寝る前のお酒で早く寝つけても、一晩を通してよく眠れたとは限らない。健康な成人の試験とレビューから、前半の徐波睡眠、後半の中途覚醒、レム睡眠への影響を読み分ける。少量で差がなかった結果や年齢による違いも確かめ、寝つきだけに頼らない晩酌と翌朝の振り返り方を考える。
眠れない夜に、また同じグラスを手に取る。「飲めば眠れるから」という選択は、睡眠の測定結果と同じなのだろうか。不眠のある人と正常に眠れる人を比べた小規模試験では、不眠群がお酒を選びやすかった一方、両群でレム睡眠は減っていた。選びたくなる実感と、一晩の眠りの評価は分けて読む必要がある。[13]
そのため、最初に深く眠れた感覚だけで一晩の回復を判定しないほうがよい。深い睡眠に当たる徐波睡眠が前半に増える一方、後半の目覚めが増える試験もある。寝入りばなの好成績と、朝までの成績にはずれがある。[5][8]
「有酸素運動の睡眠効果は検査室でも同じ?初夜と自宅で違う眠りの読み方を研究で読む」は検査する場所の問いに譲る。「疲労回復にワインで寝つきをよくする?眠りの前半と後半の違いを研究で読む」は運動後のワイン、「睡眠不足の日にお酒で眠りを補える?寝つきと夜後半の回復を分けて読む」は寝不足からの回復を扱っている。ここでは不眠の有無による寝酒の選択の違いを軸に、その選択を支える前半の眠りと、一晩の測定結果を照らし合わせる。[13]

寝つけたという実感は、眠りの入口の評価である
入眠潜時とは、眠りに入るまでの時間である。健康なボランティアの夜間睡眠をまとめたレビューでは、飲酒によってこの時間が短くなると整理されている。同時に夜の後半の睡眠の乱れも報告されているので、入口の短縮と、その先の安定は分けて読む必要がある。[3]
帰宅して着替え、食事を終え、グラスを置いた後の記憶があまりない。そんな夜には、布団の中で長く考え込んだ夜より眠れたと思いやすい。しかし、寝つきは睡眠を測る項目の一つである。飲酒の研究では、眠っている間に目が覚めた時間や、寝床にいる時間のうち実際に眠った割合も調べられている。[5][8]
後者は睡眠効率と呼ばれる。健康な若い男女を対象とした試験では、飲酒しても総睡眠時間と入眠潜時に有意な差がなかった一方、後半の睡眠効率は低下した。寝つきに差がなくても、後半には差が出たのである。一晩を「何時間寝たか」だけに縮めると、この変化を取り逃がす。[8]
生活で振り返るときも、「すぐ眠れた」と「途中で起きずに眠れた」を別の問いとして扱える。これは家庭で睡眠段階を診断する方法ではない。入口がよかったから途中もよかったはずだ、と記憶をつなげないための整理である。研究が別々に測った項目を、朝の感想でも混ぜないという考え方だ。[5][8]
最近の成人を対象とするナラティブレビューも、お酒は寝つきを早めることがある一方、睡眠構造を乱し、眠りを細切れにし、とくに後半に呼吸への悪影響をもたらすと整理している。睡眠構造とは、一晩の睡眠段階の組み立てである。眠りに入った瞬間だけでは、その組み立て全体は評価できない。[2]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
前半の深い眠りと、後半の乱れは同じ夜に起きる
徐波睡眠は、研究で深い睡眠として扱われる段階である。健康な人の研究を整理したレビューでは、飲酒後の夜の前半に徐波睡眠が増える結果が、年齢や性別、飲酒量をまたいで多く報告されている。これは「お酒では深く眠ることが絶対にない」という説明とは異なる。[3]
大切なのは、深い睡眠が増えたという結果そのものを消さず、その起きた時間帯まで読むことだ。前半に徐波睡眠が増え、後半に睡眠が乱れることは両立する。前半の増加を一晩の改善へ読み替えると、同じ研究が示した後半の変化を置き去りにしてしまう。[3][5]
健康な人を対象にした単盲検のランダム化クロスオーバー試験では、同じ参加者が異なる飲酒条件を経験した。就寝時の血中アルコール濃度が0.1%になる条件では、主に前半で寝つきが短くなり、覚醒の回数が減り、徐波睡眠が増えた。ところが後半には浅い段階の睡眠が増えた。[5]
この結果だけを見ると、お酒に期待した「寝つく」働きは確かに現れている。問題は、後半には浅い睡眠が増える方向へ変わった点にある。夜の前半だけを切り取った説明と、一晩を通した説明で印象が違うのは、研究結果が矛盾しているからではない。切り取る範囲が違うためである。[5]
