを先に決める必要がある。[15]

ペンで文字を形づくる研究は、何を比べたのか

手書きを支持する研究には、文字を学び始めた子どもの実験がある。ドイツの幼稚園に通う子どもを対象に、アルファベット8文字を16回の練習で学ぶプログラムが組まれた。紙にペンで書く群と、キーボードで入力する群で、できるだけ対応した文字学習ゲームを行った研究である。文字を学び始めた幼稚園児の成果を、18〜39歳の女性の講義内容の記憶にそのまま当てはめることはできない。[1]

文字の認識、名前を言うこと、文字を書くこと、単語を読むことや書くことが評価された。入力練習が手書き練習を上回る課題は見られず、単語を書く課題では手書き群が優れ、単語を読む課題でも手書きが優れる傾向があった。著者らは、行為と知覚が結びつき、手書きによる感覚と運動の表象が読み書きを助ける考え方を支持している。[1]

ここには、文字を選ぶだけでなく、自分の動きで形をつくるという手書きの特徴がある。ただし、この実験が比べたのは紙への手書きとキーボード入力だ。紙への手書きとタブレットへの手書きの差を調べたものではない。また、文字を学び始める子どもの単語を書く力を、大人の講義内容の記憶と同じ成果として扱うこともできない。[1]

神経科学のレビューも、手書きが幅広い運動・感覚・認知処理に関わることを説明し、教育における手書きの役割を重視する。これは手書きを残す理由になる議論だが、「活動する脳領域が広ければ、どんな試験でも必ず高得点になる」という採点表ではない。医学生のノート比較で有意差がなかった結果とも、測っているものを分けて並べる必要がある。[4][15]

タブレットのペンを手にした人に必要なのは、手書きの議論から自分を追い出さないことだ。同時に、ペンを握っているだけで学習が完成すると期待しないことでもある。形をつくる動作の話、書き方の熟練の話、講義を思い出す話には、それぞれ異なる研究の問いがある。似た言葉を同じ成果にまとめないほうが、自分の困り事に合う根拠を選べる。[1][4][15]

数字で読むタブレットと手書き

68人:医学生のノート比較に参加した人数。紙、パソコン、タブレットを比べた。[15]

P=0.61:事実・概念の想起成績に有意な群間差は見られなかった。[15]

131.5語と121.0語:タブレットと紙への手書きの単語数の中央値。パソコンは297.0語だった。[15]

8文字・16回:幼稚園児の手書きと入力の比較で学んだ文字数と練習回数。成人の講義試験とは対象が違う。[1]

25件:高等教育のデジタルノートを扱うレビューに採用された研究数。主な論点は記録の構造や共同作業だった。[7]

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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宮川涼 Founder

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