ダイエットの有酸素運動はスマホで消費も増える?同じ速さの二重課題を読む

ダイエットの有酸素運動中にスマホを操作すると、頭を使う分だけ消費カロリーも増えるのか。同じ速さの歩行と認知課題を比べた実験を軸に、酸素消費量と距離当たりの負担、アプリの表示を分けて読む。歩きながらの操作を運動の上乗せにせず、記録を日常で使うための考え方を示す。

歩きながら暗算をすると、脚だけでなく頭まで忙しい。息の弾み方が同じでも、作業を増やしたぶん消費カロリーも増えた気になる。ダイエットの有酸素運動として、この忙しさを追加の運動量に数えてよいのだろうか。

答えの芯は、頭を使う作業を足せば、その分だけ歩行のエネルギー消費が上乗せされるとは考えにくい、ということだ。健康な若い成人を対象に、認知課題をしながら歩く条件と、同じ速さで歩くだけの条件を比べた実験では、酸素消費量に差はなかった。調べたのは実験用の認知課題による影響である。[20]

そして、体が使ったエネルギーと、スマホが表示するエネルギーも同じ話ではない。歩行中のアプリの推定値には、基準となる測定と近かった研究も、別の測定との対応が乏しかった研究もある。[8][16] 画面を見る理由と、歩いている目的を分けるところから始めたい。

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同じ速さにそろえると、何が見えるのか

「歩くだけ」と「考えながら歩く」を比べる際、先に確かめたいのは速さである。日常の場面なら、返信の内容に迷って足が緩むこともあるだろう。そこで消費量が変わっても、考える作業が原因なのか、歩き方が違ったためなのかを、その場の印象だけで切り分けることはできない。

この問いに近いのが、健康な若い成人20人が参加した条件比較の実験である。自由に選んだ速さの歩行、座位安静、座って行う認知課題、歩きながら行う認知課題、そして認知課題中の歩行速度に合わせた課題なしの歩行を調べた。歩くことと別の作業を同時に行う条件を、二重課題と呼ぶ。健康な若い成人の結果は参考になるが、18〜39歳の女性にそのまま当てはめられるかは、この実験だけでは判断できない。[20]

鍵になるのは、速度を合わせた歩行条件がある点だ。普段の好きな速さの歩行との比較だけなら、課題を加えることと速度の違いが一緒になる。課題中と同じ速度の歩行を用意すれば、歩く速さをそろえたうえで、認知課題が加わることの意味を考えやすい。[20]

各条件は5分で、解析にはその最後の1分のデータを使った。測定したのは酸素消費量、歩行速度、距離当たりの歩行コストなどである。認知課題についても反応時間と回答の正確さを記録している。長期間の減量試験ではなく、短い歩行場面の体の反応を比べた研究だ。[20]

結果は、二重課題と速度を合わせた単独歩行との間で、酸素消費量に差がないというものだった。「頭も脚も使ったから、消費は必ず増す」という予想は、この実験では支持されなかった。対象が健康な若い成人であることと、実験中の認知課題についての結果であることを一緒に覚えておきたい。[20]

ここから生活へ持ち帰れるのは、歩きながら別の作業をすることを、消費量の追加策として数えないという判断である。忙しく感じたかどうかと、同じ速度で歩いたときの酸素消費量は別の指標だ。返信が難しかった日の手応えを、そのまま運動量に書き換える必要はない。[20]

同じ速度で比べる設計は、日常のスマホ操作をそのまま再現するためというより、課題を足す影響を切り分けるためのものだ。歩行中の認知課題の結果を手がかりにはできるが、視線を下げることや文字を入力することまで同じだったと読み替えることはできない。ここを分けておくと、研究の結果を大きく見せずに、疑問への答えを絞れる。[20]

この研究を読むときの限界は、対象・作業・時間にまとめられる。健康な若い成人が実験中に行った認知課題と、日常の文字入力では条件が違う。各5分で測った酸素消費量は、長期間の減量効果とも区別して扱う。この範囲で、同じ速さの歩行に認知課題を加えても消費の増加は確認されなかった、と読む。[20]

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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時間当たりと距離当たりでは、数字の意味が違う

この実験には、少し意外な結果もある。距離当たりの歩行コストは、二重課題より、速度を合わせた単独歩行のほうが大きかった。ただし差は0.008 mLO2/kg/mで、95%信頼区間は0.002〜0.014だった。著者らは、その差は非常に小さく、臨床的な意味を持つ可能性は低いと評価している。[20]

