心肺機能は遺伝で伸び方が決まる?家族で似る体力と訓練後の変化を分けて読む

同じ運動を続けても友人ほど体力が伸びないとき、遺伝で限界が決まったと考えてよいのか。家族研究や双子研究、持久力トレーニングの研究から、今の心肺機能と伸び方の違いを整理する。遺伝率47%の意味、遺伝子による予測の限界、体重だけで成果を判定しないための見方も示す。

同じ坂道を走り終えたのに、自分は息を整え、友人はもう会話を再開している。運動を始めた時期は近いのに、なぜ差がつくのか。心肺機能にも、その伸び方にも遺伝的な違いは関わる。ただし、それを理由に自分の伸びしろが確定したと考えるのは早い。[1][6]

そもそも「今どれだけ体力があるか」と「訓練でどれだけ変わるか」は別の問いだ。同じ内容にそろえた持久力トレーニングでも変化量には個人差がある一方、その差を遺伝情報だけで予測するには限界がある。[1][4] 生まれつきを考えるなら、まず比べている数字を分けたい。

運動を始めることや続けることの個人差は、既存記事「運動習慣がつきにくいのは遺伝のせい?双子研究で読む生まれつきと環境の境目」に譲る。ここで扱うのは、運動を実施した後の心肺機能の変化である。通った回数と、体が示した反応を、同じ成績表にしないための話だ。

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心肺機能の高さと伸び方は、別の数字である

心肺機能の研究では、最大酸素摂取量という指標がよく使われる。運動時に取り込む酸素の最大量であり、論文ではVO2maxと表される。[1][8] 階段での会話の余裕をそのまま数値にしたものではない。友人の軽やかな足取りから、遺伝的な能力まで読み取ることはできない。

ここで区別したいのは、訓練の前の値と、訓練の前後で増えた量である。最初の値が高い人を見つける研究と、伸びる人を見つける研究では、答えようとする問題が違う。運動への適応を扱ったレビューでも、運動していない状態の体力、日々の活動、定期的な運動への反応を分けて論じている。[11]

この区別は言葉遊びではない。HERITAGEの家族研究の参加者について、最大より軽い運動での作業能力を調べた研究では、もともとの能力と、持久力訓練への反応に関わる候補遺伝子の組み合わせは重ならなかった。[2] 18〜39歳の女性にそのまま当てはめられるかは別に検証する必要があり、現在の能力と伸び方も区別して調べる必要がある。

たとえば、運動を再開したばかりの自分と、以前から動いていた友人の現在値を比べても、それは訓練による変化量の比較にはならない。比較の出発点が抜けているからだ。体力の順位を見ているつもりが、いつの間にか伸びしろの順位へ変わってしまう。この取り違えを避けるだけでも、数字との付き合い方は変わる。

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家族で似る体力は、訓練後にも似るのか

双子や家族を対象にした系統的レビュー・メタ分析では、運動介入後の体組成や心肺機能の変化に、家族で共有する要因が関わるかを調べている。対象となったのは双子研究9件と家族研究5件で、年齢や運動条件の異なる双子・家族を含む。[7] 18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには、対象と介入の違いを考える必要がある。 似た体質の人たちが、運動後にも似た変化を示すのかを集めて検討した研究だ。

一卵性双生児の最大酸素摂取量の反応について、計48組をまとめた相関係数は0.39だった。[7] 相関は変化の似かよりを表す数字で、全員が同じだけ伸びたという意味ではない。また、この値を「遺伝で39%決まる」と言い換えることもできない。相関と遺伝率は別の指標である。

同レビューで、家族研究から得られた心肺機能の反応の最大遺伝率推定値は22〜57%に広がっていた。対象の年齢、出発点の値、運動介入の内容にも違いがある。[7] 家族で似る傾向を支持しつつ、どの集団でも同じ割合になると断定しない読み方が必要だ。

また、家族で共有するのは遺伝だけではない。研究の結論も、遺伝を含む家族共通の要因が運動への反応に寄与する可能性を示す形である。[7] 「親子で似ていた」という結果から、似ている理由のすべてをDNAに渡すわけにはいかない。家族写真は似ている場所を教えるが、理由まで全部写してはくれない。

家族で似るという言葉の中身を、もう少し具体的にしておこう。ある家族が全体として高い体力を持つことと、その家族の人たちが訓練によって似た増加を示すことは、別々に確かめる必要がある。前者なら測定時点の値、後者なら介入前後の差が必要だ。双子・家族研究のレビューは後者を扱っている。[7] 親の現在の体力を聞いただけでは、自分の訓練反応についての情報がそろったことにはならない。

