ローストビーフの切る向きは繊維が目印?噛み切りやすさと測定条件を読み分ける

ローストビーフを切ったら、同じ塊なのに噛み切りにくい。そんな違いを、牛肉の繊維の向き、部位の中の硬さ、機械で測る力と人が感じる食感から読む。ダイエット中の量の判断とは分けながら、繊維を横切る切り方を試す際にそろえたい条件と、やわらかさの数字を食卓へ持ち帰るときの注意点を整理する。

夕食のローストビーフを切り分けると、皿に並べたひと切れだけが噛み切りにくい。見た目はきれいに並んだのに、口の中では肉が長くつながっている感じがする。次に切った分は食べやすい。同じ塊なら同じ食感になるはず、という予想が包丁の前で外れる。

切る向きは、肉の食感を考える手掛かりになる。牛肉を用いた実験では、繊維の向きに対する試料の取り方で、機械が測る硬さも、訓練された人が評価するやわらかさも変わった。ただし「繊維を横切れば誰でも同じだけ噛む力が減る」と数値まで約束できる話ではない。[6][9]

食卓ではまず、塊の長い辺ではなく肉の繊維が走る向きに目を向けたい。横切る切り方を試し、厚みや使う場所もそろえて比べる、という順序である。既存記事「ダイエット中のローストビーフは何グラム?焼く前後の重さで変わる取り分け方」には量の話を譲り、ここでは包丁の向きと口に残る食感を考える。[4][6]

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塊を横に切ることと、繊維を横切ることは違う

肉の「繊維の向き」とは、筋肉を構成する筋線維が走る方向のことである。牛ももの筋肉を調べた研究では、その配列は筋肉によって異なり、紡錘状に走るもの、羽のように斜めに並ぶもの、両側へ羽状に分かれるものがあった。肉の塊の輪郭と、中の繊維の向きは分けて確かめる必要がある。[4]

この研究は、牛ももの異なる筋肉をそれぞれ10個ずつ使い、筋肉の中の場所と繊維の配列、切断に必要な力を調べた実験である。半腱様筋などは紡錘状、大腿二頭筋などは両羽状と整理された。同じ「もも肉」という呼び方の内側に、別の配置が含まれている。対象は牛の筋肉であり、18〜39歳の女性の噛みやすさに、その測定値をそのまま当てはめることはできない。[4]

台所で「横に切る」と言うと、まな板の横方向や塊の短い方向を思い浮かべやすい。研究で基準になるのは、その置き方ではなく筋線維である。肉を回してもまな板は変わらないが、繊維と刃の関係は変わる。切り方を確かめるなら、まず何に対して横なのかを決める必要がある。[4][6]

牛肉の測定法を開発した研究でも、試料は繊維に沿って取り出し、その繊維を横切るように刃でせん断している。せん断とは、ここでは刃で試料を切り離すように力を加える操作だ。試料を取り出す向きと、測定の刃が進む向きは別なのである。「繊維に沿って採った」とだけ読んで、食卓でも沿って切る方がよいと受け取らないようにしたい。[5]

家庭で試すなら、肉の表面や切り口で見える線の流れを目安にし、それを横切る方向へ刃を入れてみる。これは実験で使われる方向の考え方を食卓へ移す工夫であり、どの部位にも同じ効果量を当てはめる処方ではない。切った面が変わったときは、繊維の流れも改めて見直すと比較の意味がはっきりする。[4][6]

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噛む力そのものを、機械の数字で読まない

論文でよく登場するのは、ワーナー・ブラッツラーせん断力という測定値である。一定の形に取り出した肉へ刃を通し、切るときの抵抗を測る。牛肉の研究では、人が食べて評価するやわらかさと比較されているが、測っているのは機械の刃への抵抗である。[5][6]

この違いは、単位が具体的であるほど見落としやすい。牛肉の腰部の筋肉と半腱様筋を各18個使った実験では、通常のV字形の刃で測った値は、平らな刃で測った値より1.4〜2.5 kg低かった。同じ肉でも、測定の刃の形で数字が変わったのである。この差を、そのまま人の噛む力の差と呼ぶのは適切でない。牛肉試料で得た測定値なので、18〜39歳の女性に必要な噛む力の差へ、そのまま当てはめることはできない。[6]

さらに腰部の筋肉では、筋線維に沿って取り出した試料の値が、ステーキの切断面に垂直に取り出した試料より0.64 kg高かった。ここで比べているのは試料を採る方向であり、家庭の薄切り肉を口に入れたときの負担の増減ではない。刃の形も試料の取り方もそろえて初めて、硬さの数値を比較しやすくなる。[6]

一方で、機械の測定が食感と無関係ということでもない。牛肉479頭分を使った測定法の比較では、スライスせん断力と訓練された評価者によるやわらかさの評点との相関は−0.82、従来法では−0.77だった。切断に必要な力が大きい試料ほど、やわらかさの評点が低くなる関係である。対象は牛肉と訓練された評価者による評点であり、この相関を18〜39歳の女性の食感評価へそのまま当てはめることはできない。[5]

