ハグで免疫力は上がる?風邪の実験から感染と症状の強さを分けて読み解く

ハグをすれば風邪を防げるのか。健康な成人404人を調べた研究から、対人ストレスと感染しやすさ、感染後の症状を分けて読む。ハグが説明した32%の意味、支えられている感覚との関係、触れ合いを実験で増やしたわけではない点を確かめ、日常での受け止め方を考える。

言い争いのあった日に、親しい人からハグを受ける。ぎくしゃくした気持ちがほどけたとき、「これで免疫力も上がるのだろうか」と考えるかもしれない。その問いに近づくため、研究者は人々の普段のハグを調べ、その後で風邪のウイルスに曝露する研究を行った。[1]

結果は、ハグの回数を増やせば誰でも風邪を防げる、という単純なものではない。ハグは、対人葛藤が多いときの感染リスクの高まりを和らげる関連を示した。また、感染した人の中では、ハグが多かった人ほど病気の徴候が軽いという関係があった。感染することと、感染した後にどの程度の徴候が出るかは、分けて読む必要がある。[1]

既存記事「ハグの効果は医学的にどこまで?血圧とオキシトシンの実験を読む」に生理反応の話を譲り、ここでは風邪を調べた研究の組み立てを追う。「免疫力」という大きな看板を、実際に観察した感染と病気の徴候まで近づけて眺めると、期待してよい範囲が見えてくる。[1]

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風邪の実験の前に、普段の人間関係を調べた

中心となるのは、2015年に発表された健康な成人404人の研究である。研究者は、周囲から支援を受けられると感じているかを質問紙で尋ねた。さらに14日間連続で、毎晩の電話によって、その日の対人葛藤とハグを受けたことを調べた。日常の関係を先に記録してから、ウイルスへの曝露へ進む構成だった。18〜39歳の女性にそのまま当てはめられるかは、この健康な成人全体の結果だけでは判断できない。[1]

ここでいう支援は、研究者が参加者に渡したサービスではない。参加者本人が、周囲に支えてもらえると感じている程度である。一方のハグは、実際に受けた接触についての記録だ。「困ったら頼れる」と思えることと、日々の生活で抱きしめられることを、別々の手がかりとして扱っている。[1]

対人葛藤を尋ねている点も大切だ。研究の問いは、触れ合いが多い人と少ない人をただ並べるだけではない。人との衝突が多くなったとき、感染しやすさとの関係が、支援の感覚やハグによって違うかを調べている。人間関係を負担の側と支えの側から見ているのである。[1]

例えば、夕方の立川駅で、今日の会議のやり取りを思い返す場面を考えてみる。同じ帰り道でも、「誰にも相談できない」と思う日と、家に話を聞いてくれる人がいると思える日では、生活の文脈が違う。これは研究結果を生活に置き換えるための例であり、駅での気分を調べた研究ではない。実際の調査は、質問紙と連夜の電話で支援、葛藤、ハグを記録したものだ。[1]

その後、参加者は風邪を起こすウイルスに曝露され、隔離下で感染と病気の徴候を追跡された。普段のハグを尋ねただけで終わらず、その後の感染を確認した点に、この研究の読みどころがある。少なくとも「抱きしめられると健康によさそうな気がする」という感想だけを集めた話ではない。[1]

ただし、健康な成人の結果であることは残る。子どもや持病のある人の風邪、さまざまな感染症へ、そのまま同じ答えを配ることはできない。研究の対象を添えるのは、期待を小さくするためではなく、誰についての話かを明らかにするためだ。健康な成人を調べた結果として読むのが出発点になる。[1]

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感染しやすさと、感染後の徴候は別の結果である

研究では、対人葛藤の頻度が高くなることに伴う感染リスクの上昇に対し、支えられているという感覚が保護的な関係を示した。ハグにも同様のストレスを和らげる関連が見られた。著者が注目したのは、人間関係の負担と感染の間にある結びつきが、支えの有無によって異なることだった。[1]

この結果を「ハグした人は全員、風邪をひきにくかった」と読むと、条件が抜ける。焦点は、葛藤が増す状況でのリスクとの関係である。対人ストレスを背景として読むと、ハグが社会的な支えを伝えるのかもしれない、という著者の解釈につながる。単に体を接触させる回数を競う話とは、問いの形が違う。[1]

