ダイエット中に間食をやめられないと感じるとき、同じ香りを嗅ぎ続ければ落ち着くのだろうか。食品の匂いと食欲を調べた系統的レビュー、人の唾液の試験、猫の反復給餌実験から、嗅ぎ始めの反応と慣れ、新しい香りで戻る反応を読み分ける。食べたい気持ちと実際に食べた量を分けて考える。
焼き菓子の袋を開けると、甘い香りが広がる。ひとつ食べたあと、別の菓子の袋にも手が伸びそうになる。同じ香りには慣れるとしても、香りが替われば食べたい気持ちは戻るのだろうか。
答えの芯は、香りが食べたい気持ちを向けることと、嗅ぎ続けることで食べる量を減らせることは別だ、という点にある。食品の匂いに関する系統的レビューでは、匂いに対応する食べ物への食欲や欲求の増加が多く報告された一方、選択や摂取量への影響は一貫しなかった。同じ香りへの慣れで摂食が変わる実験はあるが、ここで詳しく扱う対象は人ではなく猫である。[6][1]
「ダイエットの間食は食べる前から体が反応する?匂いと味で異なる準備を読む」では食前の体の準備を扱っている。その論点はそちらに譲り、ここでは同じ刺激が続く場合と、別の香りへ切り替わる場合を比べる。香りを我慢の道具にする前に、研究で何が変わったのかを見よう。

嗅ぎ始めの欲しさは、食べた量と同じではない
食品の匂いを対象とした系統的レビューは、実験研究43件をまとめたものである。食欲と欲求の評価が14件、食品の選択と好みが18件、摂取量が16件含まれた。これらは評価項目の区分であり、互いに重ならない研究の内訳として足し算する数字ではない。[6]
重要なのは、結果の向きが評価項目によって違ったことだ。多くの研究では、匂いに対応した食品への食欲や欲求が高まった。ここでいう感覚に特異的な食欲とは、何でも食べたくなるというより、嗅いだ匂いに似た特徴を持つ食べ物へ気持ちが向くことを指す。一方で、実際に何を選ぶか、何を好むか、どれだけ食べるかの結果はそろわなかった。[6]
たとえば、焼き菓子を思い浮かべる気持ちが強くなった場面を考える。そのあと買わずに帰ったなら、欲しさは動いたが購入は動いていない。買っても持ち帰ったなら、その場で食べた量はまだ別の話だ。この場面自体は説明のための例である。研究を読むときにも、質問への回答と食品の選択と摂取量を分ける必要がある。レビューの結果は、この区別の大切さを示している。[6]
「香りで食欲が増えた」という見出しだけから、間食が必ず増えると結びつけることはできない。逆に、摂取量への影響が一貫しないから、匂いは気持ちに関係しないと片づけることもできない。気持ちの変化が比較的そろったことと、行動の変化がそろわなかったことを、同時に受け取るのが正確だ。[6]
このレビューでは、文献検索で見つかった15,579件から、条件に合う43件の研究が選ばれた。研究の質も評価したうえで、それでも食品の選択や摂取量の結果はそろわなかった。文献を広く集めた結果を読むときは、単に「効く論文があったか」を探すより、どの評価項目なら結果がそろい、どこからばらつくかを見たほうが、日常の疑問に近づける。[6]
また、研究件数は効果の大きさではない。食欲を評価した研究が14件あることは、食欲が一定の割合で増えるという意味にはならない。食欲と欲求を評価した区分、選択と好みを評価した区分、摂取量を評価した区分を読むための数字である。「欲しくなりやすい」という傾向の説明と、「どれだけ食べるか」という量の予測を分けておこう。[6]
このレビューでは、個人の特性や匂いへのさらされ方によって結果が変わる可能性も指摘されている。したがって、通りすがりにふっと嗅ぐ場面と、同じ食品を前にして匂いを繰り返し受ける場面を、同じ刺激として扱うのは慎重でありたい。短い刺激と長い刺激の違いは研究上の問いであり、人向けの待ち時間を決めるには、その時間を比較する試験が必要だ。[6]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
口が反応しても、食欲の終点までは分からない
嗅いだ直後の反応を具体的に調べた人の研究もある。食品の匂いと唾液を調べた無作為化比較試験では、36人を対象にした研究と60人を対象にした研究が行われた。参加者は、匂いのない条件、食品以外の匂い、食品の匂いを無作為にさらされている。[19]
