時間が早く感じるのは年齢のせいなのか。16〜80歳の1865人の調査、スマホで1日8回尋ねた研究、20〜91歳の120人の記憶の検査、クリスマスとラマダンの調査、ロックダウン中の調査を読み、年齢で差がはっきり出る問いと出ない問いを分けて確かめる。
12月に入り、駅前の店にクリスマスの飾りが並ぶと、誰かが「もう1年たったの」と言う。年を取るほど時間が早く過ぎる、という話は広く信じられている。ところが研究者が実際に測ると、年齢の差は思われているよりずっと小さかった[1][2]。
2つの国の16〜80歳の1865人に、いろいろな長さの期間がどれほど速く過ぎたように感じるかを尋ねた研究では、どの年齢の人も時間は速く過ぎると答えた。年齢による違いはとても小さく、例外は「この10年がどれほど速く過ぎたか」という問いだった[1]。この10年の効果は繰り返し確かめられていて、20〜91歳の120人を調べた2026年の研究は、それを思い出の数ではなく、新しいことを覚える力の低さと結びつけた[3]。
私の読みでは、「年を取ると時間が早い」は半分だけ当たっている。振り返った10年は年齢とともに縮んで感じられる。けれど、スマホで1日に何度も尋ねた研究では、そのときの時間の過ぎ方に若い人と高齢の人の差はなかった[2]。その場の速さと関係していたのは、年齢よりも、気分と、何に注意を引きつけられているかだった[2]。

1865人に尋ねると、時間はどの年齢でも速かった
2010年の研究は、2つの国の16〜80歳の大人1865人を対象にした[1]。尋ねたのは、さまざまな長さの期間について、時間がどれほど速く過ぎるように感じるかである。あわせて、暮らしの変化の経験と、時間に追われる感じも測り、思い出しにくさなどに基づく2つのモデルを実験の操作で確かめた[1]。
結果は通説の期待を裏切る。どの年齢の人も、時間は速く過ぎるように思うと答えた[1]。広く信じられている考えとは逆に、年齢による違いはとても小さく、はっきり違ったのは、この10年がどれほど速く過ぎたかという問いだけだった[1]。著者らは、年を取ると時間が加速するという説を含む7つの理論のうち、時間に追われる経験に基づく理論が支持されたとしている[1]。
16歳でも時間は速い。高校生の「1年なんてあっという間」を、大人は笑えないことになる。
もう1本の調査は、少し違う顔を見せた。2005年の研究は、14〜94歳の499人に複数の質問紙で答えてもらい、いまこの時の時間の過ぎ方も、過去の期間を振り返ったときの判断も、年齢とともに変わることを示した[4]。ただし効果は小さいものから中くらいまでで、年齢で説明できたのはばらつきの最大10%だった[4]。著者らは、時間が年齢とともに速くなるという広い実感をおおむね支持するとしながら、方法の限界から解釈には慎重であるべきだと書いている[4]。
2本を並べると、年齢の効果は「ない」とも「大きい」とも言えない。あるとしても小さく、問いの立て方で見えたり消えたりする。いまの時点で言えるのは、この範囲である。
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
スマホで1日8回尋ねると、「いま」の速さに年齢差はなかった
ふだん時間をどう感じるかを質問紙でまとめて尋ねると、答えは世間の思い込みに引っぱられるかもしれない、と私は思う。2015年の研究は、経験サンプリング法を使った[2]。スマホで1日8回、5日間にわたって知らせを送り、そのたびに短い質問紙に答えてもらう。尋ねたのは、いまの時間の過ぎ方、気分、覚醒の度合い、いましていることへの注意などだった[2]。
著者らによれば、多くの人がこの通説を心理的な現実のように受け入れている一方、若い人と高齢の人を体系的に比べた研究はとても少なく、結果も食い違っている[2]。
測ってみると、いまの時間の過ぎ方の判断に、若い人と高齢の人の差はなかった[2]。年齢にかかわらず、日々の時間の過ぎ方と有意に関係したのは、気分と、注意を引きつけるときのいまの活動である[2]。
時間の速さを測るために、スマホを1日8回鳴らす。ふだん時間を食う道具が、ここでは物差しになっている。
同じ著者らは2016年の報告で、時間の過ぎ方の判断と、時間の長さの判断を比べた。長さは、言葉で見積もる方法と、決まった長さを自分で作る方法で測った[8]。ここでも若い人と高齢の人で時間の過ぎ方の判断に差はなく、年を取ると時間が速く過ぎるという従来の考えに反する結果だった[8]。さらに、時間の過ぎ方の判断と長さの判断の間には、有意な関係がなかった[8]。過ぎ方の個人差を予測した気分と、いまの活動への注意の向け方は、長さの判断を予測しなかった[8]。
「時間が速い」と「長さを短く見積もる」は、同じことではないらしい。この区別は、後の話でも効いてくる。

年齢とともに縮んで感じるのは「この10年」だった
