腕の重さは何キロか。投げる動作の研究は平均的な大人の上腕を2.1kgと書くが、片腕が体重の何%かは、だれをどう測った表かで変わる。遺体の値、全身の画像、推定の式でずれる理由を、子ども688人、働く男女280人、若い女性28人などの研究で読む。
中央線の夕方、つり革に片手を預けたまま立川まで揺られる。降りるころ、上げていたほうの肩だけが妙に重い。腕は、いったい何キロあるのだろう。
片腕の重さを、だれにでも当てはまる1つの数字で示した研究は、この記事で読んだ中にはない。手がかりになる数字はある。投げる動作をコンピューターで再現した2021年の研究は、平均的な大人の上腕、つまり肩から肘までの質量を2.1kgと書いている[20]。人を測った結果ではなく、シミュレーションの中で比べる目安として書かれた値である。前腕と手は、この2.1kgに入っていない。
もう一つの芯は、「腕は体重の何%」という言い方そのものの揺れである。大人を測った表で子どもの部位の質量を出すと、子どもの表との差は平均12%あった[9]。働く大人の部位の値(質量や重心の位置など)を1996年の方法で予測すると平均の誤差は最大60%で、全身の検査のデータから新しく作った式では平均5%以内だった[17]。何%かは、だれを、どう測った表を使うかで動く。

生きている人の腕は、外して量れない
部位ごとの重さを本気で知りたがるのは、主に体の動きを計算する研究者である。動きの記録から関節にかかる力や関節を回す力(モーメント)を逆算するには、各部位の質量と重心の位置が欠かせない[3]。人間工学や体の力学のモデルで、関節や筋肉にかかる力を見積もり、けがの危険を評価するときにも使われる[17][19]。
困るのは、生きている人の腕を肩から外して秤に乗せるわけにはいかないことだ。部位の質量や重心は、遺体を使う方法か、生きている人を使う方法で見積もられてきた[3]。2009年の研究は、いまの臨床の方法には、もとの体の計測をした集団と似た人にしか当てはまらないという限界があると指摘した[3]。そのうえで、力を測る板(フォースプレート)を使い、一人ひとりの部位の質量と重心を直接求める簡単な方法を示している[3]。
この方法を、痩せ型、ふつう、肥満の人で試すと、どの部位の値も、ほかのよく知られた方法の範囲に収まった[3]。そして、上腕、脚、足の、体重に対する部位の質量の割合は、体型のグループの間で有意に違った[3]。同じ「上腕」という名前の部位でも、体重に占める取り分は体型によって同じではない。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
古い遺体の値は、生きた体の数字とずれていた
部位の重さを確かめる方法は、遺体から、生きている人の体を写す方向へ移ってきた。1986年に報告された「ローレンシャン生体力学発達研究」は、4〜15歳の男の子12人を3年追い、合わせて36回の観察をした[1]。体を幅2cmの楕円の帯の積み重ねで表し、文献にある部位ごとの密度を当てはめて、14の部位の質量や重心の位置を計算している[1]。体重から見た誤差の平均は0.203%だった[1]。
年齢が上がるにつれて頭の割合が下がり、その分を、とくに太もも、すね、足、上腕の割合の増加が埋めていた[1]。こうした傾向の大きさと傾きは、日本の子どもを一時点で調べた研究とおおむね合っていた[1]。
15歳の予測値は、ガンマ線で体を走査した健康な若い大人の値とも比べられ、多くの項目でよく一致するか、違いを筋道立てて説明できた[1]。ところが、昔から使われてきた年配の人の遺体の値は、これらとかなり食い違っていた[1]。若い生きた体の数字が、年配の遺体の数字と合わない。言われてみれば当然のずれが、計算の土台に入っていたことになる。
この記事で読んだ新しい研究には、2種類のエネルギーのX線で全身を写すDXAという検査を使って、部位の質量を出したり確かめたりするものが多い[14][16][19]。体の表面を3Dでスキャンする研究もあり、2025年の研究は2.9〜12.7歳の子ども688人を写して、男女を分けて推定の式を作った[8]。

子どもの腕を、大人の表で計算すると
大人の値をそのまま子どもに当てはめられない、というのは1986年の研究の出発点でもあった[1]。2023年の研究は、それがどれくらいずれるのかを確かめた[9]。いくつかの大人の計測表から子どもの部位の質量、重心の位置、横の軸まわりの回りにくさ(慣性モーメント)を計算し、1986年の子どもの表と比べたのである[9]。