相関は、機械の力から家庭の噛む回数を換算する式ではない。料理の比較に使うものさしとして役立つことと、食べる人の感覚をすべて代弁することには距離がある。論文の数字を見るときは、数値の大きさだけでなく、何をどんな刃で切った数字かまで読む。その一手間で、台所に持ち帰れる結論の大きさが変わる。[5][6]

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同じもも肉でも、端と中央で硬さはそろわない

切る向きを変えたつもりなのに、食べ比べの結果が逆になることもある。そのとき、包丁の使い方だけを疑う必要はない。牛ももの筋肉を細かく調べた研究では、筋肉の種類だけでなく、同じ筋肉の中の場所によってもせん断力が違っていた。[4]

研究での平均せん断力は、恥骨筋で3.76 kg、大腿外側広筋で6.53 kgだった。これらは研究条件下で測った異なる筋肉の平均であり、市販のローストビーフ全体の範囲を示す数字ではない。どちらも牛肉なのだから切り方をそろえれば同じになる、という読み方はできない。[4]

場所の違いも単純ではなかった。半腱様筋では中央から両端へ向かうほどやわらかさが低下したのに対し、内転筋と縫工筋では中央から両端へ向かってやわらかさが増した。どの筋肉でも端が硬い、あるいは中央がやわらかい、という共通の地図にはならなかったのである。[4]

大腿二頭筋と半腱様筋では前側と後ろ側にも差があり、中間広筋では内側の方が外側よりやわらかかった。これらは部位の性質を調べた結果であって、家庭で場所を見ただけで硬さを正確に言い当てる方法ではない。それでも、別の場所の肉を比べると切る向き以外の条件も変わる、という注意にはつながる。[4]

たとえば最初に端を切り、次に中央を切って、後の方が食べやすかったとする。それだけでは包丁の角度のおかげと決められない。近い場所から切り出し、厚みもなるべくそろえて向きを比べる方が、何を変えたかを理解しやすい。家庭の食べ比べに必要なのは、実験装置よりも比較する条件への目配りである。[4][6]

やわらかさと、肉汁や味は別々に確かめる

「やわらかい肉だった」という感想には、噛み切りやすさだけでなく、味の好みや口に広がる水分の印象も混ざりやすい。食感の研究では、それらを別の項目として評価する。切る向きの効果を考える際も、何がおいしさを変えたのかを分けておくと、話が広がりすぎない。[9]

牛の腰部の筋肉18個と半腱様筋18個を用いた官能評価の実験では、訓練された評価者の両群が、腰部の筋肉の繊維方向について、やわらかさに関わる多くの項目で違いを検出した。官能評価とは、人が食べて性質を評価する方法である。一方、風味や多汁性に関する違いは、いずれの筋肉でも少なかった。対象は牛肉と訓練された評価者であり、18〜39歳の女性の日常の食感評価にそのまま当てはめられるかは、別に確かめる必要がある。[9]

ここでの多汁性は、食べたときに感じる肉汁の印象を指す。向きが違うと食感の評価は変わり得るが、それを「肉汁が増える」「味が濃くなる」とひと続きに説明することはできない。やわらかさの違いを感じても、味はあまり変わらないという食べ比べは、矛盾ではないのである。[9]

評価する人の訓練にも違いがあった。より高度に訓練された食感評価の群は、評価が一貫していた一方、繊維の向きに対してより敏感だった。食べる人や確かめる項目によって、捉えられる差の姿が変わる。家庭で全員の感想が一致しないときも、誰かの感覚が間違いだと急いで決める必要はない。[9]

食感の評価には、違いを検出することと、その違いをどの言葉で表すかという段階がある。官能評価の研究では、筋肉の違いに加えて、評価者と肉の試料の組み合わせによる影響も検討された。方向を変えた肉に差があると分かっても、その差を全員が同じ強さで感じるとは限らない。食卓ではまず、自分が困っていた噛み切りにくさがどうなったかを見たい。[9]

数字で読むローストビーフの切る向き

18個ずつ:刃の形と繊維方向の影響を比較した牛の腰部の筋肉と半腱様筋の数。[6]

1.4〜2.5 kg:V字形の刃の方が平らな刃より低かった平均せん断力の差。[6]

−0.82:牛肉479頭分の比較での、スライスせん断力とやわらかさ評点の相関係数。[5]

3.76 kgと6.53 kg:牛ももの研究での恥骨筋と大腿外側広筋の平均せん断力。[4]

これらは測定法や対象を添えて読む数字である。料理の点数表にして「この値なら必ず食べやすい」と線を引くための数字ではない。肉の種類、試料の取り方、測る方法がそろっているかが比較の入口になる。[4][5][6]

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宮川涼 Founder

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