もう一方の結果は、感染した参加者に限った分析である。その中では、支援を感じている程度が高いことと、ハグの頻度が高いことが、それぞれ病気の徴候の軽さを予測した。感染の有無を比べる分析と、感染者の中で徴候の程度を比べる分析は、同じ研究の中にある別の窓だ。[1]

この区別は、日常の「風邪に強い」という言葉を読み直す助けになる。感染しなかったことを指すのか、感染したが徴候が軽かったことを指すのかで、知りたい結果が変わる。研究はその両方を扱っているが、後者の関連を前者の予防効果へ置き換えることはできない。[1]

また、感染者の中で軽い徴候と関連したからといって、風邪をひいてからハグを増やす治療が確かめられたことにもならない。ハグの調査は、ウイルス曝露の前に行われている。時間の順序を見失わないことが、結果を実践へ急いで移すのを防ぐ。研究に登場するハグは、発病後に研究者が処方したものではない。[1]

「免疫力が上がる」という言い方は、この異なる結果をひとまとめにしやすい。今回の研究から具体的に話せるのは、葛藤と感染の関連、支援やハグによるその違い、感染後の徴候との関係である。結果の名前をそのまま使う方が、何が分かったのかを読み手と共有しやすい。[1]

32%は、風邪を防いだ人の割合ではない

この研究で目を引くのが、32%という数字だ。ハグは、支援によるリスク上昇の緩和効果の32%を説明した、と報告されている。分母は参加者の人数でも、風邪を防げた人数でもない。支援と関連した緩和効果のうち、ハグが説明した部分を示す数字である。[1]

したがって、「ハグで風邪が32%減る」という見出しにはできない。「32%の人が感染を免れた」「免疫が32%強くなった」という意味でもない。数字だけを切り出すと、元の研究とは違う効能が完成してしまう。小数点がなくても、数字には取り扱いの向きがある。[1]

この割合は、支援という広い概念と、ハグという具体的な行為の関係を考えるための手がかりだ。著者は、ハグが社会的支援を効果的に伝える可能性を示唆している。触れることそのものを、周囲との関係から切り離して説明するよりも、支えが届く行為として理解する方向の結論である。[1]

ただし、ハグで説明された部分があることと、支援のすべてがハグになることは違う。家族や友人に頼れる感覚を調べた質問と、毎晩尋ねたハグの記録は、それぞれ別の測定として置かれていた。その違いを残して読むからこそ、「抱きしめる」という目に見える行為と、「支えがある」という本人の認識の両方を考えられる。[1]

研究の順序を、帰宅後の会話に置き換えてみよう。「よくハグするから今年は丈夫だ」と話す場合、触れ合いと風邪の記憶を同時に振り返っている。この研究では、先に日々の人間関係を尋ね、その後にウイルスへの曝露と追跡を行った。記憶の中の健康自慢とは、情報を集める順番が違う。後から感染を確認する構成が、日常の支援との関連を検討する土台になっている。[1]

その一方、電話でハグを尋ねることは、抱きしめられる状況を研究室で作ることとは異なる。参加者は日常の中でハグを受け、その出来事を報告している。質問紙で測った支援も、誰かに支えるよう命じて作った条件ではない。この点を押さえると、手順が丁寧であることと、ハグだけの因果効果を確かめたことの違いが理解しやすい。[1]

もうひとつ面白いのは、人との関わりが負担にも支えにもなっている点だ。研究では、葛藤が増えるほど感染リスクが高まる関連に、支援やハグがどう関わるかを調べた。同じ「人付き合い」という箱の中でも、言い争いと、支えてもらえる感覚をまとめて数えてはいない。親しい人がいるかどうかだけでは拾いきれない日々の出来事に、研究の視線が向いている。[1]

このため、ハグの有無だけを健康診断の項目のように扱うより、「負担のあるときに支えがどう届いていたか」という問いを残したい。これは研究の結論を日常へ受け止めるための読み方である。著者が示唆したのも、ハグが社会的支援を伝える可能性だった。感染という体の結果を調べながら、結論の先には人との関係がある。[1]

数字で読むハグと風邪の研究

404人:中心となる研究に参加した健康な成人の人数である。[1]

14日間:ウイルスへの曝露前に、対人葛藤とハグを毎晩の電話で調べた期間である。[1]

32%:支援に伴う緩和効果のうち、ハグが説明した割合であり、風邪の予防率ではない。[1]

2015年:感染と病気の徴候を調べたこの研究の発表年である。[1]

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宮川涼 Founder

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