筋トレの睡眠が5時間の日は筋肉も育ちにくい?徹夜の合成率と分けて読む

筋トレ後に5時間しか眠れなかった朝、筋肉づくりまで失敗したと考える必要はあるのか。若い男女の徹夜試験で測った筋たんぱく質合成率と、睡眠不足を扱うレビュー、動物実験を読み分ける。短期の合成率を長期の筋肉量に置き換えず、睡眠時間と運動の予定を見直すための視点を示す。

昨夜使ったダンベルが、まだ床の隅にある。片づけや翌朝の支度で就寝が遅れ、眠れたのは5時間。「昨日の筋トレを無駄にしたのでは」と、朝食を前に気になってしまう。

睡眠不足を筋肉づくりと無関係と考えることはできない。健康な若い男女を対象とした試験では、一晩まったく眠らなかった翌日の食後に、筋たんぱく質の合成率が通常睡眠より低かった。ただし、この徹夜試験の結果を、そのまま5時間睡眠の日の低下率や、将来失う筋肉量として読むことはできない。[4]

既存記事「筋トレの背中は寝不足でも強く引ける?最大の力と続ける力を別々に確かめる」には当日の運動能力の問いを譲る。ここで確かめたいのは、持ち上げられた重さの先で、筋肉の材料を組み立てる働きをどう評価するかである。

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5時間の睡眠と、一晩の徹夜を同じ条件にしない

「寝不足」という言葉には、短くても眠った夜と、朝まで起き続けた夜が入る。検索窓では隣り合うが、実験の条件としては区別が必要だ。Lamonらの研究は、健康な若い成人13人が、通常の睡眠と一晩の完全な断眠を経験する無作為化クロスオーバー試験だった。クロスオーバーとは、同じ参加者が異なる条件を経験して比べる設計である。[4]

参加者は男性7人、女性6人だった。別々の人を比べるだけでなく、同じ人の通常睡眠後と徹夜後を比べる点は、個人差を考えるうえで意味がある。一方、小規模な若い成人の実験であり、18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには、男女を合わせた短期の結果である点を考慮する必要がある。[4]

この研究が示すのは、眠らない夜の翌日に、筋肉をつくる働きへ変化が現れるということだ。「5時間眠ったから何%下がる」「6時間なら問題がない」という境界線を、この条件から引くことはできない。睡眠を削ることへの注意と、特定の時間を合否の線にすることは、別の判断なのである。[4]

日常の記録でも、ひとくくりにしない方がよい。昨夜は短くても眠ったのか、眠る機会自体がなかったのか。仕事で遅くなったのか、予定より画面を見続けたのか。これは研究の効果量を自分に当てはめる計算ではない。次の夜に変えられる予定を見つけるための整理だ。

たとえば、退勤時刻は変えられなくても、帰宅後に行うことの順番は変えられるかもしれない。筋トレの時間を増やす案を考えるときも、就寝がどこまで後ろに押されるかを予定表に書く。トレーニングの欄だけ立派で、睡眠の欄が毎回はみ出す計画では、何を優先したかったのか見失いやすい。

疑問の続きは、体で確かめるのがいちばん早い。

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合成率の18%低下は、筋肉量の18%減少と区別する

この試験では、翌日の13時から15時に、食後の筋たんぱく質の合成率を評価した。通常睡眠条件では毎時0.072±0.015%、徹夜条件では毎時0.059±0.014%で、徹夜後に18%低かった。差の検定はp=0.040と報告されている。ここでの18%は、測定した合成率を条件間で比較した数字である。[4]

筋たんぱく質合成は、筋肉のたんぱく質を新たにつくる働きであり、合成率はその進み方を示す指標だ。この試験で測った短時間の働きと、体にある筋肉の総量は同じものではない。18%という数字を見て「腕の筋肉の18%がなくなった」と読み替えると、測定した対象が変わってしまう。[4]

また、研究で評価したのは食後の合成率だった。眠っている最中の筋肉づくりだけを測った結果ではない。寝不足の影響を考えるときは、「寝ている間だけ成長し、それ以外の時間は何も起きない」という図より、翌日の食後の反応にも違いが現れたという事実を出発点にしたい。[4]

数字の横にある±は、参加者間のばらつきを伴う値である。全員が同じ割合だけ変化したという意味ではない。平均値の差と、自分の体でその日に起きた変化を同一視しないことが大切だ。研究の数字は、鏡の前で筋肉の減少を探すための物差しではない。[4]

