運動の汗は一定の速さで出る?動きを止めた後に変わる発汗の指令を読み解く

運動した時の汗は、同じ勢いで出続けるとは限らない。神経の活動に続く脈打つ分泌を手がかりに、運動中と終了後で違う発汗の指令、汗が出る回数と量の関係を読む。少人数の生理実験と新しい測定法を比べ、腕の汗だけで全身や体力を判断しないために、日々の記録でそろえたい条件を考える。

最後の動作を終え、タオルを肩に掛ける。まだ体は熱いのに、汗の勢いはさっきと違う。運動を止めた瞬間から、汗を出す指令にも切り替わりが起きるのだろうか。

運動の汗は、一定の速さで流れる蛇口のようには捉えきれない。発汗量の記録には脈打つ変化があり、その前には皮膚へ向かう神経の活動がある。また、同程度の体温でも運動中と終了後では、発汗量とその脈打つ反応の頻度が異なるという実験結果がある。[9][2]

既存記事「汗をかく量は粒の大きさで分かる?腕に残る水滴と発汗の測定を読み分ける」は水滴の見た目の問いに、「発汗の効果は一分の平均で分かる?汗の出始めと時間に沿った変化を読み解く」は平均を取る時間の問いに譲る。ここでは、動いているときの発汗の指令が、止まったあとの指令とどう違うかを追う。

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汗の脈打つ反応は、神経の活動に続いて起こる

発汗の「脈」とは、汗の量を時間に沿って記録した曲線に現れる、ひとまとまりの増加である。研究ではこの反応を数え、その頻度を中枢の発汗活動、つまり体から汗を出すように働きかける神経側の活動の指標としている。心拍の数え方をそのまま汗へ移したものではなく、発汗そのものの記録から取り出した指標である。[9][14]

若い男性5人を対象とした生理実験では、足の甲の汗を連続的に記録しながら、皮膚に向かう交感神経の活動を微小な電極で記録した。交感神経とは、ここでは発汗などに関わる自律神経の経路を指す。室温25〜38℃、相対湿度50〜60%の環境で調べると、汗の脈打つ反応に先行して、神経活動がまとまって強くなる現象が認められた。18〜39歳の女性に同じ時間差や量の関係をそのまま当てはめるには、女性での検証が必要である。[9]

神経の活動から発汗の反応までの遅れは2.4〜3.0秒であった。さらに、神経活動のまとまりの大きさは、そのあとに起こる汗の増え方の最大速度、反応の大きさ、その反応中に出た汗の総量と直線的な関係を示した。単に「汗が波打って見えた」という話ではない。神経と汗を同時に追い、時間の前後関係と量の対応を調べた点が、この研究の強みである。[9]

この対応は、温熱による発汗だけでなく、覚醒を促す刺激や痛みを伴う電気刺激で誘発された発汗でも認められた。ただし、これは若い男性の足の甲を調べた実験である。日常の運動中に全身の汗が同じ間隔で増減する、と読み替えることはできない。脈打つ分泌が神経由来の活動を映すという説明と、その現象をどこまで広げられるかは、分けて受け取る必要がある。[9]

手首を眺めて、汗の拍子を数えなくてよい。実験で数えているのは測定装置が捉えた発汗の変化であり、目に見える水滴の個数ではない。水滴が落ちる瞬間を神経の発火の瞬間だと決めると、研究が比べているものから離れてしまう。[9]

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同じ体温でも、運動中と終了後の汗は同じではない

健康な男性を対象とした研究は、運動中と運動後の回復中を、体温が同程度のところで比較した。最大下運動を行う実験と最大運動を行う実験を実施し、室温27℃、相対湿度35%のもとで、運動中と終了後20分間の変化を測定している。食道温、平均皮膚温、平均体温に加え、胸の発汗量と汗の脈打つ反応の頻度を記録した。男性を対象とした結果なので、18〜39歳の女性に同じ差が生じるかは別に確かめる必要がある。[2]

どちらの実験でも、体温が同程度なら、胸の発汗量と反応の頻度は回復中より運動中のほうが高かった。ここで大切なのは、動いているほうが熱かったから汗も多い、という比較に終わっていない点である。体温の条件を近づけても発汗の違いが残ったため、運動に伴う発汗を体温だけで説明するのは難しい。[2]

次に反応の頻度をそろえて比べると、発汗量は運動中と回復中で同程度か、運動中のほうがわずかに少なかった。体温でそろえると運動中の汗が多いのに、頻度でそろえると同じ傾向にはならない。何を横軸にして比べるかで、見えてくる仕組みが変わるのである。[2]

著者らは、同程度の体温で運動中の発汗が多い理由を、中枢の発汗活動が大きいことによると結論した。また、その差には温度以外の要因と平均皮膚温の変化速度が関係すると考察している。汗の量を説明するには、今の温度という静止画だけでなく、運動中なのか、回復へ移ったのかという経過も必要になる。[2]

