ソイプロテインの製造にヘキサンを使うことと、完成品に残る量は別の問いである。脱脂から濃縮・分離までの工程、水や酵素を使う代替法、ガスクロマトグラフィー研究の測定対象を論文で確認する。加工研究の数字を残留量に読み替えず、購入前にメーカーへ何を確かめるかを考える。
朝食用のソイプロテイン。その粉を作る途中でヘキサンを使ったなら、袋の中にも残っているのだろうか。「ソイ プロテイン は 絶対 ダメ」という検索語をたどると、油を取り出す工程の説明が出てくる。知りたいのは、これから飲む粉のことだ。
ヘキサンを使って脱脂した大豆を、たんぱく素材に加工する製法はある。しかし、工程で使う物質の名前と、完成品に残っている量は同じ情報ではない。製法のレビューは大豆から粉になる経路を説明しているが、個別商品の残留量を決めるには、その完成品を対象にした測定結果を確かめる必要がある。[1]
「使うから必ず危険」「粉になるから必ず残らない」のどちらにも飛びつかず、何を加工し、何を測った数字かを追っていこう。既存記事「女性のソイプロテインは作り方で消化が違う?抽出の酸性度と構造の変化を読む」に消化の論点を譲り、ここでは製造工程と残留検査の読み分けに絞る。

脱脂は、大豆をそのまま粉にする作業ではない
食品加工を扱ったレビューでは、多くの大豆たんぱく素材は、大豆の皮を取り、薄片にし、ヘキサンで脱脂した原料から作られると整理されている。ここでの脱脂は、油を取り除く工程である。その後の加工によって、脱脂大豆粉、濃縮大豆たんぱく、分離大豆たんぱくという異なる素材になる。[1]
この順番を頭に置くと、「ヘキサンで抽出」という短い表現の読み方が変わる。大豆の油を取り出す工程の話と、たんぱく質を取り出す工程の話が、同じ「抽出」の言葉で語られるからだ。レビューでは、分離大豆たんぱくはアルカリによるたんぱく質の抽出、遠心分離による繊維の除去、再沈殿、乾燥という工程で説明されている。[1]
つまり、買い物の画面で見た「大豆から抽出」の一言だけでは、どの工程を指すかを特定できない。「大豆にヘキサンを使った」という情報を読んだら、まず油を取り除く段階の説明なのか、完成品の検査結果なのかを見分けたい。工程の図と検査表は、答えている質問が違う。
レビューにあるたんぱく質含有率は、脱脂粉が約50〜54%、濃縮物が65〜70%、分離物が90%以上である。これらは素材の組成を説明する数字だ。ヘキサンが残る割合でも、油の除去率でもない。数字の後ろの単位が同じ%でも、何を数えた割合かも確かめよう。[1]
さらに、このレビューは大豆たんぱく素材の用途として、水や脂肪の吸収、乳化、泡立ち、加熱による固まり方を挙げている。大豆素材は飲料用の粉だけを想定して作られているのではなく、さまざまな食品の材料でもある。そのため製法の論文には、消費者の安全性の問いとは別に、食品として扱いやすいかという問いが多く登場する。[1]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
たんぱく質が変性しないことは、残留ゼロの証明か
人ではなく分離大豆たんぱくを対象に、加工工程を順に調べた実験研究では、ヘキサンによる脱脂はたんぱく質の変性を起こさなかったと報告されている。変性とは、ここではたんぱく質の構造の変化を指す。研究者は熱への応答や粒子の状態、たんぱく質の組成を測り、各工程が素材の性質にどう関わるかを比較した。18〜39歳の女性が飲んだときの健康への影響に、そのまま当てはめることはできない。[2]
この結果は、「ヘキサンを使うとたんぱく質が必ず変性する」という説明を退ける材料になる。ただし、たんぱく質の構造を調べる測定と、ヘキサンそのものの残留量を調べる測定は別である。「構造が変わらなかった」を「残留していなかった」に置き換えることはできない。結果を読む際には、測定した対象を主語に戻すのがよい。[2]
同じ研究では、アルカリ抽出のpHが7.0〜9.0の範囲では、調べた物性と組成に違いはなかった。一方、酸で沈殿させる段階では、条件によってたんぱく質の組成比や中性での溶けやすさが変わった。加工条件と性質の関係は、工程を分けて確かめる必要がある。[2]
また、噴霧乾燥を凍結乾燥と比べても、変性の程度が高くなったり、溶けやすさが失われたりする結果ではなかった。ここでも比較されているのは、乾燥後のたんぱく質の性質である。「乾燥」という工程名だけを根拠に、特定の溶媒がどれだけ除去されたかまで説明したことにはならない。[2]