筋トレの記録には、重さ、回数、体の写真など、違う種類の情報が並ぶ。そこへ合成率を加えるなら、どの時点の何を測った数字なのかも添える必要がある。食後の測定値は、長期の体づくりを考える手掛かりになるが、それだけで長期間の成果を判定する検査にはならない。[4]

この区別は、安心するためだけにあるのではない。短期の値だから無視してよい、とするのも読み違いだ。一晩の睡眠条件の違いで合成の働きに差が出たことは、睡眠を運動の余り時間として扱わない理由になる。結果を大きく見せず、小さくも扱わない読み方が必要である。[4]

ホルモンの変化と、筋肉の分解は分けて読む

同じ試験では、徹夜後に血中コルチゾールが21%増加し、テストステロンが24%低下した。コルチゾールとテストステロンは、研究で筋肉の合成や分解に関わる環境を評価するために調べたホルモンである。研究者は合成率の低下と合わせ、筋肉づくりに不利な方向の急性変化として捉えている。[4]

一方、調べたたんぱく質分解の指標には、条件間の差が認められなかった。ここは省略できない。合成率が低かったこと、ホルモンが変化したこと、分解に関する指標で差がなかったことを、同じ結果の中に置いて読む必要がある。[4]

したがって「徹夜で合成が下がった」という説明から、「筋肉の分解も必ず増えた」と続けることはできない。また、ホルモンの変化率をそのまま筋肉量の変化率へ変換することもできない。途中の指標を飛ばして結論を強くすると、研究の内容よりも怖い話になってしまう。[4]

睡眠不足と筋肉を扱ったProkopidisらのナラティブレビューは、低いテストステロンや高いコルチゾール、炎症やインスリン抵抗性などが、筋たんぱく質合成に関わる経路を抑える可能性を論じている。ナラティブレビューは、複数の研究をたどりながら仕組みや論点を整理する論考であり、この論文自体が全読者に同じ睡眠条件を課した試験ではない。[3]

このレビューは、食事摂取を管理した試験や、合成と分解に関わる働きのさらなる検討も求めている。睡眠不足から筋肉の変化へ至る道筋は、単独のホルモンの上下だけで完結する話ではない。レビューの説明は全体像をつかむために使い、直接測った結果とは役割を分けたい。[3][4]

「ホルモンが何%変わった」という見出しは記憶に残る。しかし生活の判断に必要なのは、その値を自分で動かす裏技を探すことではない。徹夜後に複数の指標が同時に動いたという結果を受け、睡眠まで含めて運動の予定を考えることだ。今夜の就寝時刻を決めるには、数字を眺めるだけでなく予定を組み直す必要がある。

この試験を読む際は、比べた条件と測定の時刻をセットにしておきたい。条件は通常睡眠と徹夜、測定は翌日の食後である。「眠りの長さ」と「翌日の体の反応」を結ぶ設計だからこそ、夜の感覚だけでは捉えられない働きへ目を向けられる。一方、寝床にいた時間の違いを細かく並べた比較としては読まない。[4]

また、通常睡眠条件の合成率にも値があり、徹夜条件でも合成は続いていた。報告値は毎時0.072%と0.059%であり、「合成が低い」と「合成がゼロ」を分けることができる。眠れなかった朝に昨日の運動を全否定したくなるときほど、この差は残しておきたい。研究が示した変化を受け止めることと、体の働きをすべて失ったと捉えることには距離がある。[4]

性別の読み方にも注意が要る。男女が参加したという事実は、女性も実験対象に含まれたことを示す。ただし、全体の平均値である18%を、女性だけに当てはまる低下率として紹介するのは適切ではない。自分と共通する属性があるかを確認したうえで、どの集団の結果として数字が出ているかを見届ける必要がある。[4]

通勤中に研究の紹介を読むなら、印象に残った数字の横へ「誰の、どんな夜の、いつの反応か」と言葉を足してみる。これなら、筋肉が減る不安だけを持ち帰るのではなく、次の予定を考えるための情報として扱える。忙しい朝に必要なのは、自分の筋肉へ点数をつける作業ではない。

数字で読む睡眠不足と筋たんぱく質合成

13人:一晩の徹夜と通常睡眠を比べた健康な若い成人。男性7人、女性6人である。[4]

13〜15時:翌日の食後の筋たんぱく質合成率を評価した時間帯である。[4]

18%:徹夜条件で低かった合成率の相対的な差。筋肉量の減少率ではない。[4]

21%と24%:徹夜後のコルチゾールの増加と、テストステロンの低下である。[4]

96時間:後述するラットの断眠実験の条件。人の短い睡眠と同じ実験ではない。[5][6]

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宮川涼 Founder

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