くるみを刻んで瓶に入れると、油は酸化し、香りまで変わるのか。すり潰して取り出した油の粒の脂肪酸、脱脂の温度で動く粒子と酸化、保存中の過酸化物価・揮発成分・酸価を分けて読む。細かいほど必ず酸化するとは限らず、界面の膜が酸化を抑えた例もあわせて整理する。
まな板に散ったくるみを、包丁の腹で集めてガラス瓶に移した。翌週の間食に、つまめる大きさで置いておきたい。白い断面が増えたところで手が止まる。細かくしたぶん、油は空気に触れて傷み、においまで変わるのだろうか。
答えの芯は、細かければ必ず酸化が進む、ではない。実を水とともにすり潰して油の粒を取り出した実験では、その粒の脂質の70.1%が多価不飽和脂肪酸だった。対象は食品の粒子で、油の粒の組成と、乳化液が保存中に分離しないかを調べた研究である。18〜39歳の女性が食べたときの体重や健康への影響には、そのまま当てはめられない。別の実験は、実の保存中に過酸化物価、揮発成分、味や色、酸価を、それぞれ別の指標として測っている。[2][12][4][10]
加熱して香ばしさを出す話は、既存記事「間食のくるみは焼くと脂質が変わる?香ばしさと酸化の進み方を研究で読み解く」に譲る。種類の違うナッツを同じ袋に入れたときの香りの移動は、既存記事「ダイエットのナッツは一緒に保存すると香りが移る?袋の変化と栄養を分けて読む」の問いである。こちらは、刻む・挽く・粒子を小さくしたあとに、油とたんぱく質と保存の指標がどう分かれているかを読む。

すり潰して出る油の粒は、もともと多価不飽和脂肪酸が多い
食品用の乳化液に使うため、くるみの実の油の粒を水で抽出した研究がある。油の粒はオイルボディ、別名オレオソームと呼ばれ、油を芯にして外側を膜で包んだ天然の粒子である。抽出は、実をすり潰す水性の工程で油の粒とたんぱく質を一緒に取り出し、遠心分離で油の粒を回収する手順だった。家庭の包丁と同じ道具ではない。実を砕いて、中の油を外から扱える形にする、という点で、瓶に入れる前の刻む作業と並べて読める実験である。[2]
回収された油の粒は球形で、平均直径は5.1±0.3µmだった。油の芯は、脂質の0.16%にあたるリン脂質の層と、その層に埋め込まれたたんぱく質に包まれている。脂質のうち多価不飽和脂肪酸は70.1%で、内訳はオメガ6のリノール酸が57.8%、オメガ3のα-リノレン酸が12.3%だった。この二つは、トリアシルグリセロールのsn-2位にある脂肪酸のうち、それぞれ68%と11.6%を占めた。主なトリアシルグリセロールはトリリノレインで、23.1%である。sn-2位とは、油脂の分子の骨格のうち、真ん中の位置についた脂肪酸を指す呼び方だ。[2]
油の粒には、脂肪酸のほかにも成分が含まれる。ステロールは脂質1kgあたり1223±33mgで、その86%がβ-シトステロールだった。カロテノイドは0.62±0.01mg/kgで、49.2%がβ-カロテン。トコフェロールは322.7±7.7mg/kgで、89%がγ-トコフェロールだった。研究は、これらを健康に関わる成分としての関心を裏づける組成だと報告している。1223mgと0.62mgは、同じ「脂質1kgあたり」に並ぶ数字である。これらは成分量の数字であり、刻んだあとの保存性の評価とは区別する。[2]
トコフェロールがあるという組成を、刻んで常温に置いても酸化しない、という保存の結果には読み替えない。この研究が見ている保存は、粒子が液の中で分かれたままかどうかである。高圧で均質化して油の粒を小さくすると相分離は避けられた一方、pH、塩化ナトリウム、塩化カルシウムのもとでは油の粒が凝集し、物理的な安定は下がった。どちらも過酸化物の増減ではなく、液の中の別れ方の話だ。包丁は、その高圧の装置ではない。[2]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
粒子が小さいことと、酸化が少ないことは同じ実験ではない
脱脂の方法を比べた研究は、くるみミールから取ったたんぱく質を対象にしている。低温の亜臨界ブタン抽出で脱脂したたんぱく質は、従来の高温圧搾で得たものと比べ、分子の並びがより秩序立ち、酸化と凝集が少なかった。平均粒子径は7.25µmに対して147.50µm、溶解度は66.93%に対して51.88%、熱変性温度は105.58°Cに対して95.96°Cだった。抗酸化活性は高温圧搾と比べ、ABTSで49.26%、DPPHで157.19%、ヒドロキシルラジカルの消去で35.33%高かった。[8]
小さい側に、酸化の少なさも一緒に乗っている。ただし粒子径だけを変えた実験ではない。脱脂の温度と取り出し方が違い、粒子径、酸化、凝集、溶解度、熱への強さがまとまって動いた。小さいから酸化しなかった、と一文に圧縮すると、並んだ特徴を潰す。[8]
