腹筋を割ると左右の節はそろう?鏡の段違いと筋肉の厚さを別々に読むために

腹筋の左右の節がずれて見えたら、鍛え方が偏っているのだろうか。腹直筋を区切る腱画の解剖と胎児期の発達、筋肉の厚さと体積を測った研究から、境目の位置と鍛えた成果を分けて考える。数字の分母や画像の測り方も確かめ、鏡だけで運動の成否を決めないための見方を整理する。

着替えの途中、鏡に映ったお腹の横線が左右で少し違う高さに見える。腹筋を割るために練習してきたのに、右と左の節がそろわない。「片側だけ使っているのか」と、次の筋トレを増やしたくなる場面である。

ただ、腹直筋の区切りである腱画は、運動後につくられた採点の線ではない。胎児期の観察でも形成の過程が捉えられ、成人の解剖でも数や筋肉の奥まで達する程度に違いがある。鏡の段違いだけを、鍛え不足の証拠として扱うのは早い。[3][13]

この記事で確かめるのは、左右の横線をそろえることを筋トレの目標にしてよいか、という問いである。「腹筋を割る練習は境目にも負荷がかかる?腹直筋の腱画と腱膜を分けて読む」で扱う負荷の話はそちらに譲り、ここでは境目の配置と筋肉を測る数字の違いを追う。

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腹筋の横線を、筋肉の大きさと分けて見る

お腹の前面にある腹直筋を横切る腱性の区切りが腱画である。腹直筋を覆う鞘とつながり、筋肉の途中に位置する構造として解剖されている。成人の解剖研究では、腱画の位置と、その間の筋肉の中央では厚さにも違いがあった。筋肉の中央のほうが、対応する区切りの位置より厚い傾向だったという。[3]

このことから、鏡で気になる「線の場所」と、研究が測る「筋肉の厚さ」は同じ項目ではないと分かる。ある場所が厚いか、区切りがどの高さにあるか、区切りが奥へどこまで入り込むか。それぞれ別の質問である。筋肉を紙に描いた格子として考えると、これらを全部「割れ方」という言葉に押し込みやすい。[3]

たとえば、右の上の節が左より高いように感じたとする。その感想から直接分かるのは、本人が表面の配置をそう見たということまでだ。「右の腹直筋の体積が小さい」「左だけ強い」という答えは、別に確かめる必要がある。解剖研究の測定対象も腱画の厚さ、入り込む深さ、筋肉の厚さと分かれており、横線の位置をそのまま筋力の点数に置き換える設計ではない。[3]

スマホに保存した理想の腹筋の画像と、自分の横線を重ねたくなることもある。しかし、比較する前に何を比較したいのかを決めたい。配置に関心があるなら配置、筋肉の大きさに関心があるなら大きさである。画像の相手と同じ模様になることを、運動ができた証明として要求する必要はない。成人でも構造に幅があるという解剖の事実が、その出発点になる。[3]

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成人の腱画は、同じ枚数の仕切りではない

Broylesらの研究は、遺体の片側腹壁55側を調べた解剖研究である。対象となった32体のうち、30体には左右に対応した腱画が3対、2体には4対あった。これは遺体の構造を調べた結果であり、18〜39歳の女性が運動した場合の変化にそのまま当てはめることはできない。多かった型と、全員に当てはまる型は違う。「典型的にはこの形」と描かれた図を、自分に必須の完成形として受け取らないことが大切である。[3]

ただし、この結果を「左右の高さがずれている人の割合」と読み替えてはいけない。ここで示された数字は腱画の対の数であり、表面の段違いを数えた割合ではない。3対という数だけでは、左右の高さの一致や段違いは判定できない。数を調べる質問と、位置の対応を調べる質問を分けておく。[3]

同じ研究では168個の腱画が評価され、そのうち30個、18%は筋肉の前面から後面まで全層を通っていた。一方、多くの腱画は完全には貫いていなかった。横線を見て「筋肉がそこで完全に切れて、別々の小さな筋肉になっている」と想像するよりも、奥行きのある区切りとして理解するほうが研究の観察に近い。[3]

少なくとも1個の全層性の腱画を持つ片側腹壁は、55側のうち23側、42%だった。18%と42%は矛盾しない。前者は腱画を単位に数え、後者は片側腹壁を単位に数えているからである。たとえば「研究では約半分に特徴があった」とだけ紹介されると、全腱画の半分だと思ってしまう。何をひとつとして数えたのかが、体の話でも欠かせない。[3]

