骨盤の安定に関わる筋肉を意識するとき、骨盤底とお尻は同時に締めるほどよいのか。その場の収縮を超音波で調べた研究と、股関節の筋トレを継続した試験を比較する。膀胱底の持ち上がり、筋力、尿漏れの変化を分け、力を足す練習と狙った筋を使う練習の違いを読み解く。
骨盤底を締める練習なのに、先にお尻が固くなるのはなぜか。マットに仰向けになり、狙った場所より周囲の力が気になる。力を足した分だけ、骨盤の支えも増えた気がする。しかし、若い健康な女性の実験では、骨盤底を収縮させながら股関節周囲にも力を入れると、膀胱底の持ち上がりが小さくなった。[1]
一方、腹圧性尿失禁のある人が股関節の筋トレを骨盤底筋の練習に加えた試験では、経過中の尿漏れ頻度に良い変化があった。症状のある人の結果を、18〜39歳の健康な女性の予防効果にそのまま当てはめることはできない。[8] 同時に締めると損なのか、お尻も鍛えると役立つのか。答えは、測った時間と結果をそろえると見えてくる。その瞬間の収縮と、継続した練習の成果は、別の問いである。[1][8]
「股関節を締めるボール挟みは全力で行う?強さを上げる前に骨盤底の力を読む」では、挟む力の強さを扱っている。ここでは力の大小から離れ、骨盤底とお尻を同時に使う課題と、両方を練習メニューに含める課題を比べる。お尻の手応えを、そのまま骨盤底の成績表にしないための読み物だ。
既存記事「女性の腹筋は骨盤底も同時に締める?自然な連動と意識した収縮の違いを読む」には、腹筋運動中の連動と意図的な収縮の問いを譲る。こちらの中心は股関節の運動であり、その場で力を重ねる操作と、継続する練習へ加える方法の比較だ。

骨盤を支える筋肉は、つながっていても同じ仕事ではない
骨盤底筋は、骨盤の底側にある筋肉群を指す。解剖と生理のレビューでは、その主な構成として肛門挙筋を挙げ、骨盤、背骨、股関節との関係を整理している。骨盤の骨と筋肉は股関節やお尻の筋肉と密接につながり、内臓や体幹を支える働きに関わる。骨盤底の機能には、膀胱や腸のコントロール、性機能、妊娠も含まれる。[9]
この解剖学的なつながりは、周囲の筋肉にも目を向ける理由になる。ただし、つながっていることと、全部を同時に強く締めれば狙った動きが増えることは同義ではない。股関節の筋肉を加えたときに何が起こるかは、実際の収縮課題で確かめる必要がある。骨盤底の収縮中に脚の開閉方向へ力を加えた実験は、まさにその点を調べている。[1][9]
「骨盤の安定」という言葉だけでは、何を評価するのかが広すぎる。ここで扱う研究の中心は、骨盤底の収縮と尿漏れである。膀胱底の動きを測る実験や、尿漏れの頻度を追う試験の結果を、そのまま立位の揺れや片脚立ちの上達に置き換えない。[1][8] 骨盤を支える話から始まっても、研究の物差しまで姿勢全般へ広げないことが大切だ。
たとえば、レッスン中に「お尻も使う」と言われたときには、動作全体を行うための合図なのか、骨盤底だけの収縮を覚えるための合図なのかを分けたい。動作全体に必要な感覚と、骨盤底だけを狙えたかの評価は分ける。骨盤底の収縮を教える試験では、お尻や内もも、お腹の同時収縮を評価対象にしている。外から分かりやすい筋肉の動きだけでは、狙った収縮を確認し切れないという問題がある。[2]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
その場でお尻や内ももに力を足すと、持ち上がりは増えるか
健康な若い女性19人を対象にした研究は、脚の位置と股関節周囲の同時収縮を変えて、骨盤底の収縮を比較した。姿勢は、仰向け、仰向けで膝を立てた姿勢、膝を立てて股関節を外に開く方向へ力を加える姿勢、内に閉じる方向へ力を加える姿勢である。外に開く働きを外転、内に閉じる働きを内転という。[1]
研究者が超音波で見たのは、膀胱の底がどれだけ持ち上がるかだった。これは骨盤底を自分の意思で収縮させる際の効率をみる指標として使われた。膝を立てた仰向けでは、通常の仰向けよりも膀胱底の挙上が有意に大きかった。ところが、そこへ外転や内転の力を加えると、膝を立てるだけの条件より挙上が有意に小さくなった。いずれの比較も統計的な有意差が認められた。[1]
つまり、この実験は「筋肉をたくさん参加させれば、骨盤底の持ち上がりも増える」という単純な足し算を支持しなかった。[1] お尻や内ももが頑張っている感覚は確かでも、その感覚が増しても、超音波で見える持ち上がりは小さくなった。全身の努力感が大きいと、狙った部分にも十分届いた気になる。体の内側は、拍手の大きさで採点されていない。
