お腹痩せのランニングは内臓脂肪が一様に減る?腸の周りと腎臓の周りを読む

お腹痩せを目指して走ると、内臓脂肪はどの場所でも同じように減るのか。腸の周りの腸間膜脂肪、腎臓周囲の脂肪、後腹膜脂肪を扱う研究を読み分ける。動物実験で減った指標と変わらなかった指標、食事条件や運動方法の違いから、人のランニングに当てはめられる範囲を考える。

ランニングのあとに靴ひもをほどきながら、「お腹の奥の脂肪は、どこから変わるのだろう」と考える。腸の周りと腎臓の周り。同じお腹にある脂肪なら、走るたびに同じ割合で減っていくのだろうか。

答えの芯は、内臓脂肪を一括りにして、どの場所も同じ割合で減るとは決められない、である。肥満マウスの腸間膜脂肪が有酸素運動で減った実験がある一方、別の持久運動実験では腹部脂肪量に群間差がなかった。部位に加え、動物の条件や運動の方法が違うため、この結果から人のランニングで減る順番を並べることはできない。[12][15]

画像の撮り方は既存記事「ホットヨガの内臓脂肪は画像一枚で比べる?息を止める位置と断面の条件を読む」に譲る。運動種目の比較は「お腹痩せの科学 第2回 内臓脂肪を減らす運動はどれか、強さと続け方で選ぶ」の問いである。ここでは、研究の「内臓脂肪」という言葉の中身を、腸の周りと腎臓付近に分けて確かめたい。

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「お腹の脂肪が減った」は、どの場所の話か

研究で腸間膜脂肪と呼ばれるのは、腸の周りの腸間膜にある脂肪である。内臓脂肪の代謝を扱うレビューは、腸間膜や大網の脂肪を腹腔内の脂肪として取り上げている。大網は腹部の臓器を覆う膜状の組織だ。このレビューでは、それらの脂肪の合成と分解の活発さ、肝臓へ向かう門脈への遊離脂肪酸の流入が論じられている。[7]

一方、運動の動物実験には、腸間膜脂肪に加えて腎臓周囲脂肪を採取するものや、後腹膜脂肪を採取するものがある。「腎臓周囲」と「後腹膜」は研究に登場する部位名であり、ここでは別々の名称として扱う。腸間膜と腎臓周囲を調べた実験の結果を、腸間膜と後腹膜を調べた実験の結果に、そのまま置き換えることはしない。[15][16]

たとえば「腹部脂肪を採取した」という説明でも、実際には腸間膜、腎臓周囲、精巣上体周囲という組み合わせがある。精巣上体周囲という採取部位が含まれる研究を、女性のお腹の変化の地図として読むのは無理がある。採取した組織の名称まで見ると、同じ「お腹」の研究でも、読者の体と実験動物の間にある違いが具体的になる。[15]

この区別は、脂肪を細かく気にするためのものではない。「お腹全体に効く」という宣伝の大きな主語を、研究が実際に調べた範囲へ戻すためのものだ。腸間膜の結果なら、まず腸間膜の結果として受け取る。腎臓周囲を含む実験なら、その組み合わせを残して読む。合計という言葉の中に、どの部位が入っているかを見失わないことが出発点になる。[12][15]

脂肪の場所に注目する背景には、体格と脂肪の分布を分けて考える研究がある。内臓脂肪のレビューでは、肥満ではない対象でも、内臓脂肪の蓄積が耐糖能の低下、血中脂質の異常、高血圧と関連すると報告されている。耐糖能とは、体が血中の糖を処理する能力のことだ。体重による区分だけで脂肪の分布を説明し尽くせない、という論点である。肥満者や非肥満者、心疾患の患者を含む知見を扱うレビューであり、18〜39歳の女性に絞った関連の強さを示すものではない。[7]

ただし、この関連を「腸の周りを減らせば、その人の検査値は必ず改善する」という因果関係に直結させてはいけない。レビューが扱う、人で観察された関連と、運動を与えた動物での変化は、問いの種類が違う。前者は脂肪の分布と代謝指標がどう結びつくかを考える材料であり、後者は実験条件を変えたときの組織の反応を見る材料だ。両者をつなぐときにも、それぞれの対象を残して説明する必要がある。[7][12]

腸間膜や大網の脂肪について、レビューは脂肪の合成だけでなく分解も活発であると述べている。蓄積と分解は反対の言葉に見えるが、同じ脂肪組織の代謝を考えるうえで両方が登場する。そのため「分解に関係する指標が上がった」だけで、組織の量の変化まで決めつけない。脂肪が出入りする仕組みを測る問いと、実際の重量を測る問いを分けると、後に出てくる運動実験の読み違いも減らせる。[7][12]