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遺伝率47%は、あなたの努力の上限ではない

運動習慣の乏しい白人成人473人、99家族を対象にしたHERITAGE研究では、標準化した20週間の運動プログラム後の最大酸素摂取量の増加について、遺伝率を47%と推定した。[4] 18〜39歳の女性にそのまま当てはめられるかは、この成人集団の推定だけでは判断できない。大切なのは、対象と運動条件を伴った「増加量の個人差」の数字だという点である。

この47%を、自分の体力のうち動かせない部分の面積として描くのは誤りだ。研究が推定したのは集団内で観察された変化量の違いに関する値であって、個人が到達できる値ではない。[4] 「私の努力は残りの53%にしか効かない」と引き算しても、個人の改善可能量は出てこない。

さらに、同じ数字をあらゆる年代や背景に広げることにも慎重でありたい。この研究の中心となる解析対象は白人成人であり、日本で暮らす若い女性の将来の伸びを直接計算したものではない。[4] 研究の人数が具体的であるほど、そこに含まれる人の範囲も一緒に見たい。

2017年のレビューも、最大酸素摂取量の変化に関する遺伝率47%という推定を取り上げながら、遺伝情報に基づく予測だけでは訓練反応のばらつき全体を説明するには不十分としている。[1] 遺伝の関与を認めることと、遺伝だけで先を読めることには距離がある。

この距離を暮らしに戻すなら、親が運動を苦手としていたという話は、自分を観察する背景にはなる。しかし、まだ行っていない訓練の結果を決める判定書にはならない。将来の上限と、ある条件で観察された個人差を分けておくことが、遺伝率を役立つ情報として読む出発点となる。[1][4]

高さの遺伝率を、伸び方へ持ち込まない

子どもから若年成人の双子・きょうだい研究を統合したメタ分析では、最大酸素摂取量の遺伝率は、絶対量で59%、体重当たりの値で72%と推定された。統合されたのは8研究である。[8] 18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには、子どもを含む年齢範囲との違いを考える必要がある。こちらは心肺機能の水準に関する結果であり、訓練後の増加量の数字ではない。

その論文には、思春期の双子・きょうだい479人を調べた研究も含まれる。この対象では、実測した最大酸素摂取量の遺伝率は絶対量で60%、体重当たりで55%だった。[8] 思春期を対象とするため、18〜39歳の女性へそのまま当てはめることはできない。統合結果と個別研究の値は一致していない。同じ題材でも、対象や表し方を確かめる必要がある。

成人の家族を含む別の横断研究では、ドイツの79家族、親157人と子132人を調べ、身体活動を調整した最大酸素摂取量の遺伝率を40%と推定した。[20] 親子を含む対象の推定を18〜39歳の女性へそのまま当てはめるには、年齢と対象集団の違いを考える必要がある。横断研究は、その時点での値と家族内の関係を調べる設計だ。この40%も、運動プログラムでの伸び方を示す数字ではない。

絶対量か体重当たりかという違いは、測定値の単位をめぐる別の問いにもつながる。ただ、ここでは「遺伝率が何%だったか」より先に、「どの特性についての推定か」を読むのが要点だ。体力の水準、増加量、別の運動指標を混ぜると、並んだ割合の大きさだけが印象に残ってしまう。[2][4][8]

家族を対象にした横断研究では、身体活動や体格を調整すると、体力の家族内での似かよりは弱まった。それでも家族内の集まりは認められた。[20] この結果は、遺伝を考える際にも、実際の活動や体格を切り離して扱えないことを示している。ただし、調整後に残った関連のすべてを、特定の遺伝子の作用として説明した研究ではない。

検索結果で割合だけを見つけたら、その数字が付いている名詞まで戻って読むとよい。「最大酸素摂取量の遺伝率」なのか、「最大酸素摂取量の増加量の遺伝率」なのか。短い違いだが、これを落とすと研究の答えが別の質問へ引っ越してしまう。[4][8] 家族で似ることを知りたい日と、自分の訓練を振り返りたい日では、役立つ数字も違う。

数字で読む心肺機能と遺伝

473人・99家族:標準化した持久力訓練後の変化と遺伝的な関連を調べた成人の対象である。[4]

20週間:上の研究で行われた運動プログラムの期間であり、すべての人に成果を約束する期限ではない。[4]

47%:その対象における最大酸素摂取量の増加量の遺伝率推定である。[4]

0.39:双子研究の統合で得られた、一卵性双生児48組の最大酸素摂取量の反応の相関係数である。[7]

59%と72%:子どもから若年成人の8研究を統合した、絶対量と体重当たりの最大酸素摂取量の遺伝率である。訓練反応とは区別する。[8]

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