また、徐波睡眠の量が増えたことを、そのまま筋肉の回復量や翌日の仕事の能率に換算することもできない。ここで読んでいる試験の結論は、睡眠段階と睡眠の連続性の変化である。「深い」という言葉に、測定していない回復の成果まで背負わせないことが大切だ。[5][8]
朝に「最初はよく眠った気がするが、途中から何度も時計を見た」と感じたなら、片方を勘違いとして捨てる必要はない。前半と後半で異なる変化が起きるという研究の見方なら、その両方を同じ夜の出来事として受け止められる。深く眠れた部分があっても、後半のつらさを我慢の理由にしなくてよい。[3][5]
レム睡眠の減少を、後半に取り返せなかった試験もある
レム睡眠は、急速な眼球運動を伴う睡眠段階である。健康な人のレビューでは、最初のレム睡眠が現れるまでの時間が飲酒後に遅れることが、量をまたいで目立つ変化として整理されている。一方、夜全体に占めるレム睡眠の割合は、中程度以上の量では減る研究が多く、少量では明確な傾向がなかった。[3]
レム睡眠への影響は、飲酒量ごとに読み分ける必要がある。最初に現れる時刻が遅れることと、一晩の合計割合が減ることも異なる指標である。時刻のずれを見つけた研究を、合計量の減少を示す研究として紹介すると、結果を強く言いすぎてしまう。[3]
ここには、前半で抑えられたレム睡眠が後半に増えるのではないか、という問いもある。こうした増え返しはリバウンドと呼ばれる。しかし、若い男女を対象とした試験では、前半のレム睡眠は減ったものの、後半にレム睡眠のリバウンドは認められなかった。この試験では、後半に増えて帳尻が合うという経過は見られなかった。[8]
この試験は、健康な18〜21歳の軽い社交的飲酒をする24人を対象とし、そのうち12人が女性だった。18〜39歳の女性全体に同じ反応が起きるかを考える際には、対象が若い年齢帯に限られる点に留意したい。飲酒条件とプラセボ条件を比較すると、前半では徐波睡眠が増え、レム睡眠が減少した。後半では入眠後の覚醒時間が増え、徐波睡眠と睡眠効率が低下した。[8]
参加者の年齢は、日本でそのまま飲酒を勧められる範囲を意味しない。ここでの役割は研究対象を明確にすることである。また、この研究では寝つきの短縮も起きなかった。成人のレビューに多い結果と違う点を残しておくと、「誰でも飲めばすぐ眠れる」という決めつけも避けられる。[3][8]
睡眠段階の変化が、単に睡眠周期の長さの変化から生じたのかも調べられたが、周期の長さに有意な変化はなかった。見かけ上の区切りだけでは説明できない前半と後半の差があったのである。年齢を含む対象の違いも考慮すべきだ、という研究の結論につながる。[8]
さらに、この試験では眠りの合計時間と、その内訳に異なる結果が出た。若い男女の試験は、総睡眠時間には有意差がない一方で、レム睡眠が減り、段階2の睡眠が増えたと報告している。段階2は睡眠を分類する区分の一つである。「いつもと同じだけ寝床にいた」という朝の確認と、睡眠段階の検査が違う問いを見ていることが分かる。[8]
この違いは、夜中に起きた記憶のある人だけの問題として扱わないほうがよい。研究では本人の感想と、睡眠ポリグラフという睡眠段階などを記録する検査を併用している。感想が不要なのではなく、感想と測定を並べる設計である。日常では「すぐ眠れた気がする」という自分の言葉を残しつつ、それを睡眠段階の証明にはしないようにしたい。[5]
また、前半と後半という区切りを、毎晩同じ時計の時刻と考える必要もない。研究が比べたのは、それぞれの睡眠の前半と後半である。帰宅が遅れた日も、休日に早く布団へ入った日も、注目したいのは眠りに入った後の経過だ。特定の時刻に起きたかだけでなく、寝入りからどのように夜が進んだかを見るほうが、これらの試験の問いに近い。[5][8]
数字で読む寝酒と睡眠の段階
0.03%:就寝時の血中濃度をこの水準にした小規模試験では、睡眠への明確な変化が検出されなかった。[5]
0.1%:同じ試験の高い濃度の条件では、前半の徐波睡眠の増加と後半の浅い睡眠の増加が見られた。[5]
24人:若い男女の比較試験の対象者数で、女性は12人だった。[8]
6時間:健康な男性の別の試験で、飲酒から予定就寝時刻まで空けた時間である。それでも後半の覚醒は増えた。[12]
2倍:その男性の試験における、対照条件に比べた夜の後半の覚醒の増加である。全員に当てはまる予測値ではない。[12]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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