猫は癒しになるのか、触れ合う瞬間の気分は良いがストレスを和らげる働きは見えなかった記録

猫は癒しになるのか。猫と犬の飼い主188人の1日最大10回の記録では、触れ合う瞬間の気分は良かったが、ストレスを和らげる働きは見えなかった。自宅で猫と触れ合った32人の心拍、うつとの関連を統合した21研究、過去の飼い主の心筋梗塞の死亡、猫の側の唾液の研究も読む。

夜、鍵を開けると、猫が廊下の真ん中で待っている。撫でると喉を鳴らす。これを「癒し」と呼ぶのは、科学の言葉としても正しいのだろうか。

答えの芯を先に書く。猫と犬の飼い主188人に、5日間、1日最大10回、その瞬間の気分とストレスと動物との触れ合いを記録してもらった研究では、動物と触れ合っている瞬間は、猫でも犬でも、良い気分が高く嫌な気分が低かった[13]。ところが、ストレスを和らげる働きの証拠は見つからなかった。むしろ出来事によるストレスについては、猫との触れ合いが、ストレスと嫌な気分の結びつきを強めていた[13]。

体の側も、思ったほど静かではない。自宅で猫と自由に触れ合った日本の飼い主32人では、心拍が上がり、副交感神経の活動が下がった[1]。うつとの関連を見た21研究の統合では、ペット全体では関連がなく、種類で分けると猫を飼うことはわずかに高いうつの危険と結びつき、犬では関連がなかった[8]。猫は、触れ合う瞬間の気分の良さと結びつく相手ではあっても、ストレスの盾や心の薬だとは、まだ言えない。

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1日10回の記録が分けた、瞬間の気分とストレスの盾

この研究は、生活の中で何度も今の状態を答えてもらう方法(生態学的瞬間評価)を使った[13]。188人の猫と犬の飼い主が、5日続けて、1日に最大10回、不意に届く問いに、気分、ストレス、動物との触れ合いを答えた[13]。年齢、性別、社会的な状況を調整し、同じ人の中での繰り返しの答えとして分析している[13]。

結果は2つに割れた。動物と触れ合っていると答えた瞬間は、良い気分が高く、嫌な気分が低かった。この関連は猫でも犬でも同じだった[13]。一方、動物がストレスの衝撃を和らげるという「緩衝」の証拠は見つからなかった[13]。

猫の結果はさらに逆を向いた。出来事によるストレスに対する嫌な気分を見ると、猫との触れ合いは、ストレスと嫌な気分の結びつきを弱めるのではなく、強めていた[13]。著者らは、動物と触れ合う瞬間の気分の利点はしっかりあるが、ストレスの緩衝がその仕組みだとは支持されないとまとめ、動物の種類と場面の両方を考える必要があると書く[13]。

仕事で嫌なことがあった夜に、猫を抱きしめれば帳消しになる。この記録は、その期待とは合わない。ただ、なぜ猫で強まったのかは、この研究からは分からない。

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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自宅で猫と触れ合った32人は、心拍が上がった

日本の研究は、飼い主の家で体の反応を測った[1]。2021年の6月から10月に、猫の飼い主32人が、遠隔で行う形の研究に参加した。別々の日に、ふだんの猫との関わりをなぞる「触れ合い」の条件と、関わらない「休み」の条件を行った[1]。前後で気分の尺度に答え、唾液のコルチゾールとオキシトシン(ホルモンの一種)も測り、心拍の揺らぎから自律神経の活動を調べた[1]。

猫と自由に触れ合うと、気分の尺度で測った気持ちの高ぶりは下がった。一方で体の側では、副交感神経の活動が下がり、心拍が上がった[1]。心拍とコルチゾール、コルチゾールとオキシトシンの間には、正の相関があった[1]。撫でる回数が多い人ほど、副交感神経の活動の変化率は低かった[1]。対照的に、休みの条件では副交感神経の活動が高まった[1]。

著者らの結論は、これまで言われてきたストレスを下げる効果とは対照的に、猫を飼うことが健康を高める仕組みには、体を高ぶらせる効果が含まれる、というものだ[1]。確かな結論にはもっと大きな人数での研究が要る、とも書いている[1]。32人の小さな研究で、猫を撫でれば心拍が上がると決まったわけではない。眺めるだけと触れ合う場合の比べ方は、同じサイトの「ストレス発散は猫を眺めるだけでもよい?触れ合う場合と体の反応を比べて読む」に譲る。

