疲労回復のスープはじゃがいもを冷ますと違う?再加熱後のでんぷんを研究で読む

疲労回復のスープや薬膳を探すとき、じゃがいもは冷まして温め直す方がよいのか。難消化性でんぷんを測った食品実験と、人で調べた大腸発酵の違いから考える。冷蔵と冷凍の条件、倍率の読み方、再加熱で変わる点を整理し、作り置きの一杯に期待できる範囲と食事の選び方を示す。

昨夜のスープに火を入れると、じゃがいもの角が鍋の中で顔を出す。昨日より少し締まった具を見て、「冷やしたいもは体によい」という話を思い出す。温め直した今朝の一杯にも、冷やしたことによる違いは残っているのだろうか。

答えの芯は、冷却によって消化酵素の作用を受けにくいでんぷんが増える場合があり、再加熱後も調理直後と違う反応が残りうる、ということだ。ただし、冷蔵した食品を分析した研究と、冷凍・解凍したじゃがいもを人が食べた試験では、条件も評価したものも異なる。[6][7]

その違いを「疲労回復が速い」「薬膳として優れている」という結論に置き換えない。ここで確かめるのは、スープの具がたどった温度の履歴と、でんぷんの消化・発酵の関係である。[2][6][7] ビタミンを残す調理は既存記事「疲労回復の献立はじゃがいもを皮ごとゆでる?ビタミンの残り方を研究で読む」に譲り、今回はゆでた後を追う。

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冷ますと変わるのは、いもの温度だけではない

難消化性でんぷんは、でんぷんを分解する酵素の作用に抵抗するでんぷんと、その分解産物を指す。レジスタントスターチとも呼ばれる。食品を加熱・冷却した際に、この成分がどう変わるかを比較した研究では、調理の履歴によって含有量が変化した。[5] 「でんぷん」という同じ名前でも、調理の前後で酵素に対する振る舞いは変わる。

じゃがいものでんぷんとたんぱく質を混ぜた食品実験は、その変化を構造から調べている。加熱、冷却、再加熱を含む処理の中で、たんぱく質は加熱時のでんぷん粒の膨らみを抑え、冷蔵中にはアミロペクチンというでんぷん成分の再結晶化を促した。これは、分子が再び秩序のある並びをつくる変化である。[2]

同じ実験では、冷却によって難消化性でんぷんの形成がさらに促され、処理後の混合物ではでんぷんの消化性が低下した。研究者は、でんぷんとたんぱく質の相互作用をその説明として挙げている。[2] 冷蔵庫は単に温度を下げる箱だが、食品の内部では、次に酵素と出会ったときの状態も変わりうる。

もっとも、この実験の材料は、家庭のスープをそのまま採取したものではない。たんぱく質を0、5、10、15%混ぜたじゃがいもでんぷんの試料である。[2] 肉や豆を入れたスープにも同じ割合で変化が起こる、という読み方はできない。具材を足せば難消化性でんぷんが決まった量だけ増える、と献立を計算するための結果でもない。

さらに、たんぱく質による再結晶化の促進作用は、混合比が高くなるにつれて弱まった。[2] ここが料理の話として面白い。この実験では、たんぱく質を増やすほど再結晶化が強まる、という単純な関係にはならなかった。「足せば足すほど」という分かりやすい調理則に、食品の構造は必ずしも従わないのである。

食卓で使うなら、まず「冷ますことで、でんぷんの一部の状態が変わることがある」と捉えるのがよい。その先の含有量を語るには、どの食品を、何と混ぜ、どのように処理したかまで必要になる。[2][5] スープの具だけを見て、鍋全体の消化性を決めつけるのは早い。

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一晩冷やして2.8倍、は何が増えた数字か

冷却の影響を直接示す例が、消化を模した試験管内の測定系をつくった研究である。ゆでたじゃがいもを4℃で一晩冷やすと、難消化性でんぷんの量が2.8倍になった。[6] 今朝の作り置きに近く感じられる条件だが、測定したのは食品中の消化されずに残るでんぷんである。

この研究の「2.8倍」を、食後の血糖の下がり幅や疲れの取れる速さの倍率として使うことはできない。実験では、生理的な消化条件を模した系で分解されなかったでんぷんを難消化性でんぷんと呼んでいる。[6] 測定対象の名前を省略すると、食品の数字が、いつの間にか体の効果の数字に化けてしまう。

倍率には、もうひとつ注意点がある。元の量との比較であって、食べたじゃがいも全体が消化されなくなった割合ではない。2.8倍という結果だけから、一杯のスープに含まれる量を逆算することもできない。[6] 何が分母になっているかを戻して読むと、数字の派手さと食事の判断を切り離せる。

