ダイエット中のワイン選びで、辛口の表示だけから糖質ゼロと判断していないだろうか。発酵後に残る糖、アルコール濃度、甘口を造る工程の違いを醸造研究から整理する。糖が少ないことと血糖への作用も分け、ボトルの成分情報や食事記録を確かめる際の視点を具体的に示す。
夕食用のワインを選び、ボトルの「辛口」の文字で手を止める。「甘口より辛口なら、糖質はもう残っていないはず」と考えたことはないだろうか。発酵が進むと残る糖は減り、アルコールは増える。ただし、その動きと、最後の糖がゼロになることは同じではない。[18]
答えの芯は、辛口という呼び名を成分の測定値の代わりにしないことだ。カシューフルーツの醸造実験では、ある酵母による酒の残糖は4 g/L未満だったが、この結果もゼロという数値ではない。さらに、別の酵母では発酵を完了できなかった。同じ原料を酒にする場合でも、使う微生物によって終着点が変わる。[6]
また、残る糖が少ないことから、飲酒が血糖やダイエットに有利だと飛躍してはいけない。2型糖尿病の成人を対象とする系統的レビューは、飲酒を急性の血糖改善の手段として支持していない。18〜39歳の女性にそのまま当てはめられるかは、この患者集団の結果だけでは判断できない。[1] 既存記事「ダイエット中のワインは運動後でもよい?晩酌と筋肉の回復を分けて読む」に回復の話を譲り、ここではボトルの中で糖がどう変わるかを考える。

発酵で糖が減ると、何が増えるのか
ワインを選ぶとき、原料のブドウの甘さと、出来上がった酒の糖の量をそのまま重ねると混乱する。同じ畑のメルローとカベルネ・ソーヴィニヨンを比較した自然発酵の研究では、発酵中にエタノール、つまり酒に含まれるアルコールの濃度が有意に上がり、残糖は有意に減った。これは果汁から酒へ移る過程を追った比較研究である。[18]
残糖とは、発酵後の液体に残った糖を指す。この研究で重要なのは、糖が減ったという変化と、完成した酒に糖が存在しないという断定を分ける点だ。前者は時間に沿った変化であり、後者は最終的な濃度の話になる。「発酵したから」という説明だけでは、後者の答えにはならない。[18]
この比較では、糖だけが動いたわけでもない。リンゴ酸、クエン酸、酵母が利用できる窒素なども減り、微生物の構成や香りの成分には品種間の違いがあった。カベルネ・ソーヴィニヨンでは発酵終了時のエステル類が多く、果実や花を思わせる香りも官能評価で確認された。発酵は糖だけを消す単独の操作ではないのである。[18]
夕食の記録に「ブドウ由来だから糖が多い」と書くのも、「発酵済みだから糖はない」と書くのも、途中の工程を飛ばしている。原料名は出発点、残糖は到着点の情報だ。飲み物の名前だけで到着点を決めず、完成品の成分情報が確認できるなら、そちらを記録の根拠にしたい。
カシューフルーツの実験では、残糖の少なかった酵母でグリセロール2.96 g/L、エタノール81.23 g/Lという結果も得られた。グリセロールはこの研究で測定された発酵に伴う成分の一つである。研究者は糖だけでなく、有機酸やアミノ酸、香りの成分も組み合わせて酒の性質を調べた。残糖が低いという結果は、液体の中身を記述する多くの項目の一つなのだ。[6]
同じ研究で別の酵母が発酵を完了できなかったことも見逃せない。研究者は、その酵母について混合したスターターでの今後の検討を提案した。これは造り方を改良するための議論であって、飲み手の減量効果を比べた試験ではない。[6] 食品研究にある「優れた特性」という評価を読むときは、何を製造するうえでの特性なのかまで確かめたい。
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
同じ白ワインでも、発酵の進み方はそろわない
果実酒の例だけでは、ブドウのワインには関係ないように感じるかもしれない。そこで参考になるのが、白ブドウのソラリスを使った醸造実験だ。同じ搾汁工程で得た果汁を分け、温度条件をそろえて、酵母を加える方法や亜硫酸を加える方法を比較している。出発材料を共通にし、製造方法の違いを見る設計である。[9]
自然発酵で亜硫酸を加えなかった区では、発酵の完了度が低く、残糖が多く、エタノールが少なかった。揮発酸も最も高く、官能評価は最も低かった。一方、亜硫酸と培養酵母を併用した区では、揮発酸が最も低く、官能的な受容が最も高かった。糖とアルコールの違いは、同じ果汁からでも生まれたのである。[9]
この結果を「自然発酵の酒はすべて糖が多い」と読み替えることはできない。特定の果汁を用いた条件比較だからだ。役立つのは、名称の印象だけで成分を推定しないという視点である。自然、手造り、果実らしい、といった言葉に惹かれて選ぶことと、糖の量を確認することは分けてよい。