前者では甘味、うま味、酸味を連想させる匂いを使い、後者では炭水化物、たんぱく質、脂質、低エネルギーの食品を連想させる匂いを使った。どちらの研究でも、食品の匂いにさらされたときは、匂いなしや食品以外の匂いの条件より唾液の分泌速度が有意に増えた。ただし、測定された唾液成分の変化は認められなかった。[19]
この結果は、食べ物が口に入る前から口の反応が変わりうることを示す。しかし、唾液が増えたという結果を、その後の間食の量に置き換えることはできない。口が潤うこと、食べたいと答えること、食べ物を選ぶことには、それぞれ別の測定が必要だ。食品臭による行動全体をまとめたレビューで、摂取量の結果が一貫しなかった点も、この区別と合わせて読む必要がある。[19][6]
帰宅途中で「口がもう食べる気になっている」と感じても、それを食べ過ぎが決まった証拠として扱う必要はない。ここで確認されたのは唾液分泌の反応である。唾液の変化から食べる量まで一直線の物語を作ると、研究が別々に測っているものが混ざってしまう。[19][6]
また、甘そうな匂いと脂質を連想させる匂いを使ったからといって、鼻で食品の栄養量を正確に測れると読んではいけない。この試験では、食品に結びついた匂いへの唾液反応が調べられた。栄養の連想を与える刺激と、実物に含まれる量の測定は違う。香りが濃厚な菓子を前にしても、香りだけを栄養表示の代役にしない、という読み方になる。[19]
同じ匂いの反復を調べた猫では何が起きたか
同じ食品臭への慣れを直接調べた研究では、猫12匹が使われた。この動物実験の結果を18〜39歳の女性の間食にそのまま当てはめることはできない。まず、多くの猫は16時間の絶食後であっても、出された量を食べ切る前に自分から食べるのをやめた。そのうえで、10分の給餌を10分の間隔を挟んで6回繰り返し、食品や匂いの条件による摂取量の違いを比較した。[1]
同じ食品を繰り返し出すと、食べる量は次第に減った。一方、異なる食品を6種類出した条件では、その減少が弱まり、累積の摂取量が増えた。同じものを食べ続ける条件と、次々に別のものへ替わる条件とでは、食べ進み方が違ったのである。[1]
ただし、この段階だけなら、味や食感など食品そのものの違いも含まれる。そこで注目したいのが、食べる食品を替えず、別の食品の匂いだけを提示した条件だ。研究では区画を分けた皿を使い、新しい食品臭だけでも摂取量の回復が起きた。匂いの新しさが、食べる行動を変える要素になったと読むことができる。[1]
反対方向の条件も調べられている。給餌と給餌の間に同じ食品の匂いを継続して経験させると、その後の摂取量は抑えられた。研究者は、同じ食品臭への反応が弱まる慣れと、新しい匂いによって反応が戻る脱慣れが、猫の食べる意欲を動的に調整すると結論づけている。脱慣れとは、慣れて弱まった反応が刺激の変化で戻ることだ。[1]
さらに、同じ食品を繰り返し食べたあとに別の食品を出すと、新しい食品の好まれやすさにかかわらず摂取量が回復した。単に、もっと好みの食品が来たから食べた、という説明だけでは捉えられない比較である。食品そのものを替える条件と、匂いだけを替える条件を組み合わせたところに、この実験の読みどころがある。[1]
同じものを出す、異なるものを出す、食べ物はそのままで匂いを替える、間隔中も同じ匂いを出す。これらは似た場面に見えて、比べたい要素が異なる。とくに匂いだけを替えた条件は、食品そのものの新しさと香りの新しさを分ける工夫だ。新しい匂いで食べる量が戻ったという結果は、その比較があるからこそ意味を持つ。[1]
ここでの「慣れ」は、好きな食べ物に対する人格や意志の強さを表す言葉ではない。同じ刺激を繰り返す条件と、刺激が変わる条件の差を説明するための概念である。猫の実験の結果を、人の性格を評価する言葉へ持ち込まないようにしたい。[1]
数字で読む食品の香りと反復
43件:食品臭と食行動の系統的レビューに含まれた実験研究数である。[6]
14件:同レビューで食欲と欲求を評価した研究数であり、量の減少率ではない。[6]
36人と60人:食品臭と唾液を調べた、それぞれの人の研究の対象人数である。[19]
12匹:同じ食品臭への慣れと新しい匂いへの反応を調べた猫の実験の対象数である。[1]
10分を6回:猫の反復給餌の条件であり、人の間食を止めるための時間設定ではない。[1]
初日の汗は、予約した人だけが持ち帰れる。
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