ただし、ここから「股関節の筋トレは骨盤底に悪い」と結論するのは飛躍である。調べたのは、若い健康な女性が、その場で骨盤底を収縮させたときの膀胱底の動きだ。尿漏れのある人への継続的な治療効果や、お尻を鍛えた後の変化を比べた試験ではない。この対象と測定を保ったまま読むなら、骨盤底を狙う場面で不要な股関節周囲の力を足さない、という方向が見えてくる。[1]
また、持ち上がりが小さいという結果から、筋肉が傷ついた、骨盤が不安定になった、と話を広げることもできない。実験の評価は膀胱底の挙上である。[1] 「動きが小さかった」と「体に悪かった」を同じ言葉で扱わない。この区別があれば、お尻の筋肉を怖がる必要も、強く締め直して帳尻を合わせる必要もなくなる。
股関節の筋トレを続けて加えた試験では、別の変化が出た
ここで取り上げる無作為化試験の対象は、腹圧性尿失禁のある人である。18〜39歳の健康な女性にそのまま当てはめるには、症状の有無という違いがある。[8]骨盤底筋の強化だけを行う群と、そこへ大殿筋、中殿筋、股関節内転筋の運動も加える群を比較した無作為化試験がある。大殿筋と中殿筋はお尻にある筋肉、内転筋は脚を内へ寄せる筋肉だ。試験には47人が割り付けられ、4人が完了しなかった。介入は10週間、20セッションで行われた。[8]
結果には、良かった指標と、群間差のなかった指標が並ぶ。経過中に記録した排尿日誌による日々の尿漏れ頻度では、股関節の筋トレを加えた群に有利な変化があった。一方、3日間の排尿日誌、生活の質、骨盤底筋の機能評価では、群間の有意差がなかった。骨盤底筋の強さや圧の評価でも、併用群の優越性は示されなかった。[8]
これを「お尻を鍛えると骨盤底筋が必ず強くなる」と読んではいけない。症状の頻度に差が出ることと、測定した筋力に差が出ることは別だったからだ。[8] 逆に、筋力で差が出なかったからといって、日誌に現れた症状の違いを消してしまうのも正確ではない。結果を一語の「効いた」に畳まず、何が変わったのかを残す必要がある。
自宅でお尻だけの収縮を行う方法と、通常の骨盤底筋トレーニングを比較した無作為化試験もある。腹圧性尿失禁のある30〜59歳の女性60人が対象となり、リーフレットを使い、監督者のいない自宅で、3分の練習を日に2回、12週間続けた。完了者50人の解析では、両群で尿漏れ症状の指標が開始時より改善した。対象には中年の患者も含まれ、18〜39歳の女性全体に同じ改善率を当てはめることはできない。[3]
尿漏れ回数とパッド試験の漏れ量が少なくとも50%減るという改善基準では、お尻の群が65.2%、骨盤底筋の群が63.0%で、群間に有意差はなかった。[3] 自宅で取り組む方法の比較として興味深い結果だが、少人数の完了者の解析で差がなかったことを、どんな人でも同等の効果があるという保証にはしない。医療の場で個別に行う指導と、リーフレットを使った自宅練習も区別しておきたい。
別の無作為化試験では、腹圧性または混合性の尿失禁がある30〜65歳の女性60人を、機器で反応を確認しながら行う骨盤底筋トレーニング、それに股関節を回す筋肉の強化を加える方法、腟内の電気刺激を加える方法に割り付けた。監督下で6週間行い、55人が完了した。股関節の強化を加えた群は、骨盤底筋トレーニングだけの群に比べ、圧で測る骨盤底筋力の改善が平均4.44 cm H2O大きかった。30〜65歳の患者での結果であり、18〜39歳の健康な女性にも同じ追加効果があるかは別に確かめる必要がある。[12]
ただし、この試験でも筋力の別の尺度や生活の質では、追加介入の有利な変化は有意差に達していない。[12] 先ほどの10週間の試験では筋力の優越性がなく、こちらでは圧の改善に差があった。[8][12] 対象、加えた股関節の運動、監督や機器の使い方が異なるため、結果を同じ条件の勝敗として並べない。併用の可能性はあるが、どの筋肉でも同じ効果になるという話ではない。
数字で読む骨盤底と股関節の関係
19人:若い健康な女性で、脚の位置と同時収縮による膀胱底の挙上を比べた実験である。[1]
10週間・20セッション:骨盤底筋の強化に股関節の筋トレを加えた試験の介入期間と回数である。[8]
65.2%と63.0%:自宅練習の試験で、お尻の群と骨盤底筋の群が改善基準を満たした割合であり、有意な群間差はなかった。[3]
176人:言葉と身体感覚による指導に、腟から触れて確認する方法を加える価値を調べた試験の対象者数である。[15]
7試験:骨盤臓器脱に対し、骨盤底筋トレーニング以外の運動を検討したレビューが採用した無作為化試験の数である。[4]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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