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猫と犬を分けずに測った、血圧の古典的な実験

ペットと血圧を測った実験には、2002年の研究がある[2]。240組の夫婦を調べ、その半数がペットを飼っていた[2]。暗算と、冷たい水に手を入れる課題をしてもらい、1人で、ペットか友人がそばにいる、配偶者がそばにいる、配偶者とペットか友人がそばにいる、の4つの条件のどれかに無作為に割り付けた(ペットのいない人には友人がそばにいた)[2]。

ペットのいない人と比べて、ペットを飼う人は、安静時の基準の心拍と血圧が低く、課題での上がり方が小さく、戻りも速かった[2]。飼い主の中では、ペットがそばにいる条件で、上がり方がいちばん小さく、戻りがいちばん速かった[2]。著者らは、人はペットを生活の大切な支えと感じており、その感じ方と心血管と行動の利点が結びついていると結論している[2]。

題名には猫と犬が並んでいるが、結果は猫と犬を分けずに「ペット」として示されている[2]。ここから猫の数字を取り出すことはできない。割り付けたのは誰がそばにいるかで、ペットを飼うかどうかではない点も見ておきたい。安静時の差は、課題の前からあった[2]。

猫を飼ったことがある人の、心筋梗塞の死亡

猫を名指しした数字は、20年の追跡にある[3]。第2回の全国の健康と栄養の調査の死亡の追跡で、4,435人のうち2,435人(55%)が、過去か現在に猫を飼っていたと答えた[3]。年齢、性別、人種、収縮期血圧、喫煙、糖尿病、血清コレステロール、BMIを調整すると、過去に猫を飼っていた人は、いちども飼っていない人と比べて、心筋梗塞による死亡の相対リスクが0.63(95%信頼区間0.44〜0.88)と有意に低かった[3]。心血管の病気による死亡にも、低い傾向が見られた(相対リスク0.74、95%信頼区間0.55〜1.0)[3]。

有意に低かったと報告されたのは、過去に猫を飼っていた人である。著者らは、猫を飼う人で心筋梗塞と心血管の病気による死亡の危険が低かったとし、猫を家に迎えることが、危険の高い人の新しい手立てになるかもしれないとまで書く[3]。ただ、これは観察研究で、猫を飼える暮らしや体の状態の違いを、調整した項目のほかで除けたわけではない。犬と寿命の話は、同じサイトの「犬を飼うと寿命が延びる?大規模調査の数字と元気な人が飼う問題」に譲る。

うつとの関連は、猫だけわずかに高く出た

気分の落ち込みのほうでは、癒しの印象と逆の数字が出ている。うつとペットの関係を調べた観察研究の系統的レビューとメタ分析(複数の研究の統合)は、21研究、159,322人を含めた[8]。ペットを飼うことは、全体ではうつの危険の有意な変化と結びつかなかった(オッズ比1.03、95%信頼区間0.995〜1.07)[8]。種類で分けた感度分析では、猫を飼うことはうつの危険のわずかな上昇と結びつき(オッズ比1.06、95%信頼区間1.02〜1.09)、犬では有意な関連がなかった(オッズ比0.93、95%信頼区間0.789〜1.10)[8]。

Nord-Trøndelag健康調査(HUNT)の65〜101歳12,093人を一時点で調べた研究でも、向きは同じだった[5]。猫を飼う1,083人は、犬を飼う814人と飼っていない人のどちらよりも、うつの症状の自己評価の平均が高く、飼っていない人がいちばん低かった[5]。猫の飼い主の中では、男性のほうが女性より症状が低い側に入りやすかった[5]。

猫が気分を落とすのか、落ち込みやすい人が猫を選ぶのか。観察研究のこの数字からは、どちらとも決められない。1.06は、猫を飼う人を心配させる数字というより、「猫は心の薬」という言い方に待ったをかける数字だと私は読む。

数字で読む猫と飼い主の気分

  • 188人: 5日間、1日最大10回の記録をつけた猫と犬の飼い主。触れ合う瞬間の気分は良く、ストレスの緩衝は見えなかった[13]。
  • 32人: 自宅で猫と触れ合う日と休む日を比べた日本の飼い主。触れ合うと心拍が上がった[1]。
  • 240組: 暗算と冷たい水の課題で血圧と心拍を測った夫婦。半数がペットを飼っていた[2]。
  • 0.63: 過去に猫を飼っていた人の、心筋梗塞による死亡の相対リスク。95%信頼区間0.44〜0.88[3]。
  • 55%: その20年の追跡で、過去か現在に猫を飼っていた人の割合[3]。
  • 1.06: 猫を飼うこととうつのオッズ比。21研究、159,322人の統合で、ペット全体では1.03で有意でなかった[8]。

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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宮川涼 Founder

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