また、この実験では亜硫酸の有無と酵母接種の方法が組み合わされている。結果を亜硫酸だけの働きに還元するのも乱暴だ。比較されているのは製造戦略の組み合わせであり、添加の有無をそのまま飲み手の健康の優劣へ置き換える研究ではない。[9] 棚の説明札は、健康診断の結果票ではない。

温度と原料の濃さも、残糖の行き先を変える
残糖が違う理由を酵母の名前だけに絞る必要もない。中国・新疆の伝統的なブドウの発酵酒ムサライスを対象とした実験では、発酵温度と濃縮果汁の濃さを変えて、成分と香りを調べた。温度は22、25、28 °C、果汁は26、29、32 Brixの条件だった。Brixは、この研究で果汁の濃さを設定する際に使われた指標である。[5]
高い温度の28 °Cでは、総酸と残糖が増えた。一方、エタノールは25 °Cで最大となり、とくに29 Brixの果汁で高かった。温度を上げれば糖がいつでも減り続ける、という一直線の図にはならない。成分ごとに、条件への応答が違ったのである。[5]
香りにも違いがあり、22 °Cでは果実やカラメルを思わせる成分を含む複雑な構成、28 °Cではアルコール類が中心のより単純な構成が見られた。これは製造条件を調整するための食品研究であり、市販の全ワインの味と残糖を予測する表ではない。それでも、香り、酸、糖、アルコールを別々に調べる必要があることはよく分かる。[5]
食卓では「香りが甘そう」「酸味がある」といった感想を楽しめばよい。しかし、食事記録に必要な成分量まで、その感想で埋めない方が整理しやすい。味についてのメモと数値についてのメモに、同じ役割を持たせる必要はない。数値が分からないときは、無理にゼロの欄を作らず、確認できていない項目として扱える。
甘口は、発酵の途中で止めるだけではない
甘いワインを「糖を残すために発酵を途中で止めた酒」とだけ覚えていると、別の工程を見落とす。コリント産の干しブドウ加工の副産物を使った醸造実験では、アルコールに耐える酵母で発酵を完了させた後、原料を加えて糖を抽出する方法、原料から作ったシロップで甘さを調整する方法を検討した。別に、エタノールを加えて望む糖の段階で発酵を止める方法も比較した。[19]
発酵を完了させてから甘さを整えた、酒精強化をしていないワインでは、エタノールが15.2〜15.5%、残糖が115〜145 g/Lだった。甘い仕上がりは、発酵が途中だったという理由だけでは説明できない。どこまで発酵させたかに加え、その後で何を加えたかも最終成分を決める。[19]
ここでの数値は、干しブドウ由来の特定の製品を試作した結果である。一般的な甘口ワインの平均として使う数字ではない。また、残糖が多ければアルコールは必ず少ないという推測への反例にはなるが、残糖とアルコールの関係をあらゆる酒で固定する式にはならない。[19]
夕食用の酒を比較するなら、甘口と辛口の対比だけでなく、完成品の残糖とアルコールの情報を別々に探すことになる。造り手が示す工程の説明を読む際にも、「発酵終了」はすべての成分が決まった瞬間とは限らない、と覚えておくと読み違いが減る。酵母の仕事が終わっても、造り手の仕事は終わらない場合がある。[19]
残糖の数字を並べる際には、単位の置き場所も確かめたい。g/Lは液体の容量当たりに含まれる糖の質量を示す表し方であり、ボトル全体や自分が飲んだ量そのものではない。これに対して、甘い試作ワインのエタノールは%で報告されている。[19] 糖の欄とアルコールの欄の数字を、そのまま足したり大小で順位をつけたりしても、飲んだ成分量の比較にはならない。
たとえば夕食の記録で、銘柄のメモには容量当たりの成分情報、別の欄には実際に注いだ量を残す、という形なら後で見返しやすい。グラスの見た目の大きさだけで成分量を決めず、元の情報と自分の行動を分けておくのである。これは特定の杯数を勧める話ではなく、不明な情報を思い込みで埋めないための記録の工夫だ。
数字で読む残糖とアルコール
4 g/L未満:カシューフルーツの酒を特定の酵母で造った実験の残糖であり、ゼロを表す数値ではない。[6]
22、25、28 °C:ムサライスの比較実験で設定された発酵温度。残糖とエタノールは同じ動き方ではなかった。[5]
115〜145 g/L:干しブドウ加工の副産物から試作した、酒精強化をしていない甘いワインの残糖である。[19]
15.2〜15.5%:その甘いワインのエタノール濃度。糖の多さだけからアルコールの少なさは決められない。[19]
15研究:糖尿病の成人の急性血糖反応を整理した系統的レビューに含まれた研究数。小規模で内容の異なる研究の集積だった。[1]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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