泡立ちと乳化では、結果の向きが逆だった。高温圧搾のたんぱく質で見られたほどけと凝集は、泡立ちと乳化の向上と結びついていた。酸化が少なく粒子が小さい低温脱脂のほうが、泡や乳化では勝たなかった。間食のくるみを「細かいほど良い」「粗いほど良い」と片方の言葉で決められないのは、品質の項目が一つではないからである。147.50µmでも、包丁で刻んだ角の大きさよりずっと細かい粉の尺度にとどまる。[8]
別の加工では、化学的な修飾を使わず、50〜65°Cの連続した相転移による抽出のあと、メディアミルで6時間粉砕して脱脂くるみ粉の粒子をつくっている。メディアミルは、媒体とともに材料を細かくする粉砕である。粒子は球形で、平均の大きさは753.0±27.8nmだった。成分はたんぱく質が55.6±0.2重量%、炭水化物が24.0±0.2重量%である。この粒子で安定化したピッカリング乳化液の油滴は、目視と共焦点レーザー顕微鏡で、3カ月の保存にわたって安定だと示された。[5]
水相の粒子濃度を上げると、乳化された相の体積は増え、油滴は小さくなり、貯蔵弾性率G’は上がった。G’は、力をかけたときに形が戻ろうとする固体っぽさの目安である。油の体積分率を上げると、乳化相の割合と油滴は大きくなり、流動体に近い挙動からゲルに近い挙動へ移った。著者はこの方法を、くるみの抽出物から食品用の安定な乳化液をつくる道筋として位置づけている。[5]
3カ月は、酸化が進みにくい月数ではない。油滴が分離せず形を保った、という物理的な観察である。過酸化物価の日数と、この3カ月を同じ「もつ期間」として引き算しない。[5]
脂質の酸化物は、品種ごとにたんぱく質の性質を動かす
四つの栽培品種から分けたくるみたんぱく質に、異なる脂質の酸化物を作用させた比較がある。主なたんぱく質はレグミンB様と11Sグロブリン様で、論文中の呼称でXXWPIと呼ばれる品種のたんぱく質は、固有のたんぱく質を最も多く含んでいた。三つの模擬的な酸化の系で、動き方は品種ごとに違った。たんぱく質の溶液に脂質の酸化物を触れさせた実験である。[19]
カルボニル価、遊離のスルフヒドリル、内在蛍光の強度が最も大きく動いたのはYBWPIだった。二次構造の変化が明瞭だったのはSTWPIである。NQWPIはサブユニットがほどける脱重合が独特で、溶解度と外来蛍光の強度が大きく変わった。乳化と粒子径の変化が最も大きかったのはXXWPIだった。11Sグロブリン様と、キュピン1型ドメインを持つたんぱく質(識別子A0A833YDI2)は、主要な脂質酸化物との親和性が強かった。[19]
酸化のあと、レグミンB様たんぱく質の回転半径と、溶媒に接する表面の総面積は明らかに減った。検索の語でいう表面積にいちばん近い数字は、ここにある。ただしそれは、刻んだ実の断面ではなく、酸化を受けたたんぱく質の分子が、どれだけ溶媒に顔を出しているかである。分子の表面が減ったことを、包丁をしまう理由にはしない。尺度が違う。[19]
油の酸化で生じたものは、くるみのたんぱく質の形、溶けやすさ、乳化のしやすさまで動かしうる。四品種のどれが手元の袋に入っているかは、呼称からは指定できない。品種で反応が違うという結果を、市販のすべてが同じ幅で変わると読むこともできない。[19]
数字で読むくるみの粒子と酸化
70.1%:水性抽出で回収したくるみ油の粒の脂質のうち、多価不飽和脂肪酸が占めた割合である。リノール酸57.8%とα-リノレン酸12.3%がその内訳だった。[2]
5.1±0.3µm:同じ油の粒の平均直径である。高圧でさらに小さくすると、保存中の相分離は避けられた。[2]
7.25µmと147.50µm:低温の亜臨界ブタン脱脂と高温圧搾で得たくるみたんぱく質の平均粒子径である。小さい側で酸化と凝集は少なかった。[8]
753.0±27.8nm:50〜65°Cで抽出したあと6時間粉砕した脱脂くるみ粉の粒子の平均サイズである。乳化液の油滴は3カ月の保存で安定と観察された。[5]
1.48±0.09mmol/kg:くるみミールたんぱく質とグアーガムを使った低脂肪アイスクリームの、短期保存9日目の過酸化物価である。同じ時点の酸価は1.92±0.07mg/gだった。[9]
100%:可視・近赤外と近赤外のスペクトルで、6カ月保存と18カ月保存のくるみを分類した正解率である。酸価の予測の決定係数は0.9694だった。[10]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
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