では、年齢の差がはっきり出る10年の問いは何なのか。2015年の研究は、過去10年の時間の過ぎ方が年を取るほど速くなることを研究が一貫して示している、と書く[5]。2026年の研究も、高齢の人が過去10年を速く過ぎたと感じることを、広く再現された知見として出発点に置いた[3]。
その2026年の研究は、20〜91歳の120人について、この10年とこの1年の時間の感じ方、その期間の自分の思い出の量と意味の大きさ、そして全体の認知の状態を調べた[3]。結果は、この10年が速く過ぎたと感じる年齢の効果を確かめた[3]。
ここからが面白い。年を取ると思い出が減るから10年が短く感じる、と考えたくなる。ところが、この10年の過ぎ方と、思い出の数にも、思い出の主観的な価値にも、有意な関係は見つからなかった[3]。予想に反して、高齢の人のほうが鮮やかで意味のある思い出を語った[3]。
代わりに結びついたのは、認知の働きの低さ、とくに新しいことを覚える力の低さだった。時間をおいて思い出してもらう検査で測ったこの力が低いことが、年齢とともに時間を速く感じることと有意に結びついた[3]。著者らは、加齢による認知の衰えで新しい記憶を作る力が落ちることが、思い出の中身が減ることよりも、高齢の人が時間の縮みを感じる鍵になると示唆している[3]。ただ、年齢の違う120人を比べた研究なので、覚える力が落ちたから10年が縮んだ、という順番までは決められない。ここは私の読みである。
10年の速さは、気持ちの持ち方とも関係していた。2015年の研究は、17〜81歳の423人にオンラインで尋ね、過去・現在・未来のどれに心を向けやすいかという、その人の中で安定した傾向と、時間の過ぎ方を照らした[5]。いまを楽しむ傾向は、暮らしの決まりごとの少なさと、先週が速く過ぎた感じと結びついていた[5]。感情を調整する力が高いことと、過去・現在・未来に偏りなく目を向けることは、この10年をゆっくり過ぎたと感じることと関係した[5]。1回の調査で見た関係なので、感情の調整を練習すれば10年が伸びる、という結果ではない。
自分の過去に戻る感覚については、2009年の総説も手がかりになる。過去の出来事をもう一度生きるように思い出す働きは、発達の中でいちばん遅く完全に働くようになり、加齢やたいていの記憶障害では最初に失われる、と著者らは示唆している[16]。初めての景色を知っていると感じる記憶の話は、同じシリーズの「デジャヴはなぜ起きる?初めての景色を知っていると感じる脳を、仮想現実と電極で追う」に譲る。
時間に追われる感じは強まり、速さの感じ方は変わらなかった
1865人の研究で支持されたのは、時間に追われる経験に基づく理論だった[1]。では世の中が忙しくなると、時間の速さの感じ方も変わるのか。
2022年の研究は、ベルリンの都市に住む高齢の人の2つの世代を比べた[6]。1990〜1993年のベルリン加齢研究から256人、2009〜2014年の第2の研究から248人を、年齢と学歴が釣り合うように選び出した。平均年齢はどちらも77.49歳である[6]。経済成長と近代化は加速の感覚を生みやすいが、これまでの研究は主に働く世代の追われる感じを見てきた。時代の変化が仕事から離れた高齢の人や時間の速さにも及ぶのかは、分かっていなかった[6]。
結果は二手に分かれた。時間の速さの感じ方に世代の差はなかった。一方で、後に生まれた世代のほうが、時間に追われる感じを強く訴えた[6]。年齢による有意な差もなかった。時間の速さの感じ方の人ごとのばらつきは、1990年代のほうが2010年代より大きかった[6]。著者らは、社会の加速を考えるなら成人の一生全体を視野に入れるべきだとしている[6]。
約20年で追われる感じは強まったのに、速さの感じ方は変わらなかった。忙しさと速さは近い言葉だが、測ると別々に動く。1865人の研究と並べると少しねじれて見えるが、対象も時代も違う2本である。
数字で読む時間の速さと年齢
- 1865人: 2つの国の16〜80歳。年齢の差はとても小さく、例外は「この10年」の問いだった[1]
- 10%: 14〜94歳の499人の調査で、年齢が説明した時間の感じ方のばらつきの上限[4]
- 1日8回を5日間: スマホで「いま」の時間の過ぎ方を尋ねた回数。若い人と高齢の人に差はなかった[2]
- 120人: 20〜91歳。この10年の速さは、思い出の数とも価値とも有意に結びつかなかった[3]
- 423人: 17〜81歳。感情を調整する力が高いことは、この10年をゆっくり感じることと関係した[5]
- 77.49歳: ベルリンの2つの世代の平均年齢。速さの感じ方に世代差はなく、追われる感じは後の世代が強かった[6]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
1
2