シェーカーの底に沈むものがあると、製法への不安が戻ってくるかもしれない。しかし加工条件で溶解性が違うという知見は、見た目だけで製造時の溶媒の量を推定する発想を支えない。混ざり方が気になるときは溶解性を、残留が気になるときは完成品の測定を、それぞれの問いとして尋ねよう。[2]

「ガスクロマトグラフィーで測定」の中身を読む
検査法の名前が付いていると、知りたい問題は解決済みに見える。だが、大豆たんぱくとヘキサンをガスクロマトグラフィーで扱った研究にも、完成品の残留検査とは違う目的のものがある。測定法の名前より先に、何を調べる実験だったかを読む必要がある。[9]
逆ガスクロマトグラフィーを用いた実験では、分離大豆たんぱくと、揮発性の物質がどのように結び付くかを調べている。ヘキサン、ヘキサノール、ヘキサナールを少量の試験用物質として用い、湿度を調整した条件で装置の性能や相互作用を検討した。ヘキサンは、測定系に意図して導入する物質として登場する。[9]
湿度0%の条件では、ヘキサノールとヘキサナールの方がヘキサンより強く結び付いた。湿度30%では、前者の物質の保持が湿度0%より小さくなり、水との結合部位の競合が考えられている。これは低水分食品で香気成分と素材がどう相互作用するかを調べるための結果である。[9]
ここから「市販の粉にヘキサンがこれだけ残った」とは読めない。実験で入れた物質が装置内でどう振る舞うかと、購入する袋の中にもともと含まれる量は、出発点が違う。研究題名に大豆と測定法がそろっていても、測定対象の説明を飛ばすと、別の実験を完成品の検査として紹介してしまう。
購入前に検査の説明を確かめるなら、検査法の名前だけで読み終えず、対象が原料か完成品か、何の成分を測ったのかまで見る。その数字をどの製品に結び付けてよいかが分からなければ、メーカーに対応関係を質問する。「検査済み」の短い言葉を、手元の袋についての説明へ戻す作業だ。
水や酵素を使う経路も、仕上がりを比べて考える
ヘキサンを使う脱脂以外の経路も研究されている。冷間圧搾で油を取り除いた大豆原料を出発点に、水とエタノールの割合を変えて洗浄した実験では、いずれの洗浄液でもたんぱく質の割合が高まった。完成した濃縮物は、市販の濃縮大豆たんぱくと組成が比較できる一方、食品加工上の性質には違いがあった。[7]
水だけで洗った濃縮物は、同程度のたんぱく質濃度で比べたとき、粘度が最も高く、作ったゲルの強さと硬さも最も高かった。研究者は、たんぱく質の変化に加えて糖や油などの成分の影響も考えている。製法を変えるとは、単に工程の名前を変えるだけでなく、食品としての振る舞いも比べることなのである。[7]
酵素を使って水中で油とたんぱく質を取り出す実験もある。全脂大豆の薄片を加工し、酵素を使う段階を変えて比較すると、取り出せるたんぱく質の割合と、残る特定のペプチドの量は同じ動きをしなかった。多く取り出すことと、狙った成分を保つことには、別々の評価が必要だった。[3]
抽出収率と含有率の違いは、分母を言葉にするとつかみやすい。原料中のたんぱく質をどれだけ回収したかという問いと、できた素材の中でたんぱく質がどれだけを占めるかという問いである。水系抽出の研究の収率と、製法レビューの含有率は、この点でも直接に並べて優劣を付ける数字ではない。[1][3]
たとえば製品を比較するメモには、数字だけでなく「何の量か」を添えよう。高い数字が並んだときほど、同じ物差しで比べているかを一呼吸おいて確かめる。残留量を知りたいという目的を、回収の効率の話にすり替えないためでもある。
数字で読む大豆たんぱくの加工
約50〜54%:レビューに示された脱脂大豆粉のたんぱく質含有率であり、残留溶媒の割合ではない。[1]
65〜70%:同じレビューの濃縮大豆たんぱくのたんぱく質含有率である。[1]
90%以上:同じレビューの分離大豆たんぱくのたんぱく質含有率であり、脱脂率を表す数字ではない。[1]
89〜96%:酵素を使う水系抽出で報告されたたんぱく質抽出収率で、比較したヘキサン脱脂原料の経路は85%だった。[3]
湿度0%と30%:大豆たんぱくと揮発性物質の相互作用を比べた実験条件であり、食品中のヘキサン濃度ではない。[9]
疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。
1
2