たとえば、立川駅へ向かう前に鏡を見て、さっきより汗が減ったと感じても、それだけで体温がすっかり戻ったとは判断しないほうがよい。この実験が示したのは、同じ程度の体温でも運動中と回復中の発汗は一致しないということだ。汗の勢いを体内の温度計の代わりにする読み方には限界がある。[2]

回数の変化と、汗腺の応答の変化を分ける

発汗量が多くなったとき、研究者は神経側の指令が変わったのか、末梢、つまり汗腺など指令を受ける側の応答が変わったのかを考える。反応の頻度を調べる意味は、この切り分けにある。総量だけを眺めていると同じ「汗が増えた」でも、体温と頻度、頻度と量の関係を調べると、違う仕組みが見えてくる。[1][3]

健康な若い参加者8人を対象とした暑熱順化の介入研究では、暑さに慣れる前後を比べた。介入は6日間、36℃の環境で最大酸素摂取率の50%に当たる運動を合計80分行うプログラムである。その前後に水を循環させるスーツで体を温め、胸と前腕の発汗量、反応の頻度、食道温を調べた。[1]

介入後は胸と前腕で発汗が始まる食道温の閾値が低くなった。閾値とは、ここでは発汗が始まる境目の温度である。一方、温度上昇に対して発汗量や反応の頻度が増える関係の傾きは変わらず、より低い温度の側へ移動した。同じ反応頻度に対する発汗量も、介入前後で同程度であった。[1]

この結果は、汗腺が同じ指令でより多くの汗を出すようになったというより、発汗の指令が働き始める温度の境目が変わったという説明に合う。著者らも、短期間の暑熱順化は中枢の仕組みを変化させ、発汗開始の温度閾値を下げると考察し、末梢の仕組みの有意な変化は認めなかったとしている。[1]

ただし、このプログラムをそのまま自主練習の処方にする話ではない。目的は発汗の仕組みを比較することである。汗が早く出た日を見て「汗腺が強くなった」と断定する前に、出始めの境目が変わる場合もあると知っておく。その違いが分かれば、汗を増やすために暑さを追加するという発想から距離を置ける。[1]

この指標の基礎となる別の実験では、男性6人が安静時に少なくとも10種類の温熱環境にさらされ、両方の前腕の発汗量を連続記録した。室温の範囲は22〜44℃、相対湿度は40%である。それぞれの環境で状態が安定したところを調べ、両腕で同期する汗の反応を数えて頻度を求めた。ここでも、片腕にたまたま見えた水滴ではなく、測定曲線の同期する反応を数えている。男性6人で得られた体温と頻度の関係を18〜39歳の女性にもそのまま使えるかは、この実験だけでは判断できない。[14]

研究者は、体の深部の温度と皮膚温を組み合わせた指標と、汗の反応頻度の関係を分析した。その結果、平均体温を、発汗中枢へ入る温度の情報の近似として使えると考察している。反応頻度は、中枢の発汗機構が発汗量の変化にどの程度関わるかを検討するうえで役立つ指標とされた。頻度が役に立つのは、それ自体が汗の良し悪しを表すからではなく、別の温度情報や発汗量と組み合わせて比べられるからである。[14]

この読み方を運動前後の比較へ戻すと、調べる順序がはっきりする。まず同程度の体温で量と頻度を比べ、次に同程度の頻度で量を比べる。前者で差があり、後者では同じ方向の差がないなら、汗腺が同じ指令に対して出す量だけでは、最初の差を説明しにくい。運動中と回復中を比べた研究の結論は、こうした比較の積み重ねに支えられている。[2][14]

ただし、反応頻度は中枢の活動を調べるための指標であって、脳の中を直接撮影した数値ではない。足の甲で神経活動と発汗を同時記録した研究が対応を裏付け、温熱環境での実験が体温との関係を調べている。異なる実験がそれぞれの役割を担っているのである。日常の汗の印象から同じ精度で神経活動を推定するには飛躍があるが、研究を読むときには、量の差が生じた段階を考える手がかりになる。[9][14]

数字で読む発汗の指令と反応

神経活動から汗の反応まで2.4〜3.0秒:若い男性5人の足の甲で測った時間差である。[9]

運動後20分間:運動中と回復中の胸の発汗を追い、同程度の体温でも違いを認めた比較である。[2]

若い参加者8人、6日間:短期の暑熱順化後は発汗開始の温度閾値が下がった。[1]

鍛錬者9人と非鍛錬者8人:運動中の発汗応答の違いは、胸と前腕で同じではなかった。[3]

2022年:個々の汗腺の活動と脈動を、非接触の光学的方法で捉える予備的研究が報告された。[4]

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宮川涼 Founder

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