なお、この解剖研究の主題は、筋肉への神経の接続に関わる臨床上の構造である。全層の腱画があれば運動能力が低い、という順位を付けたものではなく、研究者もその臨床的な意味は明確でないとしている。目立つ特徴が見つかったことと、その特徴が困りごとを起こすことは別々に扱うべきだ。[3]

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腱画の形成は、筋トレより前から始まっている

Iwasaらは、ヒト胎児標本15例を拡散テンソル画像という画像法で調べ、腹直筋の腱画が形成される過程を観察した。対象の頭から臀部までの長さは39.5〜93.7mmだった。発達の途中にある構造を画像で調べた研究であり、胎児での形成過程を18〜39歳の女性の腱画の配置や運動による変化にそのまま当てはめることはできない。[13]

左右両側の腱画数の平均は3.1で、範囲は2.0〜4.0だった。標本の21%では腱画が2個だけであり、研究者は、この段階では形成が進行中であることを示唆するとしている。成人の研究と数字が違っても、それを直ちに年齢による減少や増加の量として読むことはできない。同じ人を胎児から成人まで追い続けた比較ではないからだ。[13]

位置による違いも調べられた。へその輪に当たる区域では、腹直筋の幅全体を横切らない不完全な型が、上方の比較区域より多いという関係があった。また、恥骨側の区域では腱画を欠くことが上方の比較区域より多かった。腹直筋のどこでも、同じ時期に同じような仕切りができる、という単純な配置ではなかった。[13]

ここでいう「不完全」は、運動のやり残しを意味しない。胎児研究では幅を完全に横切るかどうかを分類している。他方、成人研究が注目したのは前面から後面へ通り抜ける深さである。同じ言葉でも見ている方向が違うため、「不完全な腱画は何割か」を両研究からひとつの割合にまとめることはできない。[3][13]

この違いは、鏡で見る横線の読み方にも役立つ。正面からの幅、上下の位置、体の奥へ向かう深さは、構造の異なる軸である。横線が途中で終わるように感じても、それだけで奥までの構造を決めることはできない。発達と成人の解剖を並べて得られるのは、腱画を平面の模様だけで説明しきらない、という視点だ。[3][13]

胎児研究で腱画が検出された標本には、妊娠約11週に相当するものも含まれた。つまり、形成は成人が腹筋を鍛えるより前の段階ですでに観察される。だからといって、今見えている線のすべてを出生前の配置だけで説明し切る必要もない。ここで確認できるのは、腱画の存在と発達を、最近の筋トレの成否だけで説明するのは無理があるということだ。[13]

境目の中にも、血管の立体的な配置がある

腱画は、単なる模様ではない。Whetzelらは14体の新鮮遺体を使い、腹直筋の動脈に色の付いたラテックスを注入して解剖と血管の位置の記録を行った。さらに別の2体で造影した標本の撮影を行い、腱画の血管構築を調べている。血管がどこを通るかを見る遺体の解剖研究であり、18〜39歳の女性が運動した時の血流や見た目の変化にそのまま当てはめることはできない。[5]

観察されたのは、上方または下方の腹壁の動脈から伸びる、横方向の弓状の血管網である。そこから筋肉や上にある皮膚を養う枝が出ていた。腱画から出る穿通枝、つまり組織を通って表面側へ向かう血管は、面積当たりでは腹直筋の他の部分より多かった。[5]

この結果は、腱画の位置が手術の組織の設計に関わる可能性を示すものだ。家庭で腹筋の左右差を診断する方法や、血流を増やして節を移動させる方法を示したものではない。血管があるという事実を知ることと、そこを狙って押す、揉む、片側だけ追い込むという行動を選ぶことの間には、検証すべき段階が残る。[5]

研究の目的まで読むと、同じ腱画の論文でも、数を数える研究、発達を見る研究、血管を地図にする研究があると分かる。それぞれが体の違う側面を照らしている。鏡の線を見た不安に対しては、どれかひとつの数字で即答するより、何の数字ならその疑問に関係するのかを選ぶほうが役に立つ。[3][5][13]

数字で読む腹直筋の区切り

32体中30体:成人解剖研究で、腱画が3対だった対象数である。[3]

168個中30個:前面から後面まで全層を通る腱画の数で、割合は18%だった。[3]

55側中23側:少なくとも1個の全層性腱画を持つ片側腹壁の数である。[3]

15例:腱画の初期形成を画像で観察したヒト胎児標本の数である。[13]

14体:血管への注入を用い、腱画を含む腹直筋の血管構築を調べた対象数である。[5]

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宮川涼 Founder

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