同じ研究は、加工や食品の形にも目を向けている。米では粒のままの方が粉砕したものより難消化性でんぷんが多かったが、ローストしたひよこ豆では粉砕による差がなかった。また、咀嚼が増えると食品に残る難消化性でんぷんは減った。[6] これらは、温度だけを知れば消化がすべて分かる、という見方を崩す結果である。

だからといって、でんぷんを残すために噛まずに食べようという話にはならない。ここでの意味は、食品の種類や処理の違いを無視して、別の料理へ数値を移せないということだ。[6] 角切りのじゃがいも、なめらかなスープ、他の具を含む煮込みを、冷却したという一点だけで同じものとして扱わない。

研究を食卓に近づけるときは、順序が大切である。まず、ゆでたいもを冷やすと測定値が変わったという事実を受け取る。次に、自分が食べる料理の形や温度の履歴を考える。そのうえで「冷却による変化はありそうだが、この一杯の量は決められない」と止める。[6] 台所で必要なのは、効果を最大に見積もる計算より、数字を取り違えない目である。

温め直すと、冷却の変化は消えてしまうのか

人での手がかりとなるのは、健康な参加者13人がじゃがいもを異なる条件で食べた無作為順序の比較試験だ。参加者は、でんぷん60gを含むじゃがいも375gを、調理条件を変えて別の機会に食べた。[7] 18〜39歳の女性にそのまま当てはめるには、この少人数の健康な参加者による結果だけでは不十分である。同じ人が条件を変えて食べるため、別々の集団をただ比べる場合とは研究の組み立てが異なる。

条件は、ゆでたてを60℃で食べる場合、ゆでてから冷凍・解凍して20℃で食べる場合、冷凍・解凍後に90℃まで再加熱して60℃で食べる場合である。[7] 家庭で「冷やした」と呼ぶ操作の中にも、冷蔵と冷凍がある。この試験が扱ったのは冷凍・解凍を経る操作であり、一晩の冷蔵と同じ試験ではない。

調べたのは、呼気に含まれる水素の変化だった。研究者は、食後の呼気水素の濃度と時間がつくる曲線の面積を、大腸での炭水化物の発酵の指標として評価した。[7] これは疲労の点数でも、吸収されたエネルギーの総量でもない。人が食べた試験であることと、読者が知りたい体調を直接測ったことは別である。

冷凍・解凍後にそのまま食べた条件では、この発酵指標はゆでたてに比べ186%高かった。再加熱した条件でも、ゆでたてより48%高く、差は統計的に有意だった。[7] 再加熱後の結果が調理直後と同じにならなかった点は、「温めると必ず全部元どおり」という思い込みを修正する材料になる。

一方で、再加熱した場合の発酵指標は、冷凍・解凍後にそのまま食べた場合より低かった。[7] 「変化が残る」と「変化の大きさが変わらない」は違う。温かい一杯を選べる余地はあるが、冷たい状態の実験結果をそのまま温め直し後の効果として語らないことが必要だ。

研究者は、冷凍、解凍、再加熱に伴うでんぷんの構造変化が、大腸の細菌による発酵に利用される炭水化物を変えると考えている。[7] ただし、この比較は健康な少人数を対象としたものである。温度の履歴が人の食後反応にも関わるという手がかりとして読み、誰にでも同じ変化が起こる処方へは広げない。

この試験では、呼気水素を15分ごとに、10〜14時間にわたって測定した。[7] つまり、食べた直後のひと息だけを比べた結果ではない。時間を追って現れる反応をまとめて比較している。食後のある瞬間に感じた重さや軽さと、この曲線の面積を同じ指標として扱わないことも大切になる。

また、ゆでたてと再加熱後は、どちらも60℃で食べている。[7] この比較の違いは、口に入れたときの温度だけでは説明できない。食べるまでに冷凍・解凍を経たかどうかという履歴にも目を向ける理由がここにある。逆に、冷凍・解凍後にそのまま食べた条件は20℃なので、すべての条件で食べる温度まで統一された比較ではない。[7] 結果を読む際は、そろえた条件と変えた条件の両方を確認したい。

数字で読むじゃがいもの冷却と再加熱

4℃で一晩:ゆでたじゃがいもを冷却した食品実験の条件。[6]

2.8倍:その実験で増えた難消化性でんぷんの量。疲労回復の倍率ではない。[6]

13人:冷凍・解凍と再加熱を比較した、健康な参加者の人数。[7]

375g:人の試験で食べたじゃがいもの量。家庭の推奨量ではない。[7]

48%増:再加熱条件の呼気水素曲線下面積を、ゆでたてと比較した値。[7]

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