すべての表を合わせて見ると、子どもの表との差の平均は、部位の質量で12%、重心の位置で12%、慣性モーメントで25%だった[9]。差がいちばん大きかったのは、頭、手、足の部位である[9]。大人の表のうち、2018年と1996年に発表された2つの表が、子どもの表に比較的近かった[9]。
2025年の3Dスキャンの研究では、体重に対する部位の質量の割合を、式から高い精度で予測できた[8]。年齢とともに、頭と首、お腹の割合は下がり、太ももの割合は上がった[8]。著者らは、12歳までの、男女の数がそろった大きな集団で部位の値の推定式を包括的に示した初めての研究だと位置づけている[8]。
女性の腕は、男性の多い表で計算されてきた
2023年の比較には、もう一つの結果がある。女性のデータでは、大人の表と子どもの表の差が男性より大きかった[9]。著者らは、比べた大人の表の多くが主に男性を測って作られていたことが、その理由として考えられると書く[9]。
女性向けの推定の方法が足りないことは、2018年の研究の出発点でもあった[16]。この研究は、体を56個の幾何学の立体で組み立てるモデルを作り、立体を31個、16個に減らしたモデルとも比べて、若い女性28人で確かめた[16]。部位の質量の誤差は、すべての部位で0.5kg未満だった[16]。太もも、前腕、足、手は31個に減らしたモデルでも十分に表せたが、胴体には56個の立体が必要だった[16]。前腕や手は少ない部品で写せても、胴は細かく刻まないと合わない。
男女の差そのものも測られている。体組成のいろいろな男性33人と女性43人をDXAで調べた2021年の研究では、男性のほうが手、前腕、上腕の質量が大きかった[14]。女性では、肥満の程度が強いグループ(肥満2度・3度)で、上腕の重心がふつうの体重のグループより手先の側にあった[14]。
体型と年齢で、腕の取り分は違う
体重が多い人は、腕も同じ割合で重いのか。手と前腕について、2021年の76人の研究の答えは逆向きだった[14]。BMIの大きいグループほど、体重に対する手と前腕の質量の割合は小さく、胴・首・頭の割合は大きかった[14]。体重の多い人ほど、手先もそれに比例して重いわけではないらしい。
同じ研究は、BMI、身長、体重、性別という簡単な値だけで上腕の質量を予測する式も作った[14]。この簡単な式で説明できたばらつきは、決定係数で0.1にとどまり、ほかの体の計測を足した式では0.43まで上がった[14]。上腕の質量は、体重と身長だけでは読みにくく、計測を足すと予測がはっきりよくなる部位だった。
もっと大きな集団もある。21〜70歳の働く男女280人をDXAで調べた2019年の研究は、上腕、前腕、胴、太もも、すねの質量、重心の位置、回転半径を求めた[19]。部位の値のばらつきのうち、BMIだけで説明できたのは項目によって4〜51%で、年齢を足すとさらに3〜19%が説明された[19]。著者らは、BMIと年齢は部位の値と有意に関わっており、予測するときには考えに入れる必要があると結論している[19]。
同じ研究者たちの別の論文では、働く大人のDXAのデータと体の計測から新しい予測の式を作り、別のデータで確かめた[17]。新しい式の予測は平均で実測の5%以内に収まり、1996年の方法では平均の誤差が最大60%だった[17]。先行研究によれば、年齢と予測の方法によって、誤差は40%にもなりうるという[17]。
数字で読む腕の重さ
- 2.1kg: 投げる動作のシミュレーション研究が書いた、平均的な大人の上腕の質量。前腕と手は含まない[20]。
- 12%: 大人の計測表で子どもの部位の質量を出したときの、子どもの表との平均の差[9]。
- 0.5kg未満: 若い女性28人で、幾何学のモデルが出した部位の質量の誤差[16]。
- 0.1と0.43: 簡単な式と、計測を足した式で説明できた上腕の質量のばらつき(決定係数)[14]。
- 4〜51%: 働く男女280人で、BMIだけで説明できた部位の値のばらつき[19]。
- 5%以内と最大60%: 新しい式と1996年の方法の、部位の値の平均の誤差[17]。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
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