歩行コストは、進んだ距離に対して使った酸素の量を表す。体重と距離で割って比べるため、スマホの画面に出る合計のキロカロリーとは、数字の作りが異なる。小さな値が出たから運動として優秀、大きな値なら減量に有利、と機械的に順位を付けるための指標ではない。[20]

酸素消費量には差がなく、距離当たりの値には小さな差があった。この結果を「考えながら歩くほど省エネになる」と言い切ると、研究の評価を越えてしまう。差の方向だけではなく、差の大きさと、その意味まで読む必要がある。[20]

著者らは、普段好む速度とは違う速さを通常の床上歩行で維持することにも、注意が必要になり得ると考察した。比較のために速度をそろえる条件も、ただ自然に歩いている状態と完全に同じではない。実験を公平にする工夫が、比較条件の特徴にもなる点が興味深い。[20]

たとえば通勤経路を歩き終えた場面と、決まった時間だけ歩いた場面では、見ている成果が違う。前者は移動した距離、後者は使った時間に目が向く。記録を比べる際には、合計値だけを並べるより、何をそろえた日の比較なのかを添えるほうが、研究の読み方にも近い。

スマホ操作の上乗せ分を知りたいという問いに戻るなら、先ほどの小さな歩行コストの差をキロカロリーへ換算して、自分の返信時間に当てはめるのは避けたい。対象と測定条件の定まった実験で得た、距離当たりの酸素の差である。個人の通勤時の追加消費を表す数字ではない。[20]

注意を別の作業へ向けても、歩行の調整は続くのか

頭を使った実感と消費の増加が一致しない背景を考えるうえで、歩き方の調整を調べた別の実験が参考になる。下肢の外骨格装置を使い、エネルギー消費が少なくなる歩数のリズムを、通常好まれるものより遅い方向へずらした研究である。対象は外骨格装置を着けて歩く実験の参加者であり、18〜39歳の女性の日常歩行へそのまま当てはめるには、装置を使う条件との差を考える必要がある。[11]

参加者には、歩行と同時に音の違いを判別する課題が加えられた。注意を別の作業へ向けると、消費の少ない歩き方へ近づく調整が妨げられるかを調べたのだ。結果として、追加の課題はその調整を妨げず、過去の単独課題の実験と同程度の幅と速さでリズムが変わった。[11]

音の判別の正確さや反応時間も、消費の少ない歩き方へ調整している間に悪化しなかった。参加者の回答からは、二重課題の参加者の多くが、歩き方の変化をあまり意識していなかったこともうかがえた。研究は、歩行のエネルギー最適化に、意識的な注意を多く必要としない処理が関わると示している。[11]

これは、スマホを使っても歩行がいつでも問題なく保たれるという証明ではない。外骨格装置と音の判別を使った、歩行調整の仕組みを調べる実験である。研究が示すのは、歩き方のエネルギー調整には、少ない注意で自動的に進む処理が関わるという点である。[11]

歩幅やリズムを常に細かく監督しないと、運動が無駄になるのではないか。そんな心配に対しても、この研究は別の見方を与える。注意を向ける先が増えたという理由だけで、体の調整が止まると決めつける必要はない。ただし、そこから消費が増えるという結論も生まれない。[11][20]

もう一つ注意したいのは、外骨格の実験における「最適化」の意味だ。そこで目指すのは、与えられた環境で消費の少ない歩行リズムへ適応することだった。ダイエットのために消費を大きくするという日常の目的とは、評価の向きが違う。歩行の仕組みを理解する研究として読むと、結果の意味を取り違えずに済む。[11]

体が自動的に調整する部分があるという知見は、画面を見続ける理由にはならない。歩いているときに何へ注意を向けるかという生活上の選択と、実験で測られたエネルギー調整は、別に判断することになる。消費を増やすために作業を増やすより、歩く時間と用事を済ませる時間を分けるほうが、少なくとも記録の意味は整理しやすい。[11][20]

数字で読む歩行とスマホの距離

20人:同じ速度の単独歩行と認知課題中の歩行を比べた、健康な若い成人の人数。[20]

5分:各実験条件の長さ。解析したのは最後の1分のデータである。[20]

0.008 mLO2/kg/m:速度を合わせた単独歩行と二重課題の歩行コストの差。臨床的な意味は小さいと評価された。[20]

28人:若い健康な成人で、スマホアプリと大腿部の加速度計のエネルギー推定を比較した人数。[8]

29人:歩行と走行で、端末を手に持つ場合とポケットに入れる場合を調べた検証の人数。[16]

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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宮川涼 Founder

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