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腸の周りでは、有酸素運動後の変化が見つかった

肥満マウスの腸間膜脂肪を調べた実験では、対照群、運動をしない肥満群、運動をする肥満群が比較された。肥満群は高脂肪食を14週間与えられ、運動群は有酸素運動を7回行った。運動群では腸間膜脂肪の重量が有意に減少した。この実験は、特定の条件で腸間膜脂肪が運動に反応した証拠になる。18〜39歳の女性に同じ変化が起こるかは、この肥満マウスの実験だけでは判断できない。[12]

同時に調べられたのが、脂質の代謝に関わる分子の変化である。研究では、ミトコンドリアに関係するたんぱく質であるMTCH2の遺伝子の発現が増えた。また、脂肪滴に関係するたんぱく質PLIN1のリン酸化も増加した。リン酸化は、たんぱく質の働きを調節する変化の一種であり、この研究では脂質を利用する仕組みとの関わりが論じられている。[12]

ここで結果を読む軸は、組織の重量と分子の反応である。重量の減少は、採取した腸間膜脂肪の量に関する観察だ。遺伝子の発現やたんぱく質の変化は、その組織で何が起きたかを考える手掛かりになる。関連する結果がそろっていても、分子の変化をそのまま「ウエストがこれだけ細くなる」という単位へ変換することはできない。[12]

さらに、有意な減少という表現から、人なら何回走ればよいかという処方は作れない。実験の7回は、高脂肪食で肥満になったマウスに行った運動の回数だ。人が仕事帰りに走る回数として転記する数字ではない。「短い実験期間で腸間膜脂肪の反応を調べた」と読むところに、この研究の使い道がある。[12]

腸の周りで変化が見つかったことは、腎臓の周りも同じ割合で変わったという証拠とは別である。部位間の順位を知りたいなら、同じ条件でそれぞれを比較した結果が必要になる。腸間膜に焦点を当てた研究からは、腸間膜の反応を理解する。そこから「内臓脂肪は全部すぐ落ちる」へ話を広げない読み方が大切だ。[12]

腎臓付近も採取した実験では、脂肪量に差がなかった

別のマウス実験では、持久運動と運動後の乳酸摂取を組み合わせて調べている。動物は、乳酸を摂るかどうか、持久運動をするかどうかで分けられた。運動条件は最大酸素摂取量の60〜70%に相当する強度で、週5日、4週間であった。最大酸素摂取量は、運動中に取り込める酸素の能力を表す指標である。対象はマウスであり、18〜39歳の女性のランニングに同じ脂肪量の結果が当てはまるかは、人での検証が必要だ。[15]

この研究では、精巣上体周囲、腎臓周囲、腸間膜という腹部の脂肪が採取された。結果は、体重と腹部脂肪量に群間差がない、であった。一方で持久運動によって最大酸素摂取量は高まった。運動への適応が見られたことと、脂肪量に差が出なかったことが、同じ実験の中で並んでいる。[15]

これは「持久運動は無意味だった」という結果ではない。研究の評価項目ごとに答えが違ったのである。酸素を取り込む能力を尋ねた場合には改善、腹部脂肪量を尋ねた場合には群間差なし。このように主語を付けて読むと、運動の結果を脂肪の増減だけで採点せずに済む。[15]

同時に「差がなかった」ことを、「どの部位も完全に同じ量を保った」と読み替えるのも行き過ぎだ。群間差がないという結果は、その実験で比較した群の違いについての結論である。「腎臓周囲がいちばん減りにくい」「腸間膜のほうが先に減る」といった順位は、この結論からは作れない。[15]

先ほどの有酸素運動実験では腸間膜脂肪が減り、こちらでは腹部脂肪量に差がなかった。前者は高脂肪食で肥満にしたマウスの実験で、後者は持久運動と乳酸摂取の実験である。異なる条件で得た結果を並べて、「減る論文が勝ち」「減らない論文が勝ち」と競わせる必要はない。どの対象に何をして、どの指標を見たかという違いを残すほうが、走る人に役立つ。[12][15]

運動後の乳酸摂取についても、何が変わったのかを分けたい。この実験では、持久運動後に乳酸を摂取すると、最大酸素摂取量を測る試験で運動を続けられる時間が延びた。一方、呼吸から見たエネルギー源の利用では、乳酸摂取と持久運動の相乗効果は見られなかった。運動継続時間、エネルギー源の利用、脂肪組織の量は同じ指標ではない。「運動を長く続けられた」という結果を「腹部脂肪がより多く減った」と言い換えないことが、この実験を読む具体的な注意点になる。[15]

数字で読む腹部脂肪の研究

14週間:有酸素運動実験で、マウスに高脂肪食を与えて肥満にした期間。[12]

7回:その肥満マウスに行った有酸素運動。腸間膜脂肪の重量は有意に減少した。[12]

4週間:持久運動と乳酸摂取を調べたマウス実験の期間。腹部脂肪量に群間差はなかった。[15]

52匹:食事と有酸素運動を組み合わせた、肥満した雄ラットの実験の対象数。[16]

8週間:そのラット実験の運動期間。トレッドミル運動は週3日、1日60分であった。[16]

